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あの空に近づきたくて  作者: 巳椿によ
第2章
9/10

Ⅸ 竜とララ 1

  どれだけ走ったんだろう

さすがに息が切れ木に手を付き息を整わせる。ゆっくり呼吸を整わせ、上下する肩を落ち着ける。

  結局あの女の人は誰だったんだろう・・・

向こうは私の事を知っている感じだったけど会ったはずのない人を私が知っているはずもない。

  そもそも王妃って何・・・

意味が分からない。なぜ私があの人に怒鳴られないといけないのだろう。

  これからどうしよう・・・

本当だったらあの部屋に戻らないといけないのだけれど、あの女の人の言葉が出てくる。

  (あんたなんかが王様に会われる事させ恐れ多いというに!調子に乗るんじゃないわよ!)

  ・・・・・調子に、乗ってたのかな・・・・・・

突然この世界に来てしまって王様にも関わらずウィルは私を連れ気にかけてくれていた。

この世界の王族とのかかわり方なんて本を読んだぐらいじゃ分からない。

でも例え私がこの世界の人間でなかったとしてもあの人の言うように田舎娘の一般人であることには変わらない。だとしたら周りから見てもただの小娘が王様に普通に会って話すなんてただの迷惑でしかないのかもしれない。

  もう、このまま何処かに行ってしまおうか・・・

どちらにしろここまで闇雲に走り続けたせいで王宮も木々に隠れ何処をどう戻ればいいのかもわからなくなっていた。

いつにもなく弱気になっている自分がそんなことを思いながらも、足が進まない自分の感情に戸惑う。

あの女の人の言葉が頭の中で繰り返され地球に居た頃の嫌な記憶が思い出してくる。

はあ・・・、溜息が出る。

息はもう落ち着き、どこか投げやりの自分が訳もなく足を動かし森の中をただ歩き続けた。

何処からか微かに何かが聞こえてきた。気のせいだと思っていたそれはまた聞こえこの先に何かが居る事を示していた。

もう考える事さえ億劫となていた私はその何かに引き寄せられるかの様に足が進んだ。




 「・・・・・・・。」

しばらく歩いていたら森が開けその先に見えた物に言葉を失った。

私の身長ぐらいある大きな柵が円を描くように囲ってありかなり広いその柵は向こう側が見えない程だった。

そしてその中には何度もいろんな本に出てきた(ドラゴン)が居た。

 「ど、らどん・・・。」

あの部屋で竜の本を見つけて以来ずっと見たかった竜が今目の前に居る。

彼らは捕まっている感じではなく、どの竜も穏やかで大きな体を優雅に歩き自由に移動したり数頭で近くに集まって猫の日向ぼっこの様に寝ているのも居たりと静かな空気が漂っていた。

未だに目も前に広がる光景に驚きつつもゆっくりと柵まで近づく。

改めてこの広い柵の中の竜を観察する。

少し赤身の強い桃色の体に全身を覆った鱗が日の光を浴びて艶やかに光る。

ヘビのように首が長い事を除けば体はトカゲの様だがトカゲよりも手足は長く鱗も大きくしっかりしている。背中から延びる大きな蝙蝠の様な翼もここからでも力強く、あの巨体を持ち上げ自由に空を飛ぶのだと思うと体の内側から何かが溢れる出る様な感覚に陥った。


想像していたよりもずっと優雅でかっこいいその姿に特に何をするわけでもなくずっと彼らのその姿を目に焼き付けていた。

柵が邪魔でよく見えず少し戸惑ったが竜達は全然私の存在に気づかない。思い切って柵に足を掛けその上に座りまた彼ら見ようと顔を上げると一番手前に居た竜がこっちをじっと見ていた。

一瞬ぎくりとし身体が固まる。

  流石に不味かった・・・?

そのまま動けずにいる私に竜がゆっくりとこっちに歩いてきた。

段々土地数いてくる竜はやっぱり大きく柵の上に座っている状態でもすぐ近くまで来ると見上げた状態になった。

竜は頭を下げ、その大きな頭を私の顔に近づけ、思わず目をつむる。

一瞬その大きな口が開かれてガブリっとされてしまう想像をしてしまい背中から冷や汗が垂れる。

だがいつまでたってもそんな痛みは全く感じず逆に顔や頭など周りからフンフンと音が続き、恐る恐る目を開けと大きな鼻が視界に映った。

どうやらずっと私に匂いを嗅いでいたようだ。

特にそれ以上する訳でもなくただ荷を意を嗅いでいて、たまに耳の側とかに鼻を近づけたりするのでくすぐったい。

 『ふっ・・・くすぐったいわ。』

思わず笑みがこぼれ、地球に居た頃の言葉が出た。

すると突然の声に反応したのかずっと近づけていた頭を少し引いた。

 『言葉が分かるの?・・・・まさかね。』

そんなことを思うが何も反応を示さない竜に可笑しく思え首を振った。

 『ねぇ・・・。あなたはたぶん騎竜なんでしょ?』

そう聞いても特に反応を示さずじっと見つめる竜。

この柵に囲まれた竜を見た時からそう思っていた。

そもそもおそらくこの竜達は兵士の所有する竜のはずだ。

その証拠に視界の隅に見えていた物に目線を向けると赤い屋根の大きな宿舎がある。

たぶんあれがこの竜達の眠ったりする竜舎と呼ばれる建物なんだろう。

 『触ってもいい?』

言葉を理解しているとは思えないけど、何となくこの竜は分かってくれているような気がしてしまう。

撫でようとそっと手を伸ばすが、自分の手を見て留まる。

  ・・・・

未だにこの両手には黒い布をつけてる。あれから本を読んだりしてこの魔法の事は学んだ。

初めてこの布をはめた時はこの力を押させる高尾が出来なくて何か触るたびに焦がしたりし凍らせたりしてしまっていた。

あれからやけに馴れ馴れしいフォンフォードと名乗る男に何度か新しい物だと言われ付け替える度に手の力が出て来る事は減った。

けれど今触れようとしていたのは物ではなく生き物だ。

  もし触れて怪我でもさせてしまったら・・・

そう思うと伸ばしていた手を握りしめその手を下ろした。

 『ごめんね・・・。』

そう言って微笑む。この竜が言葉を理解しているのか分からないけど私に向ける瞳はさっきよりも優しく思えた。

すると微かに声が聞こえてきた。

竜も気づいたようで声の聞こえた竜舎の方を見ている。

私も見てみると何人かの兵士が竜舎の前に立ち何かを言っては口に何かを加え笛を吹いている。

その音に反応して柵の中に居た竜が動きだし竜舎に向かっていく。

  兵士に、竜・・・・はっ

その光景を見ていたら忘れかけていた己女の人の言葉を思い出した。

  兵士を呼ぶって・・・まさか、本当に呼んで・・・!?

そんなに私の事が気に入らなくて本当に兵士を呼んでまで追い出したいのだろうか。

だとするとこのまま兵士に見つかって大丈夫なのだろうか。

もし、暴力だとか振るわれたりしたら・・・。

  そう思うと恐怖に似た何かが渦巻き右手が冷たくなってくる。

 『・・・あなたは、行かなくていいの?』

竜舎の方を見つつも動かない竜に不安に駆られながらも声をかけるとすると私に視線を戻しじっと見つめてくる。

するとまた笛が鳴り竜が反応する。見ると一人の兵士がこっちを見ているが丁度この竜の後ろに隠れて私は見えてないようだ。

 『あなたのご主人?』

そう言うが向こうを向いたまま反応を示さないが、何となくそうだと言っているように思えた。

  この竜も他の竜と一緒に行きたいけど私が居るから動けないでいるのだろうか・・・

出来れば言っていいよって、気にしないで、と言いたいのに兵士に見つかった後の事を考えると言えずにいた。

ふと視線を感じいつの間にか下がっていた顔を上げると、竜がじっと見ていた。

何か言いたそうにしているようにも見える竜から何故か目が離せなかった。

すると竜が動き出し少し後ろに下がった。

何故そうしたのか分からず眉根を寄せ竜を見る。

 「おい、どうした?こっち来い!」

思いのほか近くで聞こえた声に肩がびくっと跳ねる。竜も少し焦っているかのように尻尾を揺らす。

ふいに竜が頭を地面に下げ片方の前足をトントンと叩いた。

  もしかして・・・ここに来てッて言っているの?

思い付いた考えを確かめるように竜を見ると竜も私を見ていた。

 「ガルグレ!どうしたんだ!」

さっきよりも近くから聞こえた声にまた驚く。多分呼んでも来ないから向こうから来ているのだろう。

グルルル・・・

ふいに竜から聞こえた低い声。

意を決して柵から降り、竜の言っていた地面に立つと大きな翼をを広げ私を隠すようにそっと覆った。




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