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<8>

 ――檜山が建物に侵入したのと時を同じくして。

 東堂宗二郎は自分の携帯端末に掛かってきた通話で、眠りの浅瀬から引きずり上げられていた。


「はぁい……もひ、もし」


「あ。宗二郎? アタシ」


「ルカ子ぉ? …………なに。どうした。もう起きる時間?」


「ううん。まだ夜だよ。いま家の前にいるんだけど。ちょっと出てこれる?」


 寝ぼけ眼で、宗二郎が玄関の扉を開けると、留歌子が目の前に立っていた。

 毎日見るツインテールではなく。結んでいない状態で髪を下ろしている姿。宗二郎からしたら、結んでいても降ろしていても、同じように見えてしまう。

 他の人間からすれば、ガラリと印象が変わって見える。

 お互い趣味や会話の合わない部分は多々あるものの、スウェットにシャツといったスタイルは同じ思考らしく。ほぼ同じ格好をしていた光景に、二人は薄く笑った。


「やややあ。宗二郎こんばぁ~」


「…………おう。どした? なんかあったか?」


 何か無ければ、夜遅くに(たず)ねてきたりするわけが無いだろう。

 まだ半分眠っている宗二郎は、両手で目をぐりぐり(こす)った。


「ちょっろっと話をしたいなって思ってきたんだけど、今から散歩にいかない?」


 散歩といっても、夜間の外出は原則禁止をされている。それに異形出現の事件から、養成所だけではなく、ブラックボックスから派遣されてきた人間が、街を巡回をしていると聞く。もし見つかれば、どうなるかわからない。

 どの道、このまま彼女を一人で帰すわけにもいかない。

 ちょっとした危険とスリルが隣り合わせ。




 ――二人は闇に溶け込むようにして、夜の十八区を歩んだ。

 散歩として当てもなくぶらぶら歩くわけには行かず。

 人目を避けるため、宗二郎の寮から近くにある、荒川の河川敷で腰を下ろした。

 昼間は向こう岸まで見渡せる河川敷であるが、夜ともなれば、街灯ひとつなく、どっしりとした重い闇が、堤防を境界線として、内側に溜まっている。

 左手には『西新井橋』が見える。

 夜間でもライトが点灯されているらしく、異様な光量が橋を照らす。

 その光は二人のところにも微かに届いていて、地面の草に色を与える。

 到着するまで無言であった二人。河川敷で流れる水のない、黒い川底を見つめ。


「んで。話は、なんですかな?」


 用事があったのは留歌子のほうだ。何も切り出さないところから、話しづらい内容であるのかと思った。


「う、ん……宗二郎の魔導科についてなんだけど……アタシ。やっぱりよくないと思うんだよね」


「そこまで気に掛けてくれるってことは、それなりに理由があるんだろ?」


 試合のことといい、反応の早さといい……。

 彼女の否定的な態度は、かなりのものである。

 どうしてそこまで――魔導科への移籍を拒絶するのか。


「ねえ。…………宗二郎は――虚構反動症状(インゲイド)って言葉、しってる?」


「いん――げいど?」


 急に難しい単語が、留歌子の口から飛び出して、宗二郎は面食らう。

 暗闇の中で俯きながら、地面の草を見つめる彼女の姿は、押したら崩れてしまうかというほどの、(もろ)さを思わせた。


「虚構反動症状……インゲイドは、魔力によって引き起こされる病気なの」


 ――病気。この会話の流れで、どうして病気の話が登場するのだろう。


「ようはね、魔力を体内に流しすぎると、体に変化が生じて、心の病気みたいな状態になっちゃう現象なんだよね」


「それと俺とに、どんな関係があるわけ」


「宗二郎って固有刻印を使う時に、誰かの魔力を受け取らない限り、刻印を使用できないでしょう?」


「…………うん」


「普通の人間からしたら、他人の魔力っていうのは――単純に〝毒〟なんだよね。通常誰かの魔力が体内に入り込むと、体調が悪くなったり、心のバランスが崩れちゃったりするの」


 そういえば、檜山先生が言ってたな。魔力干渉……他人に魔力を流しこむことで、相手を異常にさせるとかいう。


「宗二郎は何も感じていないのかもしれないけど、もし――宗二郎が固有刻印を使う度に、自分の体内に本来〝毒〟でしかない他人の魔力を、流れ込ませていたとしたら……きっと、ゆくゆくは虚構反動症状(インゲイド)を発症しちゃうかもしれない」


「……………………なるほど。なあルカ子。お前はどうしてそんなことを知っているんだ?」


「……………………………………」


 留歌子はしばらく黙ったまま、何も言わない。

 コレは我慢比べのようなものだと、宗二郎は思った。

 ここで、彼女を信じて『まあいいや』と済ませば、きっと自分の中で彼女を信じられなくなる欠片となって、蓄積されてゆく気がしたからである。


「実は……宗二郎には言ってなかったんだけど、アタシの知り合いに――サイファーがいるんだよね」


 ――初耳。別に留歌子のなにもかもを知っているわけではないから、色々な部分を見聞きしなかったとはいえ、サイファーの知り合いがいるというのは、予想の(はん)(ちゅう)を超えていた。


「その人から教わったの。異界から流れ込んできている魔力は人間に対して無害じゃないんだって……実際に、異界で活動しているサイファーの人は、インゲイドの他にも、色々な魔力や固有刻印の病気に悩まされていて、ブラックボックスでも――これら病気に対する特効薬を作っているんだって」


 情報の入手元は納得できたが、同じ一年生が――どうしてサイファーと関われる?

 宗二郎は、急に留歌子が違う次元にいる人間のように見えた。

 なぜ、サイファーなんかの知り合いがいるのか、深く問い詰めたいところであったが、自分にも秘密にしていることの一つや二つ存在している。いくら友達だからとはいえ、踏み込んでいいのか(ため)()われる。



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