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ウィルヘイム 後編

神人族にもいろいろあるようです。


 午後を知らせる時計が響く。

 ウィズは自室で本を読んでいた。


「ウィズ・フィ・エダラ様、失礼します。」


 腰の左右に1本ずつ長剣を差した少年が、自室にはいってきた。

 理由は、朝方聞いていた。

 下層親族嫡男の紹介だったかなと、ウィズは思い出した。


 ウィズはそう思うと目の前の少年に目をやった。

 目の前の少年は、深くお辞儀をした。

 ウィズはその動作が、何を示すのかわからなかった。

 暗い瞳でその少年をじっと見つめていた。

 それが少年の最上の挨拶なのだと知ったのは、もう少し月日が経ってからだった。

 

 少年の名はスライン・ボンメイ。

 

 中央六家の中の一つエダラ家の、さらに下層親族の嫡男である。

 自分と同じ年頃の少年と話をするのは久しぶりだったウィズは、少し緊張した様子で声をかけた。


「…私が……この屋敷の主人………ウィズ・フィ・エダラ……で…す。」


 そう告げると背に不釣り合いな大きな椅子に座るウィズは、椅子から降りてスラインに近づいた。

 そしてスラインの顔とウィズの顔が、触れるかというくらいまで近づいてウィズは質問をした。


「貴方も……私の命を狙って………いる?」


「はっ?」


 スラインは思わず声を出した。

 何を言われているのか最初はわからなかった。


 自分は主家であるエダラ家の、年が最も近い少女に挨拶をした。


 それがなぜ、狙っているときかれるのか?

 そう心の奥で思いながら返答を言いかねていると、ウィズは声を荒げて言った。


「貴方も…貴方の家族たちも……私を葬ろうとしているのでしょ………私のお兄様達が!いわれのない理由で処刑コロされたように!」


 ウィズは、誰も信じられない、信じないと誓った。

 兄たちが無実の罪で処刑されたときに。

 そんな様子を見て、スラインは思い出した。

 目の前の少女の兄たちが中央によってライアの冒涜をしたという理由で処刑コロされたこと。


「それに、母様や父様が……自ら命をたったというけど!そんなわけない!」


 少女ウィズが周囲の大人たちから告げれた言葉があった。


 ―――貴女の両親は自ら命を絶った―――


 少女ウィズは周りの大人をしんじられなかった。

 

「わたしは信じない!!お兄様を!密告コロした奴らの言葉なんて!」


 目の前の少女ウィズは告げた!

 ( 誰も信じない! )

 一人、六家の一つという巨大なエダラ家という家の業を背負っている少女ウィズの想いを。


「ウィズ様、私はそのような事は致しません。白きライアの名に誓って。」


 そう答えた少年スラインは、まっすぐ少女ウィズの瞳を見つめた。

 自分は誠実であると述べるように。


「貴方は『ライアに誓って』と言った!そのライアのせいで!!私は………両親と二人のお兄様を亡くしたのよ……そんな私に向かってライアに誓うですって!」


 ウィズは怒りをあらわにした表情で、少年スラインを見つめた。

 家族を亡くした理由が『ライアを冒涜した』といういわれのない事実無根な証言であった。

 この神人国ウィルヘイムにおいては白きライアは主神であり、国教であった。

 少年スラインの言う『ライアに誓う』は、普通の感覚では絶対の誠実を誓う言葉だった。

 しかし、ウィズにそれは通用しなかった。

 いや、家族が処刑コロされて以降、通用しなくなった。 


 幼き頃、自分も家族もライアが絶対だと信じていた。 

 今は、家族が処刑コロされる原因となったライアを信じていた自分が嫌いだった。


『そんなライアなど!イラナイ!!』


 私の大事なお兄様と家族を殺した原因!ライアは、信じてやらない!!

 それがウィズの考えだった。


 少年スラインは、悲痛な顔で自分を見つめる目の前の少女ウィズに対して思った。


『あぁ自分はなんてバカかなのだろう。』


 目の前の少女はライアによって最愛の者を亡くした。

 しかも、同じ一族の密告ウソによって。

 そんな少女にライアに誓うなどと言った己は、なんと愚鈍な人間だろう。

 スラインは改めて伝えた。自らの気持ちを。


「ウィズ様、私は貴方様に対して忠誠を誓うものです。我が主人はライアではなく、ウィズ・フィ・エダラ様!貴女様です。」


 そして、まっすぐウィズを見た。


「ならば、その証拠を私に見せなさい。言葉では何とでもいえるわ。」


 そうウィズは返した。

 言葉では何とでもいえる。

 だから信じない。

 

 スラインはどうすればこの少女ウィズに、己を信じてもらえるか考えた。

 幼き頃から騎士として教えを受けた少年。

 主人に示せる唯一の方法は明白だった。

 それは己の肉体を差し出すことだった。


「ウィズ様、お部屋を汚す、無礼をお許しください。」


―――ジャキン!―――


 スラインは己の左の薬指を、自らが持つ剣で切り離した。


―――ボトッ!―――


 そして床に落ちたそれを、ウィズに差し出した。

 同時に切り落とされた指からは、血が滴り落ちていた。


「ウィズ様、私は貴方様の剣です。私の体は生涯ウィズ様だけのものです。これがその印です。」


 ウィズは受け取った指をみて思った。

 この少年は、私の言葉を真剣に受け取ってくれた。


「私を信じるというの?ライアを信じない私を!!」


 スラインは脂汗をにじませながら伝えた。


「私は私が信じるものを信じます。だから貴女を信じます。」


 スラインはウィズから視線を外さずに伝えた。

 この少年は、自らの指をさしだして、忠誠を誓ってくれた。

 今は、この騎士は信じてあげよう。


 ウィズは受け取った指を、スラインの元の場所にくっつけて魔法を発動した。

 修復師のスキルで出来る魔法の一つ”修正レパラ”である。

 指は赤い魔力で覆われると、輝き、そしてもとに戻っていった。


「グゥゥッゥ!」


 スラインは指が修復されると同時に激痛が指先に走った。スラインは視線を指から外した。

 そしてウィズの顔を見た。

 ウィズの表情から自分は、この主人たるに認められたのだとわかった。

 自分が言った言葉を思い返して思わず顔が紅潮するスライン。


”自分は生涯ウィズ様のものです。”


 とんだプロポーズだ。とスラインは思った。


 ウィズは満面の笑みでスラインを見ておもった。

 この少年はきっと私の生涯で唯一信じられる人間だ。

 そう思うと同時に顔が紅潮してきた。


”自分は生涯ウィズ様のものです。”


 とんだプロポーズね。とウィズは思った。


 別の者が今二人を見たら、少年と少女の足元には血だまりがあり、少年の衣服には血が付いているがそれでも見つめあい微笑みあう姿はおかしな光景だと思うだろう。


 こうしてスラインはウィズのしもべ兼伴侶としてウィズに認められたのだった。

 のちに、このわがままな姫と共に苦楽を共にして人間的に成長していくのであるが、その話はまた別の機会に。




 ウィズは自分の肩を借りながら歩いているスラインを見上げて出会ったころを思い出していた。

 そして白の出口に来ると真顔に戻り、肩からスラインの腕を下ろし一人で歩かせた。

 

 城を出た先には重装を身に着けた神人族の騎士たちが並んでいた。

 そしてスラインの眼前に立つとこう告げた。


「騎士スライン、貴様は我が騎士団サードに屈辱を与えた敵をどう対処する。やつらは貴様を倒した。それは我が軍門に恥をかかせたことと同じなのだ。」


 そう告げるウィズは手にしているショートウィップでスラインの横顔を叩いた。

 髑髏マークの帽子さえ被っていれば見た目はナチスのコスプレとそっくりである。


「我が身の不足により騎士団サードに恥をかかせたこと申し訳ありません。奴らは我が命にかけても私が倒します。」


 スラインはそう告げるとウィズに対してひざまずいた。


”全ては自分の失態であり、愛する主人に恥をかかせたのは自分のせいなのだ。”


 そう思うとスラインは己を恥じた。眉間に深い皺が出来上がっていた。



「あの~すいません。よろしいですか?」



 シリアス場面に緊張感のない声が混じった。

 ウィズの後ろに居並ぶ騎士団の中から、女性の声が聞こえてきた。

 

「なんだ、アンジュルムか」


 声の主は、軽装のプレートメイルと弓を装備した女性の獣人だった。

 ダックスフントのような耳と、フッサフサのシッポが左右に揺れていた。

 ウィズの騎士団サードは、神人族と何人かの亜人で構成された部隊だった。


「何か案でも思いついたのか?」

「はい。隊長ウィズ


 獣人が騎士団に存在することは、神人国ウィルヘイムにおいて前例のないことだった。

 しかしウィズは獣人であるアンジュルムを部下として重用していた。

 ウィズは、有用な者は獣人であろうと徴用する現実的な考え方をする為だった。


「私の考えを述べてもいいでしょうか?」

「ええ。いいわよ。では、騎士ナイトアンジュルム、貴女の考えを教えなさい。」


 アンジュルムは、大きな声で自らの考えを告げた。


「スラインさんもかなり傷を負ったみたいですし、ウィズ様、一度補給も兼ねて都市に戻りませんか?」


 そう告げると少女は来るっと向きを変えてウィズに一歩近寄りさらに言った。


「もし必要なら、私が奴らの後をつけておきます。犬人族の嗅覚を信頼くださいませ」


 ウィズはフムッと腕を組みひとしきり考えるとこういった。


「ウム、確かに一理あるわね。よろしい、一度ウィルヘイムにもどる。そして状況の報告と部隊の補給を行いましょう」


 ウィズは、犬耳少女アンジュルムを指さして指令オーダーを告げた!


「アンジュルム。貴女に追加任務を命ずるわ。奴らをつけてその所在を明らかにし私に伝えなさい。この伝達魔法具を使って定時連絡は必ずしなさい」


 そういうと、腕輪のような道具を、アンジュルムは受けとった。

 片膝をついたアンジュルムは、ウィズに伝えた。


「はい。しかと承りました。」


 微笑んだ犬耳少女はその場から消えた。

 そして第三騎士団サード神人国ウィルヘイムに向けて出発した。


 ウィズはこれからのことを考えると、思わず気が重たくなった。

 ウィルヘイムの神聖教義会に報告すること。

 それはウィズにとっては、ある意味で新たな戦いであった。


何とか神人族の国のことを書けました。

中央六家とかはまた今度書きます。というか途中で出します。

とりあえずスラインさんとウィズ様は仕事も家柄も格差の中での恋愛中ということで、また周りに知られていない秘密もある共犯者という設定です。

あとウィズ様の服装は完全に趣味です。女性の服を考えるのって楽しいですね。

スラインさんとウィズ様の話はそれこそ話が完結したらサイドストーリー的に書きますね。

次は金曜日までにかきます。

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