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第4話 魅力的な殿方といえば……

 思えば、子供のころから、まわりの女子とは、まったく話が合わなかった。


「百合佳ちゃんはどういう男の子がタイプなの?」


「えっ、ハゲでマッチョのオヤジだけど……」


 はい、合いません!


「若い俳優で言うと、どういう人が好き?」


「最近の若手なら、ジェイソン・ステイサム(40代)」


「なにに出てる人?」


「『トランスポーター』シリーズとか。もちろん『エクスペンダブルズ』にも出てるよ」


「……日本人でだれかいないの?」


「渡辺謙がバルクアップしたら好きになると思う」


 こんな感じなので、ふざけていると勘違いされ、冗談を言ってると思われることもままあった。だが、こっちは本気なのである。


 私の業界では、ブルース・ウィリス、ニコラス・ケイジ、サミュエル・L・ジャクソン、ゲイリー・オールドマンがSMAP相当のアイドルなのだ。ジュード・ロウも最近来てるよね(前髪を中心に)。


 ゲームで言うと、たとえば『Gears of War』の主人公とかどうだろう。『GoW』つながりで、クレイトスなんかも面白いが、外見が若すぎるかな。


 ……ほら、誰にも通じない。ゲーム好き男子ですら、ついてきてない自信があるよ。


 私の趣味が伝わるよう、順番に話そう。


 男性は頼りがいのある年上が魅力的。――ここまではみんな理解できるね? 大人の男性なら、ヒゲが生えていたり、髪が後退していておかしくない。むしろヒゲやハゲは大人のセクシーさの象徴である……ほら、いつのまにか単独で突出しすぎてフォロワーゼロになってるよ。たった2行で、どんな加速力だ。みんな、しっかりついてきて!


 ここで出た名前が外国人中心になってしまうのは、私の趣味的な傾向ではなく、日本と欧米の文化的差異に基づくものであろう。日本のオヤジたちは、魅力的な頭部の皮質をなぜか恥ずかしいものとして隠してしまいがちなのだ。だから、日本人で禿頭の俳優と言えば、竹中直人や西村雅彦、酒井敏也なんかのかわいい系ばかりとなってしまっている。


 どうしてみんな自然の摂理に抗ってしまうのだろう。髪が薄くなったら、そのまま堂々としていればいいじゃないか。髪型でごまかしたり、ましてや薄毛(AGA)治療に頼るなど男らしくない。飲み薬にしろ塗り薬にしろ、治療薬には強い副作用があるんだぞ! 倒産しろ、製薬会社!


 ここで、二十年分の愛とご愛顧を込め、全力で恨み言を言わせてもらうが、世間では線の細い中性的な男子がもてはやされすぎなのである。いったいどういうことなんだろう。


 女性にとっては細マッチョの男子が理想的だって? 細くてマッチョなんて、減量中のボクサーくらいしかいないよ! 鍛えれば太くなる。これが現実。細い男は頼りにならない。だから、男性は線の太いゴリマッチョが最高なのだ。筋繊維の太さ=パワー=男らしさというきわめて妥当かつ理論的な結論である。これは誰にも否定できないはずだ。


 ……おかしい、だれも同意してくれない。頼れるのは年上の身体を鍛えている男性、ただそう主張したいだけなのに……。いったいなんでこんなことに――――




「――――ハッ!?」


 気づくと、入団式が終わり、それどころか昼食後のガイダンスが終わってました。何が起きていたのかまったく記憶に残ってない。どうやらガイダンスでは明日からの授業に関する説明とかしてたみたいだけど、ゲームでだいたい知ってるからまあいいか。


 ともかくとして――


 私が、乙女ゲーをやらず、洋ゲーばかりやっている理由はだいたい理解していただけたんじゃないかと思う。ゲームショップに、可愛いどうぶつのパッケージと、美しい王子様のパッケージと、汗臭いマッチョオヤジのパッケージが並んでいたら、どれを手に取るかというような話だ。


 実際は、おじさまを攻略できる乙女ゲーもそれなりに存在するのだが、たとえそんなゲームでも華奢すぎたりこぎれいすぎるおじキャラが多いので、私の趣味からは外れている。オヤジマッチョの時代、いつになったら来るんですかね。


 さて、ままならぬ世を呪ってばかりいても仕方がない。ガイダンスが終わり、放課後にあたる時間帯である。寮に戻る前に買い物でもしていこう。


 城塞都市であり、学園都市でもあるエリスランド学園には、住人・学生向けの商店が並ぶ一角がある。背景CGから判断するに、そこは日本の駅前商店街そのままである。実際に来てみたら本当にそのままだった。私のお目当ては、マツキヨっぽいドラッグストア『カツトモキヨシ』だ。ゲームでは背景CG上にだけ存在する店舗であり、実際に利用することはできなかったのだが、ゲームが現実(?)になった以上はこの店で日用品を買うことだって出来るはずだ。


「あっ、リリーさん、お買い物ですか?」


 店の外で声をかけてきたのは……エリアだった。彼女も買い物に来たらしい。さっきからよくエンカウントするけど、この子はひょっとして攻略可能ヒロインなのか? ギャルゲーでも百合ゲーでもないんですよ、『乙女の聖騎士』は。


「……そうね、女子力を高めるためにちょっとね」


 私は店頭にあったシャンプーを手に取る。


「リリーさん、髪が黒くて綺麗ですもんね」


 そうなのだ。先ほどようやく気づいたのだが、実は、こっちの世界に来てから、やけに髪に注目されてしてまっているようなのだ。周りを見てみると、確かに日本人のような黒髪のキャラは存在していない(最低でも王都に一人(・ ・ ・ ・ ・)いるはずだが)。


 おそらく、髪が黒いという一点で、私は目立っているのだろう。たとえば――想像してほしい、みなさんの学校に北欧から金髪の留学生がやってきたとしよう。この人物は、たとえ多少ブサイクであっても、金髪というただ一点のみでちやほやされるはずだ。……おそらく、それと同じ現象がここで起きているのである。ことさら自分を卑下するわけではないが、そういうことなんだろう――だって顔立ちやスタイルで二次元キャラに勝てるわけないでしょ!?


 さほど手入れしてこなかった髪であるが(まともにブローもせずゲームやってそのまま寝落ちしたりとか……)、そこまで注目されているなら仕方がない。今後は出来るだけ丁寧にヘアケアしてやるつもりである。


 お店に並んでいる商品は、だいたい日本と同じものであった。ただし商標の関係で、商品名が少し違う。「パソテーソ」とか「LAX」とかね。せっかくなのでノンシリコンのお高いものを買うかな。シャンプーの世界は馬鹿みたいに高いものがあるからおそろしいね。


「リリーさん、なにを買うんですか?」


 エリアが私の買い物かごをのぞく。


「まず、このシャンプーとトリートメントね」


「さすが、リリーさん、女子力高いです!」


「それから、こっちのシュシュと髪留め」


「さらに女子力アップ!」


「それと、この粉末プロテイン」


「ふひゃ!? なんでそこでプロテインなんですか!? 別の力がアップしちゃいますよ!」


 すげー激しく突っ込まれた。乙女ゲームの主人公って突っ込み能力高いからね。ほら、王子様たちがボケるから。


「私たちは騎士の候補生よね。身体を鍛えるのに、こういうものが必要でしょう?」


「それはそうですけど……。プロテインって、男の人が使うものじゃないですか?」


「あら、女が使っても有効なのよ。ほら、女性ってたくさん食べられない人が多いでしょう? だからこういうのでタンパク質を補給するの」


「な、なるほど、さすがリリーさんです……」


 つまらない筋肉談話を披露してしまった。ちなみに、このプロテインは普通の市販品だが、別のアイテムショップには、魔法のプロテインが売っている。飲むと体力が3アップするのだ(初回のみ)。お金に余裕が出来たら、そちらにも行ってみよう。


 お会計は学生証で。所持金は初期資金の1000クラウンしかないのに、ここだけで300クラウンも使ってしまった。まあお金が必要になったらバイトでもすればいいだろう。


「そういえば、彼氏とはどうなったの?」


 ビニール袋を下げ、女子寮まで戻る道すがら、エリアにそう尋ねる。


「彼氏? だれのことです?」


「朝の食堂であなたの横に座った銀髪の子よ」


「ああ、あの人ですか……。なんだったんです、あの人?」


「思い出さなかったの!?」


「思い出さなかったって、なにをです?」


 これは――まずい。どうやら、エリアとレインが互いに幼なじみだと気づくイベントが発生しなかったらしい。あそこまでお膳立てしてやったのになんでだよ!


「――この世界でも珍しい銀髪の子よ。記憶にない?」


「ふひゃ? そういえば、子供のころ、銀髪の男の子に出会ったような……」


「それよ、それ! 今度、彼に会ったら自己紹介なさい。名前を聞けば向こうも思い出すわ」


「わかりました……?」


 などと話しているうちに女子寮に着く。エリアの部屋は同じフロアであるようだった。


「そうだ、リリーさん。相談に乗ってくれませんか?」


「相談? どうしたの?」


「学校の授業の取り方がよくわからないんです!」


「ああ、訓練メニューのスケジューリングね……。彼女(・ ・)に聞かなかった?」


「だれのことですか?」


 エリアはきょとんとしている。


 まずい。またまたエリアが出会いのイベントを取りこぼしたっぽい。あの子(・ ・ ・)に会えないなんて不幸なやつである。


「それじゃあ、私が教えてあげるわ、得意だから」


 というわけで、食堂での夕食のあとでエリアの部屋に行く。


 そこは小物まで含め、ゲームで見た寮の部屋そのままだった。


 ベッドの上にはラーくんがいる。このゲームのマスコットキャラにあたるミニミニドラゴンである。手に取ってみると重い。


「なかなか可愛いわね」


 主人公の話し相手になるのが主な仕事のラーくんだが、特定の条件を満たすと、謎めいた美少年に変身し、隠し攻略キャラとなるのだ(ちなみにメインストーリーのイベントに絡んできたりもする)。


「あっ、こ、これは実家から持ってきたぬいぐるみなんです!」


「ああ、そうか、学園ではぬいぐるみだってことにしてるんだっけ」


「ぬいぐるみです!」


「はいはい、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ」


 指でラーくんのほっぺたあたりを押す。小さいとは言えドラゴンなので固いのかと思ったらやわらか素材であった。でもこの質感でぬいぐるみは無理があるぞ。ほら、正体がバレないように我慢してぷるぷるしてるしさ……コントか?


「それで――授業のスケジュールのことだっけ?」


「そうなんです、どれを取ればいいのかわからなくて……」


 と、エリアは学生証を出す。スケジュールの登録は、スマホ代わりの学生証から可能である。ちらりと年齢の欄が見えたのだが、エリアは19歳であった。私よりひとつ年下だ。そういえばゲームでは年齢設定がなかった気がする。高校を出て士官学校に入るとすると、ちょうどそれくらいの年になるだろうか。


「簡単よ。座学……つまり教室で受けるような授業では〔知力〕が上がるわ。体育の授業では〔体力〕が上がる」


「知力……と、体力ですか?」


 しまった。ゲームの用語で話しても伝わるはずがなかった。


「っと、それは私の独自用語だから気にしないで。とにかく、まずは座学と体育の授業を入れて、基礎力をつけること。第一週目はずっと午前中に座学、午後に体育でいいかもね」


「なるほど、まず基礎と……」


 学生証をいじって登録するエリア。


「〔知力〕と〔体力〕が上がってきたら――基礎力がついてきたら、剣術と魔術の授業を少しずつ混ぜていくこと。二週目と三週目の金曜日にひとつずつ入れたらどうかしら」


「す、すごい、今月のスケジュールが全部埋まってしまいました……」


「それだけじゃないわよ、乙女のスケジュールは」


「そうなんですか!?」


「放課後があるでしょう? 自習したり、神殿に行ったり、アルバイトすることができるわ。あなたはお金に余裕がないはず……」


「そうなんです! 私は身寄りがないので少しでも自分で稼がないと……。下のカフェなんてお洒落でどうでしょうね。制服が可愛いんです!」


 確かに学生街のカフェ『リヴァージュ』は制服が可愛い。ゲームではわざわざ女性キャラが着用したグラフィックが用意されていたほどだ。


「あそこはおすすめしないわ。お給料がよくない上に、馬鹿になることがあるもの」


「馬鹿に!?」


 カフェでのアルバイトは、〔スタミナ〕の消費が少ないので連続して実行することが出来るのだが、そうすると〔知力〕が下がる可能性があるのだ。バイトにかまけて勉強をサボると成績が落ちる――というようなことを表現しているのだろう。ただし、カフェでのアルバイトでは、特定のスキル、装備をゲットできるので、完全に無意味なバイト先というわけではない(ついでに男子たちのギャルソン姿のスチルCGも回収できる)。


「じゃあ、どこがいいんですか?」


「そうね、建設現場とか」


「建設現場!?」


 都市の城壁を作る仕事である。バイト代がいい上に、かなりの確率で〔体力〕が上昇するのだ。ただし、〔スタミナ〕の減りが激しいのが難点だろうか。


「だいたい週に二日、火曜日と金曜日に入れておきなさい」


「わ、わかりました。他の日はどうしましょう」


「しっかりと休むことね。疲れていると、授業にもバイトにも身が入らないから」


 〔スタミナ〕が減った状態で授業やバイトを続けると、身が入らず「失敗」扱いになり重いペナルティを食らう恐れがある。『乙女の聖騎士』は、〔スタミナ〕に気を配りながらスケジュールを組むのが基本的なゲーム性である。


「土日は休んだ方がいいでしょうか。アルバイトしたいんですが」


「疲れてるならそうしなさい。でも、休日は楽しいわよ。みんなで冒険に行ったり、すてきな殿方とデートしたり」


「デ、デート!? 私が……男の人とデートするなんて想像できないし……、そもそもそんな暇ありません!」


「ああ……聖騎士を目指しているのよね」


「なんで知ってるんですか!?」


 エリアは驚いたようだった。


「まあ、色々とね」


「――リリーさんってなんでも知ってるし、私の面倒見てくれるし、まさか……」


 まずい、なにか感づかれたか。


「まさか……私のお母さん!?」


「なんでよ!」


 私も知らなかった衝撃の事実であった。


「――エリアのお母様はその辺にいるわ。そのうち会うでしょ」


「母をご存じなんですか?」


「存在だけはね」


 ちなみに愛の女神「エルシス」の司祭として全国を放浪している娘以上のボケキャラである。先ほど彼女が「身寄りがない」といったのは完全な間違いだ。


「とにかく、今のところデートはちょっと早いから、土日は〔スタミナ〕が減りづらいカフェのバイトでも入れておきなさい。少しくらいなら、問題ないから。あと、神殿でのお祈り」


「あ、やっぱりデートは早いですよね……」


 と、エリアは残念そうにしている。デートしたかったらしい。


「気にすることないわ。あなたも一年しないうちに大勢の殿方から言い寄られて、そのうち結婚することになるから」


「本当ですか!」


「卒業するときには、騎士団総長を超える実力を身につけて、聖騎士の称号を勝ち取ることになるから」


「出世しすぎです!」


「あなたは無限の可能性を持ってるのよ」


 というか、ゲームバランス上、それが出来るようになっているのである。『乙女の聖騎士』は前述の通り難易度の低い「ぬるゲー」なので、効率的にプレイすれば、二年の期間のうち一年半でステータスがMAXに達し、やることがなくなるほどなのだ。


「そ、それを信じて頑張ります……」


「今回私が教えてあげたのは、基本中の基本だから。後は色々試したりして、自分で工夫なさい」


「はい、ありがとうございます!」


 お礼を言われるほど、特別なことを教えてやったわけではない。あくまで、攻略サイトに書かれているような、だれにでもおすすめできる基本中の基本である。これで彼女は効率的に学校生活を営むことができるだろう。


 あっ、私は、このゲームやりこんでるので、人にはおすすめしにくい偏ったスケジュールを作ります。



 4話まででチュートリアル終了といった感じになります。



 普段、主人公がやっている洋ゲーは、有名どころだと、『Grand Theft Auto 』『Diablo』『The Elder Scrolls』各シリーズなどでしょうか。FPSよりTPSを好むタイプと思われます。



 試しにやってみた乙女ゲームというのは、『ときメモGS』『AMNESIA』『薄桜鬼』あたりを想定しています。基本的に単なるゲーム好きなので国産タイトルにも多数手を出しているはずです。



 『Saints Row』のようなキャラメイクできるゲームだと、意外と女性主人公を作りそうです。

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