弾丸強襲
「ここがブルーノ市か……」
マスドライヴァー・ダーウィーズによってブルーノ市まで移動したチーム・ブローウィングの4人は、その移動拠点であるマスドライヴァー・キャッチャー保有施設内に居た。
窓から外の様子を眺めながらツバサは呟いた。
「やっぱり、人は居ないみたいですね……」
ブルーノ市が侵攻の移動拠点となってから、その前方にある住民は退避させられた。
そして、その戦いの予感からその他の住民も自主避難をしたものもおり、眺める街にそこまでの活気は見られない。
「スズメちゃんが来た時はもっと賑わってたのか?」
「うーん、まぁ元々人は少ない所なんですけど……でも、今は特に少なく感じますね」
「本当に国境のすぐ近くの街だしな――そして、今の状況じゃ仕方ないか」
レンガ造りの建物が綺麗に立ち並ぶ姿は、かなり規模の大きい街だったことがわかるが、これら全てはマルクト侵攻以前――チェスク共和国として成り立っていた時期の物だという。
チェスク侵攻以来、マルクト神国はこの地を新たな侵攻・防衛拠点にしようとインフラやネットワークの整備をしており、今回の侵攻はその準備が完了したことによるものか。
「うー、それで命令はいつ来やがるんですかァ!」
暫くの待機時間だが、それに業を煮やしたマッハが呻き声を上げる。
「マッハちゃん、待機するのも大事なお仕事ですわよ」
それをなだめるようにマッハの頭をなでるチャイカ。
そこにフランデレンの姿が現れた。
「先生、何か命令があるんですか――?」
「ああ、来た」
ツバサの言葉にフランデレンは頷く。
そして、こう言った。
「これから、前線で戦っていたハインツ機甲高等学校が帰投する。我々ステラソフィアはその代わりにこの基地のマスドライヴァーで前線へと降下、作戦に加わる。良いな?」
「諒解!」
「では、各自装騎の中で待機。国軍からの指令が着次第、出撃となる」
ブローウィングの4人は格納庫まで足を向ける。
「私達以外にも、学生って居るんですね……」
「知らなかったのか? マルクト神国だと主な戦力は学生部隊なんだよ」
「そうだったんですか!?」
ツバサの言葉に、スズメは驚く。
「ああ、作戦指示はシャダイコンピュータの演算結果から、各自に通達されるのは知ってるよな?」
「はい――マルクト神国は政治や軍事、法律とかそう言ったものは全てスーパーコンピュータ・シャダイの計算で決定してるって習いましたし……」
「戦場だと基本的には、戦線の前線に立って戦う騎使が数人に、後方でシャダイコンピュータから細かい指示を受ける後方司令官。そして整備部隊や救護班のような全体戦力の3割程度が国軍に属する正式な軍人なんだよ」
「と、言う事は――――残りの7割が」
「そう、私達みたいな、機甲科学校や国立学校、そしてマルクト国と契約をしている公立学校の生徒なんだ」
スーパーコンピュータ・シャダイを絶対だと信じ、その司令により動くマルクト神国。
このシステムもまた、シャダイ神から授けられた天啓であり、より強く富んだ国家を作るために必要なことだとされている。
「まっ、何だろうとアタシ達はアタシ達で出来ることをするだけだよ。性能的には圧倒的に格下の相手を倒したらお金と成績――将来の道が貰える。軽い話さ」
「そう――ですね。私も、お父さんやお母さん、そして妹に――楽をしてもらいたいですからね」
「スズメちゃん――装騎に乗るの、楽しいか?」
「――――はい! とっても!!」
そして、4人がそれぞれの装騎に乗り込み暫く――フランデレンが自らの装騎に乗り込むと言った。
「作戦概要を説明する。作戦地域はマジャリナ王国領ジリナ工業区域――その近隣にある山岳地だ」
「山岳地――――」
「ああ、我々の任務は、山岳地を拠点としマルクト国軍の迎撃を図っているマジャリナ王国軍への強襲と殲滅だそうだ」
「と、いうことはマスドライヴァーでの相手山岳拠点へ直接強襲――――と、いうことになりますの?」
「そういうことだ。予定では、敵拠点後方へ射出してもらい、すでにポジションについている国軍と挟撃をするという形になる予定だが、敵の真っただ中に降下することも考えられる危険な任務だ、が――」
「大丈夫ですよ、そんくらいなら」
「そうですわね。こういう任務は今までもありましたし」
「やったるんですよォー!」
「が、がんばります!」
「良いだろう――――ポジションはワタシが先頭で両翼にワシミヤ・ツバサとサエズリ・スズメ。そしてワタシの後方にカスアリウス・マッハとテレシコワ・チャイカがつく矢型陣形でいく」
フランデレンが示したそのプランに各々がうなずくが、それに不満そうな人物が1人だけいた。
カスアリウス・マッハだ。
「えー、マハはもっと前に出たいんですよォ」
「口答えか? 良いだろう、カスアリウス・マッハ――減点1だな。累計減点98点だ。あと2点で20回目の強制ボランティアだ。忘れるな」
「ちょっと何しやがるんですかこの先公!!」
「カスアリウス・マッハ、さらに1点減点だ。あと1点で減点100だな。100点を取った暁には、今までのボランティア活動とは比にならないくらいのものを考えておこう」
「うぐぐ……!!!」
フランデレンとマッハのそんなやり取りをよそに、スズメが小声でツバサに尋ねた。
「なんですか、減点って?」
「ああ、フランデレン先生を怒らせたりしたら減点されるんだよ」
「成績から、ですか?」
「成績と教官ポイントからな」
「教官ポイントって何ですか!?」
「いや、昔からフランデレン先生の授業を取ってる生徒の間でささやかれてる呼び名でそれが正式名称ってわけじゃないんだけど、減点5でボランティア活動一回しないといけないんだよ」
「へぇ……逆に加点とかってあるんですかね…………?」
「滅多に無いが、稀にあるらしい。噂だと加点5でケーキを奢ってもらえるとか……」
「へぇ――――」
「おい、お前たち」
「!?」
「はいッ!!!」
自分たちのしている会話が聞かれてしまい、怒られるのかと身を固くするスズメとツバサ。
しかし、装騎のサブディスプレイに映るフランデレンの真剣な表情から別に話が聞かれていたわけではなかったようだった。
そう、それはついに時間が来たという合図だ。
「ハインツ機甲高等学校の戦線からの離脱を確認した――――次は我々の番だ。出るぞ」
「!! ――――諒解っ!!」




