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第19話 魔王降臨


▽アクティブ・スキル


〈シャドウ・スラッシュ〉LV.1 魔術

 単体 射程1 消費4 属性闇

 『敵を滅する刃、それが闇』




 魔術スキルの説明文を前に私は頭を抱えていた。


 一行目はわかる。


 『単体』は敵の一体を攻撃するスキルであるということ(『複数』『範囲』というスキルもある)。


 『射程1』は目の前の敵しか攻撃できないということ(射程2だと後列から攻撃できる)。


 『消費4』はスキルを使う際のSP消費量が4であること(単体攻撃スキルにしてはやや多め)。


 『属性闇』は……わからん。闇属性のスキルなんてゲームになかったろ!? どんな敵に対して有効なんだよ!


 考えられるのは、これがリリー専用スキルであるということだ。――ただしゲーム中のリリーさんはこんな技を使ってこなかったのだが。となると、本来なら使う予定だった未実装データというのはどうだろうか? ゲーム上にデータとしては存在するのだが、使うキャラがいないので実際のゲームには出てこなかったのだ。


 でも、それにしても属性が闇というのは……


 特に、なんだこのフレーバーテキストは。『敵を滅する刃、それが闇』って。他のスキルはせいぜいこんな感じだぞ。




▽アクティブ・スキル


〈ブレイズ・ブレード〉LV.1 魔術

 単体 射程1 消費3 属性火

 『炎によって敵を攻撃する剣技』




 『乙女の聖騎士』は、フレーバーテキストで遊ぶタイプのゲームではないのだ。


 それとも、闇属性ということは、やはりアレなのだろうか。「右手の呪いが疼く――」とか「貴様……やはり闇のモノ」とかそういう世界なんだろうか?


 そういうのが嫌いかと言われれば、はっきり言って嫌いじゃない。むしろドストライクとも言える。


 まずいな、このままでは秘められし封印が解き放たれる――


「どうしたんですか、リリーさん?」


 制服に着替え終わったエリアがやってくる。


「近づかないで、エリア。私の中の〈影〉が目覚めようとしている……」


「は?」


「やめろ! 彼女は関係ない、手を出すな!」


「い、いったい、だれと話してるんですか?」


「――我、闇より生まれ出でしモノ、暗闇の皇子プリンス・オブ・シャドウランドなり」


「なんか出てきました!」


「汝のあるところ、いずこにも我あり。それが〈影〉」


「よくわからないけど、帰って下さい!」


「もう、なに騒いでいますの。迷惑ですわよ」


 奥の方で着替えていたマルグレーテ(私にいやらしいことをされるので)が注意しに来る。


「近づかないでください、マルグレーテさん。乗っ取られてます!」


「女、貴様は星と光の使徒か。300年ぶりに慰み者としてやろう」


 私は自らの腕を押さえようとしたが、封印を解かれた〈影〉にはかなわなかった。


「ちょっと、リリーさん何をしますの!?」


 私の手がマルグレーテのスカートをめくろうとする。私ではないナニカがやっているのだから私の責任ではない。


「いい加減にして!」


 押されてロッカーにガンとぶつかった。本体への物理ダメージだ!


「エ、エルシス様、リリーさんの中から邪悪な人を追い払ってください」


 エリアが急に光った。これは信仰スキル、〈聖なる光(ヘイロー)〉ではないか! 狭い更衣室で光るからまぶしい!


「ウギャアアアアア!」


 私の中の闇が浄化されていく。闇属性は聖属性の攻撃に弱いのだ。


『――ちょっと、あんた、神殿に来て冒険がどうなったのか報告しなさいよね』


 なっ、いま、なんか変な台詞が混じったぞ!? まさかエルシスの声か!? 信仰スキルに乗じてボイスメールみたいなことするんじゃない!


「ククク、まあいい。勝ったと思って喜んでいるがいい。我はどこにでもいる。ヒトがいる限り我が滅ぶことはない」


 私の中の闇は再び封印された。




 ――こんなことばかりしているから、変人だと言われるのだろうか?



             ■



 さて、制服に着替えてから確認したところ、エリアも魔術スキルを獲得していた。




ステータス


 エリア・シューシルト

 レベル 3

 HP 18/18

 SP 27/27

 スタミナ 73


 体力 30

 知力 29


 剣術レベル 2

 魔術レベル 2

 信仰レベル 2


 スキル 女神の癒し LV.2

     聖なる光 LV.2

     セイクリッド・スラッシュ LV.1



▽アクティブ・スキル


〈セイクリッド・スラッシュ〉LV.1 魔術

 単体 射程1 消費4 属性聖

 『聖なる光の剣は邪なるモノを滅ぼす』




 なんだよ、〈セイクリッド・スラッシュ〉って。


 ゲームにはこんなスキル存在しなかったはずだろ。スキル名とフレーバーテキストから判断するに、〈シャドウ・スラッシュ〉と対をなすスキルなのだろうか……? それを私とエリアがゲットしたということは――意味深である。


 これは偶然なのだろうか?


             ■


 数日後、学園都市内にある武具の店、『マオン&ショーン』へと足を運んだ。


「今日は混んでますね」


 一緒に連れてきたエリアが感想を漏らした。


「お店ってこうなってますのね」


 一方、勝手についてきたマルグレーテも、よく聞くととんでもない感想を漏らす。


 このお姫様……ひょっとしたら、商店というものに入ったのが初めてなんだろうか? 買い物はお付きの人任せ、あるいは商人が御用聞きするなんて想像が生まれる。そもそもほしいものは何でも最初から持っている身の上だからな。そりゃ学校でいじめられるわけだよ(スカートをめくられたりとか)。


 店主のマオンさんは他の客(我が学園の学生たち)の接客で忙しいようだった。「遠足」の直前なので一年生が関連用品を買いに来ているのだろう――我々もその一部なのだが。以前冒険に使った木刀より良い武具を探しに来たのである。


 わざわざ忙しい店主を煩わせることはないだろう。私は並んでいた長剣(ロングソード)の一本を手に取る。まるでスポーツ用品店のように武器が置かれているのがファンタジーのすごいところである。


「リリーさん、剣を買うんです?」


「あなたの分もね」


 何本か見繕って、店の裏の「試し振り」スペースに行くのだが、学生たちで混んでいたので(みんな危ないぞ)、そのさらに奥の方の倉庫の前あたりに行く。


「どれも重たいですね」


 何回か振って確かめたあとでエリアはそんなことを言った。なにせ、鋼鉄製の真剣である。女子の細腕には厳しい代物だ。なので、相談の結果、一番短くて軽い剣を2本買うことにした。ぶっちゃけた話、多少長くても短くてもゲームのデータ的にはどれも変わらない。どれも店で買える一番安い剣(ロングソード)である。短いのに値段が同じなのにちょっと損した気になるかもしれないけどね。


 さて、次は防具を買うわけだが……


「どうしたんです?」


 エリアと私は、現在、クロースアーマーという一番安くて防御力の薄い布製鎧を使っている。これをもうひとつ上の防具、鎖帷子(メイルシャツ)に買い換えたいんだが、エリアにはこれを装備するだけの〔体力〕がない。となれば……


「マオンさん、これ出してくださる?」


 ここに至って店主を呼ぶ。カウンターのガラスケースに並ぶそれは御守り(アミュレット)であった。もう少しわかりやすく表現すると、宝石のはまったハート型のネックレス。


「えっ、こっちの安いほうじゃなくて、そっち? 高いよ?」


 姉御肌で知られるマオンさんは親切にも警告してくれる。


「ご心配なく。最近、景気がよろしいもので。こちらのお店も儲かってるようですわね」


「忙しいばかりで儲からないんだよね、一年生はみんな安いのばかり買っていくから。それでも日曜日に大口の取引があったからだいぶ助かってるんだけどね」


 当然ながら、この含みのあるやりとりは、我々が日曜日に〈帝国墓地〉へと赴いて、お宝を持ち帰ったことを指している。


 マオンさんが【守護の御守り(アミュレット)】(中)をガラスケースから出してくれた。私はそれをエリアに付けてやる。


「わっ、可愛いです」


 その笑顔が見たかった。ちなみに、より効果の低い【守護の御守り(アミュレット)】(小)をレインくんが日曜の冒険前にプレゼントしているわけだが……


 勝った!


 これでエリアの好感度が大幅アップだ!(※防御力をアップするのが目的です)


「エリアさんだけずるい! 私もアクセサリほしい!」


 なんてことをマルグレーテが言い出した。ずるいと言われても、エリアが可愛いからひいきしてるだけである。おまえは実家の宝物庫に行って〈エリスのティアラ〉でもかっぱらって来いよ。


「このあいだ、なにか買ってくれるって約束したでしょう!?」


 そういえばそうだった。


「そうね……仕方ないわね。だったらその剣なんかどうかしら」


 後ろのガラスケースにあった一振りを指さす。


 ロングソード、火属性+2、聖属性+3。【天の裁き】なんてユニークアイテムならではの命名がされている。お値段はなんと10万クラウンである。


「えっ、これ……?」


「このお店で一番いい剣よ。文句ないでしょ?」


「でも、これってば、いま使ってる剣より……微妙」


「これでも微妙ってどんな武器使ってるの!?」


 マオンさんが驚いている。


「【流星の刃】ですわ」


「それって、この世に三振りくらいしかない剣じゃ!?」


 隕石のかけらで作られた、おそらくゲーム中最強の武器である。と言っても、国王とかがもっと強い武器持ってるかもしれないし、プレイヤーが自分の手で強化して最強の剣を作ることもできるけどね。


「もっといい剣を持ってるなら買う必要ないわね。せっかく買ってあげようと思ったのに残念ね」


「ぐぬぬ」


 マルグレーテは涙目になっていた。ククク、自分から死地に飛び込むとは間抜けな女だ。今度、王都に行くまで彼女へのプレゼントはお預け。みなさんは、お色気シーンとギャグシーンどっちがいいですか?


 さて、買い物を済ませて店を出る。


 剣2本とメイルシャツと御守り(アミュレット)で総額は2万クラウン近くなった。メイルシャツ(金属の塊)が重いので、お店の前にいったん荷物を置く。


「あっ、リリーさん」


 と、声をかけられた。


 顔を上げると、そこにはいたのは顔見知りであった。


 両手を腰にあててバーンと構えている。


「あら、プリム、奇遇ね」


 よく授業で一緒になる一年生の女子候補生だ。


 美男美女の多い学校であるが、前々から彼女には目を付けていた。


 エリアを「可愛い」、マルグレーテを「美人」と表現するのなら、あどけなさを残すプリムは両方をあわせ持った「美少女」である。


 髪型は茶色のツインテール。そこが子供っぽいところだが、ロリキャラってわけでもない。怖いものなしという堂々とした目つきに、格好良さを秘めている。


 つまりは……主人公っぽいキャラ?


 うん、この子ったら、ゲームの女主人公(ヒロイン)にしか見えない。


 ちょっと待って、『乙女の聖騎士』の主人公はエリアですよ! 『乙女の聖騎士2』の主人公も別のキャラクターである。ということは……外伝の主人公か何かかな?


「奇遇じゃないでしょ、リリーさん。そっちも『遠足』の装備を買いに来たんでしょ」


 挑戦的な言い方であったが、不快感はとくにない。むしろ気っぷの良さを感じるほどだ。


「なるほど、みんなで仲良くお買い物ってわけね」


 プリムは一人でなかった。男女合計五名を引き連れている。


 一歩後ろにいるのが短髪の人の良さそうな少年。「あっ、こいつ、同郷の幼なじみで尻に敷かれてるな……」というのが一目でわかるキャラだ。


 鋭い目つきのロングヘア美人。この子はいかにも名門貴族出身の女騎士って感じだな。決め台詞は「覚悟しろ」からの「くっ、私の負けだ。殺せ」で(負けること前提)。


 クールで物憂げで色素が薄くてはかなげな芸術家タイプ。あ、男子です。音楽室で一人でピアノとか弾いてそう。それで音が途絶えたところに駆けつけると倒れているのだ。「ぼくにはかまわないでいい」とか言いそう。


 大柄で赤毛のイケイケ男。うーん、こいつはうるさくてしつこくてウザそうな奴だ。戦闘シーンでもプライベートでも「俺と遊ぼうぜ」が決め台詞な感じ。


 シャレオツでメイクした細身のオネエキャラ。こう見えて中身は男らしいパターンだな。「あら、アタシがご指名なの? しょうがないわね。じゃあ相手してあげる」でどうか。


 プリムを入れて、総勢六名のパーティーであった。うん、この子たち、まとめて主人公パーティーっぽいな。なんか気のせいか、横向いたり、後ろ向いてるようなポーズまでつけてるし。おまえら、パッケージ絵か。『乙女の聖騎士外伝~プリムの大冒険!~』か。


 それにしても……プリムのスカートが短い。中が見えそうというか、アクションとかしたら全開になるんじゃないか? 痴女なの?


 私の視線に気づいたらしく、プリムはスカートの裾を手で押さえる。まるで私が変態親父であるみたいなリアクションだった。まったく失礼な話である。それはともかく、プリムってばスレンダー系のわりにおケツがでかいから、すれ違いざま、油断したところをスパーンと叩いてやりたい。


「リリーさんの噂はよく聞いてるからね」


「いい噂かしら?」


 格好いい美人のお姉さんっていう噂ならいいんだけど。


「色々よ」


 色々か。なんだ、そんな色んな褒められ方をしているのか。照れてしまうな。


「今度の『遠足』では負けないからね!」


 プリムはびしっと私に人差し指を突きつけた。


「あらそう?」


 突然のライバル宣言に私は余裕を持って対応する。なんて答えればいいのかわからなかったのだ。この子、いきなりなにを言い出すんだろう。


「今回はあたしたちがいいところを見せるんだから!」


 プリムは勝ち気な美少女そのものであった。この子たちはひょっとしたらライバルパーティーみたいな立ち位置なのかな?


「お手並み拝見するわ」


 どちらかというと、私のほうがライバルポジションみたいな返事になってしまった。熱血主人公と余裕を持った敵キャラみたいな感じで。


「――そんなパーティーでどこまでやれるか楽しみね」


 しまった。口が勝手に動いて、余計な煽りまで入れちゃった! おかしいな、こんなこと言うつもりなかったのに。


「ンだとォ……!?」


 赤毛のイケイケが軽くブチ切れた。「まあまあ」となだめるのは、人の良さそうな彼である。おまえ、やはり苦労人ポジションか。


「喧嘩しちゃ駄目ヨ?」


 と、おかまっぽい口調のオネエ。む、ただ者ではない気配を感じる。


「行きましょう」


 プリムはむっとしてるらしいが、そのまま仲間を引き連れて、店の中に入っていく。うーむ、ケツを叩くタイミングを完全に失してしまった。


「リ、リリーさん、なんであんなこと言うんですか!?」


 エリアは私が挑発じみた態度を取ったことに戸惑いを覚えているようだ。


「なぜ? それには大きな理由があるわ……」


「理由とは……」


「それは……なんとなく雰囲気でよ!」


「ええっ!?」


「――さすがリリーさんですわ」


 またもマルグレーテを感心させてしまった。本当になんで嫌みな発言とかしてしまったんだろう。私ってそんなキャラだっけ?


 とにかくプリムは週末の遠足を楽しみにしているようだ。


 だが、彼女の期待にはとても応えられそうもない。


 私は今回の遠足には興味がなかった。


 私の視線の先にあるのは、あくまで来月の学内騎士競技大会(トーナメント)なのである。



 新キャラ登場です。


 正確には「新チーム」登場でしょうか。


 ライバルっぽい6人組です。


 というか、リリーさんがライバルポジションで、この子たちが第二の主人公っぽいポジションなんですが……。


 現状、リーダーのプリム以外覚える必要はありません。他のキャラは追々出番があります。

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