フェザ奪還 その3
ベッドには二人の女性達が寝ていた。
「アイコ様…ルイカ様も…昨日は本当に酷い目にあいました…まさかあんなにルイカ様の寝相が悪いだなんて……」
二人から離れた場所でひとり佇む魔人族の少年。
ルルカッタが膝を曲げて三角座りでそこにいた。
「アイコ様…僕もルイカ様も、その胸で息が詰まりそうでしたよ……」
ルルカッタは腕を開いて寝ている愛子に毛布を掛けた。
「それに僕は緊張で、ねむれませんでしたよ」
ルルカッタはベッドに寝ている女性達のせいで眠れなかったのだ。
愛子たちに目線を移すと愛子がゴロンと寝返りをうった。
「うーん。 ルルくぅん! どこぉ……むにゃ……」
寝ぼけ声でルルカッタの不在を告げた女性。
「アイコ様…なんでパジャマを着てもらえないのでしょうか…はぁ……」
いまの愛子はショーツ一枚だけのあられもない姿だった。
いそいでルルカッタは毛布を掛け直した。
「うへぇへぇ…金やぁ~宝やぁ~~~」
さらにその隣にはルイカがスヤスヤと寝息を立てていた。
ルイカはクライクラスト商会で購入したパジャマ姿だった。
「こっちも…ルイカ様の寝相は悪くないでしょうけど……」
パジャマは薄いピンク色であり、下着がうっすら透けていた。
それが、かえって色気を感じさせていた。
愛子の姿とは違う、健全な色気をルルカッタは感じた。
そんな二人を見ながらルルカッタは思い出していた。
「そろそろ、寝ましょうか? あれっ? アイコ様?」
「うふふふっ! ルルクン」
―――バサッ―――
ルルカッタが寝ようとベッドに入った。
ルに二人の女性がベッドにもぐりこんできた。
その二人が目の前の愛子とルイカである。
「ルルくぅーん!一緒に寝ようよぉ! 」
「うわっぷ! アイコ様!? くっくるしいですぅ」
そういうと愛子はベッドに体を横たえるルルカッタの頭を胸元に埋めた。
息が苦しくなったルルカッタは思わず手足をじたばたさせた。
「へっ? ル・・ルイカ様ぁ?」
そしてその背中側にはパジャマを着たルイカが体を密着させてきた。
「べっべつにあんたと寝たくてねるわけやあらへんからね。ただこのベッドは一人やと寒いからなんやからな。勘違いせんといてよ?」
そう告げるルイカの顔は耳まで真っ赤だった。
「ウチは、父上様以外にの男と一緒に寝たことはないからな! ただの尻軽女とはちがうからな!」
意識すると思わず青い耳まで真っ赤になったルイカ。
「ルイカ様もアイコ様もどうして僕にくっつくんですか?」
「「だって寒いんだもん」」
二人に両サイドを固められたルルカッタは生殺しであった。
「ぐっ! アイコ様、くっくるしいですぅぅぅ」
「へへへっルルクン!ルルクン……ぐぅ…」
ルルカッタは愛子に締め付けられて、がっちり体を固められていた。
「すやすや……ピィ…」
ルルカッタは愛子の力の入った抱擁に体をまったく動かすことができなかった。
「うぐぅ…あっ! いまだ!!」
愛子が寝がえりを打った時にその結束に近い抱擁から解放された。
ルルカッタが体を愛子から抜け出せた時刻は昼を超えていた。
「う~ん。 おはよ、アイコさんは起きた?」
ルイカもルルカッタが抜け出した動きで目が覚めた
「いえ…まだこのような状態です…」
「そうかぁ、まぁそのうち起きるか。 ルルカッタとりあえずご飯食べようかぁ」
―――カツカツカツ―――
カーテンの向こう側に行くと服を着替え始めていた。
―――シャッシャッ―――
ルイカの絹すれの音が聞こえた。
ルイカが着替え終わると、ルルカッタは愛子を起こすために声をかけた。
「愛子様、あの街に行くんでしょう? 『キタムヤ』で早く装備をそろえましょうよ」
「うーん。まだぁねたぁい……むにゃ……」
「いい加減にいきますよ」
「はぁい……」
「なぁ、ルル。 アイコさんここまで寝起きよわいの知ってたん? 」
「いいえ……僕もここまでとは…… 」
「ルルの方がアイコさんと長く一緒におるから、朝に弱い事ぐらいなら知っているのかと思ったんやけど」
ルルカッタに服を着させられている愛子を見つめるルイカ。
「あんなに頼りになる人が、こんなにだらしないところがあるなんてねぇ。案外人って見かけによらんもんやわぁ」
愛子の弱点を知ってルイカは肩の力が抜けてしまったように肩をすくめた。
「んっ…あ、ルルクンおはよ! 服着替えさせてくれたのね。ありがと」
「アイコ様、服の着替え位一人でしてくださいね…ところでこれはどうすればいいのですか?」
「あぁこれはね、背中が丸見えだから上に羽織る物よ。 カーディガンっていうのよ」
そうつげるとカーディガンを羽織った愛子の姿はワンピースタイプのナース服とカーディガン。
「なんか、なつかしい服装になったなぁ 背中以外は…はぁマキナに文句が言いたいわ」
着替えを済ました愛子呟いた。
そしてルルカッタとルイカに手を引かれて一階にあるキタムヤに来た。
「この門構えはすごいなぁ。 なんかいろいろありそうな魔窟って感じがすごい」
ルイカが感想を告げた。
クライクラスト商会が誇る商品を一手に引き受ける販売所。
その最高の店が誇る店主はガタイの良いおじさん、ガイ=タガイ。
「おう、愛子嬢。なんだその恰好は? 足なんかだして艶めかしい姿じゃないか。 そんな服では襲ってくれと言ってるようなもんだぞ。 おじさんの目の毒だからちょっと待ってろ! 」
ガイおじさんは、棚をゴソゴソと探すと装備を見繕った。
そして、一つのロングコートを出してきた。
白いコートに金糸で刺繍が入っていた。
それはクライクラスト商会を意味する羽を広げた鷲に蛇のシッポが刺繍であった。
「これでも着とけ。 その方がこっちも目の毒が隠れてありがたい。 あと、これからどこに行くんだ? 」
「私たちはフェザに行くの。 ねぇルル君」
「そうです。」
聞かれた愛子はガイに伝えた。
その返事を聞くとガイは驚いた表情で愛子達をみた。
「本気か!? いまのあそこは俺たち魔人族に対して地獄みたいなところだぞ?」
そう告げたガイは街のことを教えてくれた。
「あの町では魔人族の男は肉体奴隷として、重労働につかされている状態だぞ! しかも、首輪までされていると言われているんだぞ」
その上でさらにつげた。
「女性はさらにひどい目にあっているという…わかるだろ女性は……」
そう、口にするのもおぞましいとガイは言った。
「あいつらに俺が聞いたのは、同じ男としてはゆるせねぇことだ」
ガイは俯いて告げた。
「女と名が付くものは年齢に関係なく犯されていたということだ! 小さな子供から年を取った女性まですべてだ!!」
それは二コラから聞いていた内容と同じだった。
「あんな街に……愛子嬢、どうしてなんだ? 俺はお前らにあんな場所はいかせたくねぇ」
ガイは確認したかった。どうしてあんな街に行かないといけないのか。
ガイにはわからなかった。そこまでしていく必要があるのかと。
「すこし事情があるから理由を詳しくは言えないけどね。」
「僕たちが行かないといけないんです。 僕には、その責任もあるんです」
そう告げた二人の顔は、真剣な表情だった。
二人の顔をみたガイは二人の決意を理解した。
くわしい理由はわからないが、相当の覚悟をしていくのだということをガイは確信した。
「そうか……それなら、それなりの物をもっていかないとな。二人が無事に戻ってこれるようにな!」
そしてガイは装備を見繕った。
まず愛子には細身なショートソードを。
小物はロープと回復薬だった。
それをマキナにより改造されたウエストバッグに入れた。
ルルカッタには細身のショートソードと魔力回復薬を渡してくれた。
ルイカには、ウエストバッグを新たに渡された。そして魔力回復薬とロープを渡してくれた。
「愛子嬢、ルル坊、ルイカちゃん。必ず帰って来いよ。おじさん待ってるからな! 」
そう告げるとガイは愛子とルルカッタとルイカに熱い抱擁をしてくれた。
「もう、おじさんそんなフラグたてないでよ。
」
愛子がガイの抱擁から解放されると思わずつぶやいた。
「フラグ? 」
ガイの顔がキョトーンとした表情になった。
「いいかぁ!絶対かえってくるんだぞ!」
そして三人を笑顔で店の外まで送り出してくれた。
いま、愛子とルルカッタにルイカと二人の獣人はクライクラスト商会の入り口に立っていた。
「いい? ルルクンこれから行くところは本当につらいものがあるかもしれないけど、私たちで助けだしましょう」
「はい!! 次にこの門をくぐる時までに、必ず国を!王都を! 奪還しましょう」
愛子たちは途中の街道でフェザに行く荷物を運搬する荷馬車に乗せてもらった。
そして街に潜入するための方法を荷馬車に揺られながら話し合った。
「いえ、愛子殿。 この場合には正面から名乗りを上げて攻め入るのが王道でしょう! なぁロイエル」
そう好戦的に力強く、手を握り力説するミッタマイヤの姿はかなり迫力があり、目の前にいる愛子はその圧に倒されそうだった。
「いや!ミッタマイヤそれでは正面の敵戦力から一斉に狙われて終わりだ。ここは、入り口の兵のみを倒して服装を奪い潜入するべきだ」
ロイエルが、となりのミッタマイヤの作戦を的確に分析しながら持論を述べた。
それをみたルイカがさらに提案してきた。
「いやいや。そんなん入り口の持ち場を離れたことを見つけられてすぐに潜入が敵に知られるんちゃう? それより、敵を寝かすだけでそのままこっそり入ったらええやん! 我ながらいいアイデアだと思うんやけど愛子はどう思う? 」
自信満々に持論を提案した。
「いいえ、ルイカ様! それでは起きた敵によって本陣にすぐに知らされます。 それでは中に居ることがすぐにわかります。 やはりここは敵と正面から… 」
「なにを言うミッタマイヤ! いいかここは入り口の敵兵を倒して…… 」
「なにいぅてんねん。ええか、寝かせばええ……」
さっきから三人が持論をずぅーと言い争っていたのである。
すると我慢の限界がきたのか、青筋を立てた愛子が勢いよく三人に告げた。
「んもう! このままでは埒が明かないわ! いい? なるべく敵に気づかれずに入ることが大事なの。それか、こちらが敵でないと向こうが思うような案が必要なの! 」
愛子が自らの考えを口にしたとき、愛子の表情が変わった。
「あっ! べつにみんなで行かなくてもいいんだよね…ふふふっいい案思いついちゃった!!」
愛子が手をポンとたたいき告げた。
その考案した潜入方法を。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。
次回更新は水曜日の予定です。