精霊のダンジョン その3
イセの今後は如何に…
ガストロームが精霊の前で片腕をまげて深くお辞儀した。
「へっ? …あ…あのう、貴方はどういった方……なんですか?」
精霊は恐る恐る美丈夫な魔人族に尋ねた。
「よ~くぞ聞いてくれました。麗しき御方よ! 私の職務は商品のプロデュースです! 商品と言うのは……そぅ貴女です!」
ビシィ!と人差し指で精霊を指さしたガストローム。
「わ…わたしぃ?」
「あっソウリィソウリィ~! 貴女のダンジョンです!!」
ガストロームが改めて言い直した。
後ろでガストロームを見つめる愛子のジト目が怖い。
「私の手で、この商品は魅力的に生まれ変わります。 貴女の魅力にならぶ素晴らしいダンジョンを作り上げましょう!!」
「えっ…でもダンジョンの心臓部…と言うか精霊核は、私しか動かせないんですよ…それでもぉ?」
「まぁ~~たく問題ナッシングで~す!」
精霊の問いかけにガストロームはサムズアップで答えた。
「まぁ、まずはこのダンジョンの方向性を考えていきましょう。 長期目標はダンジョンにレベル差がある冒険者でも挑める物を目指すとして、短期目標を決めて動きましょう。 精霊は私の質問に答えてくれるだけでいい~んです☆」
ガストロームがスーツの襟をビシッと直してメガネを装着した。
お仕事モードだ。
「では! 精霊、ここを訪れる冒険者の何割がレベル50以下で何割が高レベル冒険者ですか?」
「あっはい。 今の所イゼルから訪れている冒険者のレベルは…えっと20未満の人が多く訪れています。たまに高レベルの方も訪れていますが……比率は8対2といったところでしょうか…」
「では!グループ冒険者とソロ冒険者の比率もお願いしますね」
「多くは3人組ですが、たまに高レベルのソロ冒険者も訪れています。比率は9対1といったところでしょうか…」
「なるほどね。ではこのダンジョンの構造を変えることは、精霊できるかい?」
―――キラリ~ン―――
さわやかな笑顔で精霊を見つめるガストロームの白い歯が薄く開いた唇から光って見えた。
「んっ! そ…そうですね…階層を増やすことはできます。 今は5階層くらいにしていますが…」
「では……」
ガストロームは右手にペンと左手に羊皮紙を持ち、精霊に向き合った。
その時、愛子が二人に声をかけた。
「ちょっと~精霊! 話に集中する前に、私たちを地上まで転送してもらっていい? ちゃんとその人は置いていくからね」
「…あっ! ハイ!! ’転移’」
精霊が片手で愛子に向けて魔法を唱えた。
金色の魔法陣が愛子とルイカの前に描かれた。
「んじゃ。 ガストロームさん? あとはよろしくお願いしますね?」
「はっはっはっ! りょ!」
ガストロームは愛子の方を振り向き笑顔で、愛子の言葉に敬礼で返した。
愛子とルイカが金色の魔法陣に入りこみ消えた。
―――キィィン!―――
地上に移った愛子とルイカの頭上には満点の星空が広がっていた。
「ふぅ、ではルイカちゃん。私たちはヴィスタ城に行きましょうか?」
「そうやね。 ただこの夜に動くのは危ないで?」
イセのダンジョンを出た愛子たちは暗い街道歩きながら先を見つめていた。
ルイカから夜の移動の不安を伝えれた愛子はルイカに告げた。
「ふふふっ。こんなこともあろうかと! ちゃ~んと用意してきているんだからね」
愛子が腰のウエストポーチに手を伸ばした。
そしてゴソゴソと中身を探ると何かを出した。
「じゃ~ん! ちゃんと野営キットを持ってきているからね」
そういうと愛子は街道の近くにある広場を見つけると手をウエストポーチから引き抜いた。
ウエストポーチか出たのは布に包まれた何かと薪、そしてシュラフが2つとお鍋だった。
「今から簡単にテントを広げるから、ルイカちゃんは薪に火をつけてくれる?」
「ええよ。 ほな、’火’!」
ルイカが愛子の指定した場所に置いている薪に魔法をかけると魔法陣が展開され小さな火の玉が薪から起こった。
―――ーパチパチパチ―――
「アイコさ~ん、火を起こしたでぇ」
「ありがとう、こっちもテント作り終わったわよ。 簡単なワンポールの三角テントだけどいいでしょ?」
「わぁ! なんかこういう初めてみた! コレお父様の話で聞いたことがあるやつやん」
ルイカが瞳を輝かせて愛子が作ったティピーテントを見ていた。
「さぁ、簡単な食事にしましょ?」
そういうと愛子はウエストポーチから塩漬けの肉と野菜を出してフライパンで炒めた。
そしてウエストポーチから硬めのパンを取り出すと愛子は腰に下げていた刀を抜いた。
「今からパンを斬るからね。 さぁ、魔剣(アヴァリィ-ティア)!出番よ」
「すぅ~! はあっ!!」
平たい石の上に置いたパンに愛子は、4連撃を加えた。
―――ギィンギィンギィンギィン―――
愛子の刀が振り下ろされるとパンは4つにスライスされていた…石も一緒に。
「ちょ! アイコさん!? それやりすぎやないの?」
「まぁ、うまく斬れたからいいじゃない?」
「わかったけど、あとでちゃんと包丁買うてや。 パン斬るたびにに地面まで着られたらあぶのうてかなわんわぁ それに女子なら包丁くらいつこうてへんと…嫌われるで」
ルイカがあきれ顔で愛子をみると、愛子は俯いていた。
「うっ! そっそれもそうね。包丁ちゃんと買おう」
そうつぶやいた愛子は切ったパンを火であぶると炒め具材をパンにはさんでルイカに渡した。
「簡単なサンドイッチだけど味は保証するわ」
「ありがと。 ほないただくわ!」
―――パクッ―――!?
「アイコさん、これめっちゃおいしいやん」
「へへっでしょう? 私、キャンプ飯得意なのよねぇ…ひとりでソロキャンプ多かったから…」
そう告げた愛子の瞳に哀愁が漂っていた。
そして愛子は、酒を飲みだした。
「~~く~~! きっついわねぇ~。 まぁ私ざるだからいいけど。 ルイカちゃん、そのテントにシュラフ入れているからくるまって寝ててね~私はもう少し飲んでおくわ~火の番してるから~」
赤ら顔で愛子はルイカに告げた。
「ほな、お言葉甘えてお先に失礼します~」
ルイカがテントに入るのを見届けると愛子は空を見上げてつぶやいた。
「明日にはヴィスタ城に入らなきゃね…」
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