フェザ奪還 その6
街の広場は、神人族の指示で更地に変えらえれていた。
もともとあった噴水は破壊されていた。
「おう、どうしたんだ」
そこに集められた神人族は50人。
それぞれがマジックワンドとロングソードを持ち武装していた。
「なんだって急に、こんな場所に俺らは集められたんだ? しかも戦闘装備で来いなんて…」
一人の神人族がつぶやくと隣の神人族が答えた。
「あれじゃないか? 最近入った奴隷のお披露目とか、新たな命令が入ったとかじゃね?」
めんどくさそうに答えた男性は落ち着かない様子で手をせわしなく動かしていた。
どうも何かの行為の最中であったようで、着衣も乱れていた。
そして俯いてその手をジーっと見ていた。
―――ザワザワ―――
「おっと、どうやら隊長のお出ましか…?」
部隊長が現れた様子で周りがざわめき始めた。
そこには不機嫌な部隊長がいると思っていた。
「……なんだぁ、あれ?」
現れたのは手首を縄でくくられた神人族。
「あいつは見覚えがあるぞ…連絡係のやつじゃねぇか! あの女はだれだ?」
男の目はうろたえた表情で周囲を見ていた。
そして括られた男の紐を持つ女性に対して叫んだ。
「おい、きさま何をしているんだ。 そいつはうちの部隊の奴じゃねぇか!?」
「いい女じゃねぇか、おい! ねぇちゃん! 俺たちと遊ぼうぜぇ」
「あれ?あんたさッきの奴隷売りの冒険者のねぇちゃんじゃないか? 」
女性の姿を見た部隊員たちは、それぞれ大声で醜悪な言葉を吐いた。
「はぁ貴方達の姿は、餌を前にした獣…・…というか本能のままにうごめく餓鬼ね」
「はーい! 皆さん、しずかに! これからあんたたちを粛清させていただきます」
愛子は大きな声でそう告げた。
先ほどまでのざわめきが嘘みたいにその場が静まり返った。
そして、沸き起こった笑い声。
「わははは! おい! ねぇちゃん! 寝言は寝てから言えよ」
「ガハハハッ! 本当にあんた頭おかしいんじゃねぇか」
「あれか、無理矢理が好きか!? それならそれで相手するぜぇ」
神人族の男性たちは下品な笑い声をあげていた。
「本当に貴方たちは私を不快にさせるのね。いいわ。 かかってきなさい餓鬼が!」
「ひゃはぁ! いいぜねぇちゃん。 おれが最初に相手してやるよ」
そう告げると一人の神人族が愛子に向けて剣を構えて駆けた。
「さぁ、死になぁ」
振り下ろされる剣戟…しかしそれが愛子に届くことはなかった。
―――ザシュッ!―――
「…っ! ギャァ!!」
愛子の鋭い蹴りが剣を持つ神人族の前腕を断ち切っていた。
「貴方たちはこの街には平和に不要な存在なのよ…」
愛子は義足からスラスターを展開して走り出した。
そのおかげで低空で滑空する形で高速移動し始めた。
「’絶躰’!」
愛子の蹴りが神人族の胸を貫いた。
「グぎゃぁ」
愛子の脚術は、義足の力もあり一種の殺人術と化していた。
「しゃらくせぇl!全員で畳み込め!!」
「「「「「おおお!!」」」」
神人族の掛け声が響いたが、愛子はスラスターにより加速、破壊不可能な硬度を誇る蹴りが華麗に、その場をかけめぐった。
「ぐあぁぁ!」
「ぎゃぁぁ」
愛子が蹴りを一振りする場所に赤い血華が咲いた。
「ぐぎいゃぁ!」
当初、愛子の事を軽く見ていた神人族の男性たちは恐慌状態に陥った
「なんだよぉ…なんだんだょぉ!」
女一人の蹴りで同僚の身体が半分になったり、腕が吹き飛んで周りに血しぶきが散る状態が目の前で展開されたのである。
「てめぇ…なにもんなんだぁよぉぉ! 何してんだよぉ…」
神人族の男性が魔法を使う為に詠唱を始めた。
「’火炎’」
神人族の男性の前に魔法陣が展開され火の玉が愛子の身体に直撃した。
「ふん。 こんなもの蹴り飛ばしてくれるわ」
愛子が加速したまま火の玉を蹴り上げると火の玉は二つに割れて消え去った。
「無駄よ! こんなものは私には効かないの! 」
「ミッタマイヤ! ロイエル! 」
「「おう!」」
赤い閃光と青い風が広場に現れた。
ヲルフガング流を受け継ぐ拳闘師、ミッタマイヤとロイエルの獣人族コンビである。
ガガガガッと轟音が響き渡った。
獣人の駆ける足音が広場に響いていた。
高速で地表を滑空する愛子と違い、獣人達は自らの脚で高速移動をしていた。
「愛子殿! 敵はどうするのだ? 」
ミッタマイヤが愛子に問いかけた。
「決まってるわ! 殲滅……因果応報よ! それだけのことを……したのだから」
愛子が敵の魔法を蹴る飛ばして消し去っていた
その光景を見た神人族の中で絶望が広がっていた。
「くそ! なんでアイツには魔法がきかないんだ? 」
苦々しく神人族の男性が呟く。
それは周りの神人族も同じ意見だったようだった。
そして手に持つ剣を振り上げ愛子に切りかかった。
―――バキン!―――
手に持つ剣が愛子に触れると粉々になった。
「化け物め!」
神人族の男性がつぶやいた。
愛子はその男性を睨むと口を開いた。
「化け物ってひどいなぁ……むしろ魔女とでも言ってほしいところよ……」
そう告げた愛子は口元をゆがませた笑顔に思わず、ゾッと背筋が凍る神人族。
「ぐぁぁ!」
「いでぇぇ!!」
その背後では赤い獣人の蹴りで神人族の首が折れていた。
そして青い獣人のパンチで神人族の体に大穴が開いていた。
「ああっ俺たちは魔女に喧嘩を売ってしまったのか……」
「理不尽だ!俺たちは軍の命令で街を占拠しただけだ!」
神人族の男性たちは口々に叫びながらわが身の保身を言葉にした。
「命令だからした。 しかたないんだ」
―――ザシュ!―――
多くの神人族の返り血で真っ赤に染まった愛子が神人族の部隊員に向かって告げた。
「そう! 理不尽よね。 それを貴方たちもこの街の人たちにしたのよ」
愛子は告げた。
「自らに降りかかる理不尽は貴方たちが行った行為の結果よ……悔やむならこの戦争に加担した事を悔やみなさい……」
力の差が歴然とした中での戦闘だった。
広場に立つのは三人だけとなった。
「ふぅ……」
愛子はその場で振り返り、動くものが自分たちだけであることを確認した。
「愛子殿……大丈夫か? 」
ロイエルが愛子に声をかけた。
愛子はロイエルを見た。
「……大丈夫……大丈夫よ。 さぁ一度ルル君を呼んで……この死体を……どうにかしなくちゃね……」
フラッと愛子が倒れた。
「「愛子殿!?」」
「大丈夫……あれ…おかしいな……あれ……」
愛子は血まみれの自分が青ざめていることに気が付かなかった。
―――ポロポロ―――
愛子の瞳から大粒の涙があふれた。口では外道を殺しただけだと言っていた。
しかし自らが魔物でなく、人の形をしたものを殺したことを思い返し、心の奥で動揺していた。
殺人という行為を行った事実が愛子に精神的動揺を与えていた。
「アイコ様! 大丈夫ですか!?」
ルルカッタが愛子のもとに駆け寄った。
ルルカッタの姿、声を聴いたことで張りつめていた緊張の糸が途切れたようだった。
「うぅ…ルル君……私……ひっ人を…殺してしまった…」
愛子は青ざめた顔でルルカッタを見た。
何かを感じ取ったルルカッタは愛子を抱きしめると告げた。
「アイコ様、大丈夫です。 大丈夫ですよ……アイコ様は、御自分に嘘をついてまで戦ってくれました…これが戦場なんです。これが戦うってことなんです。 僕はアイコ様が優しいアイコ様だと知っていますから」
「うっっうわあああん」
愛子はルルカッタに抱きしめられ大声で泣いた。
ルルカッタは愛子が泣き止むまで抱きしめていた。
愛子が泣き止むとルルカッタは告げた。
「さぁ、アイコ様。この神人族達を荼毘に伏しましょう。 それがいまのぼくたちに出来ることです」
「火炎撃」
ルルカッタが神人族の死体に火炎魔法を浴びせ燃やし尽くした。
「圧縮」
愛子が燃え尽きた神人族の白骨に魔法をかけると魔法陣が現れ黒い球体がすべてを飲みこんで消滅した。
「…ごめんなさい……このことを私は一生忘れないわ……それが今の私に出来る事ね……」
ルルカッタと手を恋人繋ぎをして愛子は謝罪の言葉を告げた。
こうしてフェザの街にいる神人族の部隊は粛清された。
愛子は解放した魔人族達は肉体的にも精神的にも手厚い治療が必要だと感じた。
そして伝達魔法具で二コラにフェザの街を開放したことを告げた。
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