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第17話 リリーさんはどケチ

 ゲーム『乙女の聖騎士』では、お金・アイテムの所有権が曖昧である。


 パーティーがダンジョンで金品のたぐいを入手すると、それらはすべて主人公であるエリアの持ち物になる。パーティー参加者は何も受け取ることがないし、文句を言うこともない。それどころか、いったん仲間になると、最初から持っていたアイテムを売り飛ばすなんてことも可能である。


 これはMMORPG等ではありえないことかもしれないが、シングルRPGではよくあるシステムだろう。資金を管理して装備を調えるのはプレイヤーの仕事であり楽しみであるからだ。あるいは、この世界では、財産を全員で共有する共産主義コミュニズム、あるいはすべてを独占するジャイアニズムが幅をきかせているのかもしれない。




「これは――どういうこと?」


 カウンターに積み上げられた金銀財宝を前に彼女は目を丸くさせる。


「なんでもありません。単なるお宝ですわ」


「だから……なんで一年生がこんなものを持ち込むの?」


「ええ、換金していただきたくて」


「だから、どこから持ってきたのよ!?」


 『マオン&ショーン』の店主、マオンさんは叫んだ。


 ボートで学園都市まで戻り、その足で略奪してきた品々をお金に換えようとしているところである。ゲームでは、入手した宝石・貴金属などはそのままお金としてカウントされるが、現実ではもう一手間かけて換金する必要があるようだった。ただそれだけのはずなのに、なぜかマオンさんに信じられないという目で私たちを見ている。


「あなたたち、一年生はまだ冒険に行っちゃダメって知ってるよね?」


「ええ、もちろん。私たちはみんなでピクニックに行ったんです」


「ピクニック……?」


「今日は天気が良かったので。あれはお昼のこと。おにぎりを穴に落としてしまって、手を突っ込んだら中にこんなものがあったんです。まさかピクニックに行って金銀財宝が手に入るなんて思いもしませんでしたわ……」


 それを聞いてマルグレーテがくすくすと笑い出した。おいおい、よく見ると、眼鏡くんやレインくんまで含み笑いをしているぞ。おまえら、重要イベント以外では笑わないというキャラを守れ。


「――たまたま見つけたと?」


「ええ、そんな気はなかったんですが」


「へぇ……」


 冷めた目になるマオンさん。私の説明にどこか不備があっただろうか?


「まあいいわ。私はこれが仕事だしね。犯罪に関わってなければどこで手に入れたものであろうと、私には関係ない」


 マオンさんは宝石を光にかざし、アイテムの鑑定を始める。


「でも、学園の卒業生として、ラウルくんたちにはチクるからね」


 と、怖いことを付け加えたのだった。




 鑑定には時間がかかるということだったので、いったん寮に戻ってお風呂に入った。それから、食堂で夕食を取っていると、マオンさんから鑑定の見積もりが送られてくる。その値段でOKの返事を出すと、すぐにお金が振り込まれた。


 本日獲得した財貨――しめて4万6000クラウンである。


「そ、そんなに……!?」


 金額を聞いたエリアは腰をぬかさんばかりであった。


「……たったそれだけなの?」


 一方のマルグレーテは不満な様子である。


 田舎娘のエリアとお姫様のマルグレーテでは、代価の評価に差があるようだった。じゃあ、実際に、この金額が高いのか安いのかどちらなのかと言ったら――おそらくは安いのだろう。学生のバイトにしては破格かもしれないが、命を張ってダンジョンを攻略した上でたったこれだけじゃ割に合わないんじゃないだろうか。


「まあいいわ、戦利品の分配を行うわよ」


 食堂の片隅に集まった一同がうなずいた。みんな楽しみにしていたらしく目をキラキラさせている。


「まず、セナくん」


「お、おう」


「あなたのその剣、高いのよね。だから他の分配はなし」


「そうか……そうだよな」


 セナくんはわざわざ食堂まで持ってきていた剣をなでる。中ボスの〈スケルトン・ロイヤルガード・コマンダー〉から奪ったアレである。


「本当に高いからね。あなただけ飛び抜けて高い報酬もらってるのよ」


「わ、わかったよ」


「同じ剣は二本とないわ。ユニークアイテムってやつ。世界でその剣を持っているのはあなただけ」


「そ、そうなのか」


「お金で買えない非売品。本当にいいものなのよ!?」


「もういい! これ返すから全員で平等に分配してくれ!」


 セナくんは剣を差し出す。


「だめ! 男ならその剣使って、今後もパーティーに貢献しなさい!」


「はい!」


 ちょっと念を押しすぎてしまったようで、変なテンションになった。最強と呼ぶ人もいるくらい基本性能の高い剣なんだよね。


「じゃあ、次。レインくんには3000クラウンとこれね」


 私は赤い石のようなものを彼に渡す。


「これは……?」


「剣のパワーアップアイテム。炎属性+1。王都に合成してくれるお店があるから今度行きましょう。それまで大事に保管しておいて」


「よくわからない」


「じゃあ、次。エリアにはこれと5000クラウンね」


「5000クラウン!?」


 エリアは声をひっくり返らせる。


「バイトはもうしなくていいわよ」


 お金と共に渡したのは、状態異常攻撃にかかる確率を大きく下げる指輪であった。


 アイテム名は【抵抗の指輪(レジストリング)】(小)。現状では、回復役の彼女が持つのがベストであろう。


「眼鏡くんには1000クラウン。はい」


「それだけですか! まさか、まだ怒ってらっしゃる……? せめて他に有用なアイテムとか……」


「残りはあなたの妹さんに服とお菓子を買って送るわ」


「なっ!? なぜ、妹のことを!?」


 重要キャラだからね。ちなみに名前はココアちゃんである。


「よし……これで分配終わりね」


 と、私は学生証をしまう。


「まだなにもらってないぞ!」


「まだなにもらってないわ!」


 金髪くんとマルグレーテが元気に騒いだ。こいつらけっこう息が合ってるな。


「もらってるでしょう」


「何をだよ」


「ほら、剣とか鎧とか身分とか将来受け継ぐ遺産とか称号とかを。――親から」


「いや、それはいま関係ないだろ!」


「そうよ、今回は、生まれに関係なく、自分の力で稼いだお金のはずよ!」


 金髪くんとマルグレーテは譲れないようだった。だが、それが私のスイッチを入れる。


「……はぁ? なにが自分の力?」


 二人をにらみつけるような形になる。


「あのね……あなたたちのその剣、【流星の刃】よ? いくらすると思ってるの? 自分で買ったものじゃないし、勝ち取ったものでもないでしょう? そんな実家にあったから使ってます程度の剣でも、この世界で最強の剣だったりするのよ? 制服の下に着てた防具だってそう。メイルシャツをお店で買うと高いんだけど、もっといいミスルル製を最初から持ってるわけでしょう? なにが自分の力なの? いい武具を揃えてるお嬢さんお坊ちゃんが、冒険というお遊びをしただけじゃないの? 自分の力で何かをしたいのなら、バイトしたお金で装備を調えてみたらどう? あなたたち以外はみんなそうしてるのよ?」


 そのあたりで二人が涙目になってきたので、説得は終了した。


「待て……だからといって、何もなしはまずいだろ。いい剣を持ってようとなかろうと、そいつらがあの〈狂王〉とかいう幽霊を倒したんだぜ」


 と、まともなことを言ったのは、セナくんであった。性格のいい常識人には困らされるなあ。


 でもこの子たちは現金だけで50万クラウンくらい持ってるんだよね。今回の成果の10倍だ。武器も防具も終盤まで使い続けられる高性能アイテムだし、いったいなにをあげればいいのやら――


「そうね、じゃあ、金髪くんにはこれをあげるわ」


 私はダンジョンから持ち帰ったコインを一枚、テーブルに置く。


「銅貨じゃねーか!」


 たぶん現在の価値に直すと3クラウンくらいのものである。売却すれば10クラウンくらいにはなるだろうか。


「マルグレーテには今度可愛らしいお洋服でも買ってあげるわ」


「可愛らしい……ふ、不安ね」


 もちろん色んな意味で可愛い服である。


「じゃあ、これで戦利品の分配は終了ね」


「おい、待て、残りの3万7000クラウンはどうなった。まさか自分のものにする気か」


 セナくんが手を上げる。残りの金額をしっかり計算しているとは油断のならない男だ。


「失礼ね――それじゃまるで私が着服するような言い方じゃないの」


 私はセナくんを牽制する。


「残った額は予算のプールよ」


「プール?」


「元々ね、冒険で得たお金はパーティー全体のもので、今後の冒険に使うべきものなの。このお金で、必要なアイテムを揃えたり、細かい経費をまかなったり、カフェに行ったりする。パーティーの予算を私が一時的に預かっておくだけよ」


「すでに私的流用の兆候が見られるな」


「必要なものがあったら言いなさいな、ここから出すから。文句ある?」


「いや……」


 異議を唱える者はなかったようだ。


 一応言っておくと、パーティーの戦力をアップするために、お金を貯めて、高性能な武具なんかを購入するつもりだからね! エリアとお茶したり、下校中に買い食いしたり、マルグレーテにセクシーランジェリーを買ったりするのはほんのたまにだからね! パーティー全体の戦力を考えた上での分配とプールだからね! ゲームとやってること同じだからね! お願い信じて!


「じゃあ、それなら解散――」


 と、立ち上がろうとしたとき、女子が一人、私たちのテーブルのほうにやってくる。


「あ、あの、リリーさん」


「なにかしら?」


「フィーン先生からの伝言なんだけど、ここにいる全員、すぐ研究室に来なさいって。ラウル先生も研究室にいてね、怒ってたみたいだよ……」


「そう。わざわざ、ありがとう」


 私は礼を述べて今度こそ立ち上がる。


「せ、先生からの呼び出しですか!?」


「そうみたいね」


「なあ、やっぱり冒険に行ったのはまずかったんじゃ……」


「そうでしょうね。先生方に行くなって言われてたし」


「うーむ、やはりこうなったか」


 セナくんは腕を組んでいた。出来るだけこっそり行動していたつもりだったが、まあ、あちこちでバレバレだよね。


「どういうこと?」


 マルグレーテはきょとんとしている。


「本当はまだ冒険に行っちゃいけなかったのよ」


「え、そうだったの?」


「遠慮なくルールをぶち破るとは、さすがリリー様ですね」


「ま、心配しないで。あなたたちは部屋に戻りなさい。私だけで行くから」


「いいのか?」


「大丈夫よ。私が全力で対処する。でも金髪くんだけは一緒に来なさい」


「俺か!? なんでだよ!」


「そりゃ、あなたがみんなをむりやり冒険に連れ出したからに決まってるじゃない」


「全部俺に押しつける気かよ!」


「なるほど、殿下の同行を許可したのにはそんな策略が……! いちいち感服させられますな」


「ほら、行くわよ」


 私は金髪くんの首根っこをつかんで、教務棟のほうへと向かう。




「――なぜ、呼び出されたかは分かっていますね」


 研究室に入るなり、フィーン先生は落ち着いた口調で言った。怖いタイプの人じゃないと思うけど、こういうときは本当に教師らしくなるものだ。隣にはラウル先生がいる。腕を組んでえらくおかんむりのご様子である。


「ええ、これ、先生にお土産ですわ」


 私はダンジョンから持ち帰った銅貨をフィーン先生の前に置いた。


「む、ゼー帝国の貨幣ですか。これは……末期のもので、保存状態はよくない。あなたたちが足を踏み入れたのは、〈帝国墓地〉ですね。おそらく44か45のB」


「さすが、先生。ご明察です。それで墓地の奥にこんなものがあったんですが、先生わかります?」


 私はダンジョンで撮影した画像データを見せる。


「おや……この部分は帝国の建築様式ではありませんね」


「おそらく前史時代のものかと。帝国が古い遺跡を墓地として再利用したものと推測していますわ」


「前史時代の人類遺跡とは非常に興味深い。ほとんど記録に残ってないんですよ。いつくらいのものでしょうか……ちょっと待ってください、たしか帝国の歴史家がまとめたものが……」


「俺がまだ何も言ってないのに、早くもごまかされている!」


 叫んで邪魔をしたのはラウル先生だった。


 しかしフィーン先生はすでに研究モードに入っており、私にお説教する教師の義務を歴史の向こうに投げ捨てたようだ。


「いいか、リリー! 冒険にはまだ行くなって何度も言っただろ!」


 一方、ラウル先生は教師としての情熱を忘れていない。


「だって、ラウル先生、実は……」


「ダメだ、言うな! 言い訳完全無用! またごまかされる!」


 ラウル先生は口先という私の得意技を先回りして封じてくる。さて、どうしようかね。


「いーや、問題ないはずだぜ、ラウル先生よ。俺は、兄ちゃ……騎士団総長の許可をちゃんともらったからな」


 一緒に来た金髪くんがにやりと笑う。


「許可だって?」


「そう総長から直々にな」


「なるほどな……だが、そんなことを言い出すだろうと思って、ちゃんと来てもらってるぞ! おまえら問題児のためにわざわざな!」


 ラウル先生は隣の部屋のドアを開けた。


 応接室のようなところで待っていたのは……


 あまりの衝撃に私は固まってしまう。


 エリスランド騎士団の総長、アレン・ヴェルリア王子――の隣に副総長のグリズムート・マルタン様がいるではないか!?


 この筋肉の分厚さ……本物だ!


 予想外の不意打ちにまったく動けなくなる。


「これは驚かせてしまったかな?」


 アレン王子がキラキラと貴公子オーラをばらまきながら立ち上がった。そして私のもとに歩み寄ってきて、視界の邪魔をするのである。


「きみのことはみんなから聞いていたよ」


 ふっと笑うとまるで薔薇が咲いたかのようだった。エフェクト過剰で画面が処理落ちしそうだ。


「話題の人物。一年生の主役。黒髪の君。まさかこんな麗しいレディとは思わなかったな。君からは白い無垢さと黒い危険さ感じる」


 王子は私の前に跪き、手を取った。手の甲にキスしようというのだ。


 それよりグリズムート様から目を離せなかった私は、鬱陶しいので、顔面に膝を入れた。


「ぐぶっ!?」


 王子様はのけぞり、床に倒れた(視界の隅のほうで)。まぶしくて邪魔なんだよ、この馬鹿。


「なっ!?」


 グリズムート様がムンムンした中年オーラを発しながら立ち上がる。制服では隠せない筋肉が見事である。ただでさえ肩幅があるのに、三角筋が発達してるからすごいことになってるよ! 布がいくらあっても足りない!


「おまえ、なにすんだよ!」


 王子の従兄弟にあたる金髪くんは倒れた王子に駆け寄り――


 やはり膝を入れた。


「げばっ!?」


 今度は腹である。体重が乗ってるからこれは痛いぞ。アレン王子は悶絶し、ほとんど気絶してしまう。


「本当におまえらなにをするんだ!?」


 ラウル先生は生徒二人の凶行に右往左往する。


「なにって、クズ男に触られたからふりほどいただけですが……」


「せめてふりほどくふりをしろよ!?」


「黒髪にまで手を出そうとしやがった! まったく最低の女好き野郎だぜ!」


 横で金髪くんが吐き捨てる。


 ――そうなのである。ゲームにおけるアレン王子は、どんな女性でも必ず口説くというような女たらしの軽い男なのだ。ちなみに趣味はキャバクラ通い。王子様で金髪美形だから、声をかけられた女たちはみんな引っかかってしまうわけだが、一応、お持ち帰りまではしてないという設定になってる。ナンパするだけで終わりというのがまた中途半端な腰抜けぶりで評価を下げるわけだ。


 なんでこんなくだらないことをするかというと、そこには色々理由があるのだが、いまいち納得できないしょぼい理由なので割愛させていただく。もう、とにかく情けない男なのである――本物の王子様のくせに。もちろん『乙女の聖騎士』のユーザーからはダメ男扱いされていて、人気投票8位のていたらくだった。王子様のくせに。


「うーむ、アレン坊やのことは知ってるわけか。それなら仕方がないな」


 本来、アレン王子を補佐するお立場のグリズムート様もいまさらフォローするつもりはないようだった。


「これでも一応、王太子でおまえらの上司なんだから、少しは加減しろよな……」


 律儀に王子を助け起こすラウル先生とて、彼の本性はよく知っているだけに強く言えないようだ。総長としての威厳とか皆無だよ。


「ともかくとして、グリズムート様の罰ならお受けしますわ」


「なんだって?」


 グリズムート様が聞き返す。ああ、とうとう愛しいお方と会話してしまった。


「冒険を禁止されているにもかかわらず冒険に出た罰として、パーティーリーダーの私がグリズムート様直々の厳しい訓練を一年間受ける。これでどうでしょう?」


「まいったな、俺にそんな暇ァないぜ、お嬢ちゃん。これでも仕事しない馬鹿野郎の分まで仕事があるからな」


 困ったようなグリズムート様のお顔も可愛い。


「じゃあ一ヶ月でも一週間でもかまいませんから、一緒にいる時間を! そうだ、グリズムート様の下働きをするなんてどうですか! 秘書とかおつきの部下とかあるでしょう!」


「なんで、おまえ、そんなグリーに食いついてるんだよ……」


 金髪くんが呆れたような白い目を私に向ける。


「待て待て、どう処すかァ、総長が決めることになってる、んだが……」


 グリズムート様はラウル先生の腕の中で意識を取り戻しかけている王子を見下ろす。


「この男の意見や判断など、どうでもよろしいですわ。どうせ朝帰りでもして、夕方まで寝てて、ラウル先生が叩き起こしたんでしょう」


「そ、そこまでわかってるとは……」


「ましてや女子寮の壁を壊した男など、我々の総長と認めることはできません」


「なにっ?」


 グリズムート様がぴくりと反応する。


「殿下と先生方がまだ学生だったころ、女子寮の壁を破壊して中に入ろうとした件ですわ。いまでも壁に修復した跡が残ってます」


「な、なんで、それを!?」


 ラウル先生の反応はやぶ蛇であった。彼らが学生時代に起こした「女子寮破壊事件」は、犯人不明のまま歴史の闇に消えていたというのに――


「やっぱりあれはおまえたちだったのか!」


 グリズムート様は、アレン王子とラウル先生の首根っこを引っこ抜く。まあなんて素敵なパワー。


「私はアレンに頼まれて、学術的に要塞の強度計算をしただけですからね」


 話を聞いていたのか、わざわざフィーン先生がそんなことを言いに来る。


「俺だって、関係ない! アレンの馬鹿に騙されたんだ!」


「全員の責任だ!」


 グリズムート様が怒鳴り散らし、追い回す。逃げる三人は学生時代に戻ったかのようだった。当時はこんなアホみたいな学生生活を送っていたんだろうな。


「なんか、ひどい騒ぎになったぞ……?」


 金髪くんが呆れたようにつぶやいた。


「ええ、うやむやになったとも言うわね」


 私たちを叱るつもりが揃って叱られてる。間抜けな話であった。


「――とんでもない女だな、おまえは」


「褒めてくださってありがとう」


「俺は……寮に戻る」


「そうしなさい。私はもう少し見物していくから」


 かぶりつきの特等席である。私はプロレスのファンのように、最前線からグリズムート様の暴れっぷりを堪能する。

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