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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:学園ライフ編
63/322

クラブ勧誘会

5月3日、日曜日。

本格的に授業が始まって2度目の日曜日。

麗らかな陽気の中で、ステラソフィア女学園を活気が包み込んでいた。

「クラブ勧誘会――――?」

「そ、今日はこのステラソフィア女学園に存在するあらゆる部活動が、新入生獲得を目指して励むクラブ勧誘会の日なんだ」

時刻は朝9時。

ステラソフィア高等部機甲科生用の寮、その1室――――チーム・ブローウィングの部屋でそんな会話を交わすのは機甲科1年サエズリ・スズメと機甲科4年ワシミヤ・ツバサの2人だ。

「クラブ活動――――そう言えば、全然考えていませんでした……。ツバサ先輩はクラブとか入ってるんですか?」

「いや、アタシはクラブ活動はしてないな。入ろう入ろうって思いながらズルズル無所属だわ……」

「そうなんですか……。そういえば、ステラソフィアにはモチロン装騎部もあるんですよね?」

「ああ、あるぞ。ある、けど――――」

「?」

何処か引っ掛かりのあるツバサの言葉に首をかしげるスズメ。

一方ツバサはSIDパッドを取り出し、何かを探しているようだった。

「ああ、あったあった」

「何を探してたんですか?」

「ステラソフィアにある装騎部の情報をな」

「装騎部の情報って――――」

「ステラソフィアにある装騎部は、上等装騎部2、下等装騎部3、上下科混成装騎部17、スポーツ装騎部2、その他装騎関連部12の計36クラブあるって書いてあるな」

「36クラブ!? この学園の装騎部だけでですか――!!??」

「ああ、一般的な騎使としての大会に出る装騎部は、この上等装騎部、下等装騎部、上下科混成装騎部の計22クラブだと思うけど――――」

「その、上等とか下等とかってどういう意味なんですか? ランクか何か、ですか??」

「スズメちゃんは、このステラソフィア女学園で『上等科』『下等科』と言う言葉を聞いた事無いか?」

「いえ――――私は、ありませんけど」

「まぁ、最近だとそういう区別はナンセンスだって風潮だし、知らなくても無理無いか」

「それでその上等科、下等科っていうのは何なんですか?」

「『上等科』って言うのは、『機甲科』『技術科』『教職科』『士官科』みたいな少人数クラスのこと。そして『下等科』って言うのは大人数クラスの『進学科』を指す言葉なんだ」

選ばれたごく一部の人間しか入ることのできない狭き門戸を持つ、機甲科以下の4学科。

だが、このステラソフィアにはそれ以外にももう1つ、進学科と呼ばれる学科があった。

進学科とは、1学年32人、全体数でも128人しか属しない機甲科、技術科のような少人数クラスとは別に、そういった少人数クラスの選考から外れた少女達を擁する為の学科なのである。

そして、進学科が設立された当初、一部学生間で「機甲科や技術科といった少人数クラスはエリート」で「進学科はそれよりも下等な学科」と見なされた過去があり、その事から少人数クラスを『上等科』、多人数クラスを『下等科』と言う俗称で呼ぶ時期があった。

「その名残で、今でも一部クラブ活動は上等ナントカ部とか下等ナンタラ部とかって付いてるんだよ。クラブ活動は高等部全体で共有だけど、そういう部活動だけは他学科の生徒が入ることは出来ないから気を付けた方が良い」

「なるほど――」

「それじゃ、クラブ勧誘会行ってみるか?」

「は、はい――――!」

それから2人は、装騎系クラブ団体が勧誘会をしているという機甲科のグラウンドへと足を向けた。

「ニコニコ装騎バトルクラブでーす。よろしくお願いしまーす!」

「長き伝統を誇る我ら第7装騎部に入ろうぜ!」

「マジカルPS同好会、みんなも一緒にマジカルしよ~!」

それぞれがそれぞれの個性を出しながら、姦しく新入生をクラブへ引き入れようと奮闘する中。

ふと、誰かがこんな声を上げた。

「サエズリ・スズメだ――――っ!!!」

その1声で、一気に場の騒がしさがヒートアップする。

「え、な――――なん、ですか」

周囲の視線が一気にスズメへと向けられた。

「もしかして、装騎部に――――!?」

「あの新入生が居れば――勝てる!!」

「このバーデン=ヴュルテンベルク、今度こそ逃がしはしないっ」

「あ――――あのぉ――――」

「コレは、ヤバそうだな…………」

そして一瞬の硬直を経た、刹那、

「スズメちゃん、逃げっ――――ぐおっ!?」

「ちょっ、まっ、なんなんですかコレェ!!!!」

ドッと人並みがスズメ目がけて押し寄せた。

四方八方から差し出される勧誘のチラシと、人に挟まれる圧迫感。

ツバサがスズメを助けようとするが、人波の勢いに圧され中々スズメの元へとたどり着けない。

「うぅ――――し、死ぬぅ――――」

スズメが苦しさにそう呟いたその時だった。

「スズメ、コッチ――――」

不意に、聞き慣れた声と共に、人混みの間からスズメへと手が差し伸ばされた。

スズメはその手を思いっきり掴む。

その手の主はスズメを思いっきり人混みの中から引き抜く。

人々の群れから、なんとか外に出る事が出来たスズメは、その手の主に引かれるままにグラウンドを全力疾走し、何とかその場から離れることが出来た。

「はぁ――――はぁ、はぁ」

「全く、迂闊よ。注目されてるのが分かってながら、あんな所に行くなんて」

そう言いながら、呼吸を整える少女。

「イザナちゃん――――あり、がと――――」

スズメを人混みから助け出したのは、機甲科一年チーム・ミステリオーソ所属のヒラサカ・イザナだった。

「もしかして、イザナちゃんもさっきの私みたいに取り囲まれたりしたの――――?」

「!! な、何でそう思うのよ……」

「勧誘の人が『今度こそは逃がさない』みたいな事言ってたから、もしかしてイザナちゃんも見に行ったのかなぁと思って」

「…………まぁ、そうよ」

「ってことは、イザナちゃんも装騎部に入るの?」

「とりあえず、見てから決めるつもりだったけど――――多分入ら無いわアレだと」

「そうなんだ――私はイザナちゃんと同じクラブに入りたかったなぁ」

「えっ!?」

驚いた、と言うよりは何処か照れたような様子を見せるイザナ。

必死で口元を食いしばり、スズメに自分の感情を悟らせまいとしているようだった。

そして、何かを考えるようにしばらく中空に目を泳がせた後、恐る恐ると言った様子でイザナは口を開いた。

「だ、だったら――――私と装騎部以外のクラブに、その、入ら、ない?」

「装騎部、以外?」

「そ、そう。ステラソフィアで機甲科ともなれば装騎なんていつでも動かせる訳、だし――その、装騎とは離れた活動をしてみるのも、良いんじゃ、ない、かなーって思った、のよ」

スズメの様子を見ながら、言葉を紡ぐイザナ。

「――――そうだね。じゃあ、一緒に何処に入ろうか考えよう!」

「ほ、本当に!?」

「本当に!」

それから、2人はSIDパッドでどのクラブに入るかを考えながら、楽しく雑談を繰り広げたのだった。

一方その頃。

「スズメちゃん何処に行ったんだ……」

ツバサは完全に1人で取り残されていた。

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