闇ギルド
フェザの街で住民たちと第10騎士団による攻防が行われた日
街道を進む二組の馬車があった。
そのうち一組は街道から外れてある街を目指していた。
その街の名はイゼル。
イゼルは街道からは少しはずれた山脈の麓に存在する街であった。
イゼルは鉱山から希少金属や鉱石を産出するために作られた街だったからだ。
その為、街の規模はフェザに及ばないものの、ヴィスタ帝国の重要な街の一つとして位置づけられていた。
イゼルの街から現れたローブを被った男たちが荷馬車に近づいた。
―――ゴトン―――
「…あんたらフェザから来た奴らか?」
「ウム。 貴殿は?」
「…闇ギルドと言えばわかるか…?」
「では…貴殿が…二コラ殿が言っていた?」
「フム…たしかにその者からの依頼だと上から聞いている」
止まった荷馬車から一人の魔人族の少女と二人の獣人が降りてきた。
「ついてきな……あとこれがイゼルの中で使うパスだ……人数分あるか……確認しとけ」
そう告げるとローブの男は銀色のプレートをロイエルに渡した。
男に先導され、荷馬車から降りた者達はイゼルを囲う塀の前に到着した。
「ここがイゼルですか。 噂に聞いていたよりも堅牢な塀ですねぇ」
ハイネが男に尋ねた。
「…ココの先を塀にそって右進め。 人が一人通れる扉がある。 扉を通るにはこの赤いパスカードを通せ」
男がぶっきらぼうに答えた。
「じゃぁな……俺は次は王都だ……」
そう告げると男は魔法陣と共に消えた。
「……’転移’……か……」
ハイネは険しい顔つきで男が消えた場所を見ていた。
そんなハイネとは対照的に興奮している獣人が二人いた。
「私も初めて見ましたが、アインス殿のおっしゃる通りですね。 これだけ大きな塀に囲まれていては、魔法師といえども簡単には落とせなかったでしょうに。 そう思うだろミッタマイヤ?」
青い獣人が隣に立つ赤い獣人に声をかけた。
「ああ。確かにな。これほどの物は我らの祖国でも見たことが無い。 これだけ長大な建造物をヲルフガング様が見られたら大層喜ばれるだろうな」
赤い獣人が返事をした。
彼らこそヲルフガング流決闘術を継ぐ獣人、ミッタマイヤwithロイエル。
隣にいる魔人族の少女は、フェザの住人を生まれ変わらせた魔法…魔法回復を使い、スキルを変化させた張本人。忌み名、精神異常者と呼ばれるフラン・ハイネであった。
「さぁ行くよ。ロイエル!ミッタマイヤ!」
「「おうともよ」」
彼らは、愛子たちが王都を解放させる時に重要な位置にある街を押える為にフェザの騎士たちを率いてやってきた。
「さぁ…これからの作戦会議を行いましょうか」
この街は、鉱石や鉱物を算出するために作られた街である。
そして、鉱物を掘削するための水源としてイゼルは鉱山の近くに大きなダムを有していた。
このダムは神代からこの街で管理されていた。
「アインス殿の説明ではイゼルは王都への派兵が最も懸念される街だとのことだったが…」
「そうだね…それもあるけど…この街は、神代からの水瓶…イゼルダムを有しているんだ」
「もしもだけど…イゼルダムが破壊されれば、王都もフェザの街も水没してしまうと思うんだ…」
「なぜだ? この街のダムがいくら水をため込んでいるとはいえ流れ出たら一時の鉄砲水にはなるだろうが王都までが水没するとは思えないのだが…?」
「そうだね…普通のダムで、普通の湧き水ならね…」
「と言うことは…」
「そう。この街は水門結晶という魔法概念が結晶化した物でダムを維持しているんだ…決して耐える事のない水源と言われているんだ。 これは私が魔法学院時代の文献で確認したから間違いない情報だと思う」
アインスはイゼルダムが…水門が破壊されてしまえばこの国は終わると。
それを回避するためには、イゼルを王都よりも先に解放することが必要だった。
ミッタマイヤとロイエル、フランの三人は自らが鍛えあげた魔人族の戦士たちを率いてイゼルの街へやってきた。
―――ピッ!カシャン―――
ロックが解除された扉からロイエル達は入りこんだ。
―――ザッザッザッ―――
暗闇に紛れた騎士たちがロイエルを前に並んでいた。
荷馬車から降りた三人は魔人族の戦士たちに集合を掛けた。
「ドライツェーン隊はミッタマイヤと共に行け」
「ハッ!」
「ツヴァンツィヒ隊は私と共に」
「ハッ!」
全員の配置を確認をするとロイエルが新たな作戦を告げた。
「では我らが騎士たちの力を見せつけにいこうか! ドライツェーン隊は俺に続け! 派手にかますぞ!!」
「ハッ! 」
ミッタマイヤが10人の魔人族の男性たちに指示をだすと就き従った。
「では私たちもいきますかね」
「ハッ!! マスター」
ロイエルはツヴァンツィヒ隊10人と共に街の奥に向かった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。
次回更新は水曜日の予定です。