神聖教義会の暗躍 その1
―――カツンカツンカツン―――
薄暗い祭壇の前に置かれた椅子に腰かけた老人たちの下に、魔人族が現れた。
「我が三賢人よ、いま戻ったぞ。 この現身はなかなかの魔法力をもっておるな」
老人たちが跪き伏した。
「おおお…グラマナス様。 御身からお言葉を頂けて光栄でございます」
「ふむそれにわざわざ魔人国まで行って正解だったぞ……赤が通信で残した検体…アイコと言ったかあの娘、あれもなかなかもポンテシャルだったぞ?」
「なっ! グラマナス様! まだ調整中の御身であまりご無理を成されますと…」
「黙れ!」
その場の空気が変わった。
濃厚な魔法力による威圧によるものか、老人達は圧力を感じた。
「貴様らは、我の配下であろう? 我に意見するなどという愚かなことをするとは何事か!」
さらに圧力は強くなった。
―――ガタガタ―――
圧力が物理的な力場を形成し周囲の物を動かし始めた。
「お…お許しください……ませ…」
老人の一人が頭を下げたまま、言葉を発した。
「ふむ……まぁ良い。 その方たちにはまだまだ動いてもらわなければならないからな……」
グラマナスは威圧を解き、祭壇に拵えられた玉座に座った。
「我は、瞑想に入る。 この器をなじませねばならぬからな。 それに……」
グラマナスの左目から血の涙が流れていた。
「なっ! グラマラス様!!」
「この器……魔人族のルドルフ・ヨル・ヴィスタと言ったか……なかなかどうして……魂は封じているがこのように気を抜くとすぐに魂が器を取り戻そうと暴れよる………クカカカ! 面白い! おもしろいぞぉ!!」
グラマナスは大きな声で笑った。
まるで新たなおもちゃを手にした子供ように無邪気な笑い声が祭壇に響いた。
―――アッハッハッハ!!――――
神人国の神聖教義会大聖堂でルドルフの笑い声が鳴り響いた。
「グラマナス様、ガルドス・ルルガス、グリモア・メナス帰投いたしました」
グラマナスが顔を上げると第四騎士団のグリモア・メナス、第六騎士団のガルドス・ルルガスが
片膝をついてそこにいた。
「おおぉ……おぬしらか…我はしばらく瞑想に入る故、この我が配下を手伝ってやるが良い」
「御意…」
「御意!」
そう告げたグラマナスは玉座に座り込むと黒い魔法力で包まれた。
「黒衣の繭に籠られたようね……ところで」
三賢人と呼ばれた老人たちがゆっくりと立ち上がり一人の女性は深いため息と共にグリモアに尋ねた。
「グリモア…なぜ厄災…いや魔人族の王族たるルルカッタ・ヨル・ヴィスタを見逃したのだ? あれは第一目標だっただろう……?」
そして同じように背の高い男性もガルドスに尋ねた。
「ガルドスよ…おぬしもナゼに撤退してきた……王都を再度奪うのは至難の業だということは理解していたであろう?」
二人の神人族は答えた。
「くはははっ! あれは仕方ねぇよ。 なんせ俺の魔剣がヤツの魔法に喰われたからなぁ。 獲物が無ければ何もできまい?」
「魔人族の王…ギンゲム・ヨル・ヴィスタが軍を率いて現れたからですよ。 さすがの私でもあの数の魔法師相手は疲れてしまいますわ……もっとも…粗削りですが……私の血が滾る者がおりましたので……あの場所で始末しては、もったいないと思ったのですわぁ」
ガルドスが紅潮した顔で何かを思い出すかのように体を抱きしめていた。
「かぁ~~ガルドスの姐さんは相変わらずイカレテやがるなぁ」
「ふむ……まぁ良い。おぬしらは我らと同じグラマナス様の直轄だ…おぬしたちの行動は我らが縛れるものではない」
最も年老いた男性が二人を見ながら告げた。
「我らは新たな封印を解かなければならない…グラマナス様復活の為にもな…そこで我らが第三騎士団を……機人国に向かわせる予定だ……ガルドス、グリモア、おぬしらも同行してはもらえないか…?」
グリモアは嫌そうな顔で答えた
「あ~~俺はパスな。 なんせ魔剣が無いからな。 俺は亜人国で新たな魔剣探しが優先だ」
ガルドスは静かな笑みを浮かべて答えた。
「……いいでしょう。私は機人国に行きましょう。 ただしその部隊…第三騎士団ですか? その者達とは別行動をさせていただきます」
「……決まりだな……良かろう……では……」
ガルドスとグリモアが大聖堂から出て行くと老人たちは声をだして話あった。
「今回の襲撃で……第一、第四、第六、第八、第十騎士団は壊滅…駒を補充する必要がありますね……」
「なぁに……そのために……集めたのだ……我らに従順な者の苗床とするためにな……」
「如何にも……ははははっ……」
三人の老人は不気味な笑い声を上げていた
―――キィィパタン―――
大聖堂の重厚な扉が閉まると三人の老人はこれからのことをぼそぼそと小さな声で話始めた。
その背後にある祭壇には黒い繭と一緒ある赤い四角い石から不気味な光を放たれていた。
―――カツカツカツ―――
―――コツコツコツ―――
「あれは……ふっ」
「あいつは……」
大聖堂からでて大広間への広い廊下で二人は出会った。
「……第六騎士団のガルドス・ルルガスだな。 なぜここに?」
「あらぁ? 心外ですね、私も新たな任務を神聖教義会から依頼されたからですよ。 第三騎士団のウィズ・フィ・エダラさん」
二人の神人族の女性はお互いを牽制するかのように話した。
「時に……今日は、貴方の番犬…スラインさんは同行していないのですね?」
「彼を! 我が第三騎士団の副長を番犬呼ばわりはやめていただこう!!」
ガルドスがウィズを挑発するとウィズは腰の魔刀に手を伸ばした。
ウィズは怒りで頭が煮えそうだった。
「ふふふっ…冗談ですわ…そんな挑発に簡単に乗ってくれるなんて貴女もかわいい人ですわね」
「私を愚弄するか!!」
「ふふふっ、ああ恐ろしい。 では御機嫌よう…次は戦場で会いましょう? そこなら何もちょっかいが、はいりませんからぁ」
ガルドスはウィズに一礼をすると踵を返して廊下を歩き始めた。
ウィズもガルドスから離れるように廊下を大聖堂に向かい歩いた。
扉の前に立つ騎士がウィズに尋ねた。
「……貴女はどこの所属ですか?」
「私は第三騎士団のウィズ・フィ・エダラです。 神聖教義会より依頼がると軍務部から報告がありまして参りました。 お取次ぎをお願いします」
「承知しました……確認いたしますので……しばらくお待ち……ください」
ウイズから話を聞くと騎士はゆっくりと大聖堂の中に入った。
「……変だな? 前に来た時の騎士と同じはすだが…なにか虚ろな感じがする」
―――キィィ―――
「お待たせしました……大聖堂は剣を持ち込むことが……できません……のでこちらでお預かり……します」
―――カチャ―――
ウィズは腰の魔刀を騎士に渡して大聖堂に入っていった。
―――キィィパタン―――
「……ごゆっくり……」
入り口に立つ騎士は不気味な声で呟いた。
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