プロローグ
初めてのオリジナル小説で、多くの方に見ていただければ幸いです。ぜひお楽しみください
石で作り上げられた壁
その窓から薄く月明かりが、一人の女性を照らしていた。
女性の目の前には鉄柵が立ち、その足元には黒い石畳があった。
そして女性が見上げた先には、羽虫が蜘蛛の細い糸に掛かっていた。
女性は三角座りで、石壁にもたれながら思わず呟いた。
「私、なんでこんなことになったんだろう・・・ただ帰ってただけなのに・・・ 」
鉄柵の向こうにある鏡が、石畳に座り込んだ女性の姿をうつしていた。
女性の顔は、薄めのナチュラルメイクに桜色のチーク。
可憐な少女を思わせる、薄い桃色のリップをひいた唇。
そして白い薄手のニットと、黒い膝丈のシフォンスカート。
そのスカートからは、60デニールの黒タイツに包まれた細い足が見えていた。
足先は黒いヒールが見えた。
その近くには某ブランドのモノグラム柄トートバッグが転がっていた
トートバッグからは白い布と小さな200mlの水色の水筒が顔を覗かしていた。
「これが夢だったらいいのになぁ・・・まぁある意味では夢だったんだけど・・・
本当にこれからどうしたらいいんだろ・・・」
目を瞑った女性は、その身に降りかかった昼間の出来事をゆっくり思い出していた。
―――ピーポー!ピーポー!―――
サイレンの音がけたたましくなり響き、一台のワゴン車はその建物に入っていった。
車は赤い大型ランプが二つくるくると、回りながら周りの景色を赤く染め上げていた。
―――バンッ!―――
車は乱暴に建物の扉の前に止まると、後扉が跳ね上げられた。
車の中から中年の女性と、ヘルメットを被った男性が出てきた。
”西○寺消防”の文字がはいったオレンジ色のジャンパーを着ていた。
―――カシャン……カシャン…ガチャ…カラカラカラ―――。
ストレッチャーに乗せられた顔面蒼白な男性は、かけられたシーツには赤い染みが付いていた。
シーツをはがされた男性の右腕は、先が無くズタボロに引き裂かれていた。
長そでから赤いしずくが、ポタポタ地面におちていた。
地面に落ちたその雫は、すでに血だまりをつくりはじめていた。
男性の顔からは生気が抜け落ち、苦痛にゆがませた額に豆粒のような脂汗が輝いていた。
建物の中で白いナース服を着た女性と白衣をまとった後頭部が、若干薄毛の中年男性が迎え入れて叫んだ。
「1番に運んで、すぐにモニターつないで!、あと外科セット用意!!」
白衣の中年男性は大声で指示を告げると、傍らのナース服の女性に、むけて叫んだ。
「ソリタ1号でルート確保、採血! 血算、生化学、クロスマッチ!!」
白衣の男性の指示に対してすぐに反応した一人の女性は、指示を完璧にこなしていった。
その女性に向けて、白衣の男性はさらに指示を告げた。
「愛子君! 至急手術室に連絡を!」
「わかりました。外科の先生には事前に伝えています。オンコールナースも連絡済です!」
「エーーークセレント!!いつも完璧だね。愛子君!!」
「そんな言葉より早く、カルテ入れてください!オーダー出せないんですから!!」
「アイムソーリーだね。」
愛子とよばれた女性は髪を後ろでまとめ上げ、プラスチックのへアクリップで留めていた。
女性は薄いナチュラルメイクにほんのり桜色のチーク、薄く引かれたリップ。そして大き目で少し垂れ気味の瞳。
彼女の名前は青山愛子。
ここは岡山県の東部地区の救急患者を、受け入れる300床クラスの総合病院。
その総合病院の救急外来が、彼女の職場であった。
先ほどのワゴン車は救急要請で出動し対象者とその家族を乗せた市の救急車であり、救急車から出された男性は点滴を取るとすぐにストレッチャーで病院の中を移動した。
手術室へ入った愛子は手術室の受付スタッフに必要な情報を伝え、手術室を後にして救急外来へ戻って行った。
愛子はこの病院の救急外来で看護師として働いていた。
「愛子君、お疲れ様!」
「あっ先生、お疲れさまです。無事に手術室におつれしました。」
「愛子君はいつもクールだねぇ。あれだけ、処置に対応できるなら医師を目指せばよかったんじゃないかな?いまからでもどうだい?」
「先生、私は看護師がいいんです。それに私がいないとここ回らないでしょ?」
「ははは、いやぁ愛子君には勝てないねぇ。」
愛子はニコニコしながら、頭の薄くなった医師をあしらうと椅子に腰をかけて、自分がなぜ看護師になったのか思い返した。
私は誰かの役に立ちたい。
困った人を私ができる範囲で助けたいから、看護師になったんだもの。
その仕事を後悔なんてしたことないわ。
さぁ次の仕事がまっているからがんばらなきゃ!
そして新たなサイレンが遠くから聞こえてくると、愛子は椅子から立ち上がり、扉にむけて歩き始めた。
・・・・
一日の勤務を終えた愛子は、早着替えのマジックのように白衣から普段着に着替えた。
そして更衣室をでた。
「あっ、青山さん、今日もありがとうね」
「主任、お疲れさまです。お先に失礼します」
廊下で主任とすれ違うと軽い挨拶をすると足早に出口に向かった。
この日の愛子は、急いでいた。
今日は新作の発売日、今から向かえばたぶん初回限定版が買えるはず!
季節は秋。
夏の暑さが遠くに、過ぎ去りつつある季節。
周りの道路の街路樹も夏の青々とした青葉から、黄色や茶色の葉へ衣替えをしていた。
そして愛子は、道を歩く人をみながらつぶやいた。
「コート着ている人も増えたわね。新しく買ったほうがいいかしら。いま着れる服、クローゼットに何かあったかなぁ? あっ! そうだ、ダルトーンのジャケットをこの前、確か買ったんだっけ。明日はそれを着よう!」
そして愛子はさらにスピードを上げて、足早に駅に向かって歩き始めた。
雑居ビル一階にあるショップの前で、急に愛子の足が止まった。
目の前にはマネキンが一体、流行色のコート飾を着飾っていた。
「この金額なら買えなくもないか。よし次の給料が出たらいろいろ買おう!」
愛子がマネキンを見ていると、突如、愛子の視界が歪んだ。
「あれ?なんか、目にゴミでもはいったのかな」
その瞳には、歪んだ景色が見えてた。
目を手で擦ると愛子はつぶやいた。
「疲れがでたのかなぁ。このごろ、いそがしかったからなぁ。まさか貧血?、眩暈ならやばいかも」
愛子は日々の仕事の疲れか、貧血からくる眩暈か、など原因を、何処か医療的側面で考えていた。
しかし考えている間にも、変化は加速していった。
黒い光の粒子が、愛子の周りを覆い始めた。
愛子が後ずさると、黒い粒子も愛子と同じように動いた。
そして全身を覆い始めた黒い粒子は、点になり線となっていた。
愛子の周りをまわり始めると、愛子は恐怖に心が押しつぶされそうになり叫んだ。
「なにこれぇ! 怖い! 助けてぇ! 誰かぁ!! たすけてぇ!!」
しかしその声は消されていた、高速回転を始めた黒い粒子の勢いが増した。
さらに高速回転を続けた黒い粒子に、愛子の全身が覆われた瞬間だった。
光の消失と共に、愛子の姿は消えた。
ショーウィンドウの近くを歩く人たちは、何も気が付くことも無かった。
ただつむじ風が、吹いていた。
愛子は、体の揺れを感じた。
「おねぇさん。おねぇさん。おきてください。」
すこし幼い声と揺さぶられる感覚に、愛子は眼を覚ました。
「うん……っ、……あれ……私……? 」
愛子の倒れていた場場所は硬いアスファルトの上ではなく、薄紫色のカーペットの上であった。
愛子の目には紫の光の文字や数が、幾重にも重なった模様が映っていた。
頭が少しクラクラするけど体は大丈夫、えっとなんでここにいるんだっけ・・・
愛子は自分の身に起こったことを思い出し、背筋にゾクゾクと寒気を感じた。
そして愛子がガタガタ震えそうなときに、先ほどの幼い声が聞こえてきた。
「だいじょうぶですか?」
愛子思わず声の方を、振り向いた。
「ようこそ、我らが巫女よ。お待ちしてました。」
少し年老いた青い肌の男性が、そこにいた。
その肌を見た愛子は、自分の意識が遠のいていくのを感じたのだった・・・
9月25日
構想を練り直して、以前の内容を直しています。