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「もし、彼が犯人ならば、それなりの兵力を集めないと、彼に勝ち目はありませんよ」
どこか挑戦的な物言いの檜山に対して、今度は亜生が眉を顰める番であった。
「……磯良君は、固有刻印や魔術においては自分が教えた人間です。贔屓目なしに――彼は優秀ですよ。他のサイファーよりもずっと、ね。最終的な階級は士征二位でしたが、彼が小隊にいた頃は、同じ仲間である、古川禦己と神乃苑樹との三人一組で行動をしていましたから。戦闘技術を教えたのは『怪物』と『人修羅』……その背中を、つかず離れずで追いかけ続けてきた彼をどうにかするには複数の班で掛かっても、捕らえられるかどうか」
サイファーでなくとも、ブラックボックスに所属している人間で、檜山が話した人間を知らない者はいない。
――――神乃苑樹。
――――古川禦己。
両名は現在でも健在で、共にサイファーの最高位である、
『士征一位』の階級を持つ『人類最強』である。
片方は班の隊長として。そしてもう片方は、中隊のトップとして活動中。
現在では十分な頭角を持つ彼らであるが、亜生も殺人鬼の磯良修が、彼ら人類最強と同じグループで異界に挑んでいた事を、記録書類から学習済みである。
「あの頃の小隊は、まだサイファーの制度が出来る前の戦力。出し惜しみなく『当時の異形に対する最高戦力』で寄せ集められた人間達です。世間体では『試験小隊』と言われていましたが、裏側では……試験なんて生易しい。『失敗が許されない小隊』だったんです。万が一にでも小隊が敗北するような事があれば、人類は匙を投げるしか無い所まで追い込まれていたわけですから」
どれだけの重圧が、一人一人の肩にのし掛かっていたのか、亜生には想像だにできない。
まさしく、激動時代の生き証人。好奇心の観点から非常に興味深い人間であった。
そして、サイファーの雛形となった小隊のメンバーは、今では多くのサイファー達が目指すべき高みにいる。
「……何はともあれ、異形が現れた時、檜山士征がいて助かりました。きっと士征がいなければ、もっと多くの犠牲者が出ていたはずでしょうから。……流石の士征でも、あれだけのサイズの大型異形を二体も倒すのには骨が折れたのではないですか?」
座っていた檜山の体が、一瞬硬直した。
ほんの少しだけ開いた目。頭の中で新たな『謎』が、なんの脈絡も無く突如として生まれた。
「なんですって?」
「おや? ご存じありませんか? 異形は二体居たんですよ。一体は檜山さんが処理していると報告書にありますが、ではもう一体は誰が殺したのでしょうか?」
「………………………………」
思いもしなかった内容に、檜山の心は泡を食った。
あの現場に、別の異形が存在していた? 磯良君が処理を――いや、彼の目的は一つだった。サイファーを殺害すること。それ以外がどうなろうとも関与はしないはず。最後に会ったときだって磯良君は異形について何も語らなかった。……じゃあ、誰が? 磯良に殺される前にサイファーが処理したのか? ……誰がもう一体の異形を処理したというのだ?
「――大丈夫ですか?」
舐めるような視線をもって、亜生は檜山を覗き込む。
「ええ。初耳でしたので。動揺しています」
そうですかと亜生は素っ気ない返事をした。
「異形については調べれば何か解るでしょう。異形の死骸を確認した限り、傷痕から全く別の人間が関与していたことがわかっています」
もし、ここでハッタリを行っていたら、ややこしくなっていた。
…………本当に、食えない男だ。
亜生は、誰がもう一体の異形を倒したのか、もう解っているのだろうか?
――謎の予言者。
――現れた二体の異形。
――十八区に潜んでいるであろう奴ら。
ますます深まってくる謎に、檜山は軽い頭痛がした。




