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<13>-2

 ――石蕗祈理は、人を信じていない。

 これは入学して半年の時間をかけて形成された、心の壁である。

 当時、一年生の中で一際飛び出た杭として注目を集めていた。

 もちろん、(ねた)みをもって、出た杭を打ち付けようとする上級生や同級生もいた。だが祈理はその(ことごと)くをはね除け、自分の立場を更に盤石とした。

 彼女の毅然とした態度に、周りはいつしか一歩引いて話すようになっていた。同じ学年の人間からも違う扱いをされて、妙な距離感に祈理はすぐに勘づいたことだろう。

 生真面目な祈理は、期待を持たれれば、なんとかして応えようとする。その期待がどんどん度を超えて、いつか自分の等身大を追い越さんとするくらいまで……。

 優秀であろうとすればするほど、祈理は同年代から切り離され。

 ――本人の知らぬ所で〝完全無欠〟が生まれた。

 進んで進んで、進み続けた挙げ句の果てが、周囲からの孤立。

 彼女に近づいて話してくる生徒は、彼女の強い力を利用して私利私欲を満たそうとする連中。

 そして独りでに定着した荘厳さに、遠慮しながら会話をする者に分かれた。

 心を開いてコミュニケーションを取ってくれない生徒たちに、祈理は不審しかなく。自分を孤立させた〝完全無欠〟を失えば、何も残らないのを知っていた祈理は、葛藤と苦悩を積み重ねながらも、その名を手放さず――自分を偽ることで均衡を保とうとしている。



「あの一年生は、今まで見た中でも、特に信用ならない人間なのです」


「祈理ちゃんがそういうのならそうなのだろうけど……自分が見てもソックリなら、よほど精巧に作ってあるんだろうねぇ」


「ええ。寸分狂わず……自分の鏡を見ているようで、本当に不快でした」


「でもさぁ、その一年生のトードーは、よほど手先が器用なんだねぇ」


「……………………?」


 何のことを言っているのか判らない祈理は、軽く首を傾げた。


「だってさ、祈理ちゃんのソックリさんを作れちゃうって事は、細部まで細かく観察してたって事でしょ? 本人見なくても、イメージできるくらいに……。木彫りの仏像を作る人だって、掘り出す前から丸太に仏様が見えるんですっていうくらいだから」


 どうして仏像を例えで挙げたのか。七代は自分でも、心の中でちょっと驚いた。カエル作りの職人でも良かったのに。……むしろそっちを無意識で挙げなければ、真のカエル好きとは言えないのではないだろうか。


「ナナヨも目を閉じれば見えるよぉ……カエルちゃんが、ああ。かわいいカエルちょわん。この手で作ってあげたいけど、残念ながら、んなスキルは無いナナヨちゃんであった……」


 着ぐるみのフードを深く被り、七代は勝手にクネクネ動く。

 彼女が心の底からカエルを好いているのを知っている祈理には、いつもの七代が瞳に映る。


「…………………………ちょっとまって。…………ということは、アレを造った人間(カレ)は、養成所の中で、私を細部まで観察していた、と? 目を閉じれば見えてしまうほどに?」


「見たこと無い人間をソックリに作れるなんて、ムリだよねぇ~?」


 あの工場跡で作られたものが、どれほど常軌を逸した産物であるのかを、祈理は今更ながらに、ようやく実感するのであった。


「――――なんかさぁ。やっと同情できるよ祈理ちゃん。言葉にして聞くと本当にヤバイ案件よな。引くわー。気を付けた方が良いよ。そーゆーのって、一人だけじゃ済まないものだから」


「…………うぅ。寒気がする」


 明日――また東堂宗二郎と顔を合わせなくてはならないと思うと、

 徹底的に根性を叩き直さなければ――自分の生活に安らかな時は訪れないであろうと、祈理は強く思うのであった。


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