機人国潜入 その17
ある方が登場だぞ!
コロッセオに少し高い透明感のある声が響いた。
「ストーーーーップ!! ちょっと、トゥエルブ、何やってるんだ」
愛子は声がした方角を見た。
そこには見覚えのある人物が、両腕を胸の前に組んで仁王立ちしていた。
「……来てしまいましたか、叔母上」
「もうそういう固い言い方しない方がいいんだぞ。トゥエルブ」
「あっ……マキナ……エクス・マキナ?」
愛子が見覚えのある人物の名前を読んでみた。
仁王立ちしていた人物は、愛子のそばまできて愛子を抱きしめた。
「……久しぶりだぞ…アイコさん。 あの時に会ってからそうだね……ざっと八千年振りだぞ? 元気してた?」
ケラケラと笑顔で愛子を抱きしめたエクス・マキナが愛子に応えた。
愛子の瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。
「うっ…会いたかった。 会いたかったよぉぉぉぉぉ。マキナァァァァァ!」
愛子の涙声がその場に響いた。
エクス・マキナは愛子を抱きしめ続けた。
愛子が泣きなむとエクス・マキナは両腕を愛子から解いて改めて告げた。
「ふぅ。まずは感動の再会は置いといて……トゥエルブ? ちょっとこっちに来るんだぞ」
「……はい。叔母上」
トゥエルブ・マキナがトボトボとエクス・マキナに近づいてきた。
その横を機獣もトボトボとついて歩いた。
ーーーゴィィィィンーーー
愛子たちは驚いた。
トゥエルブ・マキナの頭をエクス・マキナが思いっきりゲンコツで叩いた。
「……痛いです。叔母上」
「当たり前だぞ。 頭を思いっきり叩いたんだから!! それに私は、愛子さんが、もしこの機人国に来たら案内してきて欲しいんだぞ。 としか言ってないんだぞ?」
エクス・マキナがお冠でトゥエルブ・マキナに説教していた。
トゥエルブ・マキナの顔は先程までの凛々しさはどこに行ったのか、しょんぼり顔で今にも泣きそう出しそうだった。
「それにあんな言い方したら、まるで私が死んだみたいじゃないかだぞ!!」
エクス・マキナがさらに怒りをトゥエルブ・マキナにぶつけた。
「あれは……言葉のアヤです」
「……まだ口答えする元気があるようですね? トゥエルブ? 一度私の本気のお説教喰らいますか?」
エクス・マキナが唇を引くつかせながらトゥエルブに告げた。
トゥエルブ。マキナの表情が落ち込んだように益々暗くなった。すでに両目からは大粒の涙が溢れている。
「……ごめんなさい」
「わかればよろしい。 さて皆様。 大変心苦しい姿をお見せしたんだぞ。 ようこそ機人国へ! 歓迎するんだぞ」
エクス・マキナが右手を胸の前で曲げて頭をペコリと下げた。トゥエルブ・マキナも機獣も頭を下げた。
「エクス・マキナ殿。 お久しぶりです。 ヲルフガング様の催した宴以来ですね」
ロイエルとミッタマイヤはエクス・マキナを見ると嬉しそうに話しかけた。
「あははっ、ほんとに久しぶりだね。 ロイエルくん。 ミッタマイヤくん。 それにアビスの娘のルイカ嬢。 まるで八千年前に戻ったみたいだぞ」
エクス・マキナはにっこり笑うと三人とそれぞれハグをした。
「ところで、マキナはどうしてこの国に?」
「なんだ。 そのことか。 それはね……この国を作ったのが、私だからなんだぞ」
「へっ?」
愛子は素っ頓狂な声を上げた。
「もう、鈍いんだぞ。 アイコさん……あなたが多層次元強制召喚術の影響で次元漂流した後に、六王は来るべきに備えて国を作ることにしたんだぞ。 そして私は機人族の代表としてこの国を作ったってわけだぞ」
エクス・マキナが愛子に答えるとルルカッタのもとに立ってルルカッタを見つめた。
そして何かに気が付いたかのような表情で、ルルカッタに話しかけた。
「君が、多層次元強制召喚術を使った魔法師だね。 君も次元漂流しただろ? そして、そこのロイエルとミッタマイヤ。 それにルイカ嬢を巻き添えにしてこの時代に現れたんだね」
エクス・マキナがルルカッタを見つめて告げた。
「そうです。僕とおじぃ様が一緒にヴィスタ城の魔法装置を使ってアイコ様を召喚しました」
「マキナ!ルルくんは悪くないの!」
愛子がエクス・マキナに声をかけるとマキナはその声を静止してルルカッタに話始めた。
「いいかい……魔法師くん。 肝に銘じておいてほしい。 二度と多層次元強制召喚術を使わないことを。 あれは……禁忌の魔法だぞ。 この世界だけじゃない……重なり合う世界全てを壊してしまう可能性を秘めていることを知って欲しいんだぞ」
「わかりました。 それほど危険な魔法ということなら、僕は金輪際使用しないと誓います」
ルルカッタを優しい瞳でエクス・マキナは見つめた。
そしてルルカッタがエクス・マキナに考えを告げるとエクス・マキナはくるりと向きを変えて愛子たちを見つめた。
「よし。難しい話はこれで終わりだぞ。 まずは再会を祝してパーティーと行こうか! トゥエルブ! 愛子さんたちを私の城にお連れするんだぞ。 ただし丁重にだぞ」
「……わかりました。叔母上」
トゥエルブ・マキナは顔をプイッとしてしかめっ面でエクス・マキナに答えた。
「もうそういうとこだぞ。可愛くないのは!」
愛子たちはトゥエルブ・マキナに案内されてエクス・マキナの城、エンドアートに向かった。
その日に催された宴は、愛子たちにとってとても楽しいものだった。
エクス・マキナとガインが同じ整備師というスキルを持っていることから、愛子の義足の整備の話になり、ガインとエクス・マキナが両手をワキワキしながら愛子を追いかけ回したり、
アンジュルムとロイエルが少しいい雰囲気になってテラスに行くと、ケイトと語り合うミッタマイヤがいたり、酔っ払ってレインとアウロトお尻を撫で回して鉄拳制裁を喰らったケインがレイジィに正座させられて怒られていたり、とても華やかで可笑しくて、楽しい宴だった。
ルルカッタはこの光景を見ながら、トゥエルブ・マキナに尋ねた。
「トゥエルブ・マキナさん。 どうして貴女は最初、僕たちに戦いを仕掛けてきたんですか?」
トゥエルブ・マキナは少し考えてルルカッタに答えた。
「それはな、お前たちが忌々しい神の先兵かと思ったからだ」
「神って……それはアビス神のことですか?」
ルルカッタが尋ねるとトゥエルブ・マキナが首を振りながら告げた。
「違う……アビスは六王の一人だ。 そうではない……我らと六王の敵であり、神と名乗ってこの世界を好き勝手にした奴のことだよ…もっともそいつは今も封じられているがな。 六王の次元封印によってな」
「それは……?」
「今は分からなくていいよ。 仕方ない。我ら機人とお前たち有機体では流れる時間が違うのだ。 時が立ち、記録が薄れ神話や伝承になっていく過程で、真実が抜け落ちることなんてよくあることだ」
トゥエルブ・マキナは手に持ったキツめのアルコールを一口で飲み切るとルルカッタに伝えた。
「お前たちは当分この国にいるがいい。そして知ってくれ。 我らが…あの人がなぜあんなに必死に戦ったのかということを」
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