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<7>-3

 いままで尻尾すら掴めなかったのに、真相に近づくどころか。

 向こうから現れるとは。なんて……。


「…………(ぎょう)(こう)


「――あー? なんだってぇ?」


 少年は挑発混じりに、耳を向けてもう一回言えとのジェスチャー。

 檜山が応じるはずも無く。彼は一直線に走り出した。

 踏み込んだ瞬間、彼は足の裏から術式を展開する。加速移動を可能とする魔術は、魔力が送り込まれると、その効果を発揮し。檜山は少年との距離を縮める。

 背中に回していた剣の柄を握りしめ、くるんでいた布が、後方に吹き飛ぶ。

 布が地面に触れるよりも早く。檜山は少年の体に刃を向かわせた。

 相手は黙って檜山の攻撃を受けるはずも無く。後方へステップをすることによって(かわ)す。

 後ろへと下がり続ける少年に対し、檜山は追撃すること無く。


「くっはははは! ここで斬り付けてくるか普通? 非常識の塊みたいなやつ、っだなぁ!」


 少年の手のひらから魔力の光弾。

 真正面から受ける気は無い。すれすれで檜山は回避すると、後方の檻に当たり、太い鉄格子が歪んだ。

 次から次へと襲いかかる魔力の塊を、檜山は器用に避けながら、適度な距離を置く。

 ――ここで『略式魔導鉄甲(シャッフラー)』を使用するのは危険すぎる。俺がサイファーである可能性を示してはならない。



 ………………ならば。



()()()()


 自らの言葉で、頭の中にある術式が浮かび上がる。

 どんな環境であっても、鮮明に思い起こすことが出来る自己暗示の言葉。

 どんな天才であっても、全ての術式を憶えておくことなど出来はしない。

 檜山もまた、他の魔導師と同じで、言葉によって自分の技を使用する事ができた。


「コード。インターシェル」


 彼は剣に手のひらを()えて、そっと撫でつける。

 本来ならば攻撃を防ぐ盾として使う、簡易な魔術障壁。それを部分的に――刃へと付属させる事により、間違って相手を殺す事のないよう、剣へ加工を(ほどこ)したのだ。

 刀身はオレンジ色に淡く輝き、剣を動かすと残像を作り出す。水銀灯が照らす地下の中でも、とても目立つ。

 ――これが、一つの()()となる。

 相手は本気で殺しに来るかもしれないのに、こちらが手加減など出来はしない。本気で打ち込めば死ぬかもしれないが、はなから舞台は殺し合い。この配慮だけでも十分すぎる。

 手始めに、相手の出方を見極めてやる。


「ふうん。何をしたのかはしらないが。言葉による短絡魔術ショートカットマジック。…………基本的な技術は持っているわけだ。面白い」


 少年は器用にロッドを回転させて、ゆっくり歩き出した。



 両者が徐々に近づく。

 まだ一合も、刃を重ねていないが、戦いは始まっているも同然。

 距離が縮まれば、縮まってくるだけ、お互いの動きに同じだけの制限が生まれる。相手が行える攻撃範囲はどれほどか。もしかしたら既に、相手が攻撃できる範囲に踏み込んでいるのかもしれない。

 物理で責めてくるのか。あるいは魔術が初手として()(ぶた)を切ってくるのか。

 檜山は少年の動向を寸分も見逃さんと、サングラスの奥で(まばた)きすらもしない。

 少年は相変わらず、ロッドを振り回しながら歩み寄ってくる。

 彼から魔力が出ている様子はない。術式も発動していないらしい。

 ――ならば、相手が魔力を使用するよりも早く、こちらが先手を食らわすのが得策か。

 一度選択したら、直感に従う。理論を展開しているだけの時間が惜しい。一秒でも判断を誤れば、それだけで戦況というものは(くつがえ)るのだ。

 残りは四メートル弱。両者はまだ歩みの速度を変えない。


「――――!!」


 先に仕掛けたのは、予備動作もなく飛び出した檜山。

 一歩で残りは三メートル。足に魔力を循環させて筋力のコントロール。半秒もかかるまい。


「…………ッは!」


 歯を見せて笑った少年は、くるくる回していたロッドを静止させ、ようやく地面に叩き付けた。

 甲高い〝カァン〟という金属音が弾けた途端。

 地面に一メートルほどの円形の術式が展開された。



 直進する檜山が見た、赤々と光るその術式。

 一瞬だけだが、彼は魔術を読み取ろうとする。

『展開』『発動』『炎』『固定』……。

 僅かな時間では基本部分しか読み取れず、いきなり膨れあがった魔力に対し、檜山は慌てて踏み込み、直角に飛んだ。

 術式が発動すると、人間一体を包むほどの火柱となって、斜め前へと噴き上げた。

 炎は天井に届かんとする勢い。一部の配管が黒く焦げ付いた。

 真横に飛んだ檜山は、すぐさま反撃に走り出し。少年へと剣を向かわせた。

 足でロッドをかち上げ、檜山の軌道に割り込ませる。

 武器が激しい衝突となって、両者の手首を震わせた。

 片手で軽く持っているにしては、見た目よりも重すぎる質量。

 おそらく少年も体内で魔力を循環させ、自らの身体強化を図っているのだろう。


「すげえ! あんたタダもんじゃないな!」


 楽しんでいるかのような歓声。

 空を切りながら回るロッドは、次々に檜山の元へと迫ってくる。

 相手の動きを見ながら、その都度、攻撃を受け止め、いなしてゆく。



 …………この少年。戦い慣れている。



 攻撃にまるで(ため)()いがなく。当たれば確実に戦闘不能になる頭部を中心に狙ってくる。

 目深に被った黒いフードの中。口元は陰湿にニヤけていて、白い歯を見せていた。


「――――――」


 相手からはマスクをしているので見えないが。檜山は小さな言葉を吐く。

 攻撃してくる度に、受け止め、()()()()()()

 後方へ下がろうとも、執拗に責め立ててくる少年に対して、自分の戦いをさせてもらえないようだった。


「おら! オラァッ! どうしたよ。黒ずくめの兄さんよぉ! いい成りをしている割には、防戦一方かよっ!」


 接近戦は不得意だ。サイファーとしての地位を持っているが、自分の持ち味は魔術である。剣術ではない。天高く掲げられ、強く振り落とされた一撃。

 檜山は悲鳴ではなく、祈るような単語を呟き、受け止め。また地面を()()()()()()()


「フゥ!」


 急に檜山は一歩前に踏み出し、ようやく反撃を行う。剣ではなく更に零距離から。片手による掌底である。


「ぅうおお!?」


 少年もコレばかりは予想をしていなかったらしく。

 直撃した途端、反動で大きく後ろに下がった。

 ようやく攻撃の連鎖が止まると、檜山も素速く距離を取って離れた。


「いってぇ……格闘かよ。オレもそれにゃあ、対応できないってもんだ」


 腹をさすりながらも、一撃がまるで効いていないかの様子。


「……………………良い戦い方だ。……アンタ、やっぱり普通の人間じゃないな? 内界に居るそこらのゴロツキとは全然、質が違う。…………ブラックボックス。サイファーって所か」


 ――これだけ戦えば、馬鹿でも解るか。

 サイファーの戦い方を知っているということは()()()()である。

 なんとしても、少年を生け捕りにしたい。

 少年は戦いを知っているが、魔術についての知識は(うと)いらしい。

 ずっと少年から問いかけられているのに、無言の姿勢を貫き続ける。

 檜山は自分の剣にかけていた魔術を解いた。


「………………ん?」


 失われた光に、少年は(いぶか)しむ。

 枷がある状態では十全に戦えない。


「あん? なに。もう魔力が終わりか? あんがい種切れ早かったなぁ」


「………………()()()()、か」


 サングラスの見ているものを理解したのか。ずっと振り回しているロッドを止めた少年は、驚きに口を軽く開いた。


「――よく、わかったなぁ。つか初めての会話がソレかよ。悲しいねぇ」


 魔力の循環が見えない状態で、魔術を発動して見せた。だとしたら、あの武器に魔力が込められている可能性があった。つまり――ただの打撃武器ではない。

 武器自体に能力はないが、魔力を貯蔵できるタンク(容器)。といったところか。



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