逃亡者
やっと少しずつ話が進んでいきます。
9月28日
考えを煮詰め直し加筆修正をしています。
ここは街道に設置された休憩所である。
休憩所には荷物を運ぶ馬車の馬が水を飲めるようにこうした水飲み場が整備されていた。
水飲み場には、水道施設を使用した噴水も常備され行きかう人たちの憩いの場となっていた。
大きなフードを被った愛子と、ルルカッタはこの水場で水を補給していた。
「はぁ、これからどうしようか。力を付けるにもここにこのままいればいつかは見つかるし。」
愛子とルルカッタはヴィスタ城を出ると、国境にむけて告げた。
その途中には2つの大きな街があり、その街はウィルヘイムに占領されていた為、愛子とルルカッタは大きなフードで顔と体を隠して街道を移動していた。
水場の前で小さくつぶやいた愛子はステータスボードを見直していた。
念じるとステータスボードには新たな文字が浮かび上がっていた。
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名前 青山 愛子 29才
レベル 12 スキル「看護師」ジョブ「子持ちシングル」
技能:言語理解(全種族対応)
固有魔法[深淵の魔眼”完視"]
固有魔法[深淵の守護"絶躰"]
固有魔法[深淵の脚技"闇脚"]
[深淵の女王]
派生魔法”身体強化”
重力魔法"圧縮"
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先日の戦いで身に就いたスキル”看護師”。ルルカッタも初めて見たスキルだという。ルルカッタは司祭のというジョブの為か、普段多くの信徒と接している。
スキルにもくわしい彼が、初めて見たということから、この世界に”看護師”というスキルを持つ人はかなり少ないのだろうと愛子は思った。
そのうえ、回復師、結界師、検査師など他の回復、防御系スキルと違い、一つのスキルでこれだけの固有魔法を有することがあり得ないということだった。
通常は固有魔法は1つ、それと別に魔法を覚えることは可能だが、それでも固有魔法と名が付くことはない。
それはルルカッタのステータスボードを見ても明らかだった。
しかもジョブも新たについた。
( 子持ちシングルって何?私はいつの間に彼の親になったの? )
20代で結婚もしていない彼女には受け入れがたいものだった。
( こんなジョブをつけた神様恨みます。 )
「まだ恋愛も結婚もしていないのに……」
そうつぶやくと愛子はルルカッタの方をみておもった。
いきなり目の前で少年の親族が殺され、自分が助けると言ったことでついたジョブ。
それは仕方ないとしても、目の前の青い肌の少年は私のことをどう思っているのだろうか。
顔は幼さが出ているが、切れ長でおおきな瞳。体格は小さめだが、不摂生などせず育ちました感あり体形、明るく健気に愛子の話を聞いてくれるといった細かな配慮のできる性格。
「一応イケメンの部類に入るよねぇ」
愛子は思った。これでもう少し成長してくれてたら、恋愛対象だったんだけどなぁ。
ルルカッタは見た目は小学生くらいであったが実年齢は、はるかに上だった。しかし見た目が幼いことで愛子の中では保護対象として認識してしまっていた。
「はぁ……」
そんなことを思いながら愛子は先日の戦闘のことを思い起こしていた。
自分が看護師であると意識したときに光を放ったステータスボード。そして全身に薄いむらさき色の光を発して相手の魔法を消した自分の体。その光をまとっている間は一切ダメージを受けず、痛みを感じることもなかった。
また、黒髪美人なキックの鬼、別名”師匠”(コーチ)の言葉を思い出すと同時に体が動き、相手に蹴り技を繰り出していたこと。
それに蹴とばしたときの感触。まるで自分の体が金属であったかのような感触と音に愛子は内心驚いていた。
「固有魔法ってもっと何か詠唱とかいらないのかな?漫画ではこう、なんかカッコよくさけぶんだけどなぁ」
愛子がつぶやくとルルカッタは答えた。
「アイコ様、固有魔法も詠唱が基本ですよ。ただ無詠唱でも使える人もいるだけです。」
スキルによる固有魔法は詠唱が基本だそうだが、ごくまれに無詠唱でもつかえること。
ただし任意で覚えた魔法は絶対に魔法名を呼ばないと発動しないということ。
「無詠唱魔法はイメージで発動するんです。アイコ様はイメージが出来ていたんだと思います。」
薄紫の光は固有魔法で自身の体に結界が巡らされた為に起きたこと。その為ダメージも痛みも感じなかったということだった。
しかも、固有魔法を展開している状態で相手に蹴りこんだから金属音みたいな硬質な音が出たのだろうということだった。蹴り技が出たのはこれも固有魔法のおかげだという。
足が自動的に動き相手の急所めがけて技をくりだしていたのも、愛子の中で強いイメージがあったからだという。
愛子は、とんでもない笑顔でサムズアップしている師匠の顔が脳裏に思いうかんだが、気のせいだと思うことにした。
―――魔法を消し去り、世界一硬い体を持つ、鬼の蹴り技師―――
愛子は頭でそんなことを考えていた。化け物とでも表現するのが一番的を得ているかもしれない。ルルカッタの説明をきいた愛子はそんなことをおもいながら自分の体をみた。
愛子の服はボロボロである。
愛子の固有魔法発動中は最高の防御を発揮した。
しかしそれは"固有魔法を発動しているときだけは"であった。
舗装されていない道を歩く愛子の靴は壊れたりストッキングは破れていた。
先ほど歩いているときにハイヒールはヒールがボキッっと折れていたので仕方なくヒール無しで履いている。
スカートはふんわり感がなくなり、ストッキングは断線しまくりで、衣服は埃と血でガサガサべとべとべとであった。
それ以外の荷物はトートバッグが一つだけであった。
「はぁ……」
愛子は大きなため息をつくと先ほどの街でのことを思い返していた。
時は戻り、ヴィスタ城から逃げ出した愛子たちはとりあえず街道を通り、2つの街を抜けて国境沿いの神殿に向かうことにした。
歩きながら、進んでいると愛子達への視線が増えたことを感じた。それは道が大きく、太くなると加速度的に増えてきた。
当初は、魔人族に対する視線だと思っていた愛子だが、神人族の彼ら、彼女らの視線がどう見てもフードを被ったルルカッタに向けられている物ではないことが段々わかってきた。
そう、その視線はルルカッタに向けられているのではなく、隣にいるフードを被った自分に向けられていたのだった。
愛子は思った。確かにこんだけボロボロを着た人は周りにいないわ。
それに引き換え、街道を行く人族の服装は中世のそれだ。
街並みや行きかう人も普通にパンツスタイルかロングスカートなのである。
愛子のような膝丈のスカート姿はいないのが普通である。
人族以外ではミニスカートや膝丈スカートも履いているが、人族では愛子の姿はありえない服装なのであった。
ましてや今の愛子の服装は明らかにボロボロだ。人目を引くのは明らかだった。
「OK、とりあえず、私の服装がとんでもないことは分かった」
そういうと、愛子とルルカッタは街道をぬけたら、神殿に行く前に、街の服屋で服を新調することにきめた。そして最初の街に差し掛かった時に入場門に神人族と思われる人影が二人立っているのをみつけた。
二人は思わず壁際の木々に隠れ、入口にいる神人族の話に聞き耳をたてた。
「この街も俺たちの物になったし、城も勇者たちが落としたと言っていたから。魔人族の国も消滅するな」
「そうだな。この国を落とせば後は獣どもと機械たちだけだ。案外楽にこの世界を手に入れられるんじゃないか?」
「そこのところは同感だ」
「ところで街の若い女たちはどうする?奴らは奴隷でいいだろ、俺気になるやついるんだが」
「ほどほどにしとけよ。人の言葉を理解する奴隷は貴重だからな」
「クククッ、あぁ適当にたのしむよ。奴らは貴重だからな」
下種な笑い声が聞こえてくる。
男たちの欲望のままに大声で話していた。聞いていて気持ちの良い話ではない。今の愛子たちには街に何人いるかわからない彼らを倒し街を開放することも出来無い。
―――己の無力が憎い―――
愛子とルルカッタは街を後にして街道を急いだ。神殿に行けば何とかできるはず。そう思うと二人は周りに築かれないように急いで歩きはじめた。
ルルカッタは、足早に歩きながら先ほどの街のことを思っていた。王族として、何もできなかった自分。あの街は元は魔人族の街だった。しかし神人族が攻めてきたことで、魔人族の領土は神人族に占領された。
町の入り口には、神人族の騎士が立ち、魔人族は町に入ることも出ることも出来なっていた。
( 中に住んでいた魔人族はどうなったんだろうか )
先ほどの話を聞くととても良い状態でないことはすぐにわかった。占領された土地に住む異民族は、奴隷としてのみ存在価値を認められている。それが神人族の奴隷に対する扱いだった。
―――力が足りない―――
それが二人の共通認識だった。どうすれば、良いのか……
時は戻り、愛子たちが先ほどの街でのことを思い出しながら、考えていると街道を行きかう人々の中の馬車から一際大きな声が聞こえてきた。
「なぁこの街道の途中になんであんな魔物の多いところがあるんだ」
馬車の先頭で馬の手綱を握っている”頭の生命力が薄めのおじさん”がすれ違う隣の馬車の先頭で馬の手綱を握る”ガタイの良いおじさん”に話しかけていた。
「知らないのか? あそこはもともと地下にダンジョンがあったんだよ」
そう言うと話を続けた。
「ヴィスタ帝国の騎士団がダンジョンは危険ということで、入り口を封鎖して埋めてしまったから見た目はわからないが一本太い木が生えているだろ? あそこがそのダンジョンだといわれているんだ」
そしてさらにこう続けた。
「まぁダンジョンはともかく、近くにいる魔物は危険だから必ずどこかの騎士団に同行してもらうか、傭兵を雇って通るほうが安全だ。積み荷の安全を考えるならな」
ガタイの良いおじさんは、そういうと手のひらをヒラヒラさせていた。
「たしかにな。情報ありがとな。お前さんにも商売の神のご加護を」
頭部の生命力が薄いおじさんはそういうと手をヒラヒラとさせて挨拶をかえしていた。
その様子に頭上の黒い鳥(カラス?)がおじさんのきらきら光る頭を狙って降下してきた。
おじさんの頭、逃げて!超超逃げてぇ!!
「カァ! 」
「いてぇ何しやがる!!! 」
二人のおじさんは反対の方向にそれぞれ馬車を進めていった。
一人のおじさんは頭にカラスの攻撃をうけながら。
ルルカッタと愛子は二人して顔を見合わせて声を出した。
「「 これだ!! 」」
まさに天命であった。
愛子とルルカッタは手を握りあい、一本の木を目指して街道を進んだ。
愛子は思った。服装はとりあえず、このままでいこう。
ルルカッタの説明通りなら、ダンジョンには昔から宝箱が何故か設置されており、そこには衣服や防具、武器などが入っていることがあるという。
それに、ダンジョンで鍛える事で自分たちの力を上げることも目的の一つだ。
先ほどと比べると希望が出てきたことで、すこしだけ目の前が明るくなってきた気がした愛子だった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
感想、ご意見、誤字脱字などあれば報告、お待ちしてます。
思わず、一日で書き上げてしまった。
頭部の生命力が薄いおじさんはまたいつか話に出したいです。
ガタイのいいおじさんと一緒に。
次には金曜日の20時頃に更新予定です。