ダンジョンの真相
ダンジョン攻略編の終わりです。
―――キィィン―――
愛子は突如、体に異変を感じた。
頭が急に割れるような痛みに襲われた。
「うわあぁぁぁぁ! 頭がぁいたいぃぃ! 」
急に大声をだしその場で転げまわる愛子。
顔からは脂汗がながれている。
そして、その変化にルルカッタが気がつき駆け寄った。
「アイコ様! 大丈夫ですか!?」
そしてそれにつられて、ルイカも駆け寄る。
「アイコさん! どうしたん!?」
頭を押さえる転がる愛子。
「アァァァアアあああああ!」
ルルカッタは暴れる愛子の身体を、ルイカと共に抱きしめた。
「………」
頭を押さえていた愛子が、急にルイカとルルカッタの手をほどき立ち上がった。
「ア…アイコ様?」
「アイコさん?」
ルルカッタとルイカは愛子の瞳を見た。
「「っ!」」
その瞬間、二人は悪寒を感じた。
愛子の瞳が漆黒に塗りつぶされていた。
まるで先ほどまでの魔物のように…
「すぅ…はぁ…」
そして愛子が急に話し始めた。
「久しぶりの肉体はイイね。 ヒャハァ! まったく! 君たちは、本当におめでたいなぁ! ダンジョンのラスボスが本当に一体だけなわけないじゃん! 」
そう告げる愛子の表情は無であった。
それにその口調は手紙に書かれていたそれとよく似ていた。
「アイコ様! どうしたんですか! 一体なにを言っているんですか? 」
ルルカッタは愛子に問いただした。
「アイコ様、冗談…ですよね?」
愛子の口から出てきたのは冗談などより質の悪いものだった。
「へぇ…アイコというのが、この個体の名前か。 記録しておこうかなぁ。 あっねぇねぇ、この愛子はだれの仲間なのぉ? そこの小さいお二人さんのかな? それとも奥の獣人のかなぁ?」
愛子の口から告げられた絶望。
「……アイコ様……いや……お前は誰だっ!」
ルルカッタは愛子に向けて叫んだ。
愛子は無表情で答えた。
「えっ! なんだ覚えてないの? 最初のボス倒した時に言ったじゃん! グラマナスサイコのダンジョンって! そう僕がグラマナスサイコですよぉ」
愛子は、抑揚のない声で告げた。
「ふー! まだわからないかなあぁ。ここは僕たち神に従順な兵を量産するための工場なんだよぉ! これをダンジョンにしておいたら勝手に高位の者がきてくれるからねぇ。 素材調達も兼ねてちょうど都合がいいんだよぉ? どうかなぁ? 絶望したぁ? 」
ルルカッタは憤怒が込み上げてくるのを感じた。
「まさか…洗脳魔法……」
ルルカッタは考えられる魔法の名前を告げた。
「ふぅ…ざんねん。 君は頭がいいとおもったんだけどね…? 洗脳魔法なんて愚劣なモノを使うとでも…」
「本当に……このダンジョンは…」
ルルカッタは呟いた。
「それに…碑文に書いていたはずだけどね? 失望と欺瞞の刻とね」
ルルカッタは思い出した。
階段に記載されていた言葉を。
ルイカも愛子に確認した。
「ちょいまちぃ!? あんたぁ 神と言うたけど…本当にあの神なの?」
ルイカが問う。
まるで神を知っているかの如く。
「……神は……私の父上様が他の六王と協力して封印したはずや! あんた何者や! 」
ルイカが叫んだ。
手は小刻みに震えていた。
「あぁ……そっか……きみたちかぁ…僕を封印した奴らは! 確かにまだ封印されているだろうねぇ……だけど……かならず復活する! その時に遊べないのは本当に残念だよ………」
―――こんな神がいてたまるものか!―――
ルルカッタは全力で思った。
「せやけど、神が封印されてるんなら……あんたは誰や!? 」
ルイカが険しい表情で、愛子に叫んだ。
愛子から告げられた内容にルイカは思わず目が点になった。
「ふぅ……僕の反応が消失したままだから、本当に封印されているんだろうねぇ……あ~あ、本当に忌々しい奴らだよ。あいつらは……ただ、バックアップって知ってるかい?」
そう告げられた。
愛子が漆黒のひとみでルルカッタを見た。
「そんな……アイコ様……」
―――ガシャ―――
ルルカッタは膝から地面に崩れ落ちた。
涙が頬をつたった。
「っ!」
―――パン―――
ルイカが左手でルルカッタの頬を打った。
「えっ!」
ルルカッタは突然のことに驚いた。
「ルルカッタ! あんた何崩れ落ちてるん? あんたがアイツを…アイコさんを取り戻さなくてどうするん!!」
その時、愛子が走り出した。
そして手に持った鞭をルルカッタに向けて打ち放った。
―――ヒュッ!! バシッ―――
「くっ! アイコ殿!!」
ロイエルが愛子の打ち放った鞭を受け止めた。
ミッタマイヤは愛子にとびかかった。
「アイコ殿!! 正気に戻られよ!!」
ミッタマイヤが掌底を放った。
―――グシャ!―――
愛子がミッタマイヤの手を握りしめた。
「ぐぅ!!」
愛子が告げた
「軽い軽いw 君の掌底はあの忌々しい獣人に比べて軽すぎる!」
愛子がミッタマイヤを投げつけた。
―――ドゴォン!―――
壁に陥没が生じた。
「ガアァァ!」
「まったく……僕はグラマナスサイコだといっているだろ? 頭が悪い奴はきらいだぞ!」
愛子は薄い笑みを浮かべてミッタマイヤに告げた。
「お前は……あの方がおっしゃっていた者と同じということか! ならば倒すまでだ!!」
ロイエルの鋭い蹴りが愛子を襲う。
「ヲルフガング流決闘術”双牙脚”」
ロイエルは飛び上がり、蹴りに重力を載せた。
「殺った! 」
ロイエルはそう思った。
「ふーん……こんなもんかぁ…この蹴りは軽いね。……それにしても…いやぁこの検体のポテンシャルは高いねぇ!?」
愛子はその場に立っていた。
その手に獣人の脚をつかみ上げたて。
「なっ!? ばかな!」
「仲良く壁のしみになればイイヨ?」
愛子はロイエルの足首をもち、投げ飛ばした。
―――グシャ!―――
ロイエルが壁に激突した。
「ロイエル…生きているか?」
「ミッタマイヤ……あぁ!生きているさ」
愛子が義足のスラスターを展開し飛び込んできた。
「これは避けられるかなぁ?」
愛子が踵落としの体制に入ったのを見た獣人達は叫んだ。
愛子が瞬間的に踵落としを二人に繰り出した。
「「ヲルフガング流決闘術”亀硬術”!! 」」
―――ドゴォ!!―――
「「……がはっ!!」」
「地面に埋もれちゃったね…というか硬いねぇ君たち? カッチカチだぞ!」
獣人は床に膝まで埋まっていた。
「「くっ!こんな事で負けるものか! 俺たちはヲルフガング流決闘術の師範だ! ヲルフガング様受け継ぐ者だ!!」」
ロイエルとミッタマイヤは地面を蹴とばして愛子に襲い掛かった。
そして放たれたのは二人の十八番の技だった。
「ヲルフガング流決闘術”二爪掌”」
「ヲルフガング流決闘術”振激掌”」
二人の獣人はタイミングを合わせたように愛子にとびかかった。
愛子はスラスターを展開し空中を蹴って飛び上がった。
「ほぅ…懲りないなぁ!!」
愛子は獣人達に両足を開いて踵落としを決めた。
「「グハァァ…」」
愛子の左右で空を切る獣人の腕!
地面に叩きつけら床から粉塵が舞い上がった。
「ロイエル! ミッタマイヤ!」
ルイカが叫んだ。
地面に立つ愛子
「ふんっ! 軟弱軟弱♪」
愛子は地面に叩きつけたミッタマイヤを持ち上げた。
「ぐっ…」
空中に放り投げられたミッタマイヤ。
愛子は蹴り技を全身に叩き込んだ。
「ガハアァァァ…」
「あはははっ楽しいねぇ」
ミッタマイヤが地面に就きそうになると再度蹴り上げられた。
鈍器のような重さのある蹴りをミッタマイヤは感じた。
「君はとくにカッチカチだねぇ!」
硬化術を受けていても愛子の蹴りは獣人の体力を激しくうばった。
―――グシャァ!―――
「グアァァ!」
効果術が切れた。
そして叩き込まれた愛子の蹴りでミッタマイヤは地面に打ち付けられた。
「ぐぅ! 」
ミッタマイヤの口から血が流れ、全身はボロボロだった。
「ミッタマイヤ兄様!!」
ルルカッタが叫んだ。
ミッタマイヤのメタルプレートは変形し剥がれていた。
服も所どころ破れて、赤い毛におおわれた素肌が見えた。
「くっ…ミッタマイヤ」
ロイエルが苦々しい表情でつぶやいた。
ミッタマイヤの毛に血の赤が弾痕のようにこびりついていた。
「ふぅん。次は君だね?」
ロイエルを持ち上げ、先ほどのミッタマイヤと同じように放り投げると蹴り繰り出した。
ロイエルは一瞬のスキをついて技を繰り出した。
「いまだ! ヲルフガング流決闘術奥義”双掌振牙”」
ロイエルは残る体力と魔力を両手につぎ込んだ。
圧力を手の内に貯め込み、魔力で補強し手の爪を己の牙となした魔力が狼の形をとり手のひらから愛子に向けて打ち出した。
―――ドガッ!―――
愛子の立つ位置から激しい轟音が響き、土煙が噴出していた。
「ふぅふぅ、やったぞ」
ロイエルは愛子を倒したと思った。
愛子の立ち位置から噴き出した土煙が薄くなるとそこに驚くべき光景が広がっていた。
「ふぅん、……君は……さっきの獣人より賢しいねぇ」
ロイエルの出した奥義は虚しく空を切り地面に大穴が開いていた。
ルルカッタ達の目に映ったのは空中に浮く愛子の姿だった。
「「なっ……」」
―――フィィン―――
愛子は義足からスラスターを地面に向けて放っていた。
愛子はニヤッと笑うと地面に降りた。
地面に降りた愛子は、立ち尽くすロイエルに蹴りを叩き込んだ。
「もう…君は……お・し・お・き…だぞ?」
―――ドガッ!ドゴォ!ビキッィ!!―――
ロイエルは愛子の蹴りで地面に叩きつけられた。
その衝撃で地面にヒビが走った。
「がっ! はっ、おのれぇ! なぜぇアイコ殿を奪い、このようなことをする!! 」
ロイエルは満身創痍で、ふらふらと立ち上がり愛子に叫んだ。
「さっきからいってるんだけどね…戦力増強ってね」
口元からは血が流れ、メタルプレートは千切れ青い毛には赤い血跡が残っていた。
そして服の下の身体は傷だらけで立ち上がったのもやっとであった。
「その者は……弟の…大事な者だ…返してもらうぞ……」
一歩進み、愛子をつかもうとして手を伸ばすロイエル。
愛子は一歩後ろに下がった。
ロイエルの手は虚しく空を切っていた。
「あぁはっはっ! ほんとに仲間を分断して強いやつを奪うのはおもしろいなぁ」
そう愛子は告げるとその勢いのままロイエルを蹴り上げた。
「ロイエル! 」
「ロイエル兄様! 」
「ロイエル! 」
ルルカッタ、ミッタマイヤ、ルイカの叫び声がホールにこだました。
「なんだ…さっきのカッチカチの君はもう回復したのかい?」
愛子は義足のスラスターを用いてミッタマイヤに近づいた。
満身創痍のミッタマイヤに対して容赦ない蹴りで襲い掛かった。
―――ドガァ!バギィ!ドゴォォン!!―――
「ガハッ! グゥ! ギザマァ!! 」
ミッタマイヤは連撃の蹴りで後ろに飛ばされた。
愛子はゆっくりとルルカッタの方に歩み寄ってきた。
「あはは! こうしてパーティーを壊して仲間の前で奪って、それを使って殺していくのは本当におもしろいよぉ! いままでも、ずうぅぅぅと、そうしてきたしぃ、今後もそうしていくからねぇ~ 真実を知った奴は消えてもらうよおぉ」
ルルカッタは手を愛子に向けた。
その手には魔法少女のステッキが握られていた。
淡い青色に光る杖。
―――カタカタカターーー
震える杖。
それを見てもゆっくりと歩いて近づいてくる愛子……
「アイコ様……」
ルルカッタの顔は悲壮だった。
絶望の表情だ。
「もうやめてください! アイコ様! 僕は貴女に……魔法を使いたく…ないんだ…」
愛子はニヤリと笑った。
とても醜悪な笑い顔だった。
ルルカッタの手が震えていた。
「はぁ…なんだよぉ…魔法師! お前はこの大好きな仲間に魔法を使うのか? おっ? あっ……なんだ薄情なやつだなぁ」
愛子は愛子の声でルルカッタを責めた。
「お前がこの検体を大事に思っていることはお前の瞳でわかるよぉ! そんな大事な物を簡単に壊せるんかなぁ? できないよねぇ? ああぁぁ! 最高だぁ たまんないんだよねぇその顔! くっくっくっ あっははははは!」
愛子は大声で笑った。
「…くっ…僕はアイコ様を必ず解放します!」
ルルカッタは、覚悟を決めた。
「’電撃’……」
魔法を放つイメージをした……
魔法陣が描かれない。
「あっ………」
ルルカッタの胸に去来したモノは愛子の微笑む顔とやさしい声、甘い香りのする身体……
そして愛子に対する想いだけだった。
「しっかりしい! ルルカッタ! あんた愛子さんあのままにしとくんか!? 」
そう告げるとルイカが魔法少女のステッキ片手に愛子に向けた。
魔法陣が描かれた。
「”火炎撃”」
ルイカの持つステッキに魔力が集中し始めた。
「へぇ! き・み・はぁ…この検体に攻撃できるんだねぇ? でも、おそいよぉ? 」
そう告げるとルイカが持つ魔法少女のステッキの射線上から離脱する愛子
「ぐっ!」
一瞬でルイカは愛子を見失った。
そして次に愛子が現れたのはルイカのすぐ顔の前であった。
「かわいいぃねぇ。きみぃ!」
ルイカと目が合う愛子
突如髪をつかまれ引っ張られた。
―――ベロン―――
「ふふっあまいねぇ。甘い」
愛子がルイカの頬に流れる血を舐めた。
―――グィ―――
「あうっ! 」
髪を引っ張られた痛みにルイカが声を上げた。
そしてルイカの愛子の顔を平手で打った
―――パァーーーン!―――
「……きみぃ。いけないなぁ」
―――パァーーーーン!!―――
「うっ!」
頬に痛みを感じたルイカ。
強く愛子を睨むルイカの瞳には涙がにじんでいた。
「あっはぁ! きみはぁ女のコだからねぇ、これくらいにしといたげるよぉ! 後でその体が兵士をもぉっと作るのに必要だからねぇ! あっもちろん君に拒否権は無いからねぇ、いろいろ改造して楽しんだ後にたくさん生ませてあげるよぉ! さぁ、生きたまま体と頭を破壊すのをたのしみにしてなよぉ」
そう告げると愛子はルイカの髪を持ったまま引きづった。
そしてルルカッタに向かい歩き始めた。
「やっ…やめてください。 アイコ様!」
その間もルルカッタは愛子にそのステッキを向けていた。
ただし両目には大粒の涙が溜まっていた。
「そんなこと、させません…… 」
ルルカッタはゆっくりと迫りくる愛子を見ながら思った。
―――このままではみんな死んでしまう。―――
覚悟を決め愛子に魔法を打とうとするルルカッタ。
「フゥ……フゥ…」
しかし、そのたびに愛子の笑顔とやさしさが胸を打つ。
―――カタカタカタ―――
ルルカッタの手は先ほどより大きく震えていた。
先ほどの小刻みな震えではなく、見てわかるほどの震えである。
その後に愛子はルルカッタの正面に立っていた
「僕は…… 」
愛子の顔がルルカッタに近づいた。
「みんなを守らなくちゃいけないんです 」
消え入りそうな声でつぶやくルルカッタ。
「それにアイコ様も……」
ルルカッタは愛子の瞳を見た。
その目は漆黒の輝きを放っていた。
「僕は…貴女に魔法を……打つことは……」
ルルカッタは言葉を詰まらせた。
そこから先に進むのが恐ろしいという悲哀に満ちた表情だった
「……できません……」
―――ガシャン……―――
ルルカッタの手から杖が落ちた。
ルルカッタの頬を涙が流れた。
愛子の方に上げていた腕が力無く下がった。
ルルカッタの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
「あはっ! やっぱり君も過去の奴らとおなじだねぇ! やっぱり仲間は大事だものねぇ」
そう言うと愛子はルルカッタにさらに近づいた。
―――ぐぃ!―――
ルルカッタの細い首を片手で握り始めた愛子
「ゴホッ! あっアイコ様… 正気にもどって! 僕たちを護るって言ってくれたのはうそですか! お願いです!! 僕たちを救ってくれた……やさしい愛子さんに戻ってくださいぃ!! 」
ルルカッタは首が締まるのも無視して全力で叫んでいた。
「……どうしてかなぁ? 君の首をへし折るつもりで掴んだんだが、力がうまく伝達できなんだよねぇ」
息苦しさより心の痛みが強かった為、思う限りの言葉を叫んだ。
ルイカも力の限り叫んでいた。
「アイコォ、後生やぁ! 私を癒してくれたあんたにもどってぇ!! 」
そして獣人も叫んでいた。
「愛子殿! その手にしているのは大事な者であったはずだぁ! 」
「愛子殿! 頼む俺たちの弟を殺さないでくれぇ!! 」
それでも愛子のルルカッタを絞める手が緩むことはなかった。
一緒に旅してきた愛子の笑顔が胸に思い浮かび消えていった。
その笑顔はまるで自分の死んだ母親のようだとルルカッタはすこし思っていた。
「アイコ…様…」
ルルカッタは愛子に首を絞められたまま、愛子を見つめていた。
「ふむっ…ここは一つ、この体の意識体を確認してみないとね」
―――パチィン―――
「「「なっ!」」」
空中に白い映像が写された。
「君たちに見せてあげるよ。 この体の意識がどうなっているのかをね?」
―――そこには横たわる愛子が写っていた―――
―――ピコンピコン―――
モニター音が響いていた。
壁にあるモニターが脈拍を写していた。
ここはナースセンターだ。私の前にはPCモニターがあった。
其処には電子カルテが開かれていた。
私は…そうだ病院で働いているんだ。
「ああっモニターがなっている」
脈拍かな?SPO2が下がったのかな?
「あぁ、仕事してるんだった。そろそろ救急外来の仕事にもどらなくちゃ」
私はカチャカチャとアンプルを用意していた。
―――プルルプルル―――
胸の小さなPHSが鳴り響いた。
それを取り愛子が告げた。
「はい!救急外来です!」
すると若い声がPHSから聞こえた。
「君は、なぜこのコールにとれるんだい?」
私が不思議な顔でPHSを取ると周りの風景が変わった。
真っ白い空間に。
「ここは…?」
其処には愛子のほかに赤い玉があった。
「ふむ? きみがぁ…この体の持ち主だね?」
赤い玉は告げた。
「あんた誰?」
「僕はグラマナスサイコだよ? 今は君のからだを…使わせてもらっているよ」
「はぁ!?」
愛子は赤い玉を見た。
そして素っ頓狂な声を上げた。
「おかしいなぁ……君の魂は……心は封じているのに? なんでこんなことが起きるんだろ? 興味深いね」
赤い玉は愛子に近づくと形が変化した。
長い銀髪の少女のような顔つきと背丈で愛子に中学生くらいに見えた。
その少年は愛子の顔をみた。
「なっ…」
少年の顔には顔が無かった。
いや輪郭の中に黒く霞があるのみだった。
「さ…ぁ…そろそろ時間だ。君の意識を……無くそうか…」
少年の後ろに映像が映った。
倒れている獣人、倒れている目の前の少年に似た少女。
そして首を絞められている少年の顔。
「あなたは! なにをしているんですか!」
私は顔のない少年の肩を掴んだ。
「ぼくはね…この体を使いたいんだけど君が邪魔なんだよ…だからね? 滅んでよ!」
愛子の体に白い空間から点滴のルートが現れた、
そしてルートは愛子の身体に繋がれた。
「なっ!?」
「どうして……君の、この意識がなくせないのかなぁ?」
「くっ!!」
私はどうしてこんなことをしているんだろ。
私は仕事していただけなのに。
顔が苦痛にゆがむ。
「痛い…胸が痛い…」
「ふむっ? まだ消えない? なぜだろうね……」
私は…私の仕事は…わ…た…し…は…
その時、私の耳に少年の声が聞こえた。
「……あいこ……さま……」
「ほう、なかなか……あの魔人族の少年は君を信じているみたいだね?」
私の顔が凶悪な笑顔で少年を見ていた。
「……なっ…」
「それじゃ…もうおわりだね」
私の意識が落ちそうだ…
「あいこさま…たすけて…下さ…い……」
そうだ私は、私の仕事は、私の想いは!
「くっ! ルルクン! ルルクン!」
私はルルカッタ君を護ると誓った。
―――ブチブチブチ―――
壁から繋がれたルートを引き抜いた。
「なっ! なぜ?」
目の前の顔のない少年は驚きの声を上げた。
「私は看護師です! 私は彼を護ります!」
その時、声が聞こえた。
聞き捨てならないセリフも!!
―――ギリギリ―――
ルルカッタの首を絞める愛子の腕にさらに力が加わった。
ルルカッタは苦しみを感じながらも強く願い叫んだ。
「あいこさまぁぁぁぁ!!」
ルイカも全力で泣き叫んでいた。
「あいこぉぉぉ!」
そして獣人達も叫んでいた
「アイコどのぉ!」
「ははうえどのぉーーー!!」
ルルカッタを閉める手がビクッとすると、力が緩まりルルカッタを手放した。
ギギギィと音がするような動作でルルカッタをつかんでいた手が離された。
そして愛子の頭にあるナースキャップに延びた。
そして、ナースキャップを掴むと全力で放り投げた。
「だあぁれえぇがあぁ、ははうえじゃぁーーーい!!」
愛子が全力で叫んだ。怒気を孕んだその声は空間に響いた。
「私はぁ! 29歳ぃ! 女子! 独身ぅ! 母親では無いわぁ! それに何がナースキャップじゃぁ! こんな時代遅れの不潔な物の代名詞なんぞ要らんのじゃあ!! 」
そう叫んだ愛子の瞳は元に戻っていた。
さっきまでの漆黒に染まった瞳ではないことでルルカッタは安堵すると口元が緩んだ。
「アイコ様が……戻ってきてくれたぁ……」
そうつぶやいたルルカッタの瞳から涙がこぼれた。うれし涙であった。
そしてルルカッタを抱きしめた愛子は告げた、自らの罪を。
「ごめんねぇ……ルル君を言葉や体で傷つけて……君を傷つけないと言ったのに……」
「いいんです…アイコ様!戻ってきてくれて本当にうれしいです」
そして愛子はルルカッタを抱きしめた腕をそっと放して、よろけたルルカッタを地面にそっと横たわらせた。
「ルル君、待っててね。このくそヤロウヲ、コワスカラ! 」
そう告げると愛子は叫んだ。
「よくも、人の身体をもてあそんでくれたわね。しっかりあんたのことは分かったわよ!人の頭をかってに覗きやがって!! この怒りすべて叩き込んでやる! 絶躰」
愛子は魔法を唱えた。
「もう頭のリミッターもすべて解除よ!!」
リミッターもカットされ肉体が持てる力すべてを使い最大限に強化される愛子。
地面からせり出た赤い石に向かって全力の回し蹴りと踵落としをかました。
―――ビキッ!―――
さらに蹴り上げ、薙ぎ払い、ハイキック、飛び蹴り、百裂蹴りなどすべての技を出した。
その上でマキナの義足で高速移動しながら繰り出した。
―――ガガガガガガガガガガガガガガガ!!―――
その時間は一瞬であった。
―――ドガガガッ!―――
愛子が脚を止めた後にはその場にあったはずの赤い石は姿を消していた。
まさに塵芥レベル、分子レベルで粉砕されたのである。
「ふぅ!! 終わったわよ。 あれは完全に破壊した。 完全消滅ものよ……」
そう告げると愛子は、笑顔でルルカッタのもとに戻った。
そこにはルイカとミッタマイヤwithロイエルが泣きそうな顔で立っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん! アイコさんが戻ってきて良かったよぉ」
「「愛子殿、無事にお戻り頂けてよかった!! 」」
そっくりな顔の魔人族の少年、少女に抱き着かれ泣かれた。
愛子はこれからの事を思い、まず自分に起きたことを話し始めた。
そしてルルカッタの首を絞める感触と顔をみたことを
自分が何をしているか分かったこと
「そして聞こえたのは、あのセリフだったのよ……」
もう怒りどころか、いろんな感情が爆発した愛子。
意地と根性で何とかルルカッタを絞めていた手のコントロールを取り戻した。
そして頭のナースキャップを全力で取り外したということだった。
「アイコ様…」
それを聞いたルルカッタは思わず呟いた。
「僕…アイコ様に”母”と言うキーワードは言わないでおきます…」
赤い石はグラマナスサイコと呼んでいた。
―――キィィン―――
扉が現れた。そして自然に開かれた。
「さぁ…いこう」
五人は広場の奥にある扉に向けて歩き始めた。
この場所の本来の管理者が封じられている所だった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
感想、ご意見、誤字脱字があれば報告お待ちしています。
ダンジョン攻略は後一話で終わりです。
次回更新は日曜日18時を目標にします