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第28話 エリアVSマルグレーテ!


 五回戦(準々決勝)の第一試合。


 プリムが登場し、あっさり勝った。これで彼女は準決勝、ベスト4進出。


 次の第二試合が私の出番だ。


 対戦相手は――プリムのパーティーのイケイケ赤毛男だった。


「こんないいところでおまえと戦えるとはなァ」


 試合会場である。


 私の目の前に立っているのは、背が高くがっしりとした身体つきの野性的な男の子だった。ライオン系男子とでも言おうか。私は彼のことが苦手であった。


「いま謝って降伏すれば、痛い目に遭わずに済むぜ」


 こんな感じでいつも突っかかってくるのである。金髪くんといい、私は乱暴な男に絡まれる星の下に生まれたのかもしれない。私がいったい何をしたというのだろう。ただ、会うたび挑発したり、いやみを言ってるだけなのに。


「あなた――まさか自分が勝つと思ってるの?」


 鼻で笑ってしまう。


 このリリーに。大会優勝者のリリーに。


「そういうところが気に入らねェんだよォ!」


 赤毛くんが叫び(スキルの〈ウォー・クライ〉か?)、試合開始の合図もないのに突っ込んでくる。


「喰らいやがれ、俺の熱い炎、〈ブレイズ・ブレード〉ォォォ――!!」


「集え影よ、〈シャドウ・スラッシュ〉!」


 気迫で負けてはいけない。私もカウンター気味に技を繰り出す。


「――まだ、試合開始していませんよ」


 レフリー役のフィーン先生がのんびりと通告し――


 相打ち。私と赤毛くんともに防具が赤く染まっている。


 だが、それで止まるわけがない。


「〈ブレイズ・ブレード〉ォ!!」


「〈シャドウ・スラッシュ〉ッ!」


 再び、互いの技が交錯する。


 私の放った影が赤毛男に吸い込まれていく。一方、彼の放った炎も私を直撃した。若干の暖かさが感じられる。


 魔力が吹き荒れた後の一瞬の静寂。


 手応えがあったのだろう。勝ちを確信したかのように、赤毛くんがにやりと笑う。


「――勝者、リリーくん」


 フィーン先生が軽く手を上げた。


「なっ……!?」


 驚愕する赤毛くん。


 ピーと敗北を知らせる甲高い電子音。彼の防具は全体が真っ赤に染まっていた。一方、私のほうはせいぜい淡いピンクといったところか。


 2ターンクリア。正面切っての私の勝利だ。客席で見ている観客たちが静かにどよめいている。


「……くそっ!」


 どう反応するのかと思ったら、赤毛くんはその場に座り込んであぐらをかいた。


「おまえ、強いじゃんかよォ!」


 そんなことを言うのである。


「……強いって言わなかったかしら?」


「口先だけの糞野郎だと思ってたぜ!」


「口先だけだったら準々決勝までこれないでしょ」


「でも、一回戦はあの弱そうな眼鏡だったろォ。しかもわけのわからない決着だ」


 眼鏡を奪ったことで私の勝ちだったね。眼鏡くん、それなりに強いのに弱いと思われているのか……


「二回戦はシード。三回戦は……なんだありゃ?」


「それは……見なかったことにして」


 対戦相手のためにも。


「四回戦も相手が勝手に負けただろ」


 試合中にプロポーズされるとかいう前代未聞のハプニングがあったから仕方がないんだよ。シュテフィ・グラフか、私は。でも――赤毛くん、ちゃんと私の試合をチェックしているのだな。豪快系のアホキャラと思わせて、意外と知略派で細かいのかもしれない。


「どう見てもインチキして勝ってる糞野郎だろ?」


「言われてみると、そう見えなくもないわね」


「だが、おまえはめちゃくちゃ強かったし、俺の完敗だぜ」


 赤毛くんは屈託なく笑った。どうやら、負けて遺恨を持つ陰険なタイプではないようだ。強い相手には敬意を払うというキャラクターなのかもしれないな。レベルを上げるとデートコマンドが出るキャラか?


「俺はリオンだ。次、あたったら俺が勝つから覚えておけよ」


「リオンくんね。私はリリーよ」


「――あの、次がつかえているので、そういうのは控え室でやってもらえますか?」


 そんな無粋なことを言ったのは、フィーン先生だった。そういや、ここは会場のど真ん中だったね。次の試合のエリアとマルグレーテが待っている。心なしか目つきが冷たい気がする。この二人の戦いなら、私の出番であろう。


「フィーン先生、私が審判を務めますわ」


「ああ、そういうのはいいからさっさと戻って下さい」


 あっさりいなされたので、壁に下がって目の前でかぶりつきの観戦をすることにした(そういうのもありです)。


「あいつら強いのか?」


「リオンくんが10回戦ったら10回負ける。ふたりともそれくらい強いわよ」


 へっ、と鼻で笑ってリオンくんは控え室のほうに戻っていった。一方、エリアとマルグレーテは会場の中央で正対する。


「当たるのを楽しみにしてたんです、マルグレーテさん」


「わたしくもよ、エリアさん」


「全力で行きますからね!」


「ラ・オーツ家の名誉にかけて、正々堂々、全力でお相手しますわ!」


 二人の戦いが始まろうとしている。それまであまり気にしていなかったのだが……


 急に胸がざわざわしてきた。


 私のエリアとマルグレーテが戦うだって……? たとえ試合であっても、いくら騎士同士であっても、そんなのは見たくないぞ。だって……可愛い女の子が棒で殴り合うんだよ? 


 私は少年漫画のキャラクターではないから、バトル好きでないし、競争好きでもない。できたら暴力なんて見たくないのだ。いっそ、妨害して試合を止めてやろうか。


「リリーさん、絶対余計なことしないでくださいね!」


「ですわよ!」


 二ヶ月程度の短いつきあいであるが、どうやら、二人に行動を読まれていたらしかった。


「それでは始めてください」


 とうとう、試合開始。私はがらになく両手を祈るように組む。


「神様、力を!」


「星よ、力となって敵を撃て!」


 試合が始まり、いきなりスキル発動。エリアの〈セイクリッド・スラッシュ〉と、マルグレーテの〈スターダスト・ストライク〉が飛び交う。少女たちは互いに剣を振るい、相手を攻撃しているのだ。


「神様、癒やしの奇跡を!」


愛の女神(エルシス)よ、我を癒やしたまえ!」


 これは双方ともに〈女神の癒し〉、回復のアクティブ・スキルである。朱に染まった防具が見る間に白くなっていく。


「えいっ、〈セイクリッド・スラッシュ〉!」


「星よ、〈スターダスト・ストライク〉!」


 再び攻撃用のスキルが飛び、〈女神の癒し〉で回復する。ゲームなら、これで4ターン終了といったところなのだが――


 あれ?


 この戦いって……ひょっとしたら同じことの繰り返し?


 エリアとマルグレーテはまったく同じタイミングで攻撃してから〈女神の癒し〉で回復する。そのたび戦況はゼロに戻る。5ターン経っても、6ターン経っても、やることが変わらない。


 これは……退屈かも? ほら、スポーツなんかで上級者同士の拮抗した試合って意外とつまらなかったりするでしょ? そういう状況がいま生まれている。


「退屈だぞ、姉ちゃん、脱げー!」


 そんな下品なヤジを飛ばす輩までいた。


 私であった。客席から失笑が漏れる。


 真剣なエリアとマルグレーテは無視して戦いを続ける。こうなると、どちらかが仕掛けないと、戦況が動かないわけだが、二人は馬鹿正直に斬り合いと回復を続けている。こういうときのため、打開策を教えておくべきだったな――笑いを取りに行くとか。


 この勝負は要するに消耗戦だった。スキル使用のためのSPを先に失ったほうが負ける。そしてこの点においては、回復キャラ寄りでSP多めのエリアのほうが有利だったかもしれない。


「くっ」


 SP切れのマルグレーテが〈スターダスト・ストライク〉を使えず、通常攻撃に切り替える。ここが転換点だ。


「ええいっ!」


 エリアも通常攻撃。どうやら両者同時にSPが切れたようだ。このまま、スキルなしでの殴り合いになるのかと思ったら――


「神様、癒やしの奇跡を!」


 エリアが〈女神の癒し〉でヒットポイントを全回復した。最後の一回を温存していたのだ。これにはマルグレーテも驚愕せざるを得ない。慌てて一撃を繰り出すが、それはもう無意味だった。


「わたくしの負けですわ!!」


 次のエリアの一撃でマルグレーテの防具は完全に赤に染まった。


「勝者、エリア・シューシルトくん!」


 会場からため息が漏れる。ちょっと地味な試合だったかもしれないが、双方ともに高度なスキルを連発した試合でもあったので、それはそれで見応えがあったのだろう。


「ふう……」


 勝利したエリアは疲れた様子を見せるだけで喜んでいる様子はない。なぜなら、目の前でマルグレーテが思いっきり泣いてるからだ。


「おめでとうございます、エリアさん。悔いはありません……」


 なんとか言葉にするが、涙があふれ出てその場に崩れ落ちてしまう。どうやら試合に負けたのが相当悔しかったらしい。エリアはどう声をかけていいのかわからずおろおろしているようだ。うーん、ここは世界初、私の出番なのだろうか。


「ほら、控え室に戻るわよ」


 私は嗚咽をもらすマルグレーテに肩を貸して引っ張る。




「じゃじゃーん、出前だぞ!」


 控え室に明るく飛び込んできたウェイトレスは、その場の湿っぽい雰囲気にうろたえた。出前に来たドーターだ。はい、いまマルグレーテちゃんが鼻をかんでるところだから待ってね。


「で、出前を持ってきたぞ……」


 おずおずとランチボックスを差し出すドーター。これは私があからじめカフェに注文しておいた品だった。中身はいなり寿司とオレンジジュースだ。


「ほ、ほら、オレが作ったおいなりさんだぞ。絶対美味いぞ」


「美味しいですわ……」


 マルグレーテは涙を流しながら、むしゃむしゃと一口大のいなり寿司を食べていく。全力を出し切っただけあって、敗北は相当に堪えたのだろう。


「本当に美味しいですね。これ」


 横からミニいなりに手を伸ばしたエリアはそんなことを言った。すぐさま2つ目を取るのだが――


「ダメ、私たちはひとつだけ」


 私はエリアの手にある寿司を奪い、自分で食べる。本当、甘くて美味しい。


「ふひゃっ!? な、なんですか!?」


「お腹に溜まったら試合にならないでしょ」


 次の準決勝は30分後に行われる。食べ過ぎたら胃の中に残るから動きが悪くなる。そんなわけで、小さめのいなり寿司と糖分たっぷりのジュースをドーターに持ってきてもらったのである。これなら、腹に溜まらず、即効性のエネルギー源になるはずだ。


「――リリーさん、いよいよこのときが来たみたいだね」


 と、声をかけてきたのはプリムだった。この後、Bブロックの準決勝では、私とプリムが対決することになる。


「リリーさん、一ヶ月前のこと――遠足のときのこと覚えてる?」


「あ、ごめんなさい、今休んでるところだから、そういうの後にしてもらえるかしら?」


「……失礼しました」


 プリムはお裾分けのいなり寿司を持ってすごすごと向こうに行ってしまった。イベントシーンのタイミングを動かせるのが現代社会の良い点である。


「おい、プリム、おまえ絶対勝てないぞ! リリーのやつ強いからな! 圧倒的に強いから!」


 先ほど私と戦ったリオンくんがプリムに余計なことを言って、ボコボコにされていた。周囲には、彼女のパーティーメンバーが全員集っている。仲がいいんだな。


 さて、マルグレーテを慰めているとすぐに時間が来てしまう。私は仲間たちの声を背に受けて、控え室を出る。



ステータス


 マルグレーテ・ラ・オーツ

 レベル 6

 HP 40/40

 SP 39/39

 スタミナ 100


 体力 43

 知力 37


 剣術レベル 4

 魔術レベル 3

 信仰レベル 3


 スキル スターダスト・ストライク LV.3

     女神の癒し LV.2

     回避 LV.1

     疲労回復 LV.1




ステータス


 エリア・シューシルト

 レベル 5

 HP 34/34

 SP 43/43

 スタミナ 100


 体力 35

 知力 34


 剣術レベル 3

 魔術レベル 3

 信仰レベル 4


 スキル 女神の癒し LV.3

     聖なる光 LV.2

     セイクリッド・スラッシュ LV.2

     乙女の祈り LV.1

     疲労回復 LV.1

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