偽りの神 その2
「ヴェルニカ・ウィルヘイムは個としての永遠の持続を望んだんだ」
「それってどういうこと?」
エクス・マキナは話を続けた。
「さっき伝えたことだけど、形あるものはいつか滅びる。それはこの世の摂理だ……だがこの世界のように個が独立しているのではなく、個が永続する次元があるとしたらどうする?」
「それって……」
エクス・マキナは告げた。
「この世界は三次元だ。ここでは個は個で独立して動いているんだが、上の次元では個は連なっていると考えられていることは知っているかい?」
愛子は考えて言葉を伝えてみた。
「個は個として滅びるのはこの次元だからってこと?」
「そう。それが彼が永続する個として生きるために考えたことだ」
そしてエクス・マキナは悲しい表情で話を続けた。
「彼は自らの命が尽きる前に一度自らが作り出した人工的な生命体……真・統一演算機構を作り替えたんだ」
エクス・マキナはコンソールを叩き赤い真紅の丸みを帯びた宝玉をモニターに映した。
「これがヴェルニカ・ウィルヘイムの開発した真・統一演算機構の真核だ」
エクスマキナは指を鳴らしてラプチャアを呼んだ。
「主人、お呼びですか?」
「ラプチャア、君の真核をアイコさんに見せたいんだが……いいかな?」
「私は貴女の物ですよ。お好きになさってください」
「ラプチャアありがとう。では…」
そう告げるとエクス・マキナは改めて手元のコンソールを叩いた。
愛子たちの目の前にあるモニターには先ほど見せられたグラマナスの真核より遥かに小さな青い正方形の結晶体が浮かんでいた。
「これがラプチャアの真核だぞ。 先ほどのグラマナスの真核と比べると明らかに小さく形も色も違うだろ? ラプチャア達の真核にも人工魂が搭載されているんだぞ」
エクス・マキナは愛子に告げると手元のコンソールを叩いた。
そして次に映し出されたのは、世界地図だった。
「今の世界にはヴェルニカ・ウィルヘイム以外の者たちが作った統一演算機構が合計六体が存在しているんだぞ。」
世界地図に六箇所の青い光点が写されていた。
「青い光点が今いる統一型演算機構シリーズの居場所を移したものだぞ。 つまりラプチャア達は私達六王が力を合わせてヴェルニカ・ウィルヘイムと戦うために彼の残した技術を使って開発したものという事なんだぞ」
「ちょっと待って?ヴェルニカ・ウィルヘイムが生き延びたくて別の次元を使おうと考えたこと、自らが作った真・統一型演算機構を作り直したってことまではわかったけど、 肝心のヴェルニカ・ウィルヘイム自身はどうなったの?」
愛子は椅子から立ち、エクス・マキナに詰め寄った。
「ヴェルニカ・ウィルヘイムは今もいるぞ。その最初の統一演算機構。真・統一演算機構の中に」
「えっ?だって統一演算機構って頭脳と肉体を別に持つ人工的な生命体なんでしょ? まさかデータだけとか言わないわよね?」
「もちろん、彼はその当時の体のままいるぞ。というかデータだけなら生きているとは言わないぞ?」
エクス・マキナは愛子の質問に答えてから、ラプチャアに言付けて飲み物を用意した。
愛子が口にした紅茶のような飲み物からはオレンジペコのような芳醇な香りが漂った。
「ヴェルニカ・ウィルヘイムは真・統一演算機構の真核の重要なパーツでもある次元観測装置の中に自らの肉体を装置の要として組み込んだんだ」
「えっそれって自分をパーツにしたってこと?」
エクス・マキナは首を縦に振りさらに話を続けた。
「そして自らの魂といも言える精神体を彼が作った唯一の統一演算機構である真・統一演算機構の人工魂に対して精神融合を行ったんだ」
エクス・マキナは何かを思い出すかのように瞳を閉じた。
「それにより魂上書き処理を行った結果グラマナスの……彼女の人工魂は消されてしまったんだ」
閉じられた瞳から光るものをエクス・マキナの頬を伝った。
まるで何かを悔やんでいるかのような表情だった。
「そして彼は悠久の時を経ることに成功したんだ……しかも真・統一演算機構と言う最高の頭脳と世界を支配しうる能力を手に入れて……」
エクス・マキナはさらに言葉を続けた。
「その後、ヴェルニカ・ウィルヘイムはグラマナスの複製を作ったんだ。 それがグラマナスシリーズであり、神話時代の悪夢だぞ。 グラマナスシリーズはオリジナル以外には人工魂を持たない本当に機械みたいな物だ…そしてそれはこの地に生きる者を武力で隷属させていたんだぞ。 それこそ神の如くにだぞ」
エクス・マキナが手元のコンソールを叩くとモニターには同じ顔、同じ装備を整えた羽の生えた神人族の騎士たちが所狭しと空を掻き消すように大量に写っていた。
「ここに写っているのが真・統一演算機構となったヴェルニカ・ウィルヘイムの作り出した神の軍勢だ。 これは、私たちが……六王が最初に大戦の終結を求めて、話し合いをもった場所に現れたのを映した物だぞ」
エクス・マキナは顔を苦々しく歪ませていた。
「私たちはこの軍勢……奴らが通った後には焼けた大地が残るだけだったから、戦場では獄炎騎士団と呼ばれていた者と戦ったんだぞ……それが土門にある壁画だぞ」
エクス・マキナの表情はより一層陰鬱としたものになっていた。
「最初の戦いは……グラマナスの簡易複製体…人工魂を持たない複製だったから辛うじて私たちが勝つことができた……でもそれは、始まりに過ぎなかったんだ…真・統一演算機構は当時、私たちが破壊したグラマナスシリーズ以外の現存したグラマナスシリーズ五機を用いて軍勢を再構築し、すぐに戦いを仕掛けてきたんだ。 そしてその次の大戦で私たちは敗れた……」
エクス・マキナはラプチャアを手招きして寄越した。
「そこで私たちは真・統一演算機構に勝てるのは、複製体ではない唯一の人工魂を持つ統一演算機構だけと言うことに気がついたんだ……ヴェルニカ・ウィルヘイムの残した記録と破壊したグラマナスシリーズを必死に研究した。 そしてわかったことはグラマラスと全く同じものは作れないと言うことだったんだぞ……」
ラプチャアは愛子たちのお茶を下げた。
そしてエクス・マキナの隣に立ちアイコたちを見つめた。
「主人達は私たちを生み出すことに必死でした。そして研究の末、私たち人工魂を宿す姉妹機が六人作り出されました……でもそれは私たちの母たる真・統一演算機構よりも遥かにダウングレードされた者だったのです。それに私たちが完成したのは大戦が始まってから十年後のことでした」
「私たちはラプチャア達と共に六種族の総力戦で獄炎騎士団を半壊させたんだ。 そしてヴェルニカ・ウィルヘイムこと真・統一演算機構の本体たる赤い宝玉を次元の回廊に封じることで何とか今の世界を作ることができたんだ……」
エクス・マキナが席を立って愛子たちの前で両手で柏手を打った。
ーーーパンッーー
「さぁ今日のところは、ここまでにしよう。 今日はトゥエルブ・マキナに機都を案内してもらうといいんだぞ」
エクス・マキナはトゥエルブ・マキナに愛子達、クラン’ナイチンゲール’の街案内をさせることを思いついた。
「さぁトゥエルブ。 昨日のお返しにちゃんと街を案内して差し上げるんだぞ」
「わかりましたわ。叔母上様」
不機嫌そうな表情で半ば強引に愛子達の案内をすることになったトゥエルブ・マキナ。
そして彼女達がエンドアート城から見えなくなることを確認したエクス・マキナはつぶやいた。
「…ねぇ、ウィル……私達は頑張ったよね……今の世界に…あんな悲惨なこと起こさせるわけにはいかないよね」
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