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第11話 こいつがほしけりゃ金を出せ

 エリスランド学園の学生証がスマートフォンと同等の機能を持っているというのは、これまで何度か話したことと思うが、スマートフォンなので当然デジタルカメラとして使うこともできる。


 ゲームにおいて、学生証のカメラ機能はCG閲覧用に使われていた。これについては、少々分かりづらいと思われるので説明しよう。


 乙女ゲー(あるいは男性向けギャルゲー)のようなジャンルのゲームには、特定のイベントを通過すると表示されるイベントCG、別名スチルというものが存在する。これをわかりやすく言うと、フルカラーの美麗な挿絵である。


 『乙女の聖騎士』には、敵と戦っている勇ましいシーンや、ずぶ濡れになったイケメンさんたちなど、五十枚くらいはあったと思う。乙女ゲームなのに、なぜかパイオーツさんのお色気シーンまであったりした――ギャグシーンで豪華なランジェリー姿だったので、特にユーザーから不評と言うことはなかったが。


 これらスチルをすべて「回収」するのがゲームの目的のひとつだったりもする。わざわざ「八十パーセント達成」とか数字まで出てくるからね。


 ゲームでは学生証から写真アルバム機能を選ぶと、過去に獲得したCGを閲覧することが出来る。イベントCGはだれかが撮影した写真というようなていになっているのだろう。まあ、だれかが撮影したにしては不自然な構図とかもあるんだけど、それを指摘するのは無粋かつ無意味な行為に違いない。


 これがゲームにおけるカメラ機能の全貌だ。



             ■



 そんな関係ない話はともかくとして。剣術と魔術の授業をこなした私は、放課後にストレッチをしてゆっくりと休み、夕食が終わったところで寮を出た。


「今から出かけたら門限に間に合わないわよ」


 などと、マルグレーテが親切にチュートリアルしてくれるが、門限過ぎても寮に帰ってこられることを私は知っている。そうじゃないと、夜の逢い引きイベントが作れないでしょう?


 さて、寮を抜け出た不良学生が行くところと言えば、夜の街と相場が決まっている。それも、怪しいアルバイトをするのに最適な怪しい一角だ。ぶっちゃけ、この学園都市に怪しいところなんてほとんどないわけだが、ともかくとして夜の街をうろついた私はすぐに発見する。


 いかがわしい酒場である。ここで間違いないだろう。


 きしむドアを開けると、中は暗い店であった。なるほど秘密のアクティヴィティを行うのにぴったりのスポットだ。


 一番奥の席、私の予想通り、怪しげな連中がたむろしていた。みな一様にフードをかぶり、人目を忍んでいるのがわかる。ひそひそと交わしあう囁きは、おそらく金額の交渉かなにかだろう。目を忍んでるつもりなのに目立ちまくってるな。


「あら、みなさん、ごきげんよう」


 私は遠慮無く正面からご挨拶する。


「あ、あなたは……!」


「げぇっ、リリーさん!?」


「なんでここに!?」


 一同が驚き戸惑う。


「それはこっちの台詞よ。なんでみなさん、こんなところに?」


 見知った顔がそこかしこにある。そう、ここに集う男女は、学園の学生たちであった。一見して、まったく共通点のなさそうなメンツだ。なのに、わざわざこんな酒場に隠れて集まっている。はてさてどんな催しなのかというと……


「それは……あれです」


「そうそう、あれ」


「みんなで親睦を深めるために」


「ちょっと、パーティーをね」


 だれも信じるはずのない言い訳が次々に出てくる。


「へぇ……パーティーね」


「そうなんですよ」


「そういえば、噂で聞いたことがあるわ。寮生たちが寮を抜け出て、夜な夜な怪しいことをしているって」


「ち、ち、ち、違うんです!」


「怪しいことなんてしてません!」


「勘弁してください!」


 すでに泣きが入っていた。


「学生証でなにをしているの?」


 と、私は一人が持っていた学生証を取り上げる。そこに表示されているフォトアルバム。学園の候補生たちの画像がずらっと並んでいる。


「なんだ、写真を見せ合ってただけじゃない」


「そ、そうなんですよ!」


「たまたま撮った写真を見せていただけです!」


「ごくごく普通の行為をしていただけです!」


「なるほど、写真を見せ合ってただけね」


「そ、そうなんです!」


 確かに写真を見せ合ってるだけならとくに何の問題もないだろう。


「でも、これが本人の了承をとってない盗撮で、しかもお金で売買してたりしたら大変なことになるわよね」


 その場の空気が凍り付いた。


 そう――こんな場所で彼らが何をしていたかというと、お気に入りの候補生たちの写真を影でこっそり取引していたのである。漫画なんかであるような、「クラスで一番美人の◯◯さんの写真、一枚1000円!」とかそういうやつだ。写真の交換くらいなら見逃されるかもしれないが、盗撮でお金が絡んであるとなれば、問題に発展する可能性が大いにあるだろう。


「被写体になってる子たちに教えてあげようかしら。それとも教官に報告する? とても楽しいことになりそうね」


「勘弁してください!」


「退学にでもなったら……親に殺される!」


 貴族の子弟たちは真っ青になっている。盗撮で放校処分とか恥ずかし過ぎるからなあ……


「どうか黙っててください!」


「お金を払いますから!」


「馬鹿、東国の姫君に賄賂が効くか!」


 ――効くけどね。今はお金がないから。


「こういう画像なら私も持ってるわよ。みんながほしがりそうなのを」


 と、私は一同に画面を見せてやる。


「ディ、ディレーネくんの裸!?」


 それは、金髪くんを撮影した写真であった。


 私は週に二回ほど、金髪くんに筋トレをさせているのだが、将来ムキムキになったときに比較する用と騙して、上半身裸の写真を撮影していたのである。


「ついでに、こういうのもあるわよ」


 次の写真は、カフェにいる金髪くんのものである。


「こ、これは……!?」


 怒りと羞恥に頬を染めながら、レンズをにらんでいる図だった。なんで金髪くんがこんな恥ずかしそうにしているかというと、ウェイトレス用の制服を着ているからである! つまり女装だ。


「げ、激レア!」


「ど、どうして、こんなすばらしいものが……!?」


 昨日のこと、愛の女神の神殿でお祈りしたあと、私はエリアのバイト先であるカフェ『リヴァージュ』に赴いたのだが、ちょうど客として金髪くんと眼鏡くんが来ており、(中略)、こんなことになったのである。先ほど剣術の時間中に、金髪くんが敵意むき出しだったのは、このときの恨みが残っていたのだろう。


「か、買います!」


 学生たちが色めき立って手を上げる。うーん、金髪くんは人気があるんだな。


「いくらですか!?」


「そうね、この二枚セットで1000クラウンかしら」


「た、高い!?」


「この機会を逃したら二度と手に入らないレアものだけど……やめておく?」


「買います!」


 その場にいた生徒たちのうち半数、七人が希望の挙手をした。彼らに画像を送り、お金と交換。ほとんどなにもしてないのに、これで7000クラウンも儲かってしまった。初期資金1000クラウンの実に七倍である。


 ちなみに、金髪くんの画像を購入した七人のうち、四人が男子学生だったんだけど……これは……気づかなかったことにしよう、うん。『乙女の聖騎士』はあくまで男女の恋愛をテーマにした乙女ゲームであり、BLボブゲーではありません! ジャンルもユーザー層もまったく別物です!


「他にはなにかないんですか?」


「そうね、マルグレーテのウェイトレス姿なんかどう?」


「おおー」


「これは100クラウンでいいわよ」


「安いですね」


「マルグレーテの可愛さを世界に広めるためだから」


 と、画像をばらまく。


 実のところ――これはゲームにもある秘密のアルバイトだった。それもかなり特殊なアルバイトだ。写真を売るという名目で、CG達成率の分だけお金をもらえるのである。金額自体はたいしたことがないのだが、序盤にそれなりの資金が手に入るのは大きい……余計なアルバイトをする必要がなくなり、その分、ステータスを伸ばすのに使えるからだ。


「さすが、リリーさん、こんな良い写真を持ってるなんて」


「またお願いします!」


 そんな声を背に私は店を出る。さて、画像を取引し、8000クラウンばかり手に入った。これだけあれば、初期装備を一通り購入出来るし、アレ(・ ・)も必要なだけ買うことができるだろう。


 これで、人材と資金が揃った。


 冒険に備えて準備が完璧に整いつつある。


 すべてが順調で予定通り。


 それも当然だ。私はこのゲームについて何でも知ってるのだから。私にかかればこれくらい余裕だな、と思い込んでいた。


 金曜日になるまでは――



             ■



「ま、まずいわ……」


 金曜日の授業が終わった直後だった。


 更衣室である。学生証を片手に私は震えていた。青ざめているのが、自分でも分かる。


「リリーさん、どうしたんですか?」


 いつものように、田舎娘らしいのんきさでエリアが声をかけてくる。


「これでは冒険どころじゃないわ……」


 私は顔を覆った。


「冒険? 本当に行く気だったんです?」


「中止にするべきかもしれない」


「その方がいいんじゃないですか。私たちには、まだ早いですからね」


「これじゃダメなのよ!」


「な、なにがダメなんです?」


「なにもかもが。私とあなたはまったく役に立たないわ……」


 学生証を持つ手が震える。


「そ、そうなんですか?」


「そうよ。だって――なにもできないんだもの」



 そろそろ、メインキャラが出そろってきました。


 以下に整理・紹介してみます。




本作の主人公


 * リリー……謎めいた噂の騎士候補生。その正体は現実世界からやってきた女子大学生の百合佳。好きな男性のタイプは、年上の頼れる男性(婉曲表現)。ミステリアスな美人ではなく、単なる変な人というのが周囲にバレつつある。




女性キャラクター


 * エリア……ゲーム『乙女の聖騎士』の主人公。小柄で華奢な天然娘。聖騎士を目指している。ぬいぐるみに化けたミニミニドラゴンのラーくんと一緒に住んでいる。


 * マルグレーテ……ゴージャスな金髪お姫様。本来であれば、エリアを助けてくれる親友ポジションだが、リリーがエリアの面倒を見ているので出番は少ない。リリーに気に入られてひどい目に遭ってるようだ。




男性キャラクター(同級生)


 * レインくん……幼なじみエリアを影から守るストーキング系男子。髪で顔が半分隠れている。なにやら暗い過去があるらしい。


 * 金髪くん……金髪の王族。わがままな俺様キャラだが、アホな上に背が低いので子供っぽい。ゲーム上のユニットとしては高性能。


 * 眼鏡くん……眼鏡。金髪くんのお供。〔知力〕が高くないと相手にしてくれない、いやみな男。本来ならドSキャラ。


 * セナくん……冒険者志望の明るくまっとうな少年。このメンバーの中で苦労することが予想される。冒険に有用なスキルを持ってる。




男性キャラクター(年上)


 * アレン王子……キラキラ王子様にして騎士団総長。金髪ロン毛の美形で、女性から絶大な人気を誇るが、ゲームでは人気がなかった。


 * ラウル先生……体育と剣術の教官。体育会系。なぜか女性に縁がなく、それをリリーにいじられる。


 * フィーン先生……座学と魔術の教官。知的で落ち着いた眼鏡男子。ただし、遺跡や古代帝国が絡むと暴走する。


 * グリズムート様……騎士団副総長。リリーの思い人。マッチョ、ヒゲ、ハゲ、オヤジのフルスペック系男子。作中最強という設定がある。

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