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檜山に連れられて、宗二郎は魔導科の校舎から、普通科が使用している屋内訓練場まで戻った。
複数ある訓練場の個室は比較的狭く。観客席は無く。トレーニングスーツを着ていれば誰でも利用が可能だ。固有刻印や魔術を利用した実戦形式の試合には安全を配慮し、教官を交えた監視と審判が必要となる。
偶然的な出会いときっかけから、宗二郎は魔導科講師の檜山に魔術を教えてもらえるようになっていた。宗二郎の訓練は完全なる非公式であり、講師の檜山も本来ならば、普通科生徒に手ほどきをすることは養成所から許可を得ていない。よって誰かに目撃されるのは、双方にとって不利益しか生み出さない。
「あの先生」
「なんだ?」
「事件の後から、学校でウロウロしてる、〝SFスーツみたいなアーマー集団〟ってブラックボックスの兵士なんですか? それともアレがサイファーですか?」
ここに来る途中、完全武装した人間とすれ違った。
全身に鎧のようなプレートを装着した兵士。頭にもすっぽりと顔すらも覆い隠す、フルフェイスのヘッドギアを被っていた。外見から特殊部隊という印象が残っている。
檜山は部屋に入ると、一枚しか無い扉に、単純な魔術をかけ始めた。
喋りながらも、自らの行う術式を精巧に組み上げる。
「アレはサイファーではなく、刻印を持っていない一般の兵士。ブラックボックスの中でも、危険な場所へ派遣される一団。『第八課・執行機動隊』……命令さえあれば、射殺も行う組織の実働部隊だ」
「ほへぇー」
「サイファーと違うところがあるとすれば、彼らは魔術を使用できないというところだろう」
ブラックボックスには、サイファー以外に戦いを専門とした人材は、いないものだとばかり思っていた。組織の事について、詳しく知っているわけではない宗二郎は、常に新しい情報を知ることで、小さな関心が次々に生まれた。
檜山が術式を完成させ、魔術として起動させる。重厚なドアを開閉させようとするが、扉は少しも動く気配はなかった。これで、本人が術を解除しない限り、外部から扉が開かれることは無いだろう。
「…………さて、時間が惜しい。やるなら始めてしまおう」
出来るだけ動けるよう、檜山はおもむろに上着を脱いで部屋の片隅に置く。
「まず、どこまで君が魔術を使えるのか。その判断をしたい……固有刻印の能力を見せてもらうぞ」
「前にも話したように、俺の場合は魔力が生み出せなくて、人と接触することで、魔力を得ることが出来ます」
包み隠さず、それでいて魔術を教わるにもかかわらず、魔力が作り出せない自分を、申し訳なさそうに宗二郎は言う。
「他人の魔力を自分の物として扱える力。その代わり自分では魔力を生産することが出来ない、か……確かに魔術を扱うには、必ず媒体となる人間が必要なのは厄介だな」
宗二郎の能力を疑わず、深く解釈しようとする檜山。
初めて出会ったときは石蕗祈理との試合。彼は一方的に打ち倒されていた。
二回目に出会ったときは〝完璧な術式〟を再現できる特異性を見せ、その代償なのか魔力がゼロであることを明かした。
三回目は……異形の発生現場で。地上から遥か高く。中枢機関が指定する第一級の『転移魔術』を目の前で使用し、彼が持つ有能性を実証して見せた。
驚かされることばかりではあるが、魔術だけでは無く、固有刻印の能力は人知を超えている。
サイファーの中には異形のような姿に『自己変異』させる刻印を持つ人間もいる。
檜山の中では『魔術=特殊能力』としての認識があった。外見を変容させる個体がいるのだから、内的な部分で人間離れした人間がいても不思議ではない。
「東堂くん。……君の能力は確かに不完全な機能だ」
面と向かって、しかも魔術に精通している人間から言われるのは、同じ学年の生徒に言われるよりも、心に響く。
顔には出さないが、口の中で強く噛みしめ、悔しさを飲む。
「だがな。他人の魔力を扱えるという体質は――今まで聞いた事がない異常な能力なんだ」
「異常……やっぱポンコツですか」
自虐もここまでくれば末期だな。
檜山はひたすらネガティブな思考に陥る宗二郎を、ひたすら冷静に観察する。




