私の中に湧き上がるもの
マルクトの憲兵に連行されたスズメは、カナン中央憲兵団の本部へと連行されていた。
「全く――――まさか地下街が見つかっちゃうなんてね……どうやってあそこに入ったの?」
「覚えて――――ません……道に迷って気付いたらあそこに――」
「ロックもされてるのよ。道に迷って着く筈無いわ」
「ロック――――?」
「そ、それが先ぱ――じゃなくてカラスバ憲兵長――――」
ふと、奥の部屋からどこか自信なさげな雰囲気をした女性の憲兵が姿を見せた。
「何?」
カラスバ憲兵長と呼ばれた女性に睨まれ、少し怯えたような表情を浮かべながら口を開く。
「か、カナン中央憲兵団……情報部所属アランディナ・モードから報告させて頂きます……えっと、監視カメラとか、シャダイのスキャナとか、色々調べて見たんです、よぉ」
「それで?」
「彼女――サエズリ・スズメさんが地下発電所に行ったときですね、どういう訳かロックとか、全部外されてて……」
「――――ロックが?」
「え、あ、はい。多分」
「多分? 確実なことを言いなさい」
「そ、その時だけ、ロックがかかってなかったっていうのは確実ですっ」
モードの言葉にはぁ、とため息を吐くカラスバ。
「セキュリティが甘い」
「こればかりは、憲兵では……」
「まぁ、良いわ――サエズリ・スズメだっけ? 帰っても良いわよ」
「え?」
「アナタ、ステラソフィア生みたいだし貴族権限で機密事項への抵触による刑罰は無いから――――ってアナタ」
「なん、ですか?」
「ステラソフィア生なのね」
「そ、そうですねけど……」
突然の食いつきに若干身を引くスズメ。
その姿を見たモードが微笑みを浮かべながら何やら情報端末を操作している。
「あ、本当ですね――サエズリ・スズメ……チーム・ブローウィング1年――――先輩の直接の後輩じゃないですか」
「へぇ――――」
「え? も、もしかして――――」
「そう、チーム・ブローウィング出身――カナン中央憲兵長カラスバ・リン。アナタの大先輩よ」
「ちなみにわたしもステラソフィア出身でチーム・パフェコムラードの出身です」
胸を張るリンの傍で、そんな補足をするモード。
「あ、そういえばカラスバ先輩、今日は後輩と会う約束があるって――」
「そうよ、新入生の顔を見るつもりだったんだけど――――」
「あの――と、言うことはもしかしてカラスバ先輩が――今日会う予定の……」
「まさかこんな風に初顔合わせすることになるなんて――」
「ご、ごめんなさい……」
「全く――――とりあえず、アラモード!」
「は、はい!?」
「と、言うことで私は後輩と会いに行くから――今回の件は任せたわ」
「えっ!? いやこれ先輩の仕事じゃ――」
「アナタならできるわ」
「わたしなら、できる?」
「ええ、できる!」
「がんばります!!」
今のやり取りを見て、スズメは漠然とだが(私たちの先輩なんだな……)と思った。
「あ、メールが――――」
ふとSIDパッドを見ると、そこにはツバサ達から心配のメールが送られてきていた。
「ツバサ達には私から連絡するわ――――」
「あ、ありがとうございます……」
「それより――――あの地下街のことだけど」
「なん、ですか?」
「あの場所のことは他言無用よ。アナタが貴族待遇のステラソフィア生だったから良かったけど、一般階級なら足を踏み入れた時点で殺されても文句が言えない最重要機密よ。それにこの事をを口外した場合は例え貴族待遇だろうと――――」
「カラスバ先輩――あの町は何なんですか?」
「アズルリアクターだ」
それはあの町に住む少女アナヒトも言っていた。
「――――マルクト神国は魔術適正者が少ないのは知ってるな?」
「はい――他の国と比べても生まれにくいらしいですよね……」
「他の魔術大国を征服し、その配下にしているにも関わらず、その数は増えない――何故かわかるか?」
「――――! もしかして、あそこに住んでいるのは――――!」
「ああ、他国から捕らえた――魔術適正者やその子どもたちだ」
マルクト神国では、捕らえた他国の魔術適正者は基本的に各主要都市の地下街で巨大アズル・リアクターの動力源とされているという。
もちろん、少数ながらステラソフィア女学園チーム・ウィリアムバトラー2年モード・ヘレネなどのように他国出身であるが国民として生活できる場合もある。
しかし、多くの捕虜――――特に魔術適正の高い捕虜は――あのような地下街に幽閉されているのだ。
「もう忘れろ、サエズリ・スズメ」
「――――――はい」
それからスズメはカラスバ先輩と待ち合わせをしていた喫茶店へと向かった。




