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<6>-4

 魔導科の校舎内部は、宗二郎達が思っていたほど、特段目新しいと感じる物はなく。

 一年生が過ごしている後者の内部と、さほど変わりはなかった。

 変わりがあるとしたら、行く先々で目撃する生徒たち。

 肩に収められたワッペンの形状くらいなものか……。

 右を見ても左を見ても、肩のワッペンは普通科を示す『円環(サークル)』の形。

 宗二郎は普通科を示す自分の『逆三角』を思い出し、いま魔導科の誰かに目を付けられたらどうなるのだろうと危ぶむ。

 放課後であるというのに、生徒の数は多く。明らかに普通科の放課後とは違って、活気が残っている。

 やはり『完全無欠の石蕗祈理』は校舎の中でも異彩を放っているらしく、彼女に話しかけたり、挨拶してきたりと、普通ではない扱われ方が、とても目立った。


「校舎はざっとこんな感じです」


 親切丁寧な説明を付け加えながら、留歌子と宗二郎を最後まで案内した祈理。

 教室……理科室……視聴覚室。図書室。

 ――うん。校舎が違うってだけで、普通科となんら変わりませんね。


「え? そうなんですか?」


 思ったままを口走っていた宗二郎は、口を結んで(しゅ)(こう)した。


「先輩は、普通科に行ったことあるんですか?」


 もしやと思った留歌子は質問する。


「いえ。私は入学したときから魔導科でしたので。ぜんぜん知りません。共用の訓練場を使わせて貰うくらいで。校舎の方は用事がありませんし。この前お昼にお邪魔したのが初めてでした」


「普通科も同じような感じです。……教室もありますし、魔導科と同じく施設もあります。宗二郎を連れてくるほどではありませんでしたね」


「あらら」


 ごく自然と出てきた言葉なのだろうが、何故かその『あらら』が可愛く聞こえた。


「魔導科と普通科の違うところは、基本的にカリキュラムの違いにあると言うところでしょうか」


「一年生の普通科が行っている授業は、魔術兵器を上手く使えるように魔力をコントロールすることや、魔力と魔術の基礎知識を行っている最中です」


「宗二郎なんて、まともに魔術兵器を扱えないもんねー」


「ふん! 扱えないのではない。魔力さえもらえれば。どんなのでも使えるぞ! たぶん!」


「…………懐かしいですね。私も一年生の時に同じ授業をしていました。魔術兵器に上手く魔力が流せなくて、苦労しました」


「優秀な先輩が基礎に苦労していた? うっそだぁ」


 留歌子の軽はずみな発言に、祈理はむぅと頬を膨らます。


「私だって、最初から何もかもできていたわけではありません。体の中にある魔力をうまく手先に集中させることができなくて、武器に同調させられなかったんですから」


「へえ。石蕗先輩が……ねぇ」


 ――俺場合は、魔力を移動させるのは簡単だったな。なんせ他人の魔力が俺の体の中に入ってくるのだ。異物を体外に排出させるように、ごく自然と出来ていたっけ。


「固有刻印を持っているからといって、制御できるかどうかは、やはり個人能力に差が出てきてしまうものです。魔導科の場合は、実践よりも先に理論で授業が固められていきます」


 ……おお、だんだん魔導科らしくなってきた。


「アレですか!? 杖とかホウキとか使ったりするんですか!?」


「…………いきなりどうしたの宗二郎。もちろん冗談でいってんだよね?」


「なにか色々と勘違いしているのか、あるいは冗談でなければ、可愛そうだと思うしかないのですが。……真面目に答えますと。魔法使いみたいに、杖ホウキは使いませんよ」


「じゃあ、いろんな薬草を混ぜたり……」


「面白そうですが、それ以上に東堂くんの頭の中が面白いですね」


 冗談で言っただけなのに、笑顔で毒を吐かれた。ちょっと傷つく。


「魔導科の基本理論は、魔術式に関する細かな制約と、実践で使われる基本術式の暗記です」


「じゃあ、魔法の言葉もないわけか」


「いえ。ありますよ」


「あるんかい! ――ですのですか!?」


 同学年につっこむのと同じ感覚で口走ってしまい、慌てて宗二郎は修正を入れる。



 ――相手は完全無欠の石蕗祈理()()。あまり失礼が過ぎると〝ぼわッ〟が来るかもしれない。わりと先輩って可愛い顔して短気な所があるからなぁ。ドラム缶を吹き飛ばせるだけの出力だ。試合で顔面に零距離放射を食らったが、おおよそ人間が貰っていい攻撃じゃない。悪魔の〝ぼわッ〟である。



「……………………東堂くん。その思った事を、ダイレクトで口走るクセ、直した方が良いかもしれませんよ? 本当に残念な東堂くんが、更に可愛そうに見えてしまいますから」


「なんども注意してるんですけどねぇ。ときどき殴られてもおかしくない()(わい)な事でさえも口走るから、このドスケベは始末に負えません。ここまでくれば病気の領域ですねー」


「まぁた、もうもう。そういうときだけ二人して仲良くなっちゃって、まー。俺、みごとな集中砲火浴びてますですねぇ~」


「でも、本当に嫌な事をされたら、〝ぼわッ〟というやつ……お見舞いしちゃうかもですね」


「………………肝に銘じます」


 宗二郎は急に真顔になり、首が壊れた人形のように、何度も頷く。


「でも、さっき言った〝呪文〟……それは間違っていないかもしれません」


「まじっすか! メッチャかっちょいい呪文ですか? 我は云々かんぬん天だの地だの、黒だとか赤だとか、雷の風のやら、男子の心を揺さぶるワクワク単語(ワード)の詰め放題!?」


「…………東堂くんって、魔術に才能があるのは確かなのですが。なんといいますか。エキセントリックといいますか。変なところが、とことん変ですね」


「なんか、格好いい言葉だけども、バカにしているのは間違いない! そもそも変言われている時点で馬鹿にされてる!」



 学年が違うこともあって、さほど会話は弾まないと思っていた祈理。

 他の生徒だったら、きっとこうまで会話を続けたいと思わなかったであろう。

 ……東堂宗二郎は他人を惹き付ける()()がある。それがいかなるものであるのかは、祈理にはわからない。ただ解っているとすれば、人を惹き付ける何かを自分は絶対に持ち合わせていない確信があった。

 階段を上り、最上階まで二人を廊下まで連れたところで、窓を指さした。


「ほら。この先に施設が見えますよね? アレが魔導科の主要施設です」


「……………………ほー」


 普通科の校舎からは、他の建物に阻まれていて、まるで見えなかった全景。

 距離は歩いて百メートルほどであろうか。地上六階はありそうな高さ。ただ横幅が広い。もしかしたら見ている方角の残りの敷地、全てがこの施設であろうかと言うほどの大きさだった。

 ちょうど二種類の川が分岐している場所でもあり、南に隅田川。北には荒川であった、水の通り道となっていた(えぐ)れが見て取れた。

 普通科からは見えない壮観さ。宗二郎はこの景色を見られただけでも魔導科の校舎に来た甲斐があったと思った。


「あの……『特殊エリア』は誰でも利用することが可能なんですか?」


 留歌子は窓から見える景観よりも、もっと現実的な部分に関心を寄せているようであった。


「普通科生徒も、上級生になれば、利用可能になるそうです」


「あの場所では、なにをするんです? ()()ってことは、特殊な事なんでしょうけれども」


「主に魔術の実射訓練が行えます。地下に特殊な空間を設けていて、人には使えないレベルの魔術の使用可能です。他にも上位クラスの魔力制御を訓練することも可能なんです。個人の訓練記録(レコード)も残ります」


「すっげー」


 好奇心が沸き上がる宗二郎は目を輝かせる。

 外観は白をベースにしていて、窓は一つもなく。学校の校舎とは、明らかに別質のものを感じさせた。


「『特殊エリア』の内部では濃度の高い魔力も生成できて、異界と同じ魔力環境を再現させることも可能らしいですよ」


 テンションが上がりっぱなしの宗二郎であるが、祈理の話はしっかり耳に届いていた。


「…………ん? 魔力の生成? 石蕗先輩。俺らがいる十八区には異界からの魔力が、ごく微量しか流れ出してこないってのは常識ですが――じゃあどうやって養成所の施設内で魔力を作る事ができているんですか? というか俺らが普段から使っているトレーニングスーツも魔術によって保護されている道具ですよね」


 宗二郎の何気ない質問に。祈理の動きが止まる。

 すると、(あご)に手を当て始めて、何やら考え出してしまった。


「たしかに……言われてみれば、確かにですよね。どうして……魔力を作る事ができるんでしょう? だって魔力は『異界』中心地――グラウンドゼロから漏れてきている。それが(はる)(ばる)十八区まで届いているのでしょうか? もしソレが正しいのならば、今頃どこでも魔術や刻印が使えますよね。だとしたら……その元はどこに」


「あのー。せんぱい?」


「は、はい!?」


「なんか俺へんなこと言いましたか?」


「いいえ! とてもイイ質問だと思いますっ」


「じゃあ――」


 答えを教えてください、と言う前に祈理はそそくさと歩き出してしまった。


「ちょっと時間が足りませんから、ブラックボックスの関係者に聞いてみてください。さあさあどんどん行きますよ」


「あ、ごまかした」


 すぐに揚げ足を取るような性格であるとは思われたくなかったのか、留歌子は聞かれないように笑った。

 特殊エリアの見学を申し出た宗二郎であったが、いくら石蕗祈理であっても、養成所が定めた規則までも、彼女の権利でどうにかすることは出来ないらしく。

 留歌子も強い希望をもって、見学したいと主張するが、現実になることはなかった。



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