クライクラスト商会 前編
やっと二人の話が進みます。
水の流れる音が響いた。
女性の声が、水の音がする部屋から聞こえてきた。
「ルル君。ちょっとこっちきなさい。」
そう言うと愛子は、ちょいちょいと手招きした。
小さめの椅子に腰かけて、反対の手には手桶を持っていた。
愛子が裸であることが、ルルカッタには問題だった。
「ちょっと、アイコ様、前隠してください。前!」
「そんな真っ赤な顔してかわいいね。ルル君は」
真っ赤な顔で目を瞑っているルルカッタは、顔どころか耳まで真っ赤だった。
青い肌が真っ赤になるのだから、相当恥ずかしいのだろうと愛子は思った。
美少年といっても、中身はお子様よねっと
愛子は席を立つと、ルルカッタに近づき手を引っ張った。
そしてルルカッタを自分の前に座らせると、頭から手桶のお湯をかけた。
バシャー
お湯を被ったルルカッタは、猫のように首を振りはらった。
思わず愛子の方を見たルルカッタは、愛子の露わな胸だった。
赤い顔で固まるルルカッタ。
それを見て、愛子が思わずつぶやいた。
「もう!若く美しい肌を見る機会なんて、そんなに無いんだからね。役得だとおもってよね。」
そういうと愛子は、ルルカッタの首を前に向けると頭にシャンプーをつけ洗い始めた。
「そう言われても恥ずかしいです!!」
ルルカッタの心はいろいろ限界だった。
ルルカッタは、愛子に洗われながら小さくつぶやいた。
「なんで、こんなことになったんだっけ……」
シャンプーが目に入らないよう瞳を閉じているルルカッタは、愛子に頭を洗われながら思い出していた。
話は、街道で聞いたダンジョンを目指すところまでさかのぼる。
行き交う馬車が、土ぼこりが上げて彼女らを追い越した。
「ごほっごほっ!」
「ルル君、大丈夫?口元をこれで覆って」
愛子はルルカッタに、ハンカチを手渡した。
「ありがとうございます。アイコ様」
ハンカチを受け取ったルルカッタは、愛子に礼を告げて歩き始めた
愛子とルルカッタはフードを被り、街道を足早に歩いていた。
「おーい!あんたらどうした?」
前からから来た馬車に座っている男性、青い肌の魔人族から声をかけられた。
「ルルクン、知り合い?」
「いえ……もしかして冒険者かもしれません」
「冒険者?」
愛子が聞き返すと、ルルカッタは答えた。
「はい。依頼で魔物を退治したり、人を捕まえたりする仕事です……あっ!」
ルルカッタは思った。
自分たちが賞金首となっている可能性について。
そして愛子に告げた。
「アイコ様、やりすごしましょう。もし賞金首として私たちを捕縛する依頼が、回っているとすれば厄介です」
そして愛子たちは声を無視して、フードを深くかぶり歩みを速めた。
「おい!聞こえていないのか?」
大きな声に思わず、ビクンッと体が反応する二人。
青い肌の男性は馬車を愛子たちの前に止め、二人の前で馬車から降りてきた。
愛子は、男性がおりてきた馬車を見た。
荷台に紋章が描かれていた。鷲の頭に広げた翼。シッポは蛇。
「ちょっと、二コラ!急に大声ださないでよ。前の人達ビックリしてるじゃない」
馬車にのっていた白い肌の女性が、大きな声で青い肌の男性をたしなめた。
愛子は自分たちに声をかけた二人の人物を、改めてフード越しに確認した。
青い肌の男性は、ネイビーストライプのスーツに首元に柄ストールを巻いていた。
口元には顎費を整え、短く刈り込んだ髪型は、現代のサラリーマン男性のようだと思った。
白い肌の女性は、スリムな体系を目立たせるようなすっきりとしたパンツスタイル。
胸元がすっきりとした薄い青いストライプシャツと、ジャケットも自然なボディーラインを協調されたシルエットだった。
ロングヘアをポニーテールに後ろでまとめた髪型は、馬車の振動と呼応して揺れ動いていた。
「なんか、サラリーマンとOLみたい」
愛子は、つぶやいた。
二人の姿はこれまで見たこの世界の服装と、明らかに違っていた。
それこそ6世紀ぐらい先に進んだ感じだな、と愛子が思っていると男性は話し始めた。
「んっ?なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありませんわ、ただ先をいそいでいるので」
男性に軽く会釈して横を通り抜けようとしたとき、二コラは愛子の肩を軽くたたいて話を続けた。
「そうは言うが、そんなカッコでどこに急いでいんだ!? なにか困っていることがあれば、話だけでもどうだい?」
「いえ、だいじょうぶですわ。ではごめんあそばせ」
愛子が頑なにその場から、去ろうとする姿をみて神人族の女性は言った。
「私たちは、怪しいものじゃないよ。クライクラスト商会って聞いたことない?」
「クライクラスト商会?」
愛子は聞いたことのない名だった。
そのときルルカッタが、愛子につげた。
「アイコ様、クライクラスト商会は、三商王の一つです。国を超えた商売をしていると聞いています」
愛子は、ルルカッタに聞いた。
「この人たちは信用してもいいの?」
ルルカッタは愛子に答えた。
「はい。きっと大丈夫だと思います」
二人は二コラに促されるまま馬車に乗った。
そして愛子は、申し訳なさそうな表情で二コラに聞いた。
「ごめんなさい。私はクライクラスト商会が、どういう組織なのか知らないんです」
「そうか。私は”クライクラスト商会”の支部長をしているニコラというものだ。そして隣にいるこいつはコリー。私の部下だ」
「ちょっと二コラ。こいつ扱いはやめて、あとで怒るわよ」
笑顔で二コラに注意するコリー、眼が全く笑っていなかった。
「始めまして、私は”クライクラスト商会”で秘書兼副支部長をしているコリーです。悔しいけどこいつの部下です」
笑顔で挨拶をするコリー。二コラは、何か言いたそうだがコリーの瞳を見て口を閉ざした。
「えーごほん。私たちは、近くの”亜人国”からの帰りなんだ」
二コラは、愛子たちに伝えた。
「”亜人国”でヴィスタ帝国が、ウィルヘイムに襲撃を受けたことを知ったんだ。私たちは今、逃げてきた魔人族の保護をしながら、商会の本部にむかっているんだ」
そう伝えるて二コラは、馬車の荷台の中を二人に見せた。
荷台には、傷つき包帯を巻かれている男性が五人、身を寄せ合うように固まっている女性が十人いた。全員が青い肌の魔人族だった。
「この人たちをどうするの?」
愛子は二人が、荷台の魔人族を神人族に渡して報奨金をもらおうとしているのではないかと思った。
もしそうなら私が、この人たちを助け出さないと!
「あぁ、ただの保護活動だよ。商会の館で匿うのさ」
二コラは答えた。
「クライクラスト商会は、国の力が働かない商会なんだ。三商王とよばれている商会の一つで、私たちの商会は魔人族が多いんだ。だから魔道具などの魔法に関連した商品を取り扱っているんだよ」
ニコラは馬車を走らせながら、話を続けた。
「商会は物を流通させるためにあって、この世界の血液みたいなものなんだ。三商王は、それぞれの商会が得意としている物が違うんだ。そのおかげで三商王の規模は同じ程度だし、商会同士の力関係は拮抗し保たれているんだ」。
そして二コラが商会のことを、二人に教えた。
「各商会は各国家とは別の、完全に独立した世界的な組織なんだ。だから国家の戦争などは、特別なことが無い限り加担することがないのさ」。
「そうなんだ。でもそれでは戦争から逃げてきた人を保護する理由にならないわ」
愛子は疑問を投げかけた。
「そうだね。三商王はお互いに戦時中の行動を決めているんだよ。 戦争などが起きて、犠牲となる老人、女性、子供は、優先保護対象として種族に関係なく保護することを」
二コラは答えるとさらに続けた
「そんなことができるのは、三商王のそれぞれの商会が、多くの国とつながりがあり、商会が物流や人材を止めてしまえば国が簡単に破綻してしまうからなんだよ」
分かりやすく二コラは、教えてくれた。
一部はコリーが、補助してくれた。
愛子は思った。
「そんなすごい組織の支部長が、なんでこんなところで現場に出ているの? 」
言葉に出てしまった。
「ははは。それはね、もちろん決めているからということもあるけど、こういうときほど国に恩を売るにはいいんだよ。それに本部の命令もあるから」
二コラは笑顔で、愛子に告げた。
「それに、こいつのテストもあるしね」
二コラは愛子に、腕を見せながら言った。
腕には細い腕輪をつけていた。
「この魔法具にはこんな機能がある。」
そういうと二コラは腕の魔法具に魔力を通した。
腕輪が青く光る。
すると腕輪の前に光輝くコンソールが現れた。空中に。
ビックリした目で愛子とルルカッタが見ていると、二コラはそのコンソールに記された文字を一つ押した。
するとさらに青くひかり、コンソールの隣に画面が開いた。
まるでスマホのTV電話機能のようである。
「うわ!なんかテレビ電話みたい」
「テレビ電話?」
ルルカッタは言葉の意味がわからず聞いた。
どこにカメラがあるのかさっぱりわからないがその画面の向こうには豚鼻の亜人が写っていた。
ニコラがその画面を見ながら話しかけた。
「ドクル、新しく魔人族の少年と神人族の女性を保護したぞ。記帳しておいてくれ。」
すると腕輪から声が聞こえた。
画面の亜人が話をしているように動いている。
「OK、二コラ。近くの街は神人族が占領しているから、商会の会館へ行ってくれ。地図は腕輪に送る。」
そういうと腕輪から新たに画面が現れ、マップのようなものが現れた。
「ドクル、いつも仕事が早いな。さすがNo3だ。また連絡する。あと何かあれば連絡してくれ。」
そういうと二コラは腕輪に話しかけ光る別の文字を押した。
すると画面が消え、コンソールも消えた。
腕輪の光も消え普通の細い腕輪に戻った。
「なにそれ!あたらしいアッ〇〇ウォッチ!?」
愛子が言った。
「なんですかそれ!カッコイイ!そんな魔法具見たことないです!!!」
ルルカッタも興奮気味に言った。
しかもすごい前のめりで。
「おいおい、そんなにがっつかないでくれよ。これは新型魔道具でまだうちの商会でもテスト中のものなんだ。」
二コラはルルカッタと愛子に首元のストールを引っ張られ、首をガクガクしながら言った。
「だから、うちの幹部連中でテストして良ければ販売する。」
二コラの首が取れそうなくらい激しくガクガクされている。それをニコニコほほえましく見ているコリーさん。なかなかの大物である。
「「おいくら!?」」
愛子とルルカッタはさらに首をガクガクさせ値段を聞いた。もう二コラの首の耐久値はゼロよ状態である。
「1億ルリ」
首ガクガクしているルルカッタの手が止まった。顔面は蒼白になり青さがより際立った。
「無理です。そんな豪邸たてれる金額だせません・・・・」
ルルカッタが膝からくずれ落ちた。一人の少年が大人の階段をのぼった証拠である。大人の世界の不条理。お金の力は絶大だ。立ちあがれなさそうなほどの精神的ショックを受けたルルカッタ。
さりげなくレベルが1上がった。
そんなルルカッタの様子をみて、その金額がとてつもないことがわかると愛子も地面にひれ伏した。二人とも四つん這いである。這い上がる力がなくなったかのように真っ白になっていた。
「100ルリあればパンが買えます。それの何倍でしょうか・・・・」
ルルカッタは崩れ地面を見つめながら呟いた。そんな二人の様子を見ていたコリーが近づき言った。
「あらあら、そんなに落ち込まないで。正規のルートで購入したらの金額よ。」
そういうと四つん這いでひれ伏す二人の近くで腰を下ろすとさらに言った。
「私たち商会はね、良い商品やアイテムを生産したり、必要なものを取ってきてくれる冒険者的な人にも渡してテストしているのよ?」
そう言うと、2枚の紙を愛子たちに渡した。
それは雇用契約書と雇用契約書と書いてあった。
コリーは説明してくれた。
雇用契約書(正職員)は商会に属し商会の為に働くことが問題ない人用
雇用契約書は所属は各国だが、商会の仕事を優先して働いてくれる人用。
何か理由があり雇用契約書(正職員)までは結べない人ように雇用契約書が存在すること。
二つの契約書の違いは待遇や金銭などで明確に差がつけられており、その為、多くの人が雇用契約書を結ぶこと。
ただ一つ違わないのは伝達魔法具はどちらでも契約の印としてわたされること。
渡す魔法具は支部長の権限に委ねれていること。など
死にそうな二人の目に光が灯った。
スクッ!と立ち上がるとすぐに二コラのもとにきてこう話した。
「「私たち(僕たち)、パートになります!!」」
「「だから、その素敵な魔法具をください!!お願いします!!!!」」
二コラはやれやれといったそぶりをするとこういった。
「これは幹部クラスでテスト中の物だから・・・」
ガクガクッ
途中で二コラの発言は止められた。
愛子とルルカッタの仲良し首ガクガクの刑が始まったからである。
「「どうしてもほしいんです!!」」
腕を振るスピードがますます速くなる。
「「お願いします」」
もう二コラさんの首は、飛んでいきそうな勢いである。
やめたげてぇ!彼の首のHPはゼロよぉ!!
そんな光景をあらあらという目線で、にっこりみるコリーさん。
大物である。
「わかっわかったからやめぁjiahoijmbagvavnamlvakkv@p」
途中から声にならない声を出す二コラさん、危うく空からお迎え来そうなときである。
ピタッと二人の手が止まった。
「「ありがとうございます」」
二人は満面の笑みである。
そして二人のステータスボードのジョブがアルバイターに変わったことはこの後、わかったことである。
そして、死にそうな二コラから腕輪を受け取って馬車で近くの会館にきたところでコリーさんが言った。
「二人とも後でステータスボードを確認させてね。等級つけるからね。」
「あとお風呂があるから、その血まみれの服装と顔とか汚れを落としてきてね。」
二人はお風呂という素敵なキーワードに反応した。
そして、ルルカッタがお風呂に入ろうと脱衣所で服を脱ぎ始めるたら、愛子が一緒に入ってあげるといわれ強引に浴室につれこまれて現在に至る。
愛子とルルカッタは湯船に浸かりながら思った。
―――お風呂サイコー!!―――
湯船の中で愛子の膝の上にはルルカッタが座らせられ抱きしめられてた。
ルルカッタの顔は変わらず真っ赤なままである。
二人はしばらくぶりのお風呂に疲れと緊張感がほどけたようで心から今の状況に感謝した。
このあとダンジョンで極度の緊張と死のダンスを山ほど踊ることになる二人が持てた至福のひと時であった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしております。
すこしお色気いれてみました。
お風呂シーンは楽しいですね。
妄想が膨らみます。
あとコリラさん割とSです。
書いててキャラクターが段々主張し始めました。
次回は火曜日の20時頃更新の予定です。