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主人公、襲撃者と和解する 1


 ……ああ、確かにこれは、いくら考えてみたところでわかることのない感覚だろうな。

 今まさに目の前に展開された、自分の部下とその部下が連れてきた相手――魔女をしてモノが違うと言わしめた彼の様子を見て。

 魔王と呼ばれる男は魔女の言葉を少しだけ理解した後に、内心で大きな溜め息を吐いた。



 ●




 ――久方ぶりに意識が覚醒する感覚を得た。

 瞼を開く。見覚えのある天井が視界に映り、自分の体が横になっていることに気付いて。

「……ああ、目が覚めたのね」

 その直後に響いた聞き覚えのある声を聞き、まどろむ間もなく現実を理解した。

「……失敗したかぁ」

 思わず溜め息と共に漏れたその言葉に応じるように、視界の外から笑みを含んだ声音が響く。

「理解が早くて何よりだわ。説明は必要かしら?」

 その問いかけに、反射的に否を返そうとした自分を制して。間を置くように横たえた身体を持ち上げてから視線を音源へと向けると、そこには声音から想像した通りの――魔女と呼ばれる女の姿があった。

 彼女はこちらと視線が合うと、口元に浮かべた笑みを深めながら首を傾げてみせる。

 どちらなのかと返答を待つ彼女に対して、悩んだ末に返した言葉は肯定のそれだった。

「お願いしてもいいなら、是が非でもお願いしたいところだ」

 彼女は返って来た答えが意外だったのか、一瞬だけ目を見開いて驚いたような様子を見せたけれど、

「素直で結構」

 そう言って、何かに納得するように頷きを繰り返す動作をしてみせた後で表情を戻してからこう続けた。

「あまり説明している時間も無さそうだから簡潔に言うけれど。

 結果だけを先に言えば、あなたは彼を服従させることに失敗したわよ。あなたが呟いてしまった通りにね」

 こちらの理解を肯定する彼女の言葉を聞いて、やっぱりそうなのかと納得した。だから、聞くべきことを聞くことにした。

「……被害はどの程度出たんだ?」

 この問いかけに、彼女は呆れたと言わんばかりの表情で吐息をひとつ吐いてからこう答えた。

「見てる範囲で生き残っていたのは、あなた以外だと一人だけだったんじゃないかしらね。それが今も生きているのかどうかは知らないけれど」

 彼女からの回答には、そうか、という言葉しか返せなかった。

 なぜならば、頭が次の思考に移っていたからだった。

 被害に対する対応をどうするか、ということも考えなければならないことのひとつであるが、それ以上に考えなければならないことがひとつあった。

 それは――

「なぜ失敗したのか」

 思考を先取りするように響いた彼女の声に、気づかないうちに外れていた視線を戻して見れば、彼女は続けてこう言った。

「それは、今のあなたじゃあいくら考えたところでわからないでしょうよ」

 どういうことだ、という問いかけは口に出来なかった。

 ――ぞわりと、背筋を走った悪寒に閉口してしまったからだ。

 そして、この感覚が大規模な魔術の行使に伴う現象であるとわかったときにはもう遅かった。

「実際に彼のしていることを目にしなければ。いくら説明したって、頭だけで考えてみたって、あなたが納得に至ることは無いでしょうね」

 彼女はそう言い残して、この部屋から姿を消してしまっていた。

「…………」

 意味深な言葉だけを残して立ち去った彼女に対する困惑や苛立ちが湧いてきたものの、その感情に構っている暇も無い。

 魔術行使の気配を感じてか、にわかに部屋の外が騒がしくなってきている。

 誰が魔術を使ったのか、なんてのは明白で。誤った対応をすれば事態が悪化することだけは目に見えているのだ。

 ……指示を出さなければな。

 これ以上の失敗は許されない。許してはいけない。

 自分に言い聞かせるように強くそう思って、指示の内容を考えながら部屋を出た。




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