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森の賢者

賢者の森、中央へ向かう俺達一行。ラミージュが地図で探りだした位置では森の中央であった。でもラミージュ曰く賢者様がいる場所は森の最奥部らしい。

先頭にラミージュ、その後ろを横一列で歩く俺達。

今回、防具も護身用のナイフも持ってきていない。あるのは、この学生カバンに入れた道具のみ。


「いよいよだな、ルンちゃん」

「ウキ」

ルンちゃんはその場で小さくジャンプした。その行為は、ルンちゃんが気合い十分だと言う事だ。

「ラミージュ様、森がこんなに静かなのはラミージュ様のお力なのですか?」

「いや、儂は何もしていない。きっと、賢者殿の仕業じゃろう」

会話を聞いた俺は、辺りを見回す。

森の奥というだけあり、草木はうっそうと生い茂る。

木々はまるで柱の様に太く。鮮やかに実った果実は宝石の様に輝いていた。

まるで、お屋敷かお城の様だ。

けれど不思議なことに、獣の声も、虫の歌も、葉が擦れる音もしない。

確かに、こんな奥まで入って何の音もしないというのは可笑しい。

「触らぬ神に祟り無し、とは言ったものじゃ。賢者殿の子らはあえて静かにしているのじゃろ」

木が賢者に合わせているというのか。

だとすれば、賢者という方は一体どれほど落ち込んでいるのだろう。

「なあ、賢者にとって森はどんな風に見えてるんだ」

「家族、親子、親友。それを焼かれたというのじゃから相当に参っている事じゃろうな」

ラミージュは淡々とした口調で言った。森への配慮だろうか、声も小さかったように聞こえる。

「怒こってたりしないの? そんな時に行っても相手してくれないかも」

と、ヨーンは心配して尋ねる。

「大丈夫じゃ、賢者殿はお優しい心を持った方。客人をほっとくなどあり得ぬよ。それに、怒ったところで賢者殿は何も出来ぬよ」

金髪を揺らす彼女の声は、どこか呆れた風にも、仕方ない風にも聞こえた。

「なあ、森を燃やした魔物って、一体どんな生き物何だ?」

「唐真様!」「トウマ!」と二人に止められる。

今ここで聞くのは確かに失礼だろう。けれど、その魔物が何なのか、または何故襲っているのか。理由を知ればどうにか出来るのではないかと思ったからだ。

失礼だったことは反省するけど。

「……知りたいか?」

「……ああ」

葉を踏みしめる音が鬱陶しい程に長い沈黙が続いた。

「……キメラ、じゃ」

ボソッっと、それほどに小さく、耳を澄まして聞かないと分からない程に低い声だった。

隣を見ると、ランとヨーンは驚愕していた。

「き、キメラですか!」

「うそ! 何で!」

「しっ! 声が大きい!」

二人は慌てて口を塞ぐ。

俺とルンちゃんはさっぱりだ。

「何故、キメラが?」

ランは、先程のラミージュと同じように声を低くする。

「それは儂にも分からん。まだキメラと断定はしていないが、合成獣の可能性は高い」

ランは思案顔になる。

一方で俺は、ヨーンに小声で尋ねる。

「なあ、合成獣ってなに?」

少し躊躇う様子を見せた後、ゆっくりと口を開く。

「合成獣っていうのは、魔物や動物が混ざって出来た怖い生き物何だよ」

説明は受けた俺だが、全然分からなかった。

混ざっているから何だと言うのだろうか。

「合成獣と言うのはな、魔王が残した最強の生物兵器じゃ」

ラミージュがヨーンの説明を引き受けた。


「そもそも合成獣とは、生き物の性質や特徴だけを取って貼り付けた様な生き物じゃ。元は別々の生き物。生物の禁忌に触れた儀式により産み落とされた悲しい存在のことじゃ」

ラミージュの言葉は重く、けれど真っ直ぐに伝えようとする。

「魔王と共に姿を消したのじゃが、稀に現れるのじゃ」

稀に現れるその生き物に、森や村が焼かれたのか。

まるで、台風か嵐みたいだ。

「――さて、話しはここまでじゃ。そろそろ着くぞ」

そういって、ラミージュはすだれの様になっているツタを通る。

俺もまた、手で払いながら通る。

そして、視界いっぱいに大樹が映る。

「すげー」

今まで見たどの樹木よりも大きく、立派だ。

枝は天を貫くんじゃないかというほど伸びていて、葉っぱは青く煌めいている。

天を支えている、と表現すれば良いのだろう。視野に収まらない程でかい。

「森の賢者殿、挨拶しに参りました」

俺が感動していると、ラミージュは進み出て服の端と端をつまみ、恭しく頭を下げた。

「……」

突然風が吹く。森に入ってから初めて吹いたな。と、思っていると。

「賢者殿、今回は人の言葉で頼みたい。それでは連れが理解出来ませぬ」

ラミージュが1人でそんなことを呟いていた。

一体、誰に話しているのか。

そう思っている矢先。

「……すまぬな、客人など滅多に来ない場所じゃ、うっかり別の言葉を喋ってしもうたわい」

年老いた老人の声がした。しかし、姿は見当たらない。

「小僧、儂の側に来い」

そう言われ俺はラミージュの側に移動する。

「賢者殿、この少年が、あなたに幸福を与える者です」

大樹に向かって喋るラミージュ。意味が分からないので聞こうとするが。

「ホッホ、見慣れぬ格好をしている。興味深いの」

と、また老人の声がした。

「……ラミージュ、賢者ってどこにいるんだよ」

「賢者殿なら、もういるじゃろう」

は? いるって、どこに。

「ホッホ、すまんのう、こうした方が分かりやすいかの」

どこか可笑しそうな笑い声が森に響く。

そして俺は、大樹を見て驚愕した。

「ワシは森の賢者と呼ばれるものじゃ、よろしくのう少年や」

目の前の大樹に、ニコニコと笑う巨大な老人の顔が現れたのだ。

「よ、よろしく」

俺は圧倒されるがままだった。

漫才出来るのか俺!?

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