フェザ奪還 その7
「お三方ありがとうございます」
深々と頭を下げた白髪老年の魔人族は話を切り出した。
その魔人族は元フェザの街長だった。
「私達を助けていただき…誠にありがとうございます。 私たちは心の底から感謝しております。私たちは戦うこともできませんでした……だから……ただ諦めておりました。いつか救われると…」
そう力なく告げた男性の身体は傷だらけでボロボロだった。
白髪と顎髭も毛先が痛み、整えることができないくらいだった。
そして腕には切り傷が無数にあった。
男性は愛子たちをまっすぐに見た。
「どういたしまして」
愛子は感謝の言葉を受け止めた。
そしてその男性の瞳を愛子は見つめ返した。
「貴方の今の言葉……貴方の本心と違うわね」
街長は、心の奥を見透かされたみたいだった。
「ははっ、何をおっしゃる。 生き残った者は感謝こそすれ、貴女たち――― 」
ぎこちなく答えた街長の言葉を遮るように愛子が話を始めた。
「貴方の本心は、そんな言葉で片づけられる程度の物なの? 違うでしょ? 私たちに感謝している気持ちも確かにあるかもしれないけど、それ以外の感情を奥底にしまい込んでいるでしょ? 神人族に対する怒りを」
そう告げられた街長の表情は固まっていた。
自身でも気が付いていない感情をさらけ出されたようだった。
愛子に右目に魔法陣が描かれた。
「それは……」
愛子の魂職は’看護師’だ。
固有魔法’完視’は看護師の職業特性が魔法として結実した結果だ。
この魔法は対象者を観察し肉体的、精神的に視覚情報として’診ること’が可能だ
愛子の言葉は街長の精神を丸裸にしていった。
「神人族がニクイでしょう? この街をいいようにされて……」
愛子は告げた。まず第一に読み取った感情を。
「それはそうです。 しかしそれは我々の力がない事が原因です」
街長は肩を落として答えた。
力が足りないそう告げた街長は後悔を述べた。
「なぜ、そう簡単に力がない事をみとめるの? 力をあきらめた結果がこれでしょ?」
愛子は街長をみた。
街長は瞳から涙をあふれんばかりに溜めて思いを告げた。
「では……我らはどうすればよかったのですか。 たしかに我々は貴女たちのような力もない……ですがその力があれば……我らも戦えたでしょう! 大切なものを、家族を、恋人を、友人を奪われることもなかったでしょう!!」
―――ダンッ!―――
街長はうつむいたまま机を強く叩いた。
後悔と絶望が街長の身を焦がしていた。
「力を持たなかったことが、これほど悔やまれたことは無い! そんな私たちに無い力を持つ貴女たちが恐ろしい」
街長は顔を上げて愛子たちを見た。
「だが……それと同じくらい貴女たちが羨ましい! 」
自らも知り得なかった本心が明かされた瞬間だった。
力いっぱい握られた拳から血が流れるのも気にせず街長は言葉を告げた。
「我らが…力を付けていれば…魔法をもっと学んでいれば…」
心の奥に秘めていた思いはあふれ出した。
「後悔ばかりだ…どうして……我らは力を付けていなかったのか…」
それを誰にも止めることはできなかった。
「我々の力はたりない……どうすれば力を、貴女たちのように守れる力を得ることができるのですか…?」
街長は涙ながらに告げた。
「もう私たちは何も失いたくない……です。」
街長は机に両手をついて項垂れた。
そのとき二人の獣人が答えた。
「「それは我々が、お教えしよう! 」」
愛子が振り返るとそこに両腕を胸元で組み立ち上がった獣人達がいた。
「ミッタマイヤ! ロイエル!」
「なぁに! 失いたく無いなら! 力が足りないなら! 力を付ければ良いだけだ」
赤い獣人ミッタマイヤが告げる。
獣人の耳がクリックリッと動いた。
「そうです。 街長どの。 友人を、恋人を、家族を奪われることが無いように! 街を救えるよう」
青い獣人ロイエルが告げる。
獣人のしっぽが左右にフサフサッと動いた。
「私たちも……護る力を得ることが…出来るのでしょうか?」
「「出来る出来ないではない。 力を得るのだ」」
その姿を見た街長は告げた。決意を!
「お願いします! 私達に力を! 奪われることのないように力を授けてください!」
街長は頭を下げて獣人達に願い出た。
「今のままでは……自分たちのように力なきものは淘汰されてしまいます」
「「任せろ」」
ミッタマイヤとロイエルは力いっぱい頭を下げている街長の願いに答えた。
その姿をみた街長は安堵の表情をして椅子にへたり込んだ。
「ただ我々はその教えに対する代価を…支払える貯えを奪われてしまい…支払うこともできないのですが…… 」
街長はそう告げると街の財政簿を机から出して愛子に見せた。
それをみた愛子だったが、この世界の貨幣価値をよく知らない愛子にとってそこに書かれている金額の価値は分からなかった。
「そうね……私では詳しいことがわからないので―――」
愛子が話をつづけようとしたところ獣人が口をひらいた。
「「我らに対する代価は不要! 」」
自身満々に決めポーズで獣人達が告げた。
「へっ? 」
街長は情けない表情で思わず力ない言葉を吐いた。
「我らに対する代価というより、貴方は長として街の皆に対して代価を払わねばならない。 それはこの街を強くすることに対する義務と責任だ。 街を皆をこのように破壊された責任は破壊を上回る成果をあげることで果たせばよい。 そしてその鍛えた力をこの国を取り返すために使うのだ」
「この者達は我らが責任を持ち鍛えるので安心なされよ」
ミッタマイヤとロイエルは街長を見て告げた。
「ありがとうございます! この御恩は必ず!」
街長は再度、深くお辞儀をした。
そんな街長にミッタマイヤは告げた。
「では! 男衆を皆集めて連れてこい! 」
「はっ! お任せください!! 」
街長はスクッと立ち上がり、部屋から出て言った。
それと入れ違う形でルルカッタとルイカが部屋に入ってきた。
「いやぁ、なんか滅茶つかれたわぁ」
「愛子さん、お疲れ様です。 魔人族の遺体は、街の外に丁寧に埋葬しました。 魂が困ることが無いように……あの世に無事にたどりつけれるように……」
ルイカは部屋の椅子に座ると首をコキコキ鳴らしながら肩をまわした。
「ルルクン、ルイカちゃんお疲れ様」
その姿は街の疲れたおじさんのようだと愛子は思った。
「あ~疲れたぁ。 ちょっとルルカッタ、あんた私の肩揉んでぇな」
ルルカッタはそんなルイカの肩をもみながら、新たな情報を告げた。
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