ヴィスタ帝国 前編
やっと愛子以外の人物がでてきました。姉×ショタはお好きですか?
愛子は昼間の出来事を、石牢の中で思い返していた。
すると遠くから二つの足音が響いた。
―――コツコツコツコツ―――
―――カツカツカツカツ―――
足音が近づいてきた。そして足音は、愛子のいる鉄格子の場所で止まった。
目の前には二人の人影、愛子は恐る恐る見上げた。
そこには青い肌の少年と少し年老いた青い肌の男が立っていた。
「目を覚まされたか。われらが巫女殿。」
そう告げたのは、少し年老いた男性。
白いローブと長ズボンに黒いショートブーツを履き、瞳は金色。
頭には銀髪のロングヘアと、二本の特徴的な黒い角が生えていた。
「巫女様、お身体は大丈夫ですか?」
幼い子供の声が聞こえた。その声の主は、あどけない顔の美少年だった。
―――キィィ――――
少し年老いた男性は、鉄格子のカギを開けた。
「このような場所に入れてしまって申し訳ない。なにぶんいきなり暴れられては困るからのぉ」
少し年老いた男性は、悪びれる様子もなく愛子に話した。
「急なことで混乱されておられるじゃろう」
少し年老いた男な告げた。曰く強大な魔法師を求めて、この大召喚を行ったことを。
「我らの神は、そなたを呼び出してくれた。どうかこの国を、救ってくだされ!!」
男性は愛子の手を握りしめ、興奮気味に言った。
えっ?魔法師?なにそれ!?それを聞いた愛子は立ち上がり、石牢の中で男の服を掴み叫んだ。
「なっなんですかそれ!? 私には、そんなことムリです! ここはどこで、貴方達は誰なんですか!?」
愛子は鬼気迫る表情で、いまから食って掛かり押し倒す!といっても良いくらいの勢いでさけんだ。
男性は引き気味に「オオッウ!」と後退った。するとさっきまで男性の近くにいた少年の口から、愛子にとって青天の霹靂のような言葉を告げられた。
「巫女様、ここはヴィスタ帝国です。そして巫女様の前におられるのはヴィスタ帝国の先々代皇帝、ルドルフ・ヨル・ヴィスタ様です。」
「? ヴィスタ帝国!?」
愛子は、驚きの声を上げた。
「はい。私達、魔人族の国です。」
笑顔で愛子に告げると少年はさらに続けた。
「ここは巫女様の住んでおられた世界ではありません。」
愛子は驚きのあまり、口が開きっぱなしだった。そしてルドルフと呼ばれた男性が、少年に言った。
「これルルカッタ。わしの紹介は、自分でするつもりだんたんじゃが・・・」
「おじい様ごめんなさい。でも巫女様が怖がられていられたので」
少年はそういうと、愛子の前にひざまずき告げた。
「巫女様、私の名前はルルカッタ・ヨル・ヴィスタ。このヴィスタ帝国の第三皇子です。」
名をつげた少年は、立ち上がり笑顔で愛子の手を取った。
「おじい様いつまでもこのような場所で、話を続けるのも失礼ですよ。ここは私室でお茶でも飲みながら、話しをするというのが良いのでは。」
「おおっそうじゃのぉ。たしかに石牢は冷えるわい。さすがはわしの孫じゃ。」
少年は愛子の手を引いて歩きだした。
「それに巫女殿は、魔法師ではないとおっしゃる。まだ混乱されているせい、なのかもしれんな」。
手を引かれたまま、愛子はいまだ混乱していた。
「ここを出れば城の中になります」
少年の前には、石道には不釣り合いな豪華な扉があった。少年は力をいれて扉を開けた。
そして少年に手をひかれた愛子が扉を出ると、そこには驚きの光景がひろがっていた。
「わぁ!すごい!」
思わず愛子はつぶやいた。
壁にはきらびやかな調度品が飾られており、所々に光を放つ掌サイズの石が壁に備え付けれていた。そして床には、黒の豪華なカーペットが引かれていた。
「まるでベルサイユ宮殿みたいね」。
愛子は友達との旅行を思い出した。それはフランスのベルサイユ宮殿観覧ツアーで、見た光景に似ていると思った。
まるで中世で時を止めたかと思うような、きらびやかな部屋がその観光での一番の思い出だった。目の前にある光景は、その時に見た廊下とよく似ていた。
「巫女様は、宮殿にお住まいだったのですか?このヴィスタ城も、巫女様の御屋敷に負けてはいないでしょ?」
ルルカッタが愛子の顔を見ながら聞いてきた。
「へっ!?いや私は、宮殿には住んでいないよ。昔見た光景と、よく似ていると思っただけよ」
「そうですか。巫女様のことイロイロ教えてくださいね。 あっ!巫女様ここです。こちらにお入りください。」
少年はそう告げると、目の前にある大きな扉を開いた。
中には大きなテーブルと多くの椅子が対になるように並んでいた。そして壁には、本がビッシリと詰まっていた。さながら大きな図書館のようだった。
「ここが私の私室になります。こちらにおかけください。」
ルルカッタは、椅子を引き愛子を座らせた。
そしてルルカッタとルドルフは、愛子を椅子に座らせると指を鳴らした。
―――パチィン!―――
―――ギィ―――
扉が開かれた。そして茶器と共に入ってきたのは、メイド服をきた肌の青い女性たちだった。
女性達は、愛子とルルカッタ達の前に茶器を広げた。
そして紅茶のようなものを、カップに注ぎ終わり愛子たちに軽く会釈をすると席を外した。
「私たちが巫女様をお呼びしたのは、私たちの力になってもらいたいからです」
愛子はそう告げるルルカッタの声のトーンが、すこし下がったように感じた。
「この国はおじい様が、皇帝から退位されると大きく変わってしまいました」
ルルカッタは苦い顔をしながら話を続けた。
「おじい様が退位された後には、私の父アドルフが皇帝に就任しました。しかし半年前に、はやり病で父王は亡くなってしまいました。その後を継ぐ形で長兄のギンゲムが皇帝に就任すると、隣国のウィルヘイムが宣戦布告してきました」
―――ブッ!ゲホッゴホッ!―――
「えっ!戦争中なの?」
愛子は出された紅茶みたいな飲み物を口から勢いよく吐き出した。そして誤嚥た。
「はい。神人国は、私達の国を襲っています」
ルルカッタの表情は暗かった。
少年は悔しそうに噛み締め話を続けた。
「魔人族は魔法力が高いのです。そして神人国の魔法師より、魔法力の高い魔法ある程度つかえるのですが…」
少年は、愛子をみて呟いた。
「ヴィスタ帝国には魔法師の数が少なく、国の半分はすでに神人国の手に落ちてしまいました・・・」
このあまりにも現実離れした状況に、愛子の精神が追い付けず意識を失いそうになった。
そしてルドルフは告げた。
「そうなんじゃ!あきらかに魔法師が、足りないんじゃ。そこで当家に伝わる遺跡で"多次元境界強制大召喚術"をおこなったんじゃ。」
「多次元境界強制召喚術?」
愛子がルドルフに聞くと、ルドルフは力強く告げた。
「我らを守護できる存在を願い、大魔法師召喚の儀式を行ったんじゃ!すると巫女殿が、現れたというわけじゃ。じゃから巫女殿は深淵神の御使いであると同時に、わしらが望んだ護れる者なんじゃよ」
そしてルドルフは愛子の手を握り告げた。
「この国を救う為に巫女様、どうかワシらに力を貸してくだされ」
ルドルフとルルカッタは愛子の瞳をまっすぐ見つめた。
ルドルフの瞳が雄弁に語っていた。
もうすごい期待しています!とでも言わんばかりに。
愛子は思わず目を反らしてしまった。
「わ、私にそんな力無いよ。それに魔法なんて使えないし。たしかに異世界って私からすると、キタコレなんだけど!そんな期待されてもムリなの」
愛子は申し訳なさそうに、二人を見ながら自分に力は無いと告げた。
―――バァン!―――
扉が力強く開き、一人の肌の青い男性が入ってきた。
「貴様がおじい様が言っていた、深淵神の巫女か!?」
高圧的な態度で愛子を上から下まで舐めるみたいに見た男性は、腰に下げた長剣を抜き愛子に告げた。
「俺は皇帝ギンゲム。貴様!本当にアビス神の巫女なのか?我ら魔人族のような青い高貴な肌を、持たぬ巫女など俺は認めぬ。貴様、神人族の冠者ではないのか?」
愛子の顔に剣を近づけ、さらに言い放った。
「貴様が偽物なら、俺は貴様をなぶり殺す」
鬼気迫る勢いで愛子に詰め寄るギンゲム。
固まった表情の愛子は、頭の中でギンゲムの言葉を繰り返していた。
その衝撃的な言葉を突き付けられた愛子は、頭の中を整理した。
するとルルカッタが、ギンゲムに言った。
「兄王様!いきなり剣など突き付けては、巫女様に失礼ではないですか?」
突き付けられた言葉と、頬に感じた剣のヒヤリとして感触。
愛子は思った。えっ私殺される?
「それに巫女様は私達を、救ってくれるとおっしゃりましたよ?」
「えっルルカッタ君!?」
ルルカッタの言葉に愛子は驚きの表情になった。
私は何も言ってないよぉ!救うなんてひとことも言ってないよぉ!力ないよぉ!
しかしルルカッタの言葉を聞いたギンゲムは、眼を細めながら愛子見つめ言い放った。
「本当だろうな?嘘ならば承知せんぞ!ならば巫女よ、神人族を打ち倒すために力を貸せ!わかったな!」
そう告げるとギンゲムは、来た扉から出ていった。
そして愛子は思わず叫んだ!
「ファ―――ッ!?」
これは夢なのね、そうこれは夢なのよ、むしろ夢であってほしいぃぃ―――
そう思いながら油の切れたブリキのおもちゃのように、ギギギギとルルカッタの方を愛子は振り返った。
そこには笑顔のルルカッタがいた。まっすぐな瞳で愛子を見つめながら。
そして衝撃ばかりが続いた愛子は、緊張の糸が切れたのか意識が遠くなるのを感じ倒れた。
―――バタン!―――
「巫女殿!」「巫女様!」
遠くにルドルフとルルカッタの声が、聞こえたような気がした。
そして愛子が、目を覚ましたのはそれから少したってからだった。
「うーん。はっ!!」
倒れていた愛子が目を、右手で擦った。
体を起こすと目の前には、ルルカッタが座っていた。
「巫女様、大丈夫ですか?急に意識をなくされたので、びっくりしました」
愛子が意識を戻したのを確認すると、あらためてルルカッタは言った。
「先ほどは兄王様が失礼しました。神人族との戦争で兄王様は、神人族を憎むようになってしまったのです。巫女様の肌の色が神人族と同じであったのが気にくわなかったのでしょう。ですが巫女様の髪色は私たちと同じ漆黒です。」
それを聞いた愛子は、ギンゲムに対してルルカッタが告げた言葉を思い出した。
「ルルカッタ君!私一言も助けるとか力を貸すとか言ってないよねぇ!?いってないよぉ!?」
愛子がルルカッタの襟元を掴み必死の形相で、ルルカッタに告げた!
「ごめんなさい。でもああいわないとギンゲム兄さまは、おそらく巫女様を斬っていたでしょうから……」
愛子の顔から血の気が引いたのが分かった。
そしてルルカッタは続けた。
「それに巫女様大丈夫ですよ。巫女様が私たちの世界に来ていただいた時に、魂にスキルが刻まれているはずですから魔法は使えますよ」
ルルカッタは愛子に、スキルについて伝えた。
「それよりも、兄王が失礼しました」
ルルカッタは愛子に、対する兄の横暴な態度を謝った。
そしてルルカッタ達が置かれている状況と、特に危険だと考えている存在について伝えた。
「巫女様、勇者という存在はご存知ですか?」
「勇者?それってやたら強い、魔王とか倒す人のこと?」
愛子は趣味で得た知識をルルカッタに告げた。
「巫女様ご存知でしたか。もしや巫女様の世界にも勇者はいるのですか?」
「さすがにそんなものはいないよ。」
愛子がそう答えるとルルカッタは告げた。
曰く神人族には、勇者という特殊な魔法師がいるということ。
少数精鋭の魔法師部隊を作り上げたこと。
落とした街や村では魔人族に対して略奪と虐殺の限りを尽くしていること。
そして、ルルカッタは告げた。
「深淵様は我らに、この国を救う機会を与えてくださいました。それが巫女様、あなたです」
ルルカッタは、まっすぐ愛子の瞳を見つめ告げた。
「我らの神の巫女よ、どうか我らを救いたまへ」
育ちの良いショタは癒されます。
9月27日
内容を再考察し修正と書き方を変えています。