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ニコラの葛藤 その3


「アイコ君、ルルカッタ君。 君たちに私から依頼がある」


 ニコラは目の前にあるティーカップを持ち、一口飲んだ後に言った。


「私からの依頼は、一つだ! 同胞たる魔人族を開放してほしい」


 二コラは力強く叫んだ。


「クライクラスト商会は多くの魔人族が在籍している。 トライデントの他の商会と違い、魔道具を主たる商品として扱う私としては、魔人族が虐げられているのは許せないんだ」


 そう告げると二コラは視線を目の前のティーカップに移した。


「これを君たちに依頼するのは、君たちにその力があると見込んでのことだ……もちろん君たちがその力を得るのに大変な苦労をして…その結果、失った物があることも知っている……」


 目線を上げて愛子とルルカッタを見つめる瞳。


「こんな依頼はこちらの都合だけの勝手なものだし、納得のいくものではないと思うが…それでも君たちにお願いしたいんだ」


 二コラは顔を上げて真剣な瞳で愛子たちを見つめた。


「…どうして二コラさんは私たちに依頼するの? このクライクラスト商会なら単独で街や城の奪還はできそうだけど」


 愛子は二コラに問いただした。


「前も話したがクライクラスト商会の本社は、各国の戦争には加担しない方針だ……だから商会としては表立っては解放に加担することができない…しかし私は今回の神人国ウィルヘイムの戦争はひどく一方的なものだと思っているし……何より何かしないと私の故郷が無くなってしまうことが、私は……嫌なんだ」


「それは…」


 ルルカッタは思い出した、ルドルフが斬られた場面を。


「ルルカッタくんも辛い思いをしたことだろう…特に君は王族だ……」


 二コラは悲し気な瞳でルルカッタを見つめて言葉を続けた。


「この国は神人国の少数精鋭魔法師による重要拠点の占拠、制圧という形で襲撃され国の中枢を乗っ取られた。 …とくに……いまだ王の所在は不明だという情報もある」 


 そう告げる二コラの口が強く噛み締められた。

 怒りをあらわしているようだった。


「だから、私は…いや俺個人としては、この依頼を君たちにするよ。 秘密の依頼=シークレットオーダーだ」


 二コラは愛子に力強く告げた。


「いいわよ。 私も…いや私たちも、このまま引き下がる事はできないから。 それにルルクンの故郷がこのままでは、ルドルフさんと誓ったこと……願いをかなえられないから…」


「そうか…ありがとう!アイコ君」


「で? どうやってこの国を取り返すの?」


 愛子は二コラに尋ねた。


「それについては、まずこの地図を見てくれ」


 愛子とルルカッが覗き込むと大きな街の名前が二つと愛子たちが逃げてきた王都の名前が書き込まれていた。


「まずはこのフェザを押えてくれ。 フェザ神人国ウィルヘムからの魔法師ソーサラーが王都に入る前に必ず通る街だ。 この街を押えれば神人族の魔法師は補給路を断たれることになる」


「なるほどね…兵糧を、補給路を断ってから中をやっつけるということね」


「アイコ君、理解が早くてたすかるよ」


「でも、街を解放した後は?」


「それは追って伝えるよ。 裏技を使う」


「裏技?」


 愛子が尋ねると二コラは口を開いた。


「支援には闇ギルドをつかうよ。 そいつらは言うならば裏の商会だ。 金を払えばその間は裏切ることはない。 それに裏なので証拠を残す必要もない」


 二コラは意を決した表情で伝えた。


「それに……奴らが取り引きする物やされる物もどちらかと言えば品の良いものではないんだ……」


 そう告げる二コラは苦虫をかんだような苦々しい表情だった。


「私としても、奴らに貸しを作るのはとても腹立たしいが、そいつらを使わないとすべての魔人族は奴隷にされてしまう。 その為には私は手を汚すこともいとわない! 」


 愛子とルルカッタを見つめる瞳からは本気であることが伺い知れた。

 そしてルルカッタも愛子と顔を見合わせるとうなずき、二コラに決意を告げた。


「わかりました。 ニコラさん。僕も協力します。 僕も国を奪われたままで、落ち着いていることはできないです。 だからその依頼(オ-ダー)受けます」


 二コラはその返答を聞いた。

 直後、その空間に張り詰めていた空気が解けたようだった。


「そうか……ありがとう! 二人とも! 」


 そして二人の手を握ると二コラは大きく動かした。

 本当に感謝している様子だった

 その後、今後の手はずなどを相談した愛子たちは自室に戻ることを告げ、その場を後にした。。



―――カツカツカツ―――


 二人は廊下を歩いていた。


「ふぅ…なにか大変なことになってきたわね」


「そうですね。でも今は……ベッドで休みたいです」


「……同感だわ」


 二人は今頃、ダンジョンの疲れがどっと襲ってきた。

 なんだかんだで忙しくて、ゆっくり休めていなかったのが原因だった

 二人は部屋に戻ると荷物を床に下ろした。


―――ドン!―――


 二人がいる部屋は二コラから特別に借りたものだった。

 荷物を下ろすと二人はベッドに突っ伏した。


「ルル君、これでいいよね?」


「はい。 アイコさま。 僕も自分の国がなくなるというのはとてもつらいですし、僕と同じ思いをしている人がいると思うと何か手助けになりたいんです」


 そう告げるとベッドで横になったルルカッタは、隣に横になっていた愛子に顔を向けた。

 ルルカッタと愛子の顔がとても近かった。


「!」


 ルルカッタの顔が真っ赤になった。

 愛子はそんなルルカッタの想いを知ってか知らずか、手をルルカッタに向けると顔をもっと近寄せた。

 さらに顔が赤くなるルルカッタ。

 そして重なる唇。


―――クチュ―――


「!!!!」


 思わず目を見開くルルカッタに愛子は口づけを続けた。

 お互いに糸を引く唇。

 唇を離すと愛子はルルカッタに自分の想いを伝えた。


「ルル君。 私は貴女の保護者ママじゃないからね。 これはその証だからね? 」


 そう告げられたルルカッタは顔がもう一段真っ赤になった。


「あの!その!」


「ふふふっ。 ルル君のそういうところかわいいよ」


「さて!かたづけましょ」


「…あっ……はい……」


 あたふたするルルカッタをしり目に愛子はベッドから起き上がり、下着やタオルなどの準備を済ますとルルカッタの手を取った愛子は、クライクラスト商会が誇る大浴場に連れて行った。


「さぁお風呂にしましょ?」


「…はい…」

 

 先ほどのキスで頭がパニック中のルルカッタはされるがままにお風呂場に連れ込まれた。

 そしてルルカッタが気が付いたとき、そこは女湯であった。


―――カラカラカラ―――


「んんっ!!」


「あっそうだ、ルル君! 君の身体もきれいにするからねぇ」


 愛子に体を洗われるルルカッタ。


「あの!アイコさま?」


「さあ~シャンプーシャンプー」


―――バシャー!―――


 手桶からお湯がルルカッタの頭にかけられた。

 その光景は仲のいい母と子であった。

 相変わらず愛子はタオルを巻かない主義だった。

 つまり裸だった。


「アイコ様、どうしていつも裸なんですかぁ」


 そして前に座らせるとルルカッタの頭にシャンプーを付け洗い始めた。


「ふえっ!」


―――フニフニ―――


 ルルカッタの背中には愛子の胸があたり、背中の柔らかさにルルカッタが真っ赤になっていた。

 そして頭を洗われている時に一人の少女が二人に近づいてきた。


「ええっ! なっなんでぇ! なんでここにアンタがいるのぉ! 」

 

 顔は真っ赤でタオルをルルカッタと同じように胸元から巻く、ルルカッタと同じ顔の少女。

 そうルイカだった。

 ちなみに隣の男湯には付き獣人である、ミッタマイヤwithロイエルも入っていた。


「えっルイカ様?」


 ルルカッタがルイカをみた。

 ルルカッタを指さしたルイカが裸の愛子を見るとルイカは顔を自分の手で覆った。

 

「ちょ、アイコさん? あんたなんで裸なん!? しかもなんで彼奴ルルカッタを洗ってるん!? 」


 ちょっとパニくるルイカ。顔は魔人族なのに真っ赤である。

 足を開きルイカの方を向いた愛子はルイカに向かって確認した。。


「なぁに? ルイカちゃん。 ルイカちゃんも洗ってほしいの? わかったわ! わたしにまかせなさぁい」


 ポヨン。胸をたたいた愛子からそんな音が聞こえてきたようだった。

 顔から耳まで赤くなるルイカ


「なっ! えっ! ちょっとぉ! アイコさん!? 何考えてるのよ! そいつは、男よ男!! 」


 耳どころか全身真っ赤になりながら抗議してくるルイカをしり目に愛子はルイカを強引にルルカッタの隣に座らせた。


「えっちょ!力が強いぃ!!」


 ルルカッタはというと、同じように真っ赤だった。

 後ろは年上のお姉さん、隣は同年代の女の子、しかもタオルを胸元で巻いているが、付いた湿気によりタオルは体に張り付いてそのボディーラインを晒けだしていた。

 もうルルカッタの頭と心臓はバクバクと早金のように鳴っていた。


「いいからいいから♪ 」


 そうつげた愛子はルイカの髪を濡らしシャンプーを始めた。

 その光景を見た魔人族の女性はのちに語る。


『えぇ、それはもう仲良さそうに顔を真っ赤にした二人の娘さんを、若いおかあさんが鼻歌混じり洗っていましたよ~ 』

 

 その内容は愛子の耳に入ることは無かったことが、さいわいであっただろう。

 髪を洗われるルイカは、もうあきらめたのか抗議の声を出すこともなくされるがままであった。

 そのころ隣の男湯では獣人達が全力で穴をさがし、隣の会話に聞き耳を立てていた。


「ミッタマイヤ! 覗きなど、そんな騎士としてあるまじき行為をしてはならん! 」


 そういうロイエルの耳は一音一音を拾うかのようにせわしなく動いてた。


「何を言う! これは姫に危険が無いようにお守りするためだ! 決して愛子殿のお胸がやわらかそうだとか、おしりがプリンとしてた事を確認したいとか邪な気持ちではない! 」


 全力で何を見たいのかをはっきりと述べたミッタマイヤ。

 そう獣人達は立派な男だった。


「……そういうところだぞ…お前が残念なところは……ミッタマイヤ」


 そして言う内容は男としてのミッタマイヤの願望を告げていた。


「私は、たしかにダンジョンで、愛子殿の少し怖いところを見た気もしたが……しかしなあの服から見えた背中の美しさ……あれは良いものだ!!」


 そうエクス・マキナからもらった服はバックレス仕様のナース服!

 ダンジョンでは、背中がぱっくり開いていた。


「それにあと少しで、お尻の割れ目が見えそうなところがもう!!」


 ミッタマイヤは力強くロイエルに告げた!


「端的に言おうロイエル! 私はアイコ殿の裸が見たい!!」


「ミッタマイヤ言ってることが支離滅裂だぞ…さっき別にアイコ殿の裸を見たいわけではないとか言ってなかったか……」


 ミッタマイヤは愛子の女性としての色気に獣としての本能というか、男の本能が滾った。

 ミッタマイヤはロイエルに引っ張られたまま壁を詳しく調べた。

 そしてミッタマイヤは壁に念願の穴を見つけたのである。


「ええっい! はなせロイエル! ここでやらねば、男が! むしろ私が廃る!! 」


 とんでもない迫力でそれを言うミッタマイヤの顔はもう明らかに獣の顔である。

 目は血走り鼻息も荒いミッタマイヤと、それを静止するロイエル。


「落ち着け! ミッタマイヤ!!」


 ロイエルがミッタマイヤのこんな取り乱した姿を見たのは初めてだった。


「いいか、ミッタマイヤ。 たしかに隣は女湯だ。 そこまではよい。 しかしそこに思い人がいるとは限らんのだぞ? 」


 ロイエルはあきれたような表情でミッタマイヤをみた。


「よいのだ、 それでも覗こうという行為自体に意味があるのだ! 」


 妙なことを力説するミッタマイヤ。


「…もうこれはだめだ」


 ロイエルが諦めの極致でミッタマイヤの静止をやめた。


「…ミッタマイヤ、何があっても後悔するなよ……私はもう止めんよ」


 ロイエルは手のひらをヒラヒラさせ、その場を離れ湯船につかった。


「では! いざ!! 」

 

 その穴を除いたミッタマイヤは直後、固まった。

 もう真っ白になって固まった。

 叩けば砕けるんではないかと思うくらいの固まり具合であった

 赤毛色の獣人のちに語る。


『ええ、化け物というんですかね、なんですかね、あのあれは。 我々よりも巨大なオークとでも言うべき顔つきと筋肉に覆われた鋼の肉体しかも穴から見える位置でばっちりポージングしていた者は……』


 そう告げるミッタマイヤは後悔に苛まれていた。

 ミッタマイヤが見たのはジャイアントオーガのような女性だった

 威風堂々たる佇まいは歴戦の戦士のようだった。


 筋肉女子的な魔人族は、この風呂場を管理するガンドラという名前の女性だった。

 ミッタマイヤの精神に多大な傷を残したガンドラさんのちに語る。


『そうですね。明らかに男湯から変なオーラを感じたので女湯のみなさまが犠牲になってはいけないと思い、私が人肌脱いだんですよ。 いやぁ照れました。 あの熱視線というんですかね。 あれは。 思わず相手を食いちぎりたい感情に支配されそうでしたよ」


 そう語ったガンドラさんの目は光り輝いていた。口からは白息を出しながら。


 そんなことがあったとはつゆ知らず、愛子とルルカッタ、ルイカはお風呂の後にミルクを飲んでいた。


「この世界でも、ミルクがあるのね…」


「これは魔牛という魔獣からとれるものだそうですよ。 僕たちの国では昔からお風呂の後に飲むしきたりです」


「へぇ…まるで銭湯に来たみたいね」


 魔乳を飲み干すと愛子はルルカッタにルイカと共に自室に戻ってきた。



「ねぇ…ルイカちゃんはどうする? 私たちとくる?」


「そんなの決まってるでしょ。 私もとりあえず愛子と一緒にいくわよ。 ルルカッタが何か愛子に変なこと…襲うとかするかもしれないし、その監視よ監視!」


 ルイカは告げた。

 腕を胸の前で組んでガルルとルルカッタを威嚇したルイカ。

 『むしろ、僕が食べられそうなんですけど』 とは口が避けても言えないルルカッタだった。


 愛子はルイカに聞いた。


「あの獣人達も一緒にきてくれるかな?」


「ミッタマイヤとロイエルはウチが言えば来ると思うわよ?」


 愛子は戦力が増えたことを確認してから、まじめな顔で二人をみた。


「王都奪還って大きな目標の前にまず、あの街、フェザを取り返しましょうね」


 そう一番近い街…フェザの街は、最初に愛子たち神人族の門番による下種な会話を聞いた街だった。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。

感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。


これから本格的に王都奪還を広げます

次回更新は水曜日12時ぐらいの予定です

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