イゼル動乱 その5
ミッタマイヤの眼前には、魔馬に乗った一人の甲冑騎士が居た。
「なかなか痛かったぞ?」
「どうも……私の部隊の電撃魔法ひと味違うでしょ?」
「なかなか面白いことをいう魔法師だ」
ミッタマイヤは一人残った騎士は対し尋ねた。
騎士は動揺する素振りもなく軽口を叩き魔槍を構えた。
「フム……一人残ったということは貴殿が殿ということか?」
「それはどうかしらね?」
「我にその返事はなかなか面白いぞ……神人族の騎士よ」
他の騎士たちが皆、撤退した中で一人残った者。
ミッタマイヤの中で、アレはそれなりの強者であると感じていた。
「それに殿となる覚悟も良しだ」
なぜなら、ミッタマイヤは過去の経験で理解していた。
味方を逃がすための殿を務めるのは、死を覚悟した強者の務めであったからだ。
「それはどうも」
ケイトは魔馬の上で右手に握った魔槍を強く握りしめて構えた。
左手には手綱を持ち、自身と愛魔馬がうまくかみ合っていることを確認していた。
「はぁ、ほっんとうに損な役割だわ。コレ」
大きくため息をついたケイトは自らを包む軽甲冑とヘルムごと身体を震わせた。
「でも…レイジィから任された分の働きはしなくちゃね!! 」
ヘルムの中で大きく目を見開いたケイトは眼前に迫る最大脅威であるミッタマイヤを見た。
ゆっくりと迫りくるミッタマイヤの肉体はまるで巨大な壁が迫るように感じた。
鍛えられた鋼の肉体からは先ほどの攻撃の残りによる白煙が起ちあがっていた。
その迫力からしてケイトの常識からはずれていた。
大きく息を吸い、肺を新鮮な空気で満たしたケイトは告げた。
「我は第八騎士団の副長! ケイト・フィ・デミイエ! 汝らに敵対する物なり! 」
名乗り上げたケイトは手綱に力を込めた。
その名乗り上げを聞いたミッタマイヤからは思わず笑みがこぼれた。
「この世界にも名乗り上げをするものが居るとはな! ならばこそ我も名乗らねばなぁ!! 」
ミッタマイヤは大きく息を吸うと響く声で名乗り上げた。
「我こそは、獣王ヲルフガングの弟子! ミッタマイヤ・グリード!! 自信ありしと思う者よ! 我に掛かってくるが良い、全力でお相手をしようぞ」
ミッタマイヤの名乗り上げを聞いたケイトは右手の魔槍をさらに強く握りしめた。
「はは、本当におとぎ話ですわよ、これ!! でも嘆いても仕方ない。 」
ケイトはヘルムの中でさらに目を大きく開いて左手の手綱を引っ張り上げ、両足でウマの胴体に力を加えた。
締め上げられ、首を前に向けられたウマは走り始めた。
そしてケイトの右手のマジックワンドがうっすらと黄色い魔力光を灯した。
「行きます! デミイエ流槍術 ’風流突破’!!」
魔槍が黄色い光を発すると同時に疾走する魔馬の背後に黄色い魔法陣が浮かんだ。
魔法陣の中心からまるで太陽のような光が溢れ魔馬を覆うとさらなるスピードを上げた。
「魔法による突進攻撃か! だがこの攻撃はかわせば問題ない」
ミッタマイヤが鍛えられた肉体に力を籠め、跳躍した。
「そう動くと思ったわよ」
ミッタマイヤの誤算がそこにあった。
「かかった!」
ケイトはヘルムの中で小さくつぶやいた。
そうつぶやいた直後、ケイトが別の魔法を唱えた。
「真極電撃!」
ケイトの左手に魔法陣が浮かび電撃魔法がミッタマイヤに放たれた。
「ナニィィ! 」
跳躍したミッタマイヤは驚愕の表情だったがすぐに対応した。
「チィ! 小癪な! ヲルフガング流決闘術”炸裂刃”! 」
ミッタマイヤが右の拳に力を籠め、電撃に向けて突きを放った。
右手に赤い魔法力が輝き、右手から魔法力で作られた赤い光剣が飛び出した。
「うそぉ!?なにそれ!卑怯よ!卑怯!!」
黄色い電撃と赤い光剣がぶつかり、集約しそれは閃光を伴う爆発となって消えた¥。
―――ドガガガガガ!―――
「なんのまだまだ!!’真極電撃’」
「おなじ魔法など通じんぞ?」
ケイトの魔法がミッタマイヤの突きで消し飛ばされた。
ケイトの持つ魔槍に新たな黄色の魔法力が満たされ魔法陣だ描かれた。
「デミイエ流槍術 ”光槍突破”!」
ケイトの持つ魔槍が黄色い魔法力を浴びた。
魔槍から鋭い光の槍が伸びケイトがミッタマイヤに刺突術を放った。
「なんの! ヲルフガング流決闘術”破連脚”」
ミッタマイヤの鋭い蹴りでケイトの光のスピアが弾かれる。
足に付けている武具は鈍い光を放ち光の粒子を散らしていた。
「これもダメですか!? ならば!」
ケイトの手綱を操作に呼応するように、魔馬はさらに加速した。
「このまま、スピード勝負です! 一撃離脱の戦法で削らせていただきます!!’光槍突破’!」
そう叫ぶとケイトの光の槍がミッタマイヤに襲い掛かった。
「ふむっ!」
ミッタマイヤはその一撃をわが身を翻してかわし見た時にはケイトは遠くに離れていた。
そして再度突撃体制で突進してくるケイト。
「風流突破!」
「くっ! やるではないか!!」
ミッタマイヤは苦々しい表情になった。
そしてケイトの槍を再度交わすと、すぐに身をひるがえし脚に力を入れた!
離れていくケイトに向けて跳躍した。
「ならば…こうするのみだ」
ケイトは背中から迫る気配を感じた。
「まさか! いえ、そんなわけないわ!! 魔馬のスピードに付いてこれるものなど居るわけが……」
ケイトは後ろを振り返るとヘルムの中で驚愕の表情になった。
「うっそぉ…… 」
思わず我が目を疑った。
「確かに足の速い獣だ。 そしてそれを駆る騎士の操作に十分に答えるように走っているのは人馬一体と言ったところか。 並みの戦士、騎士では相対することすらできないだろう。 我をのぞいてな」
ミッタマイヤは己が脚力で駆けていた。
人の数倍ものスピードで疾走するその獣とついに並走するまでになった。
それを見ていた魔人族達からも驚きの声が上がっていた。
「‥‥‥‥マスターはさすがだな……。はぁ……。 俺たちもおそらくアレと同じスピードを出す訓練追加されるんだろうな……。 」
そうつぶやいたのは魔人族の男性騎士。
青い肌がさらに青くなり、今後の追加訓練の様相が想像できたために顔面が蒼白となっていた。
いかに魔人族の男性達がスキル”殲滅師”に覚醒したとは言え、ミッタマイヤの訓練は過酷そのものだった。
「また、地獄が見えるのか…あれたまに川の向こうがみえるんだよな」
それにさらなる訓練が追加されるという悪夢。
魔人族の騎士団員たちの中に暗雲が立ち込めた。
そうとは知らずさらにスピードを上げて魔馬に接近するミッタマイヤであった。
「うっそぉ! なんでぇ! なんでこのスピードに、風流突破に追いつけるの!? 」
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