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フェザ奪還 その2


 近づいてきた男性はアンジュルムに手を差し出した。


「どうされた、獣人の少女よ。 こんな場所で? 」


 アンジュルムに優しく声をかけた人物は青い毛色の獣人。

 そう、アンジュルムが恋した獣人、ロイエルであった。

 ロイエルは風呂場でミッタマイヤの痴態を鎮静させた時に湯あたりした。

 有体に言えばのぼせたのだった。

 

 そこで、少し身体を冷やすつもりで壁の外にでた。

 そして気が付いた。

 木陰から白息が出ていることを。

 

 それを知らないアンジュルム。

 いきなり話掛けられた事で頭はパニックである。

 

「あの! えっとぉ! そのぉ! 」


 顔が真っ赤になり、耳とシッポを振っている獣人の少女。

 慌てふためく様子にロイエルはフッと息をつくと、アンジュルムの身体をつかんだ。

 そして両足を持ち、背中に手をまわし、持ち上げたのだ。

 それはまさしくお姫さま抱っこであった。

 

 さらに顔が真っ赤になるアンジュルム。

 もう目は左右に行ったり来たりし、シッポに至っては大回転状態である。


「こんな夜更けに、可憐な少女が一人ではあぶないだろう。 ワレが一緒にいてやるから、付いてくるとよい」


 そして、笑顔を向けるロイエル。

 もうアンジュルムは真っ赤かも真っ赤である。


「あの、えっ……はい! 」


 そしてそのままクライクラスト商会の会館内に抱っこされたまま連れていかれたのだった。

 アンジュルムはその展開にいっぱいいっぱいだったが、思い人に抱かれた感触があまりにも心地よかったせいか終始笑顔だった。


 『あぁ貴方様はやはり紳士ですぅ』


 ロイエルにフラグが立ち、アンジュルムに恋心を自覚させた出来事だった。

 

 そしてクライクラスト商会に連れられたアンジュルムは、身分を隠して商会の職員に伝えた。

 探索師であり、諜報のプロであるアンジュルムにはどうさもない事だった。


 アンジュルムは、旅の冒険者であり、路銀が尽きたせいで宿にも入れずこの商館の塀で休んでいた所をこの男性にみつけられたと伝えた。

 そして、一晩止めてほしいとアンジュルムが伝えるとクライクラスト商会の職員は、ある一室を貸してくれた。

 そこは獣人達の隣の部屋であった。

 普段は使用してないとのことだが、綺麗に掃除されていた。

 

「ありがとうございます。 これで今夜は休めます」


 そう職員に告げると隣に立つ青い獣人を見た。

 見上げるほどの身長、服の上からでもわかる鍛えられた肉体。

 そして時折、みせる牙。

 すべてがアンジュルムの好みだった。


「あのぅ、本当に見つけてくれてありがとうございます! 」


 アンジュルムは、青い獣人ロイエルに感謝の言葉を述べた。

 次に出た言葉は、自分をここに連れてきてくれた理由を問うものだった。


「どうして私を見つけてこちらに連れてきてくれたのですか? 」


 そう聞くとロイエルは困った顔をした後に、真剣な表情で質問に答えた。  


ワレは、困り人を放っておくことはできない性分なのだ。 たまたま、外に出た際に、寒そうに凍える貴女を見つけたから―――」


「本当にありがとうございますぅ! 」


 ロイエルは最後まで伝えることはできなかった。

 アンジュルムが、途中で話を遮り感謝を述べた。

 その顔は見たことが無いような笑顔であった。


 話を遮られたロイエルは続きを言う事はなかった。

 そして、話を終えるとアンジュルムは笑顔で貸してもらった部屋にもどった。

 ロイエルは、騒ぎを聞きつけたミッタマイヤに会館内に併設されているバーに連れ出されていったのだった。


「はぁ……やっぱり……アンジュルムちゃんの目はいい仕事します。ロイエル様ですかぁ……紳士ですぅ」


 もうアンジュルムは団長からの依頼よりも、恋を優先したい気持ちになった。

 その時、アンジュルムの腕に輝く伝達魔法具が鈍く輝いた。

 定時連絡の時間を知らせる合図である。 


「それを許されるわけないよね……あぁ~あ、今だけは…この幸せな気持ちに浸っていたかったなぁ」


 その気持ちを胸にしまい伝達魔法具を通して定時の報告をした。

 今後、訪れるであろう団長からの命令を考えて、アンジュルムはベッドに後ろ向きに倒れた。


「あぁあ・・ふわぁねむいですぅ」


 そして胸に刻み付けた甘い桃色の想いに抱かれながら眠りに落ちていった。


―――チュンチュン―――


「あぁぁ、朝ですぅ。 ふにゃぁ」


 夜が明けて、朝日が昇り始めるたことに気が付いたアンジュルム。

 クライクラスト商会を早めに出ると一路、占拠したイゼルへもどった。

 第三騎士団インビジブルサードの敬愛する団長へ具体的に報告する為だった。


「はぁ、やっぱり、言わなきゃいけないですよねぇ…… 」


 恋する乙女と化したアンジュルムは、団長への義理と自らの使命を再認識した。

 それにより、本人にとっても苦渋の決断で報告したのだった。

 それが、結果としてロイエル達を救うことになるとはこの時、アンジュルムは知る由もなかった。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。


次回からは愛子とルルカッタ達の話に戻ります。

次の更新は日曜日の予定です。

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