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主人公、追手に見つかる 3-1


 ――帰り道ではよくよく気をつけることだ。

 別れ際にもらった彼の忠告はこの状況を予期したものだったのだろうかと、彼女は意識が落ちる直前にそんなことを思う。






 この街にやって来てからずっと一日中街中を駆けずり回っていたお陰か、思っていたよりはあっさりと彼を見つけることができた。

 彼を見つけたいと思っていたし、ここに居る可能性が高そうだと見当をつけて来たのは確かなのだが――正直なところ、見つからない可能性の方が高いと踏んでいたから、彼の姿を見かけたときには一瞬だけ夢じゃなかろうかと疑ったくらいだ。

 まぁすぐに、呆けている場合じゃない、と思いなおして彼に駆け寄ったのだけど、

「――見つけた! ついに見つけたわよ!」

 その最中に思わずこんな大声をあげてしまったことは、我ながら失敗だったと言わざるを得ない。彼が私の声を聞いて逃げ出す可能性も十分にあったし、何よりも、周囲からの視線が集まって冷静になるとすごい恥ずかしいったらない。

 幸いにして、私の声を聞いて彼が逃げ出すということもなく、無事に捕まえて話をできる状況にまで持っていけたが、一歩間違えれば折角の機会をふいにしてしまう可能性もあったのだ。私と同じ状況になれば誰だって少しばかり気持ちが高揚してしまって似たようなことを絶対する、なんて考えも頭を過ぎったけれど。反省する気持ちもこめつつ、落ち着いて、冷静に、という言葉を頭の中で何度も復唱しておくことにする。

 彼に声をかけた後、さてどうやって私が探している相手――つまりは城から逃げ出した元勇者であることを認めさせようか、などと考えていたんだけれど、こちらが何かしら特別なことをするまでもなく、彼は自身が私の探している相手であると認める言葉を口にした。

 てっきり誤魔化されたりするものだと思っていたので肩透かしをくらったような気分になったが、彼はこちらの気分を知ってか知らずか、特に動揺したりする様子も無く、軽い調子で場所を移したいと提案してきた。

 こんなに注目を浴びながら話をしたいとは私も思わないので、彼の提案に素直に頷いて、彼の後を追うように街中を歩いていく。

 微妙に居心地の悪い沈黙はできればどうにかしたいと思ったけれど、適切な話題があるわけでもないので黙って耐える。

 そして沈黙に耐えつつ、現実逃避気味に歩きながら考えることは、酒場に入ってから行うだろう彼との会話についてだ。

 ……どうしたものかなぁ。

 王から出された命令は二点。

 ひとつは、預かっているお金を彼に渡すこと。

 私を使いに出すきっかけのようなものであり、渡してしまえば終わる内容なのでさほど重要ではない。

 重要なのは残りのひとつ。

 彼の所在を把握し、国に報告する方だ。

 ひと一人の所在を追うことの難しさは既に体験しているので十二分に理解しているつもりだ。それはもう、骨身に染みるほど、と言っても過言ではないし、正直二度とやりたくないです。

 だから、彼に同行させてもらえるように話を持っていかなければならないのだが――まず間違いなく断られる案件であることは、考えなくてもわかることだった。

 彼は城から逃げた身だ。その理由は私にはわからないけれど、それが国そのもの、あるいは国に関することである場合、その国から出された追手である私を受け入れたいとは思わないだろう。

 そうでなくとも、追手だとわかっている相手につきまとわれて、いい気分でいられる人間は絶対に居ない。少なくとも私は御免だ。追手になるのも嫌だったんだけど、それは置いといて。

 今後の私の実生活および精神衛生上の平穏を保つためには、自分の同行に同意させるのは必須事項だと言っていい。

 ……できれば体を売るのはやめておきたいのだけど。

 最悪それも考えなければならないかな、と心の中で溜息を吐いた。





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