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第44話 略奪者

 ミニゲームである。


 突然、ミニゲームがはじまる。


 旧来式のコマンド選択型RPGといえば、反射神経を必要とせず、ゆっくりとプレイできるのが売りでありお約束だと思うのだが、なのに、いきなりアクション式のミニゲームがはじまるんだよ、このゲームは。


 『乙女の聖騎士~エリスランド学園青春記~』は!


 ここだけな!


 〈ピックレー火山〉の最後にまで来ると急にだ!


 RPGにミニゲームって流行ったのだいぶ前だろ!


 作ったやつ出てこい!(ファストゲームス社の巌生Dです)


 ……まあ、夏休みのイベントとして特別感を出そうとしたのだろう。ボス戦の代わりに、豪華景品付きのミニゲームが遊べると聞くと、そう悪くないようにも思える。


 だが、このミニゲーム、本当に突然始まる上、なんの説明もないのでわけがわからない。「どうせダンジョンはオートで進むから……」なんて探検中に携帯でも眺めていると、始まってすぐゲームオーバーである。


 ミニゲームの具体的な内容はこうだ。


 寝ているドラゴンを起こさないようにお宝を拾って持ち帰る。キャラがドラゴンの巨体に当たるとそこまで。なぜか飛んでくる鼻提灯の泡に当たっても終わり。シューティングゲームに近い感覚かな。敵や弾を避けて移動しお宝を取ってくるというシステムである。拾ったお宝はランダムで決定。ラウル先生やセナくんなど、〈忍び足〉〈探索〉を持っているキャラには、レベルに応じたボーナスがある。


 この話だけ聞くと、面白そうと騙される方が出てくるかもしれない。ところがこれ、とんでもないクソゲーなのである。


 まず操作性が悪い――アクションなのに自キャラがまともに動かない。その上、敵のあたり判定が曖昧でわかりづらい。さらにドラゴンがランダムで寝返りを打つのがひどいんだよ――寝返りを打ったら、なにをどうしても避けられないので死ぬしかない。完全に運ゲーである。ちなみに、リトライなしで、コンティニューはまた来年ということになる。まともに練習すらできない。


 ゲームクリアに必須なイベントというわけでないから、まあいいといえばいいんだが……


 ともかく、ここでお宝をかっぱいで、冒険を黒字にしないとならない。このイベントがある分、中ボスたちはお金やアイテムを落とさなかったわけだからね。


(――先生が行って)


 声を出さず、ラウル先生に口パクで指示を出す。


(了解)


 ラウル先生は邪魔な荷物を仲間に預ける。〈探索〉〈忍び足〉のスキルがある彼なら、強力なアイテムを持ってきてくれるだろう。


 これで後は先生が無事帰るのを祈って待つだけでござる。


 ……いかがなされた?


 ややっ、そういえば、拙者はニンジャでござったな。


 荷物をマリスさんに押しつける。びっくりした顔をされるが、【濡烏】まで預けてしまう。これで身軽になった。用意していた袋を背負い、私は先生より先に広間に入る。


(おまえは戻れ!)


 と、ラウル先生が手で合図するが、心配ご無用。拙者は忍びの者。〈忍び足〉がレベル2ある上、〈影を操るもの〉で関連スキルにボーナスがつく。最近お気に入りのブーツも音がしない。


 ドラゴンの巨体の手前には少しだけお宝が落ちていた。古銭、割れた鏡、くすんだ装身具、バラバラになった椅子。まったく価値がないわけではないが、こんなもので満足するわけにはいかない。高価な財宝はもっと先にある。ドラゴンの向こう側だ。


 しかし、なにぶん〈ファイア・ドレイク〉は巨体なわけである。向こうまで通れるのは唯一狭い隙間だけだった――ドラゴンの鼻先と壁の間の。私は身体を横にして、すり抜けようとする。


「ぶふー」


 〈ファイア・ドレイク〉は可愛く寝息を立てていた。まるで作り物のような角と鱗。でも熱が伝わってくる。これ、数千歳のモンスターなんだよな……。


 するりと抜けた。


 その先には……金色の山! これ全部お宝だ!


 金貨なんてその辺にいくらでも転がっている。むしろ、金貨のせいで下にどんな有用なアイテムが埋まってるかわからなくて邪魔なほどだ。


 私はとりあえず目に付いた地金と魔石を制服のポケットに突っ込む。これで最低限、今回の支出を相殺するくらいはできたかな。


 そのあたりでラウル先生が追いついた。


(高いの取って!)


 私は即物的な指示を飛ばす。


 先生はドラゴンを前にして焦っているようだった。あまり価値のなさそうな金貨を袋に詰めて……カチンと音を立ててしまう。一瞬時が止まった。


「ぶふん?」


 〈ファイア・ドレイク〉はうめいた……少しうめいただけで起きることがなかった。セーフ!


 私は柄と鞘が金銀ダイアモンドでびっしりの剣を先生に渡す。美術品として価値が高そうだが、中身も強力な魔剣だといいなあ。


 それから……本? シリーズものっぽい書籍が三冊ばかりあった。こんなところに放り出されているのに、表面が少々汚れているだけでしっかりしている。魔法の本っぽい。フィーン先生へのお土産用に袋の一番下に詰めて土台とする。


 その上に怪しく光り続けるクリスタルの宝珠を突っ込む。割れたら困るから、小さめの絨毯で包んでおこう。隣にミスルルのインゴット。魔術的には価値のなさそうなジュエリー系をまとめて別の絨毯で包む。袋が一杯に膨らむ。早くも余裕がなくなってきた。


 なにかの皮肉か、金細工のドラゴン像が転がっているのを発見。口から炎を吐いているところまで細かく表現されているけど……これ、ひょっとしたら本当に〈ファイア・ドレイク〉をモチーフにしたものなんじゃないかな。あちこちに宝石が埋め込まれて、いかにも高価そう。ただ重いので、ラウル先生の袋に突っ込む。クッション代わりに砂金の入った皮袋を隙間に詰めて起きました。


(戻るぞ!)


 剣を両手に握った先生は、うまくドラゴンの顔の前を通り抜ける。これでミッション達成か。かなりのお宝を持ち帰ったんじゃないかな。


(早く来い!)


 そんなわけにはいかなかった。落ちていた鎖帷子メイルシャツが気になっていたのである。これ、やけに軽いけど……ミスルル製だよね?


 おそらく重量半分で、防御力倍という高性能マジックアイテムだ。ぜひ持って帰りたいところだけど、鎧なのでかさばる。袋になんて入るはずもない。


 それなら――


 私は制服を脱ぎ始める。


(なにやってるんだ!?)


 先生たちは突然のストリップに驚いたようだった。


 私は着ていたメイルシャツを脱ぎさって、代わりにミスルル製の軽いメイルシャツを着込む。その上に大きめのをもう一着! 重ね着だが、これでも通常のメイルシャツより軽い。最初に着ていたのは捨てていくしかないだろう。借り物だから後で謝らないとな。


 その上から謎の皮でできたクロークを二枚羽織る。ひらひらしないようにベルトを二本ばかり巻いて調整。


 そのあたりで私は目を引く箱に気づく。宝石で装飾された宝石箱だ。中は……わお、指輪やネックレスでぎっしり。そして引き出し部分を空けると、ばかでかい宝石が12粒も入ってるぞ。これを袋に入れると、もう満杯だった。


 そろそろ限界……といったところでメダルのようなものが宝の山に刺さっているのを発見する。持ってみると、ずしりと重い。純金っぽいね。これだけの量の金ということは――もしかしたらキャンピングカーを買えるくらいの価値はあるか!?


(投げるわよ!)


 私は投げまねをして、ドラゴンの向こうにいるラウル先生たちに伝える。


(馬鹿やめろ!)


 はい、〈投げる〉。きれいな放物線を描いたメダルはドラゴンの頭を越えていく。右往左往するラウル先生。見事落下点に入ってキャッチしたのはフィーン先生だった。アレン王子は「オーライ、オーライ」って顔してたのに全然別の場所にいた。


 さすがにそろそろ帰ろう……なんて思うものの、懲りないリリーさんはもっといいものがないかと黄金の山に手を突っ込む。


『あれ、ユリカ!?』


 突然、心の中に言葉が届いて、変な声をあげそうになる。掘り出して見ると、陶器か何かで作られた女神像だった。一緒に剣を持った男性の像も出てくる。これは……愛の女神エルシスと剣の神(名前忘れた)の像のセットなのか?


 でも、なんかこれ、未塗装のフィギュアっぽくも見えるぞ? エルシスの像、やけに露出度高くてエロいし。秋葉原で売ってるやつだよね、これ?


『ちょっと、ユリカ、聞いてる!? なんかアタシのこと馬鹿にしてない!?』


 触ってると神の声が聞こえる呪いの像でもある。重いので捨てていきたいところだが、もったいないかな? というわけで、投げてみた。落ちて壊れたらそれまでってことで。


(うわあああ!)


 再び、フィーン先生がキャッチ。剣の神のほうはラウル先生がキャッチ。転んで大きな音を出しそうになってたよ。


 さて、本当にもういい加減にするか。欲張るとろくな目にあわなそうだ。


 私は仕上げとばかりにネックレスを5本ばかり首にかけて、指輪を指一本につき二個ずつ。腕輪とアンクレットも左右に複数つける。地味な王冠と派手な王冠を頭に。あとは剣を腰に差し、格好いいマントを羽織ったら完成だ。袋を担ぐと重い。でも、余計なアイテムを捨てたらまだ持てるんじゃないだろうか? 私は懐に手を突っ込み……()()を落としてしまった。


 〈北の王者〉と戦うために用意していた秘密兵器。【コショウ爆弾】。破裂してコショウをばらまくやつである。そういや、使わなかったから余ってるんだよな。


 私は瞬時に鼻を覆って、二歩下がる。足下で跳ねて転がる【コショウ爆弾】――破裂することはなかった。


 ……………………よかった。


 落としたくらいじゃ割れないのか。コショウを吸い込んでくしゃみしてたら、ギャグにならなかったぞ。


 私は爆弾の分で空いた内ポケットに金貨を三枚詰め込んだ。もちろん、一番価値の高い、ゼー帝国初代皇帝のレリーフが刻まれたクラウン金貨である。現在の価格だと、額面の一万倍以上にはなるだろうか。よし、今度こそ帰――


 ドラゴンが寝返りを打って、【コショウ爆弾】を潰した。


「ぶひゃっくしょい!?」


 と、猛烈な勢いでくしゃみしたのは、リリーさんでなく、〈ファイア・ドレイク〉さんだった。ドラゴンは、もうもうと舞い上がるコショウを全部吸い込んでしまったのである。くしゃみと同時に飛び出した炎が壁に当たって跳ね返りこちらに迫る。このタイミングでは避けられない。


(ヤバっ!?)


 しかし、炎は熱くなかった。もしかしたら身に帯びたなにかのマジックアイテムが、火属性の攻撃を防いでくれたのかもしれない。


「ぶふっ!?」


 いまのくしゃみでドラゴンは起きてしまったようだった。本当にまずい!


 私は駆けだした。うわあ、全身重い……


 もう、ドラゴンの鼻先に隙間などというものはなくなっていた。前を完全にふさがれてしまっている。


 仕方なく、私はジャンプする。ドラゴンの頭の上に駆け上ったのだ。鱗がブーツにしっかり食い込むから、のぼりやすいなあ。


 そこから華麗に回転して向こう側に着地……なんて〈軽業〉レベル1の人間にできるわけがなかった。雪玉のようにごろごろと転がって落ちた。


「いてっ……」


 すぐに立ち上がるが、〈ファイア・ドレイク〉と目が合った。まん丸なおめめ。起きたらいきなり人間がいて、びっくりしているようだね。


 私は顔面に、残った【コショウ爆弾】をぶつけてやった。


「ぶひゃっ!?」


 再びくしゃみするドラゴン。すごいな。安いアイテムなのに、最強のモンスターに効いてるぞ、これ。


 私は狭い通路に逃げ込む。仲間たちに引っ張られ、走らされる。ドラゴンさんは混乱し、怒っていたようだが、あの巨体ではこんな奥まで入ってこられまい。


「マリスさん、このネックレス似合うと思うんだけど、どう?」


「――寿命が縮みました」


 マリスさんは呆れかえっているようだった。この世界で少し長くつきあうと、みんなこの表情するんだよね。


「本当に肝が据わってるね、黒髪の君は」


「リリーくんは本当に冒険者なんですね」


「おまえ、危ないから、本当に絶対にやめろよ!?」


 みんな、本当に本当にうるさい。


「ラウル先生、この指輪を女性に贈ったらどうかしら。……ああ、そんな人いなかったわね」


「ここでわざわざそれかよ!」


 袋を担いだ私はちょっとしたサンタさんであった。


 みんな、よい子にしてたかな?


 プレゼントは全部私へのご褒美だよ!




 翌日、猟師村に戻る。


 到着すると、村はお祭り騒ぎになっていた。いや、出発時点でちょっとした騒ぎにはなっていたのだが、さらに盛り上がっている。どうも、王子がここで冒険を成功させているという情報が王国中に広まってしまったようなのだ。


「殿下、お戻りですか!」


「おお、すごい宝だ!」


 なんて我々の持ち帰った金銀財宝を見て、さらに興奮がヒートアップしているようだ。


「あのクマと一緒に写ってた美女がいるぞ!」


 と、私まで注目の的になっている。


 クマの画像って、私がエリアとマルグレーテに送ったやつだよね? なんでみんな知ってるの?


 村は人で溢れていたが、『ハンターズ・イン』の店長さんは、ありがたいことに私たちの分の部屋を取っておいてくれた。


 さて、一晩泊まって翌朝である。


「リリーさん、明け方のうちにみなさんが到着なさっていたようですよ」


「みなさん?」


 先に起きていたマリスさんに言われて、私は宿の外に出る。いったいだれが来たんだろう?


「リリーさん、お待たせしました!」


 全員が揃っていた。


 エリア、マルグレーテ、レインくん、セナくん、金髪くん、眼鏡くん。冒険用にフル武装しているのが見て取れる。


「――ちょっと、なに、いま駆けつけましたみたいなツラしてるのよ」


「ぎゃー!?」


 顔をあわせるなり、懐かしい仲間たちは悲鳴を上げた。


「……どうしたのかしら?」


 想像外の反応であった。


 驚くようなところがあっただろうか?


 私は身だしなみを確認する。


 本日のコーディネートは、虎皮2頭分に、王冠2つ、ネックレス5本、指輪10個程度のもの。


 やはり、おかしいところはなかった。


 もしかしたら私が美人になりすぎていたのかもしれない。


 夏は女を変えるって言うもんな。





ステータス


 リリー

 レベル 16

 名声 317

 HP 117/117

 SP 122/122

 スタミナ 100


 体力 50

 知力 61


 剣術レベル 7

 魔術レベル 6

 信仰レベル 3


 スキル 疲労回復 LV.2

     リジェネレーション LV.2

     投げる LV.4

     指揮統制 LV.4

     シャドウ・スラッシュ LV.4

     コールド・ブレード LV.1

     ブレイズ・ブレード LV.1

     回避 LV.1

     強打 LV.1

     軽業 LV.1

     罠感知 LV.1

     敵感知 LV.2

     探索 LV.2

     忍び足 LV.2

     影を操るもの LV.2

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