イゼル動乱 その7
「まったくロイエルも人使いが荒いよね」
「そうですねぇ。マイマム。なにも私達にこんな役目を押し付けなくてもいいですよね」
「私達をなんだと思っているんでしょうねぇ」
そう声を上げていたのは白衣と丸メガネがトレードマークの魔人族の女性。
そしてフランは声をかけた魔人族の騎士たちにつげた。
「見えたわ。 アレが水門が収められている施設よ」
この街を形作る主要な産物を生み出す為だけに神話の時代から存在する施設。
イゼルは巨大な水をため込むダムのような物だった。
「あのダムはこの街の主要な施設のひとつですよね? マイマム」
「ええそうよ。ここからも見えてるけど、あのダムを壊されただけでこの国はジ、エンドよ」
「と言うことは、あそこには神人族の上がいるという事かしら」
「あたしたちをそこに差し向けるということは……」
周囲を無言の圧力が覆った。
その時、三人の魔人族の女性が声をあげた。
「ということは、私たちが好き勝手していいってことですよね!! 」
「滾ります!! この身体を好き勝手にされた恨みを晴らしていいですよね!!」
「そうよ。それに主力を倒したら私たちの力をあの獣人達にアピールする良いチャンスです!!」
瞳をキラキラさせてフランに詰め寄ったのは魔人族の女性達の中でも10代の女性達だった。
「そ、そうね。うん。貴女達がいれば必ずできるわ。」
フランは思わず引きそうになりながら彼女たちの圧力を受け止めていた。
そして走る先に見えている巨大なダムを見つめた。
「さぁ見えたわ」
この街は巨大な山脈のふもとに作られている街だ。
周囲の山から鉱石と金や銀などの希少なものが掘り出していた。
特殊な鉱石を掘り出すために水流魔法での掘削がはるかな神話の時代より行われていた。
ただし、巨大な山を掘る為の魔法と言えどその材料となる水が必要だった。
この街は山から流れる川をせき止め、周囲の山々を巻き込み巨大な貯水池作り上げていた。
神話の時代に作られた水瓶の水は王都やフェザの街を押し流すには十分な量だった。
「もっとも水門を護れなければスベテがおわる」
フラン達が目指しているのは、そのダムの開門機構を制御する場所だった。
―――ダッダッダッ―――
フランは走りながらフェザの街での作戦会議に参加した事を思い出していた。
「先に王都を開放してはいけません。絶対にです!!」
「なんでなの? 王都を開放してからゆっくりとこの街の以外の街を開放すればいいんじゃないの?
「理由を説明しましょう。」
フェザの街長は先にイゼルを開放することが必要だと愛子たちにつげた。
「イゼルにある水瓶の水量はこの国にある物の中で最も巨大なものです破壊されたら王都、フェザの街は共に壊滅します。それに巨大な山脈で囲まれていますからダムが崩壊すればすべてが水に沈むでしょう」
アインスは地図を示しながら告げた。
「ならイゼルの街を掌握できるかが、今後の戦局を左右するということか」
ロイエルは考えまとめ始めると一つの妙案が浮かんだ。
そしてフランの方をみるとにっこり笑って話しかけた。
「すまないがフラン殿は我らと共にイゼルへ御同伴願えないだろうか? 」
ロイエルはフランに告げた。
「ええっ、わたっわたしですか? 私は治療師ですし、ただの非戦闘員ですよ!? 戦闘なんて無理ですよ。」
両手を振りながら首を左右に振りフランは全力でこのロイエルの提案を蹴った。
「お気持ちはわかります。しかしイゼルを支配している神人族を傀儡とするには貴方の技術、その洗の…もとい、治療が役に立つはずです。」
ロイエルは片手を握りしめて力説した。
「そうね、私もフランの洗の…治療は多くの相手に対して効果があると思うの。特に力技ではどうにもできない相手ほど、フランの洗脳は役に立つはずよ。」
「アイコさん!? いま治療やなくて洗脳いうたで!!」
「アイコ様、ついに言ってしまいましたね。」
二人の双子と見間違うばかりの魔人族の少女と少年から愛子は突っ込みを受けた。
愛子の目の前の白衣と丸メガネの魔人族の少女は頭を抱えてうつむいていた。
「うう、無理ですよ。私には戦う力なんかないの。ただの治療師だし、元気のない人を元気づけれるだけで。」
「そんなことありませんよ。マイマム。」
「そうですよ。マイマムは私たちを癒して、さらにスキル”暗殺者”に覚醒させてくれた鬼教官じゃないですか。」
「マイマムの教育のおかげで私たちは笑顔で目標の首をかき切れるまで成長できました。」
「いまでも私たちの目にはしっかりと刻み付いていますよ。凶悪な目つきと表情を」
「しかも私たちの前でマイマムの持っている人形を使って実演までしてくれたじゃないですか」
「マイマムが大事にしている魔人族の少年人形ですよぉ。」
「そうそう、割とイケメンな感じの。」
項垂れて頭を机に突っ伏していたフランの後ろに音もなく魔人族の女性達が現れ、よくわからない感じにフランを励まし始めた。
「そっそれは禁句!」
途中気になるワードが噴出してそのたびにフランがグッとかウッとか奇声を上げていた。
「フラン!あんた訓練でなにしてんの!? いやそんなことしてたの!? とくに人形ってなに、そんなものどこで作ったの!?」
愛子がフランの行動に対して大阪人ばりに突っ込んでいた。
「フラン……精神異常者の本領発揮ですね……ちなみにその人形はもしかしてまた僕を模してつくったんですか?」
ルルカッタは黒い笑顔でフランを見つめ圧力をかけていた。
アイコから見ても黒いオーラが出ていた。
フランはそれらを一切無視して頭を机から上げてロイエルの方を見た。
「あぁもう! わかったわよ。行けばいいんでしょう!行けば!! その代わり私の身体を守ることお願いね。私、本当に戦闘能力皆無だからね。」
「それは我らにお任せください。マイマム。」
「私たちは、並みの魔法師相手に引けをとりませんよ。」
魔人族の女性達は、一同フランに忠誠を示すように敬礼をした。
彼女達はもとはフェザの街で奴隷に落とされ、性奴隷として慰み者にされた女性達だった。
「まぁそうね。確かに貴女達が守ってくれるなら安心できるわ」
「マイマムを守ることは、出来て当たり前のことです。私たちは皆、スキル”暗殺者”に生まれ変わったのですから。」
そう告げた魔人族の女性が首元の服を引っ張り首元を見せた。
もう少しでその豊かな乳房が露わになるかと言うところに紫色の文様が浮かんでいた。
紫色の蔓が二本の鎌を囲うように絡みついていた。
「もうわけわかんない! みんな魂職が変化したらその刺青が入っているし……」
フランが頭を抱えてつぶやいた。
フランが癒した女性たちはみんなスキルが”暗殺者”に変化しその文様は同じものが浮かんでいた。
ただその文様の発言した場所は皆、違っていた。
ある物は胸元に、ある物は腕に、ある物は背中に。
そこでフランの回想は終わりを告げる。
「見えました!マイマム」
目の前に目標としていた施設の入り口が見えたからだった。
「アレが、目標の施設ね。 確かに大きいわね。」
そうフランが告げるほど巨大な建物が目の前に現れた。
―――ドゴオオオオン―――
フラン達が施設の門を通りすぎると後ろの街中で爆発が起きた。
「なっ何してんの!あの馬鹿は!!」
フランは思わず爆発を起こした、ここには居ない獣人にむかって声を荒げた。
―――ジリリリィン―――
そして鳴り響いたのは非常ベルの音だった。
―――ガチャァァン―――
それに呼応するように門の上から巨大な扉が落ちて閉められた。
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