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主人公、少しだけ胸の内を明かす 1-2


 ……我ながら、なかなか良い例えだと思ったんだがね。

 どうやら気に入らなかったらしいと、彼女の反応を見て苦笑しながら空いたコップに酒を追加する。

 続けて考えるのは、彼女の問いかけと自分が示した答えについてだ。

 ……まぁ的外れなことは言っていないはずだけどな。

 使用した表現こそふざけてみせたが、本質的にはそういう話なはずだった。

 普通の、大半の人間は、金がかかるから夜間にわざわざ何かをするという選択肢を採らない。消費に見合う成果が見込めないことが多いからだと考えれば、それは至極真っ当な行動ではあるだろう。

 しかしそれは、裏を返せば、金を持っている人間なら必要に応じて夜間に活動ができるという話でしかない。

 そして金を持っている人間というものは、おおむね投資や投機に躊躇いのない人間であることが大半である。それが金を持っているから躊躇う必要がないのかどうかは定かではないけれど。いずれにせよ、そういった連中は何か行動を起こすときに金を使うことを厭わない。

 なぜなら、彼らはそこで使った金以上の利益を勝ち取る算段、あるいは自信があるからだ。

 とは言え、夜間という大半の人間が動かない時間に動くことだけでは、他者を出し抜くことはできない。他者に先んじて利益を得るためには、他にいくつも必要な要素がある。

 その中で最も重要なものはなにかと言えば、おそらくは情報の秘匿性を確保できる環境だろうと、そう思う。


 ――ここで起こったことは誰も話さないし、話せない。

 ――ここに資格なく近づく者は排除され、資格を持っていようとも、暗黙の了解を破る者には地獄を見る羽目になる。


 これらが保障される場を用意できてはじめて、自分以外の誰かを含めた話を進めることが可能となるのだから、当然と言えば当然の話ではあるのだろう。

 だからこそ、彼らは持っている金を投資してそれを作ったわけだ。

 一定の決まりごとを強制できるだけの実力を備えた人材を揃え。内緒話をするのに適した場所を整え。互いの目的を達成するためにこの場を利用し続けることで、それらは本物であるという実績を積み重ね続けた。

 ゆえに、そうやって出来上がった、権力者たちが他者を出し抜き利益を独占するために作られた場所というものは、人の集まる場所であればどこにでもある。

 そのひとつが、まさにここだというだけの話だった。

 ……やってることは、ガキの頃にやった秘密基地作りそのものだよなぁ。

 違いがあるとすれば、金のかけ具合くらいのものだろう。

 ただ、金がかかっているだけあって、この場に用意されたものや提供されるものは一級品だけだ。加えて、そこらの宿屋では絶対に確保できないレベルの安全性も兼ね備えている。

 利用するための料金もとんでもない額にはなるが、大事の前に気を抜いて休憩するにはもってこいの場所ではあった。

 ――まぁ長々と考えてしまったが。

 結局何を言いたいかといえば。

 この街で一番高い酒場で過ごすという言葉に嘘はなく。この場所が、いい大人が年甲斐もなく作り上げた秘密基地だと例えたことも間違ってはいないという、それだけの話である。

「…………」

 そこまで考えたところで、内心で納得の頷きをしながらコップに注いだ酒を一口含んだ。

 ……高い酒はやっぱり味が違うよなぁ。

 世界が違おうとも変わらないものというのはあるものだと、そんなことを考えてから口に含んだ酒を飲み込んで。胃の中が熱くなるような感覚を楽しみながら吐息をひとつ吐く。

 そして、つい外してしまっていた視線を彼女の方に戻してから、

「まぁここがどういう場所だろうが構わんだろう。あんたは俺を見つけることができた。要はそれだけの話だ。

 ――ただ、重要なのはそこからだよな?

 そこまでして聞きたいことがあるとは驚きだが、今は気分がいい方だ。酒も入っているしな。だから、こちらの答えがどこまで確からしいか怪しいものでも問題ないのであれば、話してみるといいさ」

 そう言って、コップの中に残った酒を一息で飲み干してやった。


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