表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/69

エピローグ

 多少の余韻を残しつつも、大会を終えた学園は平常モードに残る。


 だが、大会からどれだけの時間が経とうとも、()()に関する噂話が途絶えることはなかった。それどころか、時間を経るごとに広がりは増していくのである。


 この大会で彼女は伝説となっていた。


 いまや学園中の誰もが知っている――試合中、対戦相手にプロポーズされた彼女のことを。謎の闇を操り、敵を倒した彼女のことを。決勝に進出しながら、暴力事件で失格した彼女のことを。決勝をやり直して、勝利した彼女のことを。


 彼女っていうか私だよ。


 リリーさんだよ。


 そりゃ突然対戦相手を殴り倒せば伝説にもなるだろうし、プロポーズなんてされたら格好の話のネタだ。ぶっちゃけ二年生の優勝者より目立ってしまったかもしれないね。


 というか、なんでみんな「友情の丘」の件を知ってるの?


 翌日の土曜の時点で、リオンくんに「俺も観戦したかったぜ」とか言われちゃったぞ? やっぱり夜中に星が降り注いでるのが目立ったのだろうか。それともマルグレーテと眼鏡くんが延々と対戦の話を言いふらしていたからだろうか。


 二人とも金髪くんがいかに惨めに負けたかを強調していたものだからね。だんだんと話に尾ひれがついて、「どれだけ攻撃を受けてもリリーさんは傷ひとつつかなかった」とかそんな扱いになってるんだぞ。そんなわけあるか! ただ一対一(タイマン)で有利なスキルを取得していただけである。


 そんな話はともかくとして――大会の翌週から授業が再開され、学園に日常が戻ってきたわけである。


 平日の授業。バイトに自主トレ。そして週末の冒険。エリアの脳震盪の件があったので、しばらく冒険は控えていたわけだが……これを解禁したのが六月の最終週である。


 私たちは大勢で〈森の花園〉に向かった。


 どれくらい大勢かというとだね――まず私。いつものエリアチーム6名(エリア、マルグレーテ、セナくん、レインくん、金髪くん、眼鏡くん)、さらにプリムチームの6名(プリム、シューくん、フレデリカ、ヨハンくん、リオンくん、アレクサンド)、それからドーターたち3名(ドーター、ガリ、トントン)である。合計16名だ。


 人数多すぎて統制取れなかったり、手配した船が小さくててんやわんやがあったものの、私たちはどうにか〈森の花園〉に到着した。ここは〈エバーグリーン大平原〉をクリアしたら出現する中級者向けダンジョンのひとつである(もう少し時間が経つと上級者向けダンジョンも解放される)。


 敵はキラービー(殺人ミツバチ)や、バタフライアンブレラ(地面に影ができるほど大きいちょうちょ)が主で、中ボスとして〈フラワーイーター〉(巨大テントウムシ)が出てきた。中級マップということもあり、強いモンスターが目白押しだったのだが、どうにか数で押し切ることができた。前回余った【ホウ酸団子】を〈投げる〉のが有効だったことも記しておこう。


 〈森の花園〉の中心に入り、ボスの〈食肉植物〉を倒して、回復アイテム【甘い汁】と売却アイテム(ポーション素材の薬草)をゲット! 見事に一度目の挑戦で冒険を成功させた。得られた報酬は頭割りである。一人あたり8000クラウンくらいだったかな。参加人数が多すぎたのでたいした額にならなかったが、強い敵と戦ってレベルアップできたからいいだろう。


 さて、六月が過ぎると七月に入る。エリスランド学園で夏といえば……もちろん夏休みだ。そして、夏休みといえば、夏休み専用の大型ダンジョンである! 行くぞ〈北の大氷原〉に〈ピックレー火山〉に〈ケストラルの水上都市〉!


 夏に向けて、学園全体が浮かれモードになり、はしゃぐ学生たちが出てくる。そのはずだった。


 そのはずだったのだが……



             ■



 夏休み直前の七月二日。


 朝の食堂は暗い雰囲気に包まれていた。


 すれ違う学生たちがみな一様に目をそらし、伏せている。だれも話そうとせず、カチャカチャという食器の音だけが食堂に響く。


 私は列に並び、いつものように好きなメニューを取って席につく。だが、心なしか食事も美味しくないようだ。


「ほら、行けよ……」


 食べ終わったころだった。だれかの小声が聞こえた。


 10人程度の学生たちが固まっている。そこから押し出されてきたのは――エリアであった。


「あ……あの、リ、リリーさん、ここいいですか?」


 彼女は媚びたような笑顔を浮かべた。これまでこんな表情の彼女を見たことがなかった。


 私は目をそらす。彼女とは一緒に食事をするような間柄ではない。いや、そんな間柄の学生はこの学園にいない。


「うわーん、やっぱりダメですー!」


 エリアが泣いている声が聞こえた。


「落ち着いて! 私が行ってきますわ」


 次はマルグレーテの出番のようだった。不自然に席の空いている私の周囲。真横の席にマルグレーテが座る。


「リリーさ……」


 私はトレイを持って立ち上がった。そしてできるだけ早足で歩き出す。なぜか、私の前には道ができる。


「お待ちになって!」


 待つことなどない。私はずんずんと進み――


「ちょっと待て、黒髪!」


 私の前に立ちふさがったのは金髪くんであった。だが、私という大型トラックは止まらない。そのまま金髪くんをはね飛ばす。


「ぐおっ!?」


 一緒にいた眼鏡くんまで巻き込んでの大惨事だった。


「リリーさん!?」


 私はマルグレーテの泣き声を無視し、トレイを返却、食堂の外に出る。


 これでいいのだ。


 友人などと思っていたのが大きな間違いだった。


 しょせん私など異世界から迷い込んできたまれびと。この世界に親類はもとより頼れる者などない。いるはずがない。


 私は一人。


 誰とも話す必要なんてないのだ。




 ――これが学園を震撼させることになる「神々の怒りラース・オブ・ゴッデスズ事件」、またの名を「リリーさんブンむくれ事件」の幕開けであった。




※巻末資料


キャラクター身長設定


185cm リオンくん

183cm レインくん

182cm アレン王子

181cm アレクサンド

181cm フィーン先生

180cm 眼鏡くん

180cm グリズムート様

179cm ラウル先生

179cm シューくん

178cm ヨハンくん

177cm セナくん

171cm 金髪くん

166cm マルグレーテ

162cm フレデリカ

160cm リリーさん

158cm マリスさん

156cm プリム

154cm エリア

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ