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<7>-4

 

「すげえな。あんな少しの間に、もう色々と見透かされちゃってまあ。……なあアンタ。思い切って聞いちゃうんだけど、こっち側に来る気はないか? スカウトだよ。スカウト」


「………………ほざけ」


 最大限の嫌悪を乗せて、檜山は少年に向かって言い捨てた。

 返答を聞いた少年は、乾いた笑い声を上げた。


「くっははははは! だよなだよなぁ! オレ達に関わっているって事は、そういうことだもんなぁ。どういった事情があんのかはしらねえけど、()()だから止めておけって。アンタが思っている以上に、オレらは広く根深い。アンタ如きがどうにかできるなんて、思い上がりも良いところだ」



 ――――無駄。その言葉に。檜山は今までやってきた全てを否定された。自分が歩んできた悲愴も決意も憎しみも(そう)(しつ)も。一笑の中に泥を塗られた気がした。



「アクセスッ!」


 基本術式の構成。再度魔力の循環。

 舐めてくれる……もう手足が取れようとも構わない。五体満足に捕縛しようとしていた時点で間違いであったのだ。

 魔力が補給できなければ、いずれ魔力切れを起こし、こちらに勝機はなくなる。

 感情的になりつつも、ギリギリの所で冷静さは失っていない。

 まともに当たれば致命になるであろう光弾を作りあげた檜山は、余裕の笑みを絶やさない少年に向かって――その一撃を放った。

 青白い光がボウ、と飛び出し、ボーリングの玉ほどもある大きさに似つかわしくない速度で飛んで行く。


「あくまで、魔術……か。その意気込みはキライじゃねえ」


 回避をしようとしない。どうして。

 檜山は今更になって、強い焦りを感じた。


「オレが仲間内で、なんて呼ばれているか。教えてやんよ」


 少年は面と向かって自らの右腕を上げた。



 振り抜いた先。

 光弾に少年の手が触れた瞬間。

 魔力の弾丸から乾いた音。

 檜山の魔力は、火花に似た青白い無数の光となって弾けた。



()()()()……オレに魔術は効かねえぞ?」



「――――!?」


 一部始終を目撃した檜山は、次弾を放つつもりであった体を硬直させた。


「なん――だ、()()()は……」


 少年が行って見せた現象に、問わずには居られなかった。



 彼の右腕には〝何か〟が重なっている。

 ぼんやりとした境界線。肩あたりから伸びている半透明の腕は、人間の形状などではない。

 二回り以上もある大きさ。普通の人間の肉眼では()()()()()()()()()。物理的に存在しているのか、檜山には判断できなかった。



 ――腕が魔術に触れた瞬間、相殺をした? いや違う。相殺なんて簡単なものではない。単純な防御行動とは別格。

 力同士がぶつかり合って消滅したのではなく、相手が一方的に攻撃を〝分解〟したのだ。


「ん。ちょっとまて。……お前。なんで見え――」


 そう言いかけて、少年はニマリと笑った。


「あぁ。……なる、ほど。そういうことね。――おたく、()()()を持ってるな。固有刻印の中でも〝アタリ〟なんて言われてる()()()()()()()()。おたくの場合は、とりわけ良い刻印を持ってるらしい。なんせオレが今呼び出している()()()()()()()()()()()()の姿がみえてるんだからなぁ」



 固有刻印が持つ能力の種類には、際限が無く……保有する人間の数だけ、特質を持っている。

 単純に魔術を短絡化させたような物もあれば、肉体に対し永続的な効果を付与する物まである。

 少年の場合は〝異形らしき何か〟を片腕に宿すことが出来ると言った所か。

 魔術は違う次元に存在している力。固有刻印が異形を呼び出す能力を持っていても、おかしくはない。現に刻印によって人間の肉体に異形を召喚し、一時的な変質と人体強化を行うことが可能な、刻印持ちもいるくらいだ。

 恐らく……少年は腕に()()()()()()()()()。魔術に直接干渉。第二世界に触れられる存在か。

 檜山の目は魔術や術式。そして魔力そのものを見ることが出来る。

 普段から『眼』は使用を避けていた。人間では見えない物が見えるということは、それだけ眼球から入りこんでくる情報量の多さに、脳が処理しきれないからである。



 ――あれは、物理的な干渉も可能なのか? 

 もし腕の動きとは別に動かすことができるのなら……。

『魔術殺し』……これは、苦戦を強いられるかもしれない。



 出来る限り、自分の経験と知識を総動員させ、この戦闘を有利にする運びを計算する。

 微動だにしない檜山を見つめながら、少年は余裕に話を続ける。


「あまり詳しくはないのだけれども。オレのも()()()なんだってさ。こういった部分から人ってのは格差がある。人間は生まれを選べず。生まれたときから人の環境には格差がある。平等なんて物は存在しない。まったく……人の社会というものは、息苦しいことこの上ない」


 少年の感情に連動しているのだろうか。檜山の目に映る半透明の()(けい)は腕を震わせ、声にならない叫びを上げているようであった。


「…………ここまでか」


 冷静に分析し続けた末に出した、答えと決断。

 ――敵の能力が未知数すぎる。

 実戦経験が豊富であった檜山だからこそ、彼は自分の能力を踏まえて選択肢を選ばない。

 相手がどういった性能なのか。それをまずは見極め、そして自分の実力と照らし合わせる。

 魔術は単純な力同士のぶつかり合いでは決まらない。

 どれだけ敵が『手札』を持っているのか。

 少年の持つ実力。そして固有刻印。未知数過ぎる力の底は、時間をかければ徐々に(さら)う事ができるだろう。いずれ底に辿り着く。その時が勝負の決め時なのだが。



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