ステラソフィアの楽しい遠足
「まさか――こんな事になるなんて……」
「仕方ないわ。ひのき派とひいらぎ派は血で血を洗う関係――――拳を交えることでしか分かり合えないのよ」
心配そうに見つめるサリナと、冷静に見つめるイザナ。
その視線の先には、2騎の装騎の姿――――
「ひのき派の威信にかけて、この戦いは――――負けられないッ!!」
サエズリ・スズメの駆る装騎スパロー。
「わったーらひいらぎ派がお菓子界ぬ頂点さーっ!!」
リサデル・コン・イヴァの駆る装騎ゴア・ブース
「行きます!」
「たっぴらかす!」
大地を駆けるスパロー、そしてホバーで滑るゴア・ブース。
2騎と――その拳が――――交差した。
なぜ、2人が装騎に乗って戦っているのか――その理由を時間を巻き戻してみてみよう。
「スズメちゃん、弁当は作っておきましたわ」
「ありがとうございます!」
「スズメちゃん、ハンカチ持ったかー?」
「大丈夫ですよ!」
「スズメ後輩、このお菓子も持っていくんですよ!」
「そんなに持てませんよ!!」
土曜日の朝――そんな言葉がブローウィングの寮室に飛び交う。
今日は、新入生同士の親交を深めるという名目での遠足の日だった。
「いってらっしゃい!」
「いってらっしゃいですわ~」
「行って来いなんですよー!」
「い、行ってきます……」
先輩3人に見送られたスズメは苦笑しながら集合場所である機甲科寮前に足を運んだ。
機甲科寮前の広場には、すでに集まった1年生たちの姿が見える。
「あ、スズメちゃん来た!」
そこにはサリナとイザナの姿もすでにあった。
「アレ――もしかして、イヴァちゃんはまだ来てないの?」
あと1人――いつも一緒に行動しているイヴァの姿がない。
「そうみたいね――まぁ、まだ時間に余裕はあるけど」
「ちょっと時間にルーズな所あるからね、あの子――――」
「部屋近いから迎えに行けばよかったかなぁ……」
そんな話をしていると、
「おまたせさー」
イヴァが姿を見せた。
それから暫く――――
「はーいみんなチューモク!」
1年担任のサヤカ先生が姿を見せた。
自らの装騎V-MAXに搭乗して、だ。
まず、その時点で生徒の大半はわずかに表情をしかめた。
「今日は楽しい遠足よ! 忘れモンは無い?」
「ないよ~バッチリ!」
サヤカ先生の言葉にいつも通りトワイがそう返した。
「それじゃあ、今から目的地に向かう訳だけど――――アンタら、全員装騎を呼び出しなさい」
(まさか――――)
嫌な予感を覚えながらも、装騎の呼び出し手続きをする生徒たち。
全員で32人いるが、寮前には6つしか装騎の搬入エリアはない。
だから、装騎が到着し次第搭乗――そして場所を空けるという形になる。
それから暫くして、全員がそれぞれの装騎に搭乗した。
「アンタら、今日の遠足の目的地は知ってるかしら?」
「えっとー確か、エンゲル――ケースー?」
「エンゲル・ガルテン!!」
エンゲル・ガルテン――天使の庭という意味のその庭園は、マルクト神国でも有名な観光スポットの一つだ。
今回の遠足の目的地が、エンゲル・ガルテン――――それはいいのだが、そこまでの移動手段が……
「んで、そのエンゲル・ガルテンまで装騎で行くから」
「えっ、機関車とかじゃ――――」
「装騎で行くから」
一部の生徒が不満を浮かべながらも、一部の生徒がやっぱりか――という表情をする。
エンゲル・ガルテンまで装騎で行くとしたら片道1時間半程――――
「ガイド情報は各騎に配っておくわ。まぁ、アタシが先導するからそれについて来ればいいけど」
「片道1時間半――――思ったよりは良心的ね」
イザナがそんなことを口にする。
「ま、まぁ、あの先生だったらもっと酷い設定しそうではあるよね……」
スズメも苦笑しながらイザナの言葉にそう返す。
もちろん、サヤカ先生には聞こえないよう固有の回線でだ。
同じように、文句を言い合ってる生徒たちもいるだろう。
「さーって、そんじゃガンガン行くわよ!」
そう言うや、サヤカ先生は自らの装騎を駆け出した。
「着いてこないとおいていくわよ~」
そんなサヤカ先生の後に、渋々といった様子で生徒たちが乗る装騎が着いていく。
ガシャンガシャンと地面を揺らしながら、駆ける33騎の装騎の列はステラソフィア学園都市から南西を目指して駆けて行った。
ここはエンゲル・ガルテン。
丁寧に手入れされた花々が咲き誇る、美しい庭園だ。
駐騎場にそれぞれの装騎を駐騎させると、駐騎場の傍にある団体客用の集合スペースへと集まる。
「はぁー初っ端からしんどいわね……」
「だ、だからよぉ……引きこもりには辛いさぁ」
ぜぇぜぇと肩を上下させるサリナとイヴァ。
一方、スズメとイザナは涼しい表情で、
「日頃から運動してないからですよー」
「そうね、これくらい丁度良い準備運動よ」
と余裕そうだ。
「そんじゃ、みんな集まりなさい! これからの予定を教えるわ」
それから軽くサヤカ先生の話を聞き、サヤカ先生に着いてエンゲル・ガルテンを見て回ることになった。
「しかし、高校生にもなって遠足ってどうなのよ」
「先生の引率付きだしね……」
そんなことを話している内に、エンゲル・ガルテンの中央――特に綺麗に装飾された広場へとたどり着いた。
「あ、もしかしてあれが――――」
「――――天使岩、ね」
スズメの言葉に、イザナが呟いた。
このエンゲル・ガルテンがなぜ天使の庭という名前なのか――それは、公園の中央にあるこの天使岩に由来する。
翼を生やした人が、地面にかしずくように見えるその岩は、はるか昔――――神話の時代からその場所に存在するという。
「想像以上に天使天使してるさー」
「天使天使って――――まぁ、確かにそうよね」
「中に装騎とか入ってそうだよね!」
「だからよー!」
「装騎って……本当、装騎好きよね、2人とも」
ふとスズメが放った言葉にイヴァが同調する。
それを見ながら、呆れたような、ほほえましい光景を見るような微妙な表情でサリナが呟いた。
そんなサリナにイザナがポツリ――
「良いじゃない――私なんか、どうせ曰くをつけて客引きをしたいこの庭園の創設者が――」
「ヒラサカさんはちょっと現実的過ぎよ……」
「でも、人工物だとしてもそれはそれですごいわね――――」
「確かにねぇ」
イザナの言葉通り天使岩はどうしても自然の物とは思えないくらい精巧。
しかし、人工物だとしてもこの人を惹きつけるような神秘を引き出すのは難しいだろう。
その不思議な魅力からか、この辺りに伝わっている物語では、黄昏の闇を齎す邪悪なる神を打ち倒した女神が、その力を使い果たし眠りへと入った姿だと言われているらしい。
と、いうような説明をサヤカ先生から聞いたところで、時刻は程よい時間となっていた。
「そろそろね――――そんじゃ、昼食を食べたら自由時間よ。集合場所は此処。良いわね?」
「いーよーぉ!!」
「じゃ、あとは勝手にヨロシクね~」
「わぁ、サリナちゃんの弁当おいしそう!」
「スズメちゃんも――って肉ばっかり……もしかして、テレシコワ先輩が作ったの?」
「そうなんですよぉ……これでもお肉は少なめにしてくれたみたいなんだけどね…………」
「イヴァちゃんは――?」
「ヘレネ先輩が作ってくれたさー」
「エール・カトレーン先輩のが混じってたりして……」
イザナの呟きに、イヴァの顔色が明らかに悪くなる。
「い、いや、まさか――そんなことは無いと思うさ……」
「ていうか、ヒラサカさんその情報どこから仕入れたのよ……」
そう、カトレーン弁当が猛威を振るったあの時、イザナはいなかったはずだが――
「ヘレネに教えてもらったわ」
「ああ、なるほど――って先輩なのに呼び捨てって……」
「ふっ、彼女は強敵ですもの――」
「一体どういう接点――――あ」
サリナは思わずおいしそうに弁当を食べているスズメの方へと顔を向けた。
「どうしたのサリナちゃん?」
「い、いえ、何でもないわ」
「サリナちゃんも少し食べる? 美味しいよ」
「それじゃあ、貰おうかな」
「はい、あーん」
「あーん」
「美味しい?」
「美味しい!」
そんなやり取りをするスズメとサリナをイザナが凝視している。
「イザナちゃんも食べる?」
「食べる! 食べるに決まってるじゃない!! あーんから美味しい? と美味しいと私が言ったら良い子良い子までセッ――――」
突然、謎のスイッチが入りよく分からないことを言い出すイザナの傍で、サリナがスズメの弁当から卵焼きを1つ頂戴する。
「はい、ヒラサカさんあーん」
「あーん」
「美味しい?」
「美味しい!」
「ヒラサカさん良い子良い子」
「――――ってアナタじゃない!!!」
「イヴァもイヴァも!」
こんな感じで穏やかな弁当タイムは過ぎ去って行った。
「お菓子食べるさ~」
そして、お菓子を食べようとイヴァが鞄からあるものを取り出した。
「あら、それってもしかしてひいらぎの村?」
「そうさー! ひいらぎの村はとっても美味しいさー!!」
「え――ひいらぎの村――――?」
「そうさー。スズメちゃんも食べ――――!!」
強張った表情でそう言ったスズメの手には、ひのきの林が握られている。
そして、それを見てイヴァの表情も強張った。
「1つ、つかぬ事をお聞きしますが――――リサデル・コン・イヴァさんはアレですよね。数あるお菓子の中からたまたま――本当にたまたまひいらぎの村を選んだだけで、ひのきの林より絶対ひいらぎの村が好き――――って言うわけじゃあ無いんですよ、ね?」
「そう言うサエズリ・スズメさんこそ、ひいらぎの村より、ひのきの林の方が絶対に好きなんて言うはず無いさーね?」
2人の間に流れる不穏な空気――――
「まさかコレは――――ひのき・ひいらぎ戦争――――――っ!!」
目を見開くイザナに、サリナが静かに言った。
「いや――さすがにネタでしょう?」
「サリナは何も分かってないわね――――本人たちにとっては死活問題なのよ――――もし、それを嘲笑っているだなんて知られたら――――」
「知られたら?」
「極刑よ――――!」
「――――ぷっ!! ヒラサカさん顔が本気過ぎて――――笑いが――――――――っ!」
「まぁ、周りにいたら面倒くさいってのはあるわね――特に、人にどっちかを尋ねてくるのが――――」
どうやらつい最近、イザナの所属するチーム・ミステリオーソ内でもヒミコとトーコがひのき派かひいらぎ派かでもめていたらしい。
「「サリナちゃん、イザナちゃん!」」
「は、はいぃ!?」
「何よ」
「「2人はどっち派!??」」
その言葉に、イザナが「ほら来た」というような溜息をつく。
そして、仕方なさげに口を開く。
「私は――」
「正直どっちでも良いけどスズメちゃんの味方をしたいから?」
「ひのき――――って勝手に心の声を代弁しないでよ」
「さっすがイザナちゃん!! 分かってます!」
「ぶー、サリナちゃんはどうさー!」
「あ、あたしは――――」
「正直どっちでも良いけどイヴァちゃん1人にするのも可哀想だから?」
「ひいらぎかしら――――ってヒラサカさん……!」
「やっぱりサリナちゃんは永遠の友達さー!!」
「えー……でも、これでもまだ2対2ね――――」
「これは白黒はっきり付けたいさぁ!」
「そうですね――――私、みんなに聞いてきます!」
「イヴァも行くさ~! 不正防止さ!」
それから、スズメとイヴァはクラスの全員にひのきの林とひいらぎの村――どっちが好きかを聞いて回った。
「トワイはねーひのきが好きかなぁ~」
「え、えっと――私はひいらぎ……かな…………あ、でもどっちも、美味しい、よね」
「興味無いわ――――」
「シエロはひのき好きだよねー! 私もひのきかな」
「クーヒェン――勝手なこと言わないで――――」
「ひのき派かひいらぎ派か――? そうだな……」
(この前の事件のこともあるし、ピョン子ちゃんの味方をしてやりてーが、正直俺は)
「エルダはひいらぎ派だよ! そしてワタシもひいらぎ派なのさ!」
「おい、ルノーてめえ!」
機甲科一年の32人に尋ねて回ったところ――――なんとひのき派とひいらぎ派は綺麗に1:1。
16人がひのき派、16人がひいらぎ派という結果に終わった。
「サヤカ先生は!?」
「どこにもいないさー!!」
それから必死にサヤカ先生を探すが、どこにも姿が見えない。
「なんでサヤカ先生いないんですかァー!!??」
「教師としての自覚が足りてないさー!」
((でも、これは逆に好機かもしれない――――!!))
スズメとイヴァの脳裏にそんな言葉がよぎる。
「サヤカ先生が見つからない――――だったら」
「装騎で白黒はっきり付けるさ!!」
と、言うことで2人の装騎バトルが始まったのだった。
「バトルルールは、武装の使用不可で一定値のダメージを先に受けた方の負け――良いわね?」
審判役を務めるイザナが、スズメとイヴァにそう尋ねると、2人は静かに頷いた。
その動きを、装騎がなぞり、イザナへと肯定の意思を伝える。
「それでは、ひのき派とひいらぎ派の勝利を賭けた1対1の装騎バトル――――スタートよ!!」
そして、戦いは始まった。
「互いに武器は無し――――そうなると、格闘戦が得意なスズメちゃんが有利かしら」
「そうとも限らないわね――――武器が無いからこそ、スズメの得意な機動力で翻弄しての格闘武器でのクリティカルアタックが出来ないわ。そうなると」
「純粋な殴り合いなら重量が勝るイヴァちゃんのゴア・ブースに分がある――ってことね」
「そういうこと」
大地を駆け、跳ね飛ぶ装騎スパロー。
「流石にすばしっこいさ……!」
まるで、曲芸でもするように華麗な動きを見せる。
その動きは素早く、イヴァはなかなか追いきれない。
だが、それでもイヴァの装騎ゴア・ブースのホバー移動による旋回性能は高く、装騎スパローの姿を見逃さないようにはしている。
「そこです!」
バネのような瞬発力で、地面を蹴り飛ばしながらジグザグに向かってくる装騎スパロー。
そして、その右の拳が装騎ゴア・ブースのボディにめり込む。
「くっ――――さすがにサンダルフォン型――――固いですね……」
スズメの言葉通り、スパローの1撃はゴア・ブースに有効打は加えられていなさそうだ。
重量型の装騎メタトロンを軽量化したサンダルフォン型だが、それでも並みの中量騎以上の重量と防御力を誇る。
最軽量騎の一つである装騎スパローの打撃ではなかなかダメージを与えるのは難しい。
「そこさっ!!」
装騎スパローの腕を掴み取ると、装騎ゴア・ブースがその拳を装騎スパローの胸部へと叩き込む。
ゴスッ!!
「くぁ――――っ!!!」
激しい衝撃がスズメを揺さぶった。
装騎スパローのディスプレイに警告が表示される。
「一撃でダメージ値が40%――――!? さすがにやりますね――――」
単純計算、あの打撃をあと2回食らえばスパローは戦闘続行不可能と見なされスズメの敗北になる。
「このままメーゴーサーさ!」
「させません――――っ!」
だが、スズメもやられっぱなしではいられない。
右腕はがっちりと掴まれており、距離を取って立て直すといったことは不可能。
それなら――――
「スパロー、百烈キック!!」
装騎スパローは装騎ゴア・ブースの重量を利用して、両足で連続蹴りを打ち放った。
ガガガガガガ!!!
絶え間なく放たれる装騎スパローの連続蹴り。
「あいえなー!?」
その衝撃にさすがの装騎ゴア・ブースも怯み、掴んでいた装騎スパローの右腕を放してしまった。
「やっぱり、一撃で削るのは無理――――それなら――――連続攻撃です!」
装騎スパロー得意の機動力で、装騎ゴア・ブースの視界外に跳躍からの、アクロバティックな打撃や蹴りを繰り返す。
「あいっ、うおぅ! だーはっ!? うー、ちょこまかとぉ!」
四方八方からの素早い攻撃――1撃1撃こそ軽いが、地味にダメージが蓄積されていく。
「うー、負けないさー!!」
何度目かの装騎スパローの攻撃。
装騎スパローが地面を蹴り、装騎ゴア・ブースへと一直線に跳ねる。
「――――! 見えた!」
「っ!」
装騎スパローの動きを捉えたイヴァ。
装騎ゴア・ブースをホバーにより急速旋回――――装騎スパローを正面から受け止める姿勢を取る。
すでに、装騎ゴア・ブースに向かって跳ねた装騎スパローの動きは止められない。
装騎ゴア・ブースは、装騎スパローを正面から受け止めるのか?
それとも、カウンターによるダメージを狙うのか?
――――装騎ゴア・ブースが、リサデル・コン・イヴァが狙ったのはそのどちらでもなかった。
装騎ゴア・ブースは装騎スパローを掴み取りながら、ホバーで、装騎スパローの足元に滑り込むように入り込む。
そしてそのまま――まるで巴投げをするかのように、装騎スパローを地面に叩き付けた。
「キッ――――くぅー!!」
物凄い衝撃――――だが、スズメはそれを物ともせずに、素早く装騎スパローを跳ね起させる。
「まだ動くば――!?」
「正直、今のはちょっとヤバかったかもしれません……でも、次で決めて見せます――――」
装騎スパローは、装騎ゴア・ブースの強力な打撃により、ダメージ値が設定限界値に近くなっている。
一方、装騎ゴア・ブースも装騎スパローの連続攻撃でダメージは決して低くはない。
そして、イヴァは気づいていなかった――――スズメが最後の一撃の為に仕込んだ布石を。
静かに構える装騎スパローと装騎ゴア・ブース。
「きっとこれが――――最後の一撃になるわね」
イザナの言葉通り、「次の一撃で決める」――――そんな2人の意思が見えるかのようだ。
「サエズリ・スズメ――スパロー」
「リサデル・コン・イヴァ、ゴア・ブース」
「行きます!」
「いちゅんてぇー!」
装騎スパローが駆け出し、装騎ゴア・ブースが滑る。
どうやら、2人とも正面からぶつかるつもりのようだ。
装騎ゴア・ブースは右腕を振りかざす。
対して、装騎スパローは――――
「幻の、左――――!?」
「左手――――? スズメちゃんって右利きだし、右で行くと思ったのに……」
「どういうことだば!?」
振りかざす装騎ゴア・ブースの下から装騎スパローの左腕をもぐりこませるような軌道。
その左手は、拳を固めた形ではなく、指をピンと立てた手刀のような状態になっている。
そしてその手が狙うのは――――
「狙いは装騎ゴア・ブースの――――右肩と腕を繋ぐ関節部分!!」
装騎ゴア・ブースの拳が装騎スパローの頭部を捉える――――だが――
「ダメージが、浅い!?」
イヴァが驚きの声を上げる。
「まさか――――」
イヴァは素早く、サブディスプレイに表示された各部位の破損状況をチェックする。
そのダメージは明らかに右腕から右肩に集中しているのがわかる。
装騎スパローを殴った装騎ゴア・ブースの右腕は、度重なるダメージと、自らの打撃による衝撃に耐え切らず関節部分から自壊を始める。
そのダメ押しとばかりに、装騎スパローの左腕が装騎ゴア・ブースの右肩からボディを抉り取るように突き刺される。
「これで――――」
「ぐぅ――負けないさぁ!!!」
「っ!!!」
だが、イヴァもそう簡単にやられるつもりはない。
すでにほとんど破壊状態の右腕を、全身を使って無理やり装騎スパローに押し付ける。
装騎スパロー、及び装騎ゴア・ブースは設定耐久値以上のダメージ判定を感知し、その起動を止める。
そのタイミングは同時――――つまり、
「装騎スパロー、装騎ゴア・ブース共に機能停止! 勝敗は――――引き分けよ!」
スズメとイヴァがそれぞれの装騎から降りてくる。
「イヴァちゃん――」
「スズメちゃん――」
2人は向かい合うと――固い握手を交わした。
「イヴァちゃん、良い戦いだったよ!」
「スズメちゃんこそさすがさー!」
「結局勝敗は引き分けかー」
「でも、それで良かったのかもしれないさー」
「そうだねー」
「それじゃあ、2人ともお菓子でも食べて、ちょっとそこらへん見て回る?」
「そうだねサリナちゃん」
「装騎バトルしたら糖分が欲しくなるさー」
それからはみんなで楽しくお菓子を食べ、エンゲル・ガルテンを見て回った後にステラソフィアへ帰ることになった。
「そういえば、サヤカ先生って結局ひのきとひいらぎどっち派なんですか?」
「アタシ? そうね、強いて言うなら――――」




