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ParALyze~蒼眼の魔導師~  作者: 刻冬零次
第3話 【前編】
101/325

<1>-2

 


 ――純粋な魔力のみで練られる(かたまり)、か。体内の魔力を押し出すだけなら、魔力さえ貰えれば、きっと出来るはずだな。……俺の場合、術式練るのは一瞬で出来るから、しっかりとした『魔術』の方が良いんだけどなぁ。



 口元に手を当てながら、宗二郎はいつものようにモゴモゴ独り言を(つぶや)く。

 その横で面白そうに見ていた善斗は、彼の思考を(さえぎ)るように問いかけた。


「東堂。……お前、けっこうな噂になってるんだけど、しってた?」


 眉間に筋を作って、善斗に対し首を横に振る。周りを見てみると、控えている何人かの生徒が、まだこちらを(うかが)っていた。その表情はどれも好意的ではない。


「オレも少ししか聞いていないんだけど、普通科から移動してきて、普通科じゃ収まりきらない、凄まじい高成績(・・・・・・・)を残してるから、こっちの方に推薦されてきたって」


「だれだだれだ、そんなデマを流した大馬鹿野郎は……」


 普通科じゃ収まりきらない? 誤報も(はなは)だしい。まるでちがう。普通科で手一杯(・・・・・・・)だッ!

 口に出して主張しても良かったが、ココでそんな事を(こう)(げん)してしまえば、何が起こるのか想像も付かない。


「ふぅん。デマなのか?」


「…………八割がた、嘘ですよ。そりゃ」


「なんだー、ウソなのかぁ。てっきり〝女帝〟と親密な一年生がいるって聞いてたから、てっきりお前の事なのかと」


「ちょまち。そのお話。もうすこし詳しく」


 授業中だということも忘れて、宗二郎は一歩前に出て善斗に迫る。


「なんていったんだったっけぇ? 『(から)()き』だか『(まめ)()き』だか『(つな)引き』だかって名前の、あーっと、あぁーっと……」


「――――つわぶき(石蕗)?」


 善斗は指を弾いて、八重歯を覗かせて笑った。


「っそぉ! 石蕗(ソレ)ッ。完全無欠の石蕗なんちゃら(・・・・・)


 善斗は名前も憶えていなかったらしく、宗二郎はとにかく先の話を待った。


「二人の一年生と、その先輩が、学校の中を仲良く歩いていたのを見たって、何人もの生徒が話しててさぁ。だからこっちに移ってきたときの衝撃が凄かったわけよ。基本的に〝完全無欠〟は誰とも親しくしない。雲の上の人だから。……そんな人が校舎を紹介するなんて、相手がよほどの人間なんだろうって噂がごった返してたんだよ」



 ――二人の一年生。まちがいなく俺である。片方はルカ子だ。



「あ、やっぱり? ルカコってだれ?」


「ぶっふッ。またいつもの癖が!」


「東堂さぁ。変な奴っていわれるだろ」


「出会う人間、出会う人間。ほとんどに言われている」


「だろうねぇ。くっははは」


 ……なんてこっちゃ。恐れていたことが現実となってしまった。先輩と一緒に校内を歩いていた時点で、俺は魔導科のあちこちに、無差別の時限爆弾をばらまいていたのか。

 よくよく思い返せば、先輩のところに何人もの生徒が挨拶しに来ていた。

 俺らが目に付かないなど、あり得ないッ!! 火のあるところに煙りどころか、知らない所で大層な大火事になっているではないかッ!!


「オレも転校して日が浅いから、あまり良いアドバイスは言えないけど『完全無欠』がらみになると、目の色変える人間いるから、気をつけな」


 忠告を聞くや否や、どうしても気になる視線を無視することが出来ず。

 宗二郎はまたもや、こちらを見ている厳つい生徒のグループを()()る。

 まちがいなく、()る気に満ちている。

 まだ魔導科に来たばかりだというのに。



 ――トラブルの火の手が、早くも背中で燃え上がっている。



「なんか、この世の終わりみたいな顔してるけど、大丈夫か?」


「ああ。なんとか……ギリギリを保っていますよ」


「困ったら、オレのとこ来いよ。話ぐらいは乗ってやっ――……お前、なんで泣いてんの?」


「青柳。君はイイ奴だ。まったく。お前とは仲良くなれそうだ。ぐす」


 嘘泣きなのか、本気で泣いているのか判断が付かないくらい、しんみりした態度の宗二郎に、善斗は心底『変なやつ』という印象を更に深めつつ、歯を見せて微笑んだ。



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