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幕間:ある魔王の呻吟 1


 ――忙しいときほど厄介事が積み重なるな。

 乱入者によってにわかに騒がしくなった周囲の状況をよそに、男は疲れたような吐息を吐いた。





 世の中というのは、そこに所属する様々な人間がそれぞれの仕事を果たした結果によって回っている。

 その仕事の中には、欠けてしまうと社会が立ち行かなくなるものもあるだろう。

 ただ、それはその仕事を果たす誰かが必ず必要なのであって、その誰かが特定の人物である必要はない。

 だと言うのに、処理しきれないほどの仕事を抱える人間がなんと多いことか。自分のことだけど。

 こうなってしまう原因は他人を信用していないからなのか、それとも、それだけ周囲に必要とされているからなのか。

 ……あるいは、他人にわかるように説明するのを面倒臭がっているからかな。

 どれも理由としてはもっともらしいが、主な理由はおそらく最後に思いついたひとつだろうと、そう思う。

 後々のことを考えれば、他人に仕事を振れるようにしておく方が明らかに楽だというのに、人間という生き物は、目の前にある慣れていない物事に対応するということについては怠け者になりがちだからだ。

 ……いつまで経っても進歩しないと言われるわけだな。

 そんなことを考えて、思わず笑ってしまった。

 例え技術が進歩して楽に生きられるようになったとしても、その本質が変わらないのであれば人間という生き物自体が進歩しているとは言えまい。

 だからきっと、これから先もずっと。

 いつまで経っても最近の若い者はダメだと不平を言い続ける大人と、それにただ反発するだけの子どもがいて。

 誰かがやってくれるだろうと期待して何もしない馬鹿は消えず――そして、隣人とは肌や思想の違いで争いを続けているのだろう。

「……疲れているな」

 益体のない思考から突拍子もない上に壮大な結論に至っているあたり相当だ、と無駄に回ろうとする思考を無理やり中断して、思考による熱を吐き捨てるように大きな溜息を吐いた。続く動きで目頭を押さえながら脱力し、椅子の背にもたれかかって天井を仰ぐような姿勢をとる。

 そのままの姿勢で固まることしばし。

「…………」 

 何も考えないように努めることで多少熱が引いた頭を使って、自分のしていた思索、その過程を遡ることにする。

 さて、自分はいったい何について考えようとしていたんだったか。

 ――ああ、そうだ。なぜこんなに忙しいんだと、積み上がり過ぎて全然終わる気配のない仕事の量から現実逃避をしていたんだったか。

 思索の開始地点を思い出して、その内容に苦笑した。

 それは、冷静になった頭で考えればあまりにも簡単に結論が出る問題だったからだ。

 組織、というか国の頭になれば仕事量は当然増えるし。

 なにより、現状においては、他人に任せたくない仕事ほど確認しなければならない書類の量が多い状況なのだ。

 要は、自業自得だということである。

「王様ってもうちょっと楽に暮らしてるイメージがあったんだがなぁ。実際になってみると随分と違うもんだ。

 ……やると決めたことが、一番面倒な案件になっているせいもある気はするけどな」

 人生ってのはなかなかうまくいかないもんだ、とうんざりしながら吐息を吐いた後で、姿勢を正して視線を目の前にある机の上に戻す。

 随分と遅くまでかかってしまったが、今日の仕事における残件はあと少し。もうちょっと具体的に言えば、片手で数えられる程度まで減っている。

 また明日になれば数えたくなくなるほどの、いっそおぞましいと表現したくなるような量がやってくることがわかっているので素直に喜べないところもあるけれど。

 まぁ今日は今日、明日は明日だ。明日のことは起きた後の自分に任せるしかないので考えません。

「…………」

 疲れは当然抜けていないが、気分は少しマシになっている。

「――よし、休憩終わり。はよ終わらせて寝よう」

 自身を鼓舞するために、あえて思った内容を口にしてから、作業を再開するべく書類を手に取る。

 しかし、そうは問屋が下ろさないということか。

 作業を再開しようとした、まさにその瞬間に――大きな音が室内で発生したのだった。


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