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<7>-2

 体感にして、二十メートルほどの深さ降り。ようやく地下の底に到着した。

 やはり地下も真っ暗闇。周辺の壁を照らす。むき出しの太い配線を追ってゆくと、古めかしいカバースイッチを見つけた。磯良の話では天井の照明である。

 引き払われたなら、電気が通っているのかどうかも怪しいところであるが、動かしてみる価値はある。

 檜山は固くなっていたスイッチのレバーを、一気に上へと押し上げた。

 すると、天井に固定されていた(すい)(ぎん)(とう)に、オレンジ色の明かりが灯る。

 徐々に白く鮮明に、明るさを増してゆく中。檜山は地下内部を黙って一望した。

 内部は四方が、四十メートルほどの空間。建物よりも広いところから、敷地の下までも地下空間になっているのだろう。天井には、様々な配管や鉄骨が、むき出しになっている。



 初めに、檜山の目に入ったのは最奥……。遠目から見てもわかるほどの巨大な魔法陣。

 赤いインクで描かれているのか。非常に細かく、術式の複雑さが見える。

 左右には、鉄格子の付いた檻が並び、ベットや水道、トイレが取り付けられている。

 檜山は嫌悪感からくる、息苦しさを憶えた。

 表情を変えることなく、彼は感情を抑え込み、奥へと進む。

 檻の中にある壁は、ひっかき傷が無数にあり、どれもが薄汚れ、血痕らしき狂気的な色がこびり付いていた。人間が使用するベッドやトイレ。中に入れられていたのが獣じゃないのは間違いない。

 各檻の中――地面には消し炭のような残骸が残されていた。

 明かりと連動しているのか。どこからか、ごうごう――という音が聞こえてくる。

 臭気がないのは、換気機能が働いているかららしい。

 磯良の報告では、死体が無数に転がっていたと言うが、床にある黒い残骸は人であろう。

 彼が発見したあと、入れ違いで死体が焼却され、残った部分を持ち去ったと考えるのが妥当。

 持ち去った者が、執行機動隊(ブラックボックス)の連中なのか、あるいは〝奴ら〟なのか。

 現状を見る限り、それらを明確にする証拠は、残されていなさそうであった。

 ――檻の面積から察するに、中に一体ずつ。人間が押し込まれていた。

 生身の死体一つでもあれば、身元から手がかりを掴めると思ったのだが。



 …………無数の死体。

 …………現れた異形。



 ――地下を隠していたほどだ。奴らはここで長期に渡り、何かをしていた。

 地面の中央。檜山は魔法陣が描かれている目の前で、足を止めた。

 魔法陣はなめらかなコンクリートに彫り込まれていて、非常に繊細な細工であった。

 最初はインクだと思っていたが。赤黒い色の正体は……人間の血。

 深く彫った溝に血を流し込んでいたのだ。

 破棄を急いだためか、肝心な術式部分は()(さい)されているが非常に高度。どれだけの時間掛けて、地面に術式を彫刻したのだろうか。

 欠片でも情報が残っているならば、持ち帰る。

 檜山は小型カメラを取り出し、地面の術式の撮影を開始した。


「やはり……転移術式。ここで異形を、養成所に飛ばした?」


 サングラスを上げてしばらく術式を見つめ、できる限りの知識を使って読み取る檜山は、()(けん)(しわ)を寄せた。


「………………いや。ちがう。転移……じゃない? こ、これはまるで」




 ――――その時だった。




 檜山の第六感が、全力で警笛を響き渡らせた。

 危険を察知したのは、特殊能力でもなんでもなく……単純に彼がくぐり抜けてきた、死地の数だけ経験した(たぐ)いと同じ空気が、背後で膨れあがったからである。

 素速く前方へ飛び込んだ瞬間――地面が大きく()ぜた。

 爆破された熱風にバランスを崩しながらも、檜山は振り返りざま、何者かが撃ち放ったであろう方向へと、魔力の光弾を放ち、反撃に転じた。

 狙い目は外れたものの、階段入り口の壁に当たり弾ける光の中。一つの影が立っていた。



「――おぉっと? 今のを避けるか。しかも間髪入れず打ち返してくるなんてなぁ。仕留めたと確信して放ったんだけれども」



 若い男の声。少年。ゆっくりとした動作はは若さに反して、戦い慣れしたような貫禄がある。

 全体的に細いシルエット。片手には身長と同じほどの長さである、黒いロッド()を片手に持っている。


「………………アンタ。どうしてここがわかった?」


 深緑色の(がい)(とう)を上着に、中には黒のパーカー。目深に被ったフード。鼻から上は(うかが)えないが、首を傾げたとき、頬まである灰色の長髪が揺れた。

 目は見えないものの、強い視線がこちらまで届いていてくる。


「だんまり、か。イイ選択だ。誰だか知らないけど、人の家に勝手に入っちゃダメだって、親から教わらなかったか?」


 勝手に(しゃべ)りかけてくる少年。檜山はその間にも様々な思考を回していた。

 ――どうやら、相手はこちらが何者だか知らないらしい。

 まさか、この少年が『予言者』か?

 俺がここへ来るのを予知していたのだとすれば、可能性はある。

 檜山は一言も発すること無く、たった一つの退路に立ち塞がる少年を観察し続けた。


「オレが探していた人間……じゃあないよな。アンタからは『()()』の気配を感じない」



 ……『シヘン』?

 聞き慣れない単語。檜山の(たたず)まいは変わらず。

 サングラスの奥で、相手の僅かな予備動作を見逃さないと集中する。



「ここで待ってれば、食いついてくると思って待ってたんだよ。……何日も何日も。他の連中だったらうんざりするような事も、忍耐強く待てる人間なんだよオレ。よくいうだろ? 犯人は犯行現場に戻ってくるってやつ。察しのイイ人間だったら、きっとここを嗅ぎ付けて、探りを入れてくるに違いないと、踏んでいたわけなのさ。察しの良い人間で助かったぜ。……オレがやってきた事が、いま(むく)われた」


 ずっと待っていた……。俺がこの場に来ることは、予知していなかったのか。

 ――『予言者』ではない。俺に接触してきた人間ではない?


「んで……おたくは〝屍編持ち〟の何なわけ? 関わりなかったら、こんな所こないでしょ? ブラックボックスの人間? ――いや、そんな成りに単独行動。どう考えても別勢力だよな? あるいは個人的に動いてる?」


 勝手に話し続ける少年。その間にも彼は持っているロッドを手から手へと持ち替える。金属製なのか、コンクリートの地面をこするゴリゴリとした音が、地下空間に響く。

 会話をするのは非常に危険。こちらが養成所の人間であることが露見したら、今後の活動に支障が生じる。俺を待っていたわけではないのだろうが、ココに来るであろう人間を待っていた。

 ブラックボックスの人間かを問いかけていると言うことは、組織が死体を持ち帰ったわけではないらしい。

 コイツは、この場所の意味を知っている。

 異形を養成所に異形を転移させた理由を知っている。

 ――生け捕り。捕獲しさえすれば、情報はいくらでも引きずり出せる。大きな前進となるだろう。



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