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神聖教義会 その1


―――コツコツコツコツ―――

―――カツカツカツカツ―――


 広い空洞に響き渡る二つの足音があった。

 軍靴の足音を大理石の廊下に響かせながら長身の女性は目的地へ歩いていた。

 隣にはフルメタルプレートを着た長身の美男子が付き従うように歩いていた。

 そしてその音は同じ大理石で出来た両開き扉の前で止まった。

 扉の両隣にはそれぞれフルメタルプレートを来た男性が立っていた。

 そのうちの一人が女性に声をかけた。


「失礼します。 階級章をお見せください」


―――スッ―――


 女性は首から右胸のポケットに付けていた赤い十字の勲章を見せた。

 それを見た男性は敬礼をして声をかけた。


「失礼しました。 第三騎士団インビジブルサードのウィズ・フィ・エダラ様ですね。 お連れの方は? 」


 そう告げると隣にたるフルメタルプレートを着る男性がスラインに鋭い目つきを向けた。



「私は第三騎士団インビジブルサード所属の騎士スライン・ボンメイです。 エダラ様の衛士として参じました」


 右腕を胸の前で上げ曲げて敬礼をしながら名乗り上げた。


「そうですか。 失礼いたしました。 御二人様はそのままお入りください。 ただしその腰の物はこちらで預からせていただきます」


 そう告げると男性はウィズとスラインの腰の剣を指さした。


「では」


―――カチャ―――カチャ―――


 二人は腰の剣を前に立つ神人族の男性に渡して扉の前に立った。

 

―――ギイィ―――


 重厚な扉が左右に開いた。

 中は大きなステンドグラスがはめ込まれていた。

 外からの光が窓を通して入り込み荘厳な雰囲気を醸し出していた。


「要請により伺いました。 第三騎士団インビジブルサードのエダラ参りました」


 エダラは片膝をつき頭をたれた。

 エダラの前には祭壇が設けられていた。

 そしてステンドグラスの前には椅子に腰かけた三名の白髪の老人たちがいた。


「うむ…そちは…」


 それぞれが白い大きなローブを着ており、頭には白い縦長の帽子をかぶっていた。

 椅子はウィズがいる地面から三段ほど高い場所に設置されいていた。


「エダラか…よくぞ参った」


「貴女たちの働き、この神聖教義会まで聞き及んでいますよ」


「いかにも、その方らの働きは一騎士団の働きをこえておるとな」


 椅子に座る老人たちを前にウィズたちは、その姿勢のまま答えた。


「恐れ入ります。 そのような評価頂けて、我が配下の騎士も喜ぶでしょう」


 そう告げたウィズに対して右側の老人男性が深い声で述べた。


「ただ…ヴィスタ城で逃がした魔人族の探索はどうなっておるのかの? 」


 そう告げた老人の目線はきつく、ウィズは思わず表情が硬くなった。

 その威圧にウィズは首筋から一筋の雫が流れるのを感じた。

 本能が危険を知らせていた。


「貴女たちの騎士団は我が神聖帝国ウィルヘイムにおいて異端であると言われていることはご存知かしら? 」


 左側の椅子に座る初老の女性がさらに鋭い視線でウィズを見つめた。

 赤い瞳に見つめられるとウィズの首筋から流れる雫はさらに増えた。

 

「そのような陰口を叩かれていることは知っています…… 」


 ウィズは思わず本音を言ってしまった。

 心の中で失言だったと思った。


「ほう……陰口と申すか…… 」


 中央の椅子に座る白ひげの老人が、ひげをを撫でながら口を開いた。


「なら、異端と言われぬ働きをしてもらえぬかの? そちたちの騎士団は亜人も多かろう? その者達を上手く使えぬようではなぁ」


 三人の中で最も厳しい、鋭い視線がウィズを貫く。

 その威圧は残り二人とはかけ離れた圧力を有していた。

 まるで心臓をつかまれているような感覚にウィズは陥った。


「ぐっ……申し訳…ございま……せん」


 第三騎士団インビジブルサード隊長として冷静さを無くすことはなかった。

 さらに隣には公私ともに信頼するスラインがいたことで少しだけ心に余裕がもてていた。


「ふむ……」


 ウィズやスライン以外の者が受けたら即死するであろう威圧を前にスラインが声を上げた。


「失礼を承知で申し上げます! 魔人族の司祭を逃がした責任は私に――― 」


 白ひげの老人がスラインを見た。

 鋭い視線が、赤い眼が、スラインを貫く。


「ぐあぁ…かはぁっ…」


 ウィズが受けた威圧の何倍もの圧力がスラインの心臓をつかみげる。

 その瞬間、スラインは死を覚悟した。

 それは死地を何度も体験した騎士であるスラインを持ってしても底が見えぬ恐怖であった。

 死のイメージが脳裏に浮かびあがり、思わずスラインは死を覚悟した。


 『この人たちは化け物か!』


「ふむ……スライン君だったかな? 忠義に厚いことはとても良いことだが……時と場所と人を考えて発言することも大事だぞ…… 」 


 赤い瞳で死のオーラを纏った白ひげの老人は鋭い視線のままスラインに忠告した。


「ぐはっ…かはぁぁぁ」


 虎に見つめられたネズミの如く、息することも難しく感じたスラインは胸が締め付けられつ受けた圧力に意識が遠くなりそうだった。


「さて……話の腰が折れてしまったが、エダラよ。 汝らにはしばらくこのウィルヘムにおいて滞在してもらいたい」


 ウィズはその言葉に思わず聞き返してしまった。


「今、なんと……? 」


 白髪の老人が告げる


第三騎士団インビジブルサードは指示あるまで聖都で待機せよ」


「ハッ! 」

 

 ウィズは心にもない言葉を告げた。

 心には別の想いが燻るっていた。

 『なぜ、われらが待機をせねばならないのか』


「では、エダラよ。汝の部隊と共に聖都駐屯地に戻るがよい」


 ウィズはとスラインは立ち上がり目の前の三人の老人に敬礼をした。

 そして二人は共に扉に向かい、その部屋から出た。


―――ギイィーーーーバタン―――


 踵を返し廊下を歩きはじめるウィズとスライン。 

 その表情は険しいままだった。

 

「なぜ、われらが外されなければならない! 」

 

 ウィズは思わず心の内を吐いた。


「神聖教義会はウィズ様を除く六家が組しています。 おそらくウィズ様外しも…」


 スラインは告げた。

 神聖教義会は現在のウィルヘムにおいて中央六家よりも立場的に上の組織である。

 中央六家とはウィルヘム建国に尽力した英雄の血を引く者達である。

 

 第一翼:キシロ家 

 第二翼:カルトス家

 第三翼:エダラ家

 第四翼:カタク家

 第五翼:ボスミ家

 第六翼:キサンボ家

 

 六家の合議制で国の運営を行ってきた……とある信仰が生まれるまでは……

 3000年前に神聖教という宗教がウィルヘイムに出現した。

 当初、中央六家はこの宗教を受け入れることはなかったが徐々に六家にも浸透していった。

 最初の1000年で第四翼から第六翼までの三家がこの宗教を受け入れた。

 現在に至るまでに、第三翼のエダラ家を除いた五家が神聖教徒となっていた。


「…神聖帝国ウィルヘイムか……きな臭いな……」



―――カツカツカツ―――


 廊下を足早に去るウィズを魔法物マジックアイテムで白ひげの老人は確認した。

 ひげを触りながら他の老人に話しかけた。


「ふむ、これで、かの封印について知る者達の監視を兼ねた足止めをする事はできましたな。 それにまぁ第一目標はむりでしたが、第二目標はスライン君が叶えてくれたようですしな」


「……それがギルドから提出された物ですか」


「さようだ…我らが悲願をかなえる為には、六つの血が、いや血族が必要なのだ」


 老人は布にくるまれた何かを見つめ告げた。

 そして目線を目の前にある鏡に向けた。


「あの封印は我らが長年探し求めた英知の結晶……」


「いまは例の物を見つけた者達への対処も考えないといけませんしね……」


「まぁ…今は良い……今の我らは……我らがグラマナスがおられる場所を探す手がかりとなる者を手に入れることが優先だ……こちらの手にすべてを…」


 三人の老人は椅子から立ち上がり後ろの祭壇に掲げられている赤い正方形の石を見た。

 うっすらと赤い光が放たれているのを確認すると三人はゆっくりと椅子に再度、腰をかけた。


「それにしても第三騎士団インビジブルサードは良い仕事をしてくれましたね」


「いかにも……われらも封印の扉という言葉が出た時は、また偽物かと思ったが……」


「扉の神代文字が指し示す言葉は、我らが教義にある神の言葉であると誰も気が付いてはいないようですしね」


 二人の神人族の老人が話し終えると、白髭の老人が包まれている物を開封した。

 そして赤い正方形の石に手をかざすと、老人の手に赤い石が現れた。


「まぁ良い。 魔人族の王都は我らの管轄にあるのだ。 ゆっくりと今後の対策を考えようではないか。 われらがグラマナスの為に……」


 そうして三人の老人達は暗い笑みを浮かべながら会議をつづけた。

 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。

感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。


神聖協議会は現在のウィルヘムでの最高指導部にあたります。

エダラ家以外の中央六家は今後出てきます。


次回更新は火曜日の予定です。

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