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イゼル動乱 その2


 イゼルの街を囲む塀には堅牢で、荘厳な正門があった。

 静寂を突き破るように突如として轟音と爆炎が巻き起こった。


「なっ! この音は何? なにがあったの!」


「レイジィ! いや隊長、正門で爆発を確認したわ! 規模は不明よ」


「わかったわ! ケイト、すぐに第八騎士団アレースに召集を!」


「わかりました!」


 たたき起こされたのはイゼルを占拠した第八騎士団アレースのレイジィ・クレイ。


「爆発か…うちの部隊は半数以上が女性だからなぁ…爆発物の処理って出来る人いたっけ?」


「あっ…そういえば、確かあいつが器用だったはず」


 レイジィは魔法具でケイトを呼び出した。

 

「ケイト、夜番に技能師のケイン、ケイン・ランロッドがいたわよね? 彼を現地に派遣。情報収集を開始して! 私はこのまま隊の指揮をするわ」


「了解しました。 」


 ケイトに指示を出すとレイジィはベッドから飛び起き、ネグリジェを脱ぎ捨て戦闘服に着替はじめた。

 立派な双丘が窮屈そうにブラに収まるとそこから薄手の羽織り物に袖を通した。

 少しヒールが付いている軍靴を履くとクレイは部屋から勢いよく飛び出した。


「なんか悪い予感がするわ……」


 足早に通路を歩くそうレイジィは吐き捨てるように言葉を吐き舌打ちをした。


「あわわっ! ちょっ! ちょっと待って! 服が! というか前! 前を隠して!!! 」


「すいません。すいません。すいません。すいません! ちょっとぉーレイジィー! 私の話聞いてる? 」



 レイジィが対応について的確な指示を出しケイトと呼ばれた魔法師が爆発の原因を調べる為に派遣された。

 そして破壊工作を行った当の本人たちは満足そうな表情で立っていた。


「さすが! 我らがマスター! こうも簡単に閂を破壊するとは! お見事です!! 」


「ふむ! 少々激しく壊してしまった気もするが……まあ良い。 ただ気になるのはヲルフガング流決闘術の奥義が一つ”重力破壊掌グラビティハンドフォール”は、相手がこうも激しく爆発する技ではなかったはずだが…」


 この奥義は魔法力マナを掌に集中して打ち出す打撃魔法と分子レベルの質量変化を促す魔法を同時に行使して相手を打倒する。


重力破壊掌グラビティハンドフォールは相手の質量が大きければ大きいほど、相対的に破壊は大きくなるのだが…爆発が……はて何か別の物を壊したのか?」


 ここにミッタマイヤの誤算があり、それはイゼルの正門の開閉方法が通常の扉とは違う点だ。

 扉はガス圧縮装置を利用していた為、分子変化を促す魔法によりガス内の分子運動が加速し発火し残りの圧縮ガスに着火。

 結果として爆発という当初の予想より大幅な破壊が生じてしまったのだった。


「なんかもう目的を達成してしまった気もするが、我らはロイエル達が街に侵入するための囮だ。 そのために激しく暴れて敵の目をこちらに引き付ける必要がある」


「サーイエッサー!」


「では! いくぞ!!」


「「「「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」」」」


 そんな彼らに騒ぎを聞きつけた神人族の魔法師達が現れ戦闘ファーストコンタクトが発生した。


「なんだ貴様らは!まさか貴様らがこの爆発を?」


「…もし我らだとしたら?」


 神人族の魔法師達は向かってくるミッタマイヤ達にマジックランスを向けて魔法を繰り出した。


「貴様らを倒してこの惨状の説明をしてもらうぞ!  広範火炎弾パラヴェノス”!」


 神人族の前に大きな魔法陣が描かれ3メートル代の火の玉を弾き出した。

 

「ふっ、このような魔法など我らがヲルフガング流決闘術の敵ではないわ! ヲルフガング流決闘術奥義が一つ”連撃爆砕拳ハイクラッシャー”」


 ミッタマイヤが籠手に魔力を集中させ脚に力を籠め、飛び出した。

 そして、火炎弾に向けて激しい速度で拳を繰り出した。


「はぁああああ!」


 銀の籠手が動く軌跡はまるで、おびただしい弾丸が放たれているように見えた。

 まるで、某一子相伝の秘拳を伝授された御方の如く、拳の嵐が火炎弾の前に繰り広げられた。


「「「「「「あたたたたたっ!!ほぁたぁぁぁ!!」」」」」」


 どこかで聞いたことがあるような掛け声まで聞こえてきた。


「ふっ! この程度で我らを打ち倒せると思うな!! 」


 そう告げるとミッタマイヤは涼しい顔で驚愕の表情になっている神人族を見た。


「なっ……そんな馬鹿な!!! 」


 神人族の男性はあまりに現実離れの光景に驚きを隠せなかった。

  

「どうした、こなければこちらから行くぞ! 」


 そう告げるとミッタマイヤは悪どい表情で神人族をみた。


「ヲルフガング流決闘術’風穴牙’」


 ミッタマイヤの指剣が鋼鉄のような硬度を持ちケイトの魔槍マジックランスと鍔迫り合った。


―――ギィィン、ギリギリギリ―――


「ぐぅ!なんだこの硬さは、それに力が…」


―――キィン!!――


「くっ強い!!」


 ケイトはミッタマイヤの指による刺突を己の武器で裁き、自らも魔槍で刺突を繰り返した。


―――キィン! ヒュン! ギィィン!―――


 互いの剣戟が、重なり合い互いに刺突の弾道を外していた。


「ケイトさん!」


「おっさん!!」


 二人の少女がケイトに声をかけた。

 少女も互いに魔人族の騎士達ドライツェーンの攻撃を魔法で何とか凌いでいた。


「きゃあ!」


「ぐぅ!レイン!?」


 レインと呼ばれた少女がドライツェーン隊の棒術を打ちこまれ膝が折れた。

 すぐにもう一人の少女がレインを起こして防御魔法を展開していた。


魔法力防御癖マナトガ!」


 薄い緑の魔法陣が二人の前に描かれ、バリアの様にドライツェーンの猛攻を防いだ。


「くっ! 二人とも退却だ! すぐに隊長のレイジィの所に戻るんだ!!」


―――ギィンギィン―――

 

 激しい刺突がケインを襲う。


「よそ見をしているなんて余裕じゃないか?」


「はっ! よく言うよ…この野郎! 適度に手を抜きやがって……」


「当然だろう? 我が本気で死合えば…貴様は消えているぞ…この世からな」


「はははっ! なんつうか……大したもんだよアンタはな」


 ケインがミッタマイヤの刺突を掻い潜りながら愚痴をこぼした。


―――ドガァ!―――


「ぐはぁ」


「ケインさん!?」


 ケインはミッタマイヤの蹴りによりレイン達の場所まで地面をボールの様に跳ね飛ばされた。


「……ふぅふぅ…いいから行け…・・いけぇ!!」


 ケインが立ち上がると魔槍を構えて二人の前に立ちあがった。


「はい!ケインさんも一緒に行きましょう!!」


「そうや! おっさんも早く!!」


 二人の少女がケインに声をかけた。

 額から脂汗が滲んでいた中年の男性騎士は目の前にいる相手を見た。

 自分では相手にならないほど、明らかにレベルが違うことに肌で感じていた。


「……レイン、アウロト……俺もたまにはカッコイイおじさんでいさせろよ…・・な」


「ふん! そのまま無事に戻れると思っているのか? 」  


―――ゴギンゴギン―――


 ミッタマイヤの指がいびつな音を立てて鳴り響いた。


「いけぇ!! レイン、アウロト! この場は俺が引き受ける! 急いで離脱しろ!!」


「そんな! ケインさんが戦うなら私たちも一緒に…… 」


 レインと呼ばれたボブヘアの騎士が自分の意思を告げた時、ケインは声を荒げて叫んだ。


「馬鹿野郎!! そういう相手じゃないんだよ……奴は!! いいか、お前たちの仕事は情報をレイジィ達に、隊長たちに必ずお伝えすることなんだ! 俺が奴らの注意を引き付けるから、その隙に離脱しろ! わかったな!!」


 ケインのマジックランスに魔法陣が描かれた、そして魔法を放った。


「”広範囲冷却弾パラヴォルド”」


 描かれ魔法陣から放たれた強大な氷塊達はミッタマイヤに向けて吸い寄せられるかの如く速度スピードを増して放たれた。


「仲間を思うその意思! 大いに結構!! 」


 ミッタマイヤは感心したように賛辞をつげた。

 

「ヲルフガング流決闘術”爆砕拳クラッシャー”」

 

 ミッタマイヤが十八番の決闘術を繰り出し、氷塊を正面からたたき割った。

 そして砕けて無数に飛び散った氷塊が土煙をおこした。

 あたりは粉塵で前が見えないくらいになっていた。


「いまだ! いいか必ずレイジィ様にお伝えするんだぞ!! 」


「「はい!!」」


 走り出した二人を見届けたケインはミッタマイヤにマジックランスを持って殴り掛かった。


―――ガッ!―――


「なっ?」


 それを片手で受け止めるミッタマイヤ。

 その表情は楽しそうに見えた。


「くっ! この化け物め!! 」


 ミッタマイヤと対照的に苦々しい顔でミッタマイヤを睨みつけるケイン。

 全身から汗が噴き出てきた、相対してさらにわかるレベル差。


「化け物とは大いに結構!! しかし私はただの獣人だよ?」


 マジックランスがミシミシと音を立てている。

 もう間もなく折れますよとでも言うような音だった。

 マジックランスごとケインを投げ飛ばしたミッタマイヤ。

 転がりながらもすぐに臨戦態勢をとるケイン。 


「ふう……お嬢さんたちの子守パパも大変だ……しかし無事に離脱できたみたいだし、ここらが潮時かねぇ」


 表情は厳しいまま、対照的に軽口をこぼすケイン。


「では行かせてもらう!」


 玉砕覚悟でミッタマイヤに突進し大きくマジックランスを振りかぶってミッタマイヤに叩きつけるケイン。

 

「行かせはせんよ……それにこの程度の打撃はヲルフガング様で慣れている!! 」


「ぬかせぇ!!」


 ミッタマイヤはケインの打撃を体で受けた。


―――バキィン!―――


 直後、破断し飛び散るケインのマジックランス。

 まるで役目を終えたかの如く、粉々に閉じ散った。


「ははっ……畜生!!これでもダメか……くそ俺も終わりか! レイン、アウロト、あとは頼んだぞ。」


 思わず乾いた笑い声を上げたケイン。圧倒的レベル差が彼に笑わせた。

 そこへミッタマイヤの拳が腹部に打ち付けられた。


「貴様は良い敵だった。 その意思に敬意を表し我らはあの娘たちを追いかけないようにする事を約束する」


 打撃を打ち込まれたケインの耳元でミッタマイヤが告げた。


「……そうか、助かる……ぞ……」


 そうケインは告げると膝から崩れ落ちた


強敵トモよ、貴様もまた強者トモであった」


 ミッタマイヤがカッコつけて、それらしいセリフを告げた。



いつも読んでいただいてありがとうございます。

感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。


今回は割りと早く書けました。

次回更新は日曜日の予定です。

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