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第53話 ネタバレはつまらないからやめてください

「うわあああああああ!?」


 と、大きな声で驚いたのは……私だった。イベントとか全部知ってるわけだけど、振り返って急に人がいたらだれだって驚く。


「えっ、あれっ?」


 一番驚くべきエリアが反応に困っている。ラーくんはそれを見てにっこりと笑う。


「みなさん、初めましてボクは――」


「ああ、この子、ラーくん。エリアが森で拾ったドラゴンの子供。人間に変身することができるの。ここはドラゴンの聖地なんだけど、エリアに伝えることがあって連れてきたの」


 気を取り直して、台詞を全部先取りした。いま驚いたやつが急にぺらぺらしゃべるものだから、みんななにこいつみたいな目をしてる。〈神祖竜〉の巨体に驚くタイミングすら失っているようだ。


「ボクの言うことなくなっちゃった……」


 ラーくん(少年体)も悲しそうである。だが、リリーさんは止まらない。


「えーとね。みんな、あれ見て、あれ。あそこのドラゴン。〈神祖竜〉って言うんだけど、あれがこれからエリアに勝負を挑んでくるから。といっても、単なる力試しみたいなものだから気にしないで。でも、エリアは負けちゃダメよ。魔術は使えないけど、信仰の力は使えるからがんばってね」


「どういうことなんです!?」


 必要なことは全部説明したから、それ以上の追加情報はなかった。


『女神の巫女たちよ……ここまで来たようですね』


「なんだこの声は!」


「どこから聞こえてきますの!?」


「ああ、あの〈神祖竜〉の声よ。眠りながら、精神体で私たちに呼びかけてるの」


『我は始原の竜――』


「〈はじまりのもの〉。あるいは人間の言葉で〈神祖竜〉でしょ。知ってる、知ってる。〈シャドウ・ドラゴンロード〉との戦いで傷ついて眠ってるんでしょ」


 ちなみにこのダンジョンで魔術を使うと吸収されてしまうのは、〈神祖竜〉の肉体回復に使われるからとかなんとか。


『ヒトの娘よ、なぜそれを……』


「全部知ってる。けっこう時間押してるから、細かい話省いてくれない?」


 私は手首の腕時計(付けてない)を指さした。スケジュールがタイトでケツかっちんなのである。なぜならこの神殿内で罠を探すのに手間取ったからだ(罠だらけのはずだが実際にはふたつしかなかった)。暗くなるうちにクルーザーに戻らないと。


『我には伝えたいことがある――』


「ああ〈シャドウ・ドラゴンロード〉がそろそろ復活するんでしょ。でも、それを教える前に、エリアが聖女にふさわしいか力試しすると。さっさとやってくれる?」


『――知っていたのか』


「全部ね」


「ふうむ」


 と、アレン王子が考え込む。


『確かに、あやつ〈影を操るもの〉は目を覚まし、ヒトの国を襲うことになろう。汝らが知っているのなら、我からもう言うべきことはない』


「それじゃ困るのよね。ちゃんと力試ししてくれないと。早く戦って」


 じゃないとスキルとかアイテムとかゲットできないわけですし。


「ふひゃっ!? 私が戦うんですか!?」


「だって聖女でしょ」


「ずるいですわ! 私も聖女を目指しているのよ!」


「では、私も」


 マルグレーテに加えてマリスさんまで前に出る。


「たしかにエリアだけというのは不公平かもね。アレクサンドは?」


「聖女は無理かしらネ」


「じゃあ、こっちの三人で頼むわ」


『う、うむ……』


 実にぐだぐだのボス戦らしきものが始まった。霊体であるドラゴンと、エリア、マルグレーテ、マリスさんの戦いだ。予定と違って三対一だから〈神祖竜〉が一方的に攻め立てられてるな。


『あれ……なんでこんな珍しいところに?』


(!?)


 ――いま、なんか知ってる声が聞こえた気がする。


『ありゃっ、ユリカまでいるじゃん。どうしたの』


 急に聞こえてきた謎の声。それは、はたしてエルシスであった。


(なんで、エルシスがいるの!?)


『それはこっちの台詞。そこ、ヒトが入ったのは1000年ぶりくらいよ』


 そうなのか。


(――私たちは〈神祖竜〉に〈シャドウ・ドラゴンロード〉の話を聞きに来たの)


『〈神祖竜〉って、〈はじまりのもの〉のことか。懐かしいなあ』


(来年の秋、〈シャドウ・ドラゴンロード〉がエリスランドに攻めてくるのよね。エルシスもちゃんと援軍に来てよ)


『えー、面倒臭い。〈シャドウ・ドラゴンロード〉って、要するに〈影を操るもの〉のことでしょ。根暗で気持ち悪いんだよね、あいつ。あいつとだけ子供作らなかったら切れちゃってさ。他のドラゴンと大げんかで封印するのしないの大騒ぎ』


 生々しくてえぐい話が出た!


 もしかして、神話時代の戦いや〈大進軍〉の原因ってエルシスなんじゃ!? 女が争いの種になる。古今東西そういうものかもしれないが。


(ねぇ、なんでこの神殿にエルシス関係のものが置いてあるの? ここって竜の聖地なんでしょ?)


『あー、つまりね。そこはモトカレの家なわけ』


 モトカレねぇ……


『初めて入ったとき、水浸しになって流されたからびっくりしたわ』


 エルシス、罠にかかってる! 一人なら通れるはずだけど重いのか? そもそもサイズが人間とは違いそうだが。


『一時期、そこで〈はじまりのもの〉と一緒に住んでたの』


 ドラゴンと同棲してたのか……


『一晩くらいね』


(一晩は一時期って言わないよ!)


『子種さえもらえば、男は用済みよ!』


(下品な話はやめて!)


 表にあった「蛇に巻きつかれる女神」のレリーフは、もしかしてメタファーでなくそのままか。想像したくねぇ。


『情報をもらうだけだから! いかがわしいことじゃないから!』


 生命の情報って遺伝子のことだよね。遺伝子ってことはやっぱりそういう……


(ねぇ、ひょっとしてラーくんって、エルシスと〈神祖竜〉の子供だったりする?)


『ラーくんって、そこの子? ……あー、アタシと〈はじまりのもの〉の孫だね』


(うわあ……)


 エルシスから始まったキャラクター多いなあ。全員親戚みたいなもんだ。しかし、ラーくんがエルシスの孫と思うと小憎らしくなってきたなあ……


『ちょっと! ちゃんとかわいがりなさいよ!』


(自分でやりなよ、おばあちゃん)


『おばあちゃんはやめて!』


 なんてことを言い合ってるうちに勝負はついていた。


『――認める。女神の聖女として認めるから勘弁してください』


 息も絶え絶えの〈神祖竜〉。口調まで変わっている。こいつ、女に弱いのだろうか?


『〈はじまりのもの〉、久しぶりね』


『げぇっ!? 〈愛をばらまくもの〉!? なんで!? あれからもう二度と来てくれなかったのに!』


『元気そうじゃない』


(いや、どう見ても元気じゃないから……)


 〈神祖竜〉さんの本体は台座の上でぐったりしている。


(そうだ。エルシス、この人、癒してやってよ。そんで〈シャドウ・ドラゴンロード〉倒してもらおう)


『おお、それはいい!』


『無理。やるとしたら10年くらいかかる』


(なによ、役立たず!)


『男の喧嘩に首を突っ込む気はないよ』


 なんかいい女っぽいことを言うエルシスであった。


『というか、アンタ、〈影を操るもの〉に負けたんだって? 情けないったらありゃしない』


『違うって! あいつの力を封印したから俺の勝ちだって! あいつがいまさら目覚めてもたいした力使えないって!』


 もはや、〈神祖竜〉さんは威厳のかけらもなかった。こいつらにつきあってたら日が暮れそうだ(リアルで)。


「――それじゃ、お宝もらって帰るから」


 私は巨竜の祭壇の周囲をぐるりと回る。


 すると、もっと小さいサイズの祭壇があった。ご神体である竜に供物を捧げるためのものか。石でできた横に長い台である。


 載せられているのは装身具のたぐいだろうか。もうぼろぼろで財産的にも歴史的にも価値はなさそうなものばかり。生け贄なのか朽ちた動物の骨のようなものまで見受けられる。


 その中から私は目当てのものを引き当てる。


「【光の聖剣】【聖女の印】ゲット!」


 剣と聖印である。かつて愛の女神の女性神官戦士(聖騎士のプロトタイプ?)が使っていたものだ。彼女はここに愛用の武具を奉納したのだろう。


「わっ、ずるいです、リリーさん! 私が倒したのに!」


 と、エリアが食いついてきた。愛の女神系のアイテムだからほしいのだろう。


「エリアが【光の聖剣】使っても意味ないでしょ! 聖属性に聖属性重ねることになるんだから。聖属性の敵が出てきたら、ほとんど効かないよ!」


「聖属性の敵ってのはなんです?」


「さあ」


 神や天使の軍団とでも戦うことになるのだろうか? 今度の敵はエルシスだ!


『そんなことしないから! 争い関係全部嫌いだから! 生命を減らしたりしたら殺すよ!』


 まだいたのか、エルシス。戦争ばかりしている愚かな人類を攻め滅ぼしにきそうな台詞を発しているが……


「そうだ、この剣と交換しましょう」


 私は【濡烏】を差し出す。私が聖属性の武器を持ち、エリアが闇属性の武器を持てば、多様な敵と戦える。


「リリーさん、それお師匠様からもらったと言ってなくて?」


 あんな多島海アーキペラゴでバカンスしてるような師匠のことはどうでもいいのだ。


「これ、なんか黒いのが出てきて気持ち悪いんですけど……」


 結局、【光の聖剣】【聖女の印】もエリアに取られてしまった。まあ、どうせ属性制限で私には使えなかっただろうけど。


「二人とも直接斬り合いしないからどうでもいいでしょう」


 とは、マルグレーテのコメントである。


 言われてみると私は〈投げる〉連打だし、エリアは〈女神の癒し〉連打であった。私なんて投げてばかりで〈投げる〉スキルがレベル5にアップしたくらいだからね。このあと上級スキルに進化するのかな。


 まあ、なんて話はいいとして。


「それじゃあ帰りましょうか」




 せっかくイベントシーンをスキップしたというのに、空はもう暮れかけていた。これが夏でなかったらとっくに日が落ちていたかもしれないね。地平線近くまで見えているから、完全な日没までまだ時間はある。


 学生証のマップ機能を確認しながら、急いでクルーザーまで戻る。最後のほうは真っ暗になってしまったが、明かりで足下を照らしながらどうにかたどり着いた。


『遺跡での調査終了。王冠は本物と判明した。繰り返す、王冠は本物』


 クルーザーからアレン王子が王宮に暗号を打電する。この暗号文の意味はだいたいおわかりいただけると思う。〈シャドウ・ドラゴンロード〉が目覚め、〈大進軍〉が起きると確認されたのだ。〈神祖竜〉に直接聞いたのだから間違いはない。


「やれやれ明日から大変だな」


 ラウル先生はラウンジのスツールに座り込む。


「ええ、そうですわね」


 私は相づちを打った。


「〈ケストラルの水上都市〉までは移動に時間がかかりますから」


「おまえ、まだ遺跡に行くつもりだったのかよ!?」


「えっ、当たり前でしょう? ちょうどこの先ですし、こんなクルーザー引っ張り出せる機会そうありませんから」


「ふむ、この人数と装備なら比較的短時間で探索できるかもしれませんね。ちょっと試算してみましょうか」


「やめろよ! 絶対にやめろよ!」


 我々が〈ケストラルの水上都市〉に行ったかは……ご想像に任せることにしよう。



             ■



 夏休みが終わり二学期が始まる。


 始まったのだが……


 ザッザッザッと、王都にブーツの音が響く。


 市民たちが何事かと驚いた目を向ける。


 王宮の正門前。かつてエリスが閲兵を行ったという「聖騎士の広場」である。当時、まだ小さな城塞に過ぎなかった王都から、エリスは兵を進めた。モンスターと戦うために。


 今日、集っているのはエリスランド学園の騎士候補生たちであった。全員が一年生だ。そして全員が薄汚れた制服に、強化された実用的な武具を身につけている。


「パレード・レスト!」


 先任曹長のエリア・シューシルトが怒鳴りつけると、中隊は止まった。50名以上の候補生で編成されたエリスランド学園リリー訓練中隊、通称「黒百合隊」である。


 中隊の戦力は、約2個小隊。


 第1小隊、通称「金牛」は戦力の中核をなし、第2小隊、通称「大根」は独立した任務を得意とする。


「アテンション!」


 隊員たちが私のことをにらみつけた。単なる学生といえど、幾度も死線をくぐってきた猛者たちの目つきは鋭い。


 前に出た私――キャプテン・リリーは、ティアドロップ型のサングラスに、くわえたコーンパイプという姿だった。前者は敵の弱点を発見してクリティカル率を上げる【千里眼鏡】、後者は幻覚の煙を出して敵の攻撃から身を守る【パフ・バフ】である。


「諸君! 我が隊はこれより王宮への強襲を行う!」


「サー、イエス、サー!」


「サーじゃない!」


「レディ、イエス、レディ!」


 えーと……


 なんでこうなったんだっけ?



ステータス


 リリー

 レベル 20

 名声 544

 HP 150/150

 SP 154/154

 スタミナ 100


 体力 50

 知力 61


 剣術レベル 7

 魔術レベル 6

 信仰レベル 3


 スキル 疲労回復 LV.2

     リジェネレーション LV.2

     投げる LV.5

     指揮統制 LV.5

     シャドウ・スラッシュ LV.4

     コールド・ブレード LV.1

     ブレイズ・ブレード LV.1

     回避 LV.1

     強打 LV.1

     軽業 LV.1

     罠感知 LV.1

     敵感知 LV.2

     探索 LV.2

     忍び足 LV.2

     影を操るもの LV.2

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