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 失った代わりに、得られた物もある。

 ――――()(ゆう)(こく)(いん)

 異形が現れたのと時をおなじくして、大勢の人間が特殊能力を宿し、その数を増やした。

 身体に刻まれた〝たった一つの魔術〟を発現できる機構(システム)

 魔力を感じ、触れ……それらエネルギーを操る能力。

 そして……多くの魔術を行使する事が可能になる第一条件。

 刻印の大半が十代を中心とした若者であり、この固有刻印こそが、人類が戦う為に必要不可欠な要素でもあった。

 同時に、我々の敵である異形が――この固有刻印を授けたとも言われている。



 様々な魔術を使用できるか否かは、本人の努力とセンス次第であるが、

 固有刻印に内蔵されているたった一つの魔術は、人間が千差万別なのと同じように、本人ですら使ってみるまでは分からない魔術が備えられている。

 魔術といっても、ファンタジーなどに出てくるソレとは少し誤差があり〝魔を利用した(すべ)〟は、杖を一振りして大波、猛火、氷雨、雷、竜巻などを繰り出せるような単純なものではない。

 自然を操るのも筆頭であるが、固有刻印に備わっている魔術は、人体に変容をもたらすものまである。



 そんな力が、東堂宗二郎にもあった。

 ――()()()()()()()()()()()。自分がイメージした通りに、表面に浅い傷を付けるだけ。

 他の刻印と比べれば印象薄く。大きく()(おと)りする能力だ。

 そして……東堂宗二郎には、他の人間とは違って能力に決定的な違いがあった。

 固有刻印は、その能力を得られると同時に……〝自ら魔力を取り込んで自分のものとして転換し、扱える力〟がある。

 刻印には人それぞれ、能力が違うように……全てが有能であるとは限らない。その刻印が身体にふって湧いた時点で、それぞれ能力差が現れるのである。固有刻印の本質は、固有刻印に内蔵されている魔術が使用できることではなく、刻印を解して……人間には扱うことの出来ない〝魔力〟を取り扱うことができる特徴が、大きなスタンスとなっている。

 そんな固有刻印の最大の特徴であり、もっとも重要視されるべき能力を、東堂宗二郎は持ち合わせていなかったのである。



 宗二郎は、他人の持っている魔力を受け取らない限り、何もできない。大気に混じっている魔力を吸収することはできず、誰かの魔力をもってでしか、自らの刻印を発動することができない。


「はい。まいどさん。また何かあれば言ってよ。できる限り良いのを提供させて貰いますからねぇ」


 店主にでもなったような口調で、宗二郎は受け取った現金を、無造作にポケットへ押し込んだ。

 残念ながら彼らの居る場所は、人気の無い工場跡地。肌寒さと気味悪さと湿気しかない。ものの売り買いが行われるには、どこか非合法な空気が漂う。

 もちろん取引している(ブツ)は危険なものではない。でもバレたら色々と大変な事になりかねない。男のプライド的な意味も含めて……。

 ドラム缶の上にあるフィギュアをしまうために、男子生徒の一人がバッグの中から(かん)(しょう)(ざい)の入ったハードケースを取り出す。どこで手に入れたのかは知らないが、持ち帰りは万端である。

 常連ともなれば、この場から自宅まで持ち帰るのに破損の怖れがあるのを知っていた。繊細な形が故に、樹脂は衝撃に弱く、少しでもぶつかれば簡単に、へし折れてしまう危険性があった。

 宗二郎も路地の片隅にあるバッグを背負い、彼らが立ち去るのを待つ。

 だが、一人が帰らず、宗二郎と地面と路地の壁に、視線を行ったり来たりさせる。


「どした? まだ何か用事でもあんの?」


 何か言いたそうな顔をして、言い出せないのは二回目に取引したときから解っていた。声をかけてあげると、男子生徒はたどたどしく切り出した。


「実はさ……この前、作って貰ったものなんだけど」


「壊したか? 俺は修理専門じゃないから、そこらへん、あんまよく解らないんだけど」


「ううん。そうじゃなくて……『コレを作ったヤツは誰だ』って、怖そうな先輩が聞いてきたんだ」


「……………………」



 ――普通の先輩ならいいけど、どうして最初に〝怖そうな〟が入ってくるんだよ。怖そうなってのは俺にとっても怖そうな人なんだよ? わかってらっしゃる? トラブル臭がぷんぷんするんですけどーォ!? しかも何をどういった経由で、怖そうな先輩に俺の作品を見られた!? 作品片手に、学校内を聖火マラソンの如く走ってたとしか思えないし。それ以外に見られる理由があるのか? マジ――。



「――野郎(センパイ)との接点がみえてこなくねえぇえ!?」


 激しく裏路地が木霊した。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………どっから声がダダ漏れだった?」


()()()()()、から?」


「ふむふむ。すなわち全部ですね。感情的になると、どうも声がだだ漏れてしまうのよ俺。つまりそういうことだよキミ。なぜそんな事になってしまったのだよ」


「実は……一つ前のヤツを、その人に取られちゃって」


 まだ面を合わせてないものの、彼らを通して、その先輩とやらに、何か嫌な繋がりを感じ始めた宗二郎は、消沈する顔を見て、更に不安が(ふく)らむ。

 よからぬ〝お願い〟が、この後の接続として付いてくる予感がふつふつしている。


「東堂くん、取り返して貰えないかな」


「大当たり、そらきたぁ!? どこをどうやったら話の流れで俺が介入するんよ」


「だって……頼れるのは東堂くんしかいないんだよぉ」



 ――なんて事だ。こんなお願い受け入れ(がた)い。いやだ。勘弁。リスクしかない。もしも可愛い子だったならば、俺も男だ。ちょっと荒事になろうとも、下心も含め二言返事で良しとしていたところだ。可愛い子に『東堂くんが頼りなんです』なんて言われたらヤバイな。……ソレやばいな、うんイチコロだッ! ところがどっこい、相手はこの不細工なカピバラみたいな男。そんなやつに(こん)(がん)されても。コロどころかピクリともせん――。



「ひどいよ。東堂くん」


「あ、声出てた?」


「もはや言葉の暴力だよ」


「だって取り返すっていっても、どうやって? 殴り合いの喧嘩なんかしたことないぜ?」


「その先輩……東堂くんを連れてこいって……」


「……うわぁ。サンドバッグ確定じゃないっすか」


 目的は俺かよ。もう、はっ倒されている未来しか見えて来ないです。

 何か相手方に気に入らないことでもあったのだろうか。前回作ったヤツ。たしかドレス的なやつだ。陰湿な外見とは別に、いいデザインセンスをもっているのは認める。クオリティが高いから再現するのに苦労した。顔だってコイツらが考えたオリジナルのはず。

 ……誰が見ようとも怒りを買うような代物ではなかったと思う。


「とりかえしてくれる?」


「お前はフィギュアよりも、俺の身を案じなさいよ」


「うぅ。ごめん」


 本気で困っている様子の彼を見て、宗二郎は『それじゃあ頑張ってな』といってそそくさ退散するわけにも行かず。


「取り返すかどうかは置いておいて、ちょっと時間をくれないか? 相談したいヤツがいるから」


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