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プロローグ

 日本人の大学生である私が、ゲーム『乙女の聖騎士~エリスランド学園青春記~』の世界にやってきてから2週間が過ぎた。


 いきなり「ゲームの世界にやってきた」などと言われても意味不明と思われるかもしれないが、そんな意味不明なことがいま実際に起きてしまっているのだから説明のしようがない。とにかく、朝起きたらお気に入りの乙女ゲーム(学園ファンタジーRPG要素強め)とまったく同じ世界にいたのである。


 この世界での私は騎士育成校「エリスランド学園」に在籍する騎士候補生だった。


 私は候補生として、ゲームの主人公エリアと一緒に授業に出たり、金髪お嬢様のマルグレーテにセクハラをしたり、名前思い出せない生意気金髪少年をぶん殴ったり、お付きの嫌みな眼鏡くんをいびったり、冒険者志望のセナくんと仲良くなったり、根暗ストーカーなレインくんのレアな笑顔をチラ見したりしたり、騎士団総長のアレン王子をスルーしたり、副総長のグリズムート様にプロポーズされたりと、充実した学園生活を送っている。


 ……一部報道に誤りがあったが、ともかく、私はこの世界で元気にやっているのだ。


 ここで気になるのが、私自身のことである。ゲームの世界の中に入るところまでは理解できる。理解できないが、できるということにしよう。だが、そこまではわかるとして……


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 この世界に来た私は最初から騎士候補生としての身分を持っていた。私の顔写真入りの学生証まで存在した――ただし、学生証に記されていた名前は、私の本名の「坂城百合佳(さかきゆりか)」ではなく、「リリー」であったのだが。


 リリーという名前にはおぼえがあった。『乙女の聖騎士』には同名のキャラクターが登場しているのだ。


 ゲームのリリーは、学内騎士競技大会(トーナメント)の直前に突如として登場し、「あなたでは私に勝てないわ」とか予言めいたことを言い放つ謎の黒髪美人である。


 実際、トーナメントでリリーと戦うと、必ずリリーが勝つ。――いわゆる強制負けイベントというやつだ。ストーリー的には、これを境に主人公(エリア)は甘さを捨てて本気で騎士を目指すというようなことになる(ちなみに完全版では、仕様変更されて、レベルさえ上げておけば勝てるようになった)。


 このイベントの後、リリーはゲームから姿を消す。あまりに影が薄いため、ユーザーから「こいつなんでいるの?」などと()()()()()()()()()()()ほどである。


 おそらく……あくまで私の推測だが、リリーは主人公のライバルとして用意されたキャラなんじゃないかと思う。乙女ゲームにライバルキャラというのは意外と珍しいが(プレイヤーに鬱陶しがられるので普通出さない)、実を言うと『乙女の聖騎士』は、元々、通常のRPGとして企画されていたという経緯があったりするのだ。


 開発・発売元のファストゲームス社は、これまで主にシミュレーションRPG、ダンジョンRPGをコンシューマ向けにリリースしてきた中堅のソフトメーカーであり、乙女ゲームに関しては、本『乙女の聖騎士』が初である。正式タイトルが決まるまでタイトル表記が『学園RPG(仮)』だったのを覚えている方もおられるであろう。


 邪推するに、このゲーム、開発途中までは男女両方の主人公を選択できるようなRPGだったのだが、色んな事情(予算・スケジュールが足りないとか)により、主人公を女のみに絞り、RPG要素も大幅に削って、乙女ゲームとして発売したのではないだろうか? そう考えると、乙女ゲームであるわりに、女性キャラの数がやけに多いことにも説明がつく――単なる町の司祭さんにも美少女なCGが用意されてたりするんだぜ。


 リリーは、やはり私の推測であるが、開発段階で削り損ねたようなキャラである。せっかく作ったのだから、一応出しておくかというようなポジションのキャラ。出番を大きく削られ、イベントひとつのみが残されたキャラ。それがリリーさんである。


 それでは、なぜ、私がリリーになったのだろう?


 リリーと私にはいくつかの共通点がある。まず、髪が黒く長いこと。多分、リリーはヒノモト(日本を模した国)の出身なのだろう。他には……なかったな。せいぜい百合(リリー)という名前が似てるくらいか。


 だが、私はリリーなのである。


 だとしたら。


 そうなのだとしたら。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ちょうど、一ヶ月先には、リリーの唯一の見せ場である学内騎士競技大会(トーナメント)が控えている。ここで騎士候補生たちは、一対一で戦い、だれが一番なのかを決めることになっている。たとえ、単なる模擬戦とはいえ、あの可愛いエリアを剣を斬るなどとても考えられないことである。


 本来であれば。


 本来の私であれば。


 それなのに……


 いまの私はエリアと喜んで対決する気になっている。


 リリーとして、エリアを倒す気でいる。


 「あなたでは私に勝てないわ」と予告するつもりでいる。


 ここにいる私は……本当に私なのだろうか?


 第2章は学内騎士競技大会(トーナメント)編です。


 リリーというキャラクターそのものに焦点があてられます。

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