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ずっと、違和感を感じて生きていた。

 ずっと、違和感を感じて生きていた。色々な物に馴染めず、執着も湧かず、子供心に根無し草を自認していた。


 時折、どうしてここにいるのだろうと、ふとぼんやりたたずんでしまうこともあった。家族からも飄々としていると評された態度が一定の距離感と疎外感を作り出して、積極的に虐められていた訳ではないが、明らかにいつも周囲から浮いていた。


 話題がないので、ろくな友達も出来なかった。アイドルにもアニメにもお洒落にも異性にも興味がなかった。かろうじて興味があったのは音楽と読書だったが、それも同世代の趣味からは著しく外れた趣味をしていて、結局、趣味の合う友人などできなかった。


 それでも習い事や部活動はしたので、連絡事項をやり取りする程度の関係だったが、それに関係した知人ならゼロではなかった。小学校では剣道、中学校ではアーチェリー、高等学校ではフェンシング、大学では乗馬サークルに入った。一通りのものをやってみたくて、長く続けた活動はない。

 唯一続けた習い事はリュートだけだ。部活の他に始めるには、楽器が高すぎて小遣いを貯めるのに時間はかかったが、滅多に何かを望まない娘の我儘を理解し許してもらえた。

 どの部活動も習い事も、それぞれを選んだ理由ならある。それこそが、私が地に足がついていないと言われる所以だった。


 私が好きだった本の趣味は、いわゆるファンタジーと言われるジャンルだ。それも翻訳物がほとんどで、むしろ古典と言ってもいいような世界各地の民間伝承を読むのが好きだった。そんな物語にどっぷりと浸かっている間だけは、自分が生きているように思えていた。それで、物語の中の人物と同じ事をしてみようと思って部活動を選んでいたのだが、結局のところ、現実は物語とは随分違う事を再確認させられた方が強かった気がする。リュートもそうだ。吟遊詩人になれるでもなく、内容としては小洒落た教養といった方が近かった。一応、勉強はある程度出来た。けれど、特別よくできた訳でもなく、物静かなのも手伝って、手のかからない生徒の側に分けられていた程度の事だった。


 恋人も、出来た事がなかった。そもそも、同性とも会話が成立しないのに、異性と話す機会など、あるはずもなかった。まったく興味がなかった訳でもなかったが、自分には起きない奇跡なのだろうと、初めから諦めていた。乗馬服一式で馬場にいたりすれば、ある種の同性から、男性とは違う扱いで観賞対象にされる事もあった。つまり一言で言って、私はあまり女らしい外見をしていなかったのだ。当然、恋があちらからやってくることもなかった。



 その日は、大学対抗の試合を控えたサークル合宿の最終日だった。これが御前試合ならもっとやる気が出るのだけれどと思う一方、戦争に駆り出されるのではないことを僥倖に思うべきかなどと、やはり現実離れした妄想を抱きつつ、黙々と練習していた。馬場があるのは避暑地として有名な高地で、景観の良いのんびりとしたよい合宿地だった。いつも、こんな緑の多い場所に来ると、どこかで期待してしまう。あの茂みの陰から、妖精が現れたりはしないだろうか。あの山の向こうから、悠然と翼竜が姿を現したりはしないだろうか。もちろん、あり得ないことだとわかっている。けれど、あったらいいなと、思わずにはいられない。卒業旅行はアイルランドに決めている。かの国では、未だに妖精が信じられているという話だ。馬上で、抜けるような夏の空を見上げ、眩しさに目を細めた。


 突然、複数のつんざく叫びが響き渡って、動揺する馬をなだめながら、馬首を巡らせ、騒ぎの方を見る。口々に危険を叫ぶ声。事情を知ろうと軽く走らせ近寄っていくと、車道に立ちすくむ幼い子供に、気づかずに飛ばしてくる自動車が視界に飛び込んできた。咄嗟に踵を入れて駆け出したとき、私は何も考えてなかった。あっという間にその場が近づき、全身を乗り出して、曲芸宜しく子供の腕を無理矢理引き上げて、あまりに首尾よく行った事に、一瞬、気が抜けた。


 あ。と思った時には、遅かった。幼いとは言え人一人分の重さを支えきれず、駆け抜ける勢いに弾かれ、一気に体勢が崩れていく。

 落馬には慣れている。とにかく、小さな頭を守ろうと抱きしめて、普段ならあり得ない角度で落ちて行く衝撃に備えた。

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